第6話 銀の腕
ブランネージュ隣国、『アルジャン』。その北東に位置する町『サブル』は、現在戦乱の中に身を焦がしていた。
サブルには、主都を除けば国一番の国王軍駐屯所がある。そこに、王権転覆を狙う反乱軍が攻め入り、国王軍との戦闘に入った。反乱軍が勝てば国王軍主力が動き出し、国王軍が勝てば躍起になった国民が第2の反乱軍となり動き出す可能性がある。
どちらに転んでも国全体を巻き込んだ戦争に成りかねない状況。その為、それを阻止せんとする第3勢力『統制軍』が生まれ、三つ巴の様相を呈していた。
3人は、ブランネージュ国境を越え、アルジャンに入って最初に訪れた村で統制軍に出会い、そこで現在の周辺状況を知ることとなった。彼女達的には何のメリットの意味合いもないこの内乱。しかし、ブランネージュ領内を通らず他の国へ進むには、このアルジャンを通り抜けるしかなかった。それを考えれば、最初に統制軍に出合い、情報を手に入れられたのは幸いだったかもしれない。
彼女達は当初、このいざこざを回避するため別のルートで先に進もうと考えたが、ルージュが賞金稼ぎで名高い〝 Bloody・hood 〟であることがばれてしまい、半ば強制的にではあったが統制軍に力を貸すことになった。
―サブル北方、統制軍本拠地―
「ちょっと疑問に思ったんだけど?内乱が起こっているのって、この地方だけなの?」
統制軍本拠地とされた小さな村の一軒に、彼女たちは招かれていた。現状の説明などを受ける中、アリスが急に口を開いた。
「・・・・あっ、そうだよね?これだけ大きな戦いならどこかに飛び火していてもおかしくはないはずだし―――――」
ネージェもその疑問に賛同する。相変わらずルージュだけは、一人小首を傾げていた。
「それは、国王からこの地方以外に向けて発表があったからだ。〝この騒動を無事に治めてみせる〟ってな――――――」
二人の疑問に答える女性。長身に浅黒い肌、肩口で広がる髪は茶に燻り、その容姿には双腕が存在しなかった。統制軍総指令『リアン』、この争乱の全てを背負った人物である。
「そんな宣言一つで、国民は納得するものかしら?反乱軍も国民でしょう?端的に言えば、彼らは国の総意で王族に反旗を翻しているということのはず。それはつまり、国王への不信感からきているものだと思うんだけど?」
「事の発端はまさしくそこからだ・・・主都に確実な情報が入った時には、既に無傷での事態収拾は不可能な状態だった。だから国王は、今戦いを起こしている連中を、国王軍を含め喧嘩両成敗の後無罪放免とし、反乱軍の・・・いや国民の意見を反映させた国政を行うことを確約した。だから、ここら周辺以外の国民は傍観に徹しているんだ。」
アリスの問いに淡々と説明するリアンであったが、2人は何か根本で引っかかりを感じていた。
「反乱が起こるくらい国王に不信感を抱いていたのに、確約一つで国民の皆さんがよく言うことを聞きましたね?」
ネージェが自分の中で一番引っかかっていると思うことを質問する。
「それは、今の国王の最初の執政だからだ。みんな新しい国王の力量を計っている。」
リアンの言葉に、いまだ納得しきれないと首を傾げる二人。この時既に、ルージュは頭を使う事を諦めていた。
「新しい国王に変わった・・・・なのに反乱軍が動きだした・・・・つまり、そんなことじゃ許せないから彼らは行動を起こした。それなのに、そんなあっさり言う事を聞くのは・・・・・なんかおかしくない?」
アリスが疑問を素直に吐き出す。何か言葉の行き違いを感じたリアンは、顔をしかめしばらく考えたあと、ふと、何かに気づいた顔をして口を開いた。
「ん?――――――そうか!そこらへんにちょっと誤解があるな。動き出したのは反乱軍が先なんだよ。国王の代替わりは反乱軍の動き出しよりちょっと後・・・・・あぁ、代替わりなんて言うから、さらにややこしくなるんだな。」
