第12話 仮宿
鷹也は仕事、仕事。彩とは若い頃からずっと一緒だったので趣味など無い。
少しばかり趣味があればこれほどイラつかなかったのかもしれない。服や靴など買いに行こうとも思ったが家族で出かけた方が楽しいと思い待っていたにも関わらず連絡もなし。
ようやく帰ってきて出された夕食は子供に合わせた食事。
肉は食べたがるが、テーブルを汚すので作らないらしい。
おかずもないウドンだけだった。
明らかに半年前と態度が違うと感じた。
「しばらく休みって……いつまでなの?」
その一言でプツンとキレた。
彩にとって自分は邪魔者なのか?
会社では社長すら一目おく自分が家ではこんな苦痛を感じるほど無駄な存在なのか?
腹が立って仕方が無かった。
「そんなに邪魔なら明日から出るよ! なんなんだよ。全く!」
「そういうワケじゃないのよ……。いろいろと準備があるでしょ?」
「準備ってなんだよ! 食事を出すのがそんなに面倒かよ!」
「いーよ。じゃいつまでもいればいいでしょ! スズの前でそんなに大きな声ださないでよね」
娘の鈴は怯えていた。今にも泣きそうだ。
そんな娘のイスのベルトを外して彩はリビングに向かって行った。
「あっちで好きなDVDでも見ようね〜」
行ってしまった。鷹也は冷めたウドンをすすったが味の無い紐でも食べている気分だった。
彩と子の寝室は別。
疲れて帰って来ているのに最初は騒がしいのはいやだろうという彩の気遣いからだった。
しかし、今のここは全く隔離された場所。
家族でないものが一日だけ宿を借りる為の部屋だ。
いつからそうなった?
そう言えば、最近は帰って来ても寝るだけだった。
食事も別。それが当たり前になっていた。
彩はずっとずっと一人で娘を育てていた。
今更急に部外者が来られても困るのだろう。
鷹也は寝室の天井を眺めて考えた。
「よし!」
鷹也は一声発するとそのまま就寝した。