第101話 近づく、繋がる
会社に到着すると、現在の社長や役員たちが歓待してくれた。
午前中は役員たちと会議室で仕事の話や談笑。
昼時には近所の昼食処で全員で食事。
午後からは会社内の部署や設備やらを案内してもらい、それが終わると、別の場所にある工場や協力会社を視察するという段になった。
「多村課長。この後はどうしましょう?」
「ええ。視察してもらった後は直帰したいと思います」
「そうなんですか? 夜も案内したい店もあるのですが」
「ありがたいのですが、帰って小さい娘の面倒を見ないといけませんので」
「おお、そうですか。多村課長はまだお若いですものね。ウチの子はもう大学生です。小さいと可愛いでしょう」
「そうですね~。はは」
「では、視察するのに、案内するものをお付けしましょう」
そう言って内線で呼び出しをかけた。
呼ばれた男はすぐさま会議室に入って来て、鷹也に名刺を差し出した。
「お世話様です。営業部の矢間原俊郎です。本日は多村課長並びにお二人の案内役をさせていただきます」
と矢間原は頭を下げて挨拶をした。
鷹也も今までと違い、若い男が来たので少しばかり気持ちが和らぎ、にこやかに名刺を受け取った。
「おお。矢間原さんは営業課長なんですね。私と一緒ですね」
という鷹也の言葉に手を振って謙遜した。
「いえいえ。多村課長とはレベルが違いすぎますよ」
などとやりながら四人は外に出た。
さすがに協力会社の方までは立花は知らなかったので、レンタカーは駐車場に停めさせてもらい、矢間原が会社の営業車にて案内することになった。
運転席には矢間原。助手席に立花が乗ろうとしたが、それを鷹也が遮った。
「すまんな立花くん。今日は少し道を覚えるために私を助手席に乗らせてくれ」
「は、はい」
その言葉に立花が後部座席に乗り込むと、近野は強情にも目を反らした。
二人の距離はわずか30㎝。少しばかりカーブが強いと触れ合ってしまう距離だった。
最初に所有の工場を見学し、協力会社に向かって行った。
そこでは鷹也と矢間原だけが挨拶に向かい、近野と立花は車内に残された。