「・・・・・どういうことですか?」
ネージェがリアンの反応に喰いつく。
リアンは、先程まで感じていた違和感から解放されたことに、若干口元を緩ませつつ言葉を紡いだ。
「王族内部でも反乱があったのさ。」
「「えっ?!」」
驚きはアリスとネージェ同時。予想を超えてまさかの解答が飛び出した。二人が結論に呆気をとられ、理解の整頓をし終わる前にリアンは先を続けた。
「第二王子が、第一王子と国王を殺して政権を掌握したんだ。前国王の評判が悪かったのは言わずもがな、第一王子もその直系で、親の写し鏡だったから嫌われていた・・・・・・第二王子は継母である第二王妃の連れ子だったから、前国王とは血が繋がってないんだ。こっちも、反乱そのものだろ?」
「なるほどね。奇しくもその時期が重なってしまって、首都への情報が遅れたと――――――ということは、反乱軍どころか、この駐屯地の国王軍ですら国の主が変わった事を知らないわけか。」
リアンからのとどめの説明でやっと合点のいったアリスが、一気に現在の状況を把握した。
「そして、新国王の腕前がどのくらいかを計る為、反乱を起こした人たち以外の国民は、今は見守っていると・・・・・・そういうことですね?」
同じくネージェも理解に至ったらしく、自信満々にリアンに問いかけた。
「あぁ、その通りだ。」
納得のいく解答を導き出せて満足したのか、二人は顔を見合わせて、手を軽く叩き合わせた。
「でも、新しい国王が直々に来て治める方が早いんじゃない?」
納得したとたんに思いついた新たな疑問点。アリスがふと思った事を口に出した。
「それが、手っ取り早くはある。だが、いきなり国王が変わったんだ。やらなければいけない事は山ほどだ。反乱軍を止める前に、まず地固めをしなければな。臣下の人間だけじゃなく、軍の中にも前国王派がいないわけじゃない。身軽に動き回れる程、安い肩書きじゃないからな、国王なんて・・・・だからオレたち〝統制軍〟がここに来た。地固めができるまでの時間稼ぎってところだな。」
「なるほど。統制軍は新国王の懐部隊ってわけですね?」
状況を説明するリアンに、ネージェがさも確信を得たといった感じで問いかけた。
「いや、オレたちは有志の部隊だ。新国王の呼び掛けに応えただけのな。」
「ふぅん・・・複雑な事情が折り重なっているわけね。」
アリスは、溜息を吐きだしながら椅子に仰け反る。それを見て浅く微笑むネージェが、もう一度リアンに顔を向けて問いを投げた。
「そんな有志の部隊で総指令をしているってことは、リアンさんはそれだけ新国王に信頼されているってことですよね?もとからお知り合いだったとか?」
「まぁ、そんなところだ。気にするほどの事じゃない。」
リアンが素っ気なく答えたところで、三人の会話はひと段落した。数分の静寂が訪れ、それを最初に破ったのは突然のノックだった。
「入れ。どうした?」
リアンの許可に、一人の男が扉を開け室内に入ってきた。
「反乱軍に動きがあった。明日、総攻撃を仕掛けるらしい・・・・」
「そうか・・・・あいつは間に合わなかったか―――――まぁいい、わかった。皆に伝えてくれ。明日、オレたちも命をかけることになるってな。」
「おう!」
一瞬遠い目をしたが、すぐに表情は戻り、指示を授けるリアン。伝令に来た男は、その言葉を持ち、部隊のみんなに知らせに戻っていった。それを見送った後、リアンは再び2人に向き直った。
「決戦は明日・・・・もしかしたら終わりない消耗戦になるかもしれない。本当に、力を貸してもらってもいいのか?」
「もちろんです!」
「まかせなさい。成り行きとはいえ、その為にここにいるんだから!」
そう言ってネージェとアリスは笑みを作ってみせた。
「ありがとう。」
言葉とともに深々と頭を下げるリアン。
「そうと決まれば、まずは腹ごしらえね!ルージュ、行くわよ!」
