第104話 重い言葉
そして二人してその場に崩れるように座り込む。
互いに言葉が出てこない。
彩はただ泣くしかできない。
鷹也も何から話していいかわからず混乱した。
「アヤ。オレが悪かった。オレが悪かったんだ……」
「そんなことない。そんなこと……」
「ゴメン。君を苦労させたのに、君の寂しさに気付けずに」
「私こそ……。私だってゴメンなさい」
しばらく二人はそのままの状態で泣きながら互いのぬくもりを久しぶりに伝え合った。
だが、鷹也は彩へ回した腕を放した。
「……ゴメン。こんなことをして。もう君には別に愛する人がいるっていうのに」
「え?」
「男と暮らしてるって……」
「ああ。うん。この独身寮で暮らしてるから……」
「だ、だれと?」
「誰とって皆さんと……。ただの住み込みだけど……。タカちゃんだって、奥さんになる人がいるのにダメだよ……。私なんかに抱きついちゃ。えへへ」
「え?」
「ん? 探偵さんから聞いたよ。この前、家をそっと見に行ったらスズと遊んでくれてる人がいたし……」
「あれは、母ちゃんだよ」
「え? お義母さん?」
「なんか、探偵の言ってることと違うなぁ」
「うん……あの人なんか脅してきたし……」
「はぁ?」
「うん……」
分けが分からなかった。だが、探偵が一枚噛んでいると分かった。
「それはあとでゆっくり聞くことにしよう。なぁ、アヤ? もしオレのことを許してくれるなら今から一緒に帰らないか?」
鷹也は彩の手をとって立ち上がった。
だが、彩はみんなの見ている前でその手を振り払った。
「だめ……タカちゃんは私を許さないわ……」
「どうして? スズも待ってるんだ」
彩は両手で自分の下腹部を丸くさすった。
「……どちらの子か……分からないの……」
今までの一部始終を見ていた、矢間原や近野も少しばかり後ずさった。
あまりにも重い一言。
その腹の中には新しい命が息づいているのだろう。
ぼんやりとだが事情を知っている二人だ。夫を前にこの言葉は耐えられないだろう。
彩はそのもう一人いるであろう腹をさすりながら続けた。
「三ヵ月なの。だから私ここで産むの。産んで一人で育てるんだ」