表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/111

第105話 夕日を背に受けて

だが鷹也は身じろぎもしなかった。

誰よりもそれがあるだろうと思っていた男だ。

だから覚悟をしていたのだ。


「許す。許すよ。君の子供なら、オレの子じゃないか」


その言葉を聞いて彩は泣き出してしまった。

鷹也はその彩の手を取り、立ち上がらせた。


「一緒に帰ろう」

「……うん。タカちゃん、ごめんねぇ~……」


鷹也は近野と立花と矢間原の前に立った。


「スマン。妻と駅まで歩いて帰る。君たちは矢間原さんに送ってもらってくれ」

「え? 課長。支社の方々に挨拶しなくてもいいんですか?」


「今まで仕事仕事で家族に迷惑をかけたんだ。家族のために早退させてくれたっていいだろ? それが多村鷹也の生き方だ。スマン。近野くん。後はよろしくたのむ。」


三人はポカンと口を開けてしまった。

その間に、彩はシゲルの前に走り込んだ。


「ごめん。おばあちゃん。私、一回帰るね」

「ああ。分ったよ。とっとと行っちまいな」


そう言って無造作に手をパッパと振った。


「またきっと戻ってくるから!」

「はいはい。そんなことより今度は離れるんじゃないよ」


「うん」


そして、入り口で待つ鷹也の手をつなぐ。


「お世話様でした」


二人は共に頭を下げて出て行った。


「ふふ。シゲさんじゃなくておばあちゃんか。そして急にひ孫が二人もできるみたいだねぇ。楽しみだよ」


シゲルは小さくなっていく二つの背中をしばらく眺めていた。


手を繋ぐ二人。

昔からしていたのと同じように。


途中、彩はつまずいてしまったが鷹也が握る手が転ばせはしなかった。


「ありがと。タカちゃん」

「気を付けてくれよ? 一人じゃないんだから」


「そうだった。ゴメン」

「ふふ。あのコケたときの焦った顔」


思わず、鷹也は口を抑えて笑った。


「も~。笑わないでよね~」


その言葉にも鷹也は噴き出した。


「そういや、君の口癖だったなぁ」

「え? なにが?」


「ふふ。スズの口癖と君の口癖が同じだってこと」

「そう?」


二人は幸せそうに笑った。



太陽が今日も西に傾いていく。

駅に向かう二人の背中を赤々と染め、たくさんの生物に恩恵を育みながら。


来ない明日などないとは言うが、生きていればの話だ。

死んでしまったものに明日はない。

明日にたどり着いたものだけ生き抜ける。


そこに間違いも裏切りもあるだろう。

だが生きてこそ詫びられる。

生きてこそ償える。


彩が犯したことはどんなことをしても償えるものではないだろう。

不倫は鷹也の心を壊した。


だが壊れたものは治せる。

新しく作ることも出来る。


許せる。

許し合える。


本人の心次第だが。


二人はもう一度やり直すことを決断したのだ。


それが正解ではない。

間違いかも知れない。


しかし二人にとってはそれが最高の正解なのだ。


愛の途中。


これから二人は辛いケンカをする日もあるだろう。

泣いてしまう日だってあるだろう。


だが、時はそれらを流してくれる。

少しずつ、少しずつ、記憶の彼方に追いやってくれる。


そして心から笑い合える日が来る。


愛の行く末。


それは二人が人生に満足して死ぬ。

それだけなのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