第102話 接近ッ!
車内に二人きり。本当は気のある二人なのに。
「はぁ。夕方には直帰かぁ。課長は家族があるからなぁ」
「オレはもう一泊しようかなと思ってますけど」
「へー……。火曜からずっとこっちにいたの?」
「いやぁ。水曜からすかね? 課長について行く旨は月曜のバーの後ですぐ伝えましたけど」
「行かないつもりだったのに、なんで?」
「そりゃカホリさんを好きだからに決まってるでしょ」
「……そ」
近野は照れてしまった。
鷹也なのか立花なのか、心が揺れ動く。
だが、ホントは決まっているのかもしれない。
「あの……」
「カホリさんの好きそうなバーも見つけておきましたよ」
立花はそう言って照れながら頬を掻く。
「今夜はこっちで過ごしませんか? もちろん寝るのは別の部屋でもいい、別の場所でも……。大きなショッピングモールもあるんですよ。明日見に行きませんか?」
近野は正直嬉しかったが、どうにもそれを感情に出すのが下手だったし、自分に鷹也とのチャンスがあるのを捨てきれなかった。
「でも私、課長に告白してみようと思ってるの……。今日、帰りの新幹線で……」
そんな時、協力会社の入り口から鷹也たちの姿が見えた。
二人は会話を止めて、二人がこちらに向かってくる姿を見ていた。
鷹也はそんな二人を見て微笑む。
「お邪魔だったかな?」
近野は自分の気持ちを知らない鷹也に不愉快げに答えた。
「いいえ。大丈夫です」
矢間原が車を出した。今日の案内は終了だ。日が傾き始めた。
三人を会社の駐車場に連れて行けば、役員たちに軽く挨拶をして帰って行くだろう。
矢間原にとっては重責だったが無事に終わって緊張の糸がほぐれた。
「多村課長はご家族がいると聞きましたが」
「ああ。娘がおります」
「へー。おいくつで?」
「まだ二つなんです」
「カワイイ時期でしょうね」
「そうですね。我が子はカワイイものです」
「奥様は?」
やはり来た質問。鷹也はそう聞かれると思っていたので答えを用意していた。
「離婚しました。娘と二人きりなんです」
「え? これは失礼しました」
聞いてはいけない質問だったと恐縮した。
成功したと思った次期支社長の案内もとんでもないところで不愉快な思いをさせてしまった。
後ろの二人も会話をしない。なんとかしないといけないと思った。
「ところで娘さんとのお住まいは……」
「ええ。どこか住まいを探そうとは思っておりますが、矢間原さんはどこにお住まいですか?」
「ああ、会社の独身寮なんです」
「へー。他に社宅とかもあるんですよね」
「ええ。社宅もあります」
「最初はそう言うところでもいいかなぁとも思っております」
「ウチの社宅はそれなりの設備だと思いますよ」
「へー。いいですね」
「ちょうど独身寮はそこなんです。広さとか参考に少し見てみますか?」
鷹也は少し考えた。
「いえ。新幹線の時間もないでしょうし」
「そうですか。では通り過ぎます」
矢間原は弱めたアクセルをもう一度踏み直した。




