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第106話 ただいま

二人は家への道中、今までのことを話した。

鈴との生活。

鈴が熱を出してしまったこと。

鈴がお友達にケガさせてしまったこと。


シゲルという恩人が自分の本当の祖母だったということ。

探偵の脅迫に屈しなかったこと。

そして新しい命のこと。


彩は生まれてきた子供と鷹也にDNA鑑定を申し入れた。

もしも鷹也の子でなかったら自分を追い出してしまって構わないと伝えた。

だが、鷹也は頑として断った。

自分の子に間違いがないのだからする必要がないと。

そして例え違っても彩の子であれば自分の子なのだと。


しかし彩は、鷹也の父母にとって不義理だからどうか鑑定して欲しい。

そして結果が悪かったら追い出して欲しいと聞かなかった。

それは今までの弱々しい彩の姿ではなかった。


鷹也は母親に連絡をした。

彩を連れて帰るから鈴を起こしておいて欲しいと。

母親は、冗談だろうと本気にしなかった。

ちょうど新幹線のドアが開いたところだったのでそのまま電話を切ることになった。


家に着くころは20時を越えていた。

二人そろって玄関のドアを開けて「ただいま」と言うと、そこにはウサギのお人形を持った鈴が偶然立っていた。

彩は泣きながら鈴の名前を呼ぶと、鈴は黙って彩の足に抱きついた。


しばらくそのまま。


無言の母と子。ただ泣く声だけが玄関先にあっただけだった。


やがて鷹也の母親に促されて三人はリビングに入った。

鈴はいつも以上に甘えん坊で彩のそばから離れようとはしなかった。

彩は今までのことを鷹也の母親に詫び、この三か月間の話をした。


それからたくさんのお土産。

鈴がお土産を楽しみにしていると言うことで、駅の中でいろいろなものを買った。

お菓子、おもちゃ、民芸品。

鈴は並べられるそれらに小さい手で拍手を送った。


そして鈴は彩のソファのとなりにべったりとくっついて座った。

新しい、ウサギのお人形を彩に手渡した。


「これママにあげるね」

「どうして? せっかく新しいの買ってもらったのに」


「いいの〜。あげたいの。あとね〜」


そう言って立ち上がり、彩の前にいろいろなものを並べた。

新しい絵本、おもちゃ、保育園で作った折り紙、彩のいない間に書いていた絵。

それらを説明しながら彩へプレゼントした。


「ぜんぶぜんぶ、ママにあげるね」

「うそ〜。うれしい」


「だから、もうおウチにいてね。ずっとずっと」


鈴はまだ短い両腕を目一杯広げた。

小さい身体。

小さな手。

だが、とても大きく見えた。

鈴が寂しかった時間がとても長く感じられるほどに。


彩は涙ながらにうなずいた。


その日、久しぶりに多村家に暖かい光が戻った。


父、母、娘の三人は三つの布団を並べて同じ部屋で寝たのだった。

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