「・・・・・・」
「・・・・ルージュ?」
いつもの元気な返事がないことにアリスが首を傾げる。
「クスッ――――うしろ。」
くすくすと笑いながらネージェがその方向を指差す。アリスが後方に首を向けると、ソファーに寝転がる赤い姿があった。
「むにゃむにゃ・・・・・もう食べらんないよぉ――――――」
「・・・・・だったら、もう食うな!!」
『ゴッ!!』
夢見心地のルージュに、アリスの容赦ない踵が炸裂した。
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―サブル、アルジャン軍駐屯地周辺―
現在時刻は正午過ぎ、本日の戦闘が始まって四時間余りが経とうとしていた。
それでもなお、戦の騒音は止むことがなく、辺りに怒号こだましていた。両軍入り乱れる中、中央位置に陣をとり、その場所を死守せんと戦う統制軍の姿があり、彼女達の姿もそこに見られた。
「リアン、もう一回確認!この戦いの終わりは?!」
アリスが剣を振り回しながら、騒音に負けぬよう大声でリアンに問いかける。
「ある部隊の到着!それが来るまで、この場所を維持することと、一人でも多くの人を生かしておくことがオレ達の使命だ!!それと・・・・もしかしたらその部隊は今日到着しない可能性もあるから、それだけは覚悟しておいてくれ!」
「りょーかぁーい!!」
リアンの返答に、さらに大声で応えるルージュ。
統制軍が相手にしているのは、人ではなく、あくまでも武力だった。人には必要最低限以上の攻撃は加えず、武器に的を絞り戦力だけを削ぎ落していく。
その一団の中でも、やはり彼女達は一つ頭が抜けていた。アリスは自分の剣は一切使わず、戦場に落ちている剣を拾い、又は相手から奪い戦果をあげる。ルージュの撃ち出す魔弾は、はずれるという言葉を知らず、武器だけを的確に破壊していった。ネージェは人形用の糸を巧みに扱い、敵の武器を奪い、攻守共にレースがフォローに入り死角はない。
しかし、この戦場でもっとも目を見張るのは彼女、総指令リアンだった。両腕を持たない彼女が武器を持てるはずもなく、戦闘方法は蹴りに限られる。それでも、その姿を捉えられる者は存在せず、しなやかな体捌きに、鉄すらもねじ曲げようかという蹴り技。それだけにとどまらず、総指令として戦場に指示を出す。彼女がこの部隊の指揮をとる理由が惜しげもなく体現されていた。
だが、勝利条件を揃えきれていない統制軍が優位に立つことはなく、徐々に陣は狭まりつつあった。
「さすがに数相手は楽じゃないわね?」
次々と敵をかわしながらアリスが苦言をこぼす。
「余裕な口ぶりで何言ってんの、アリス?」
ペース変わらず動き回りながらそれに答えるルージュ。
「あんたほどじゃないわよ?」
「二人とも余裕だね?」
アリスがさらに返答したところに、その様子を見ていたネージェが、自分は手がいっぱいだと言わんばかりに口を挟む。しかし、こちらを向くその顔には笑みが浮かんでいた。
「「あんたもだ!?」」
ネージェの言葉に素早くつっこむ赤と青。
こんな状況でありながらも三人には会話する余裕さえあった。それを見た両軍、加えて味方までも驚きを隠せずにいた。
その彼女たちと、陣を挟んで反対側では新たな状況が生じていた。
「リアーーン!!」
「!?」
自分を呼ぶ雄叫びと共に襲い来る不意の一撃をかわし、その人物と正対するリアン。
「・・・・久しぶりだな、バルカン――――」
「まったくだ、まさかお前が邪魔者(統制軍)の指揮官たぁな――――この町に来た時、世話してやったのは誰か・・・・忘れたわけじゃぁねぇよな?」
突如リアンの前に現れた男が、巨大な棍棒を振り回しながら彼女に言葉を発する。
「確かに感謝している。あなたがいたから、今のオレがいる。だが、それとこれとは、話が違う――――――」
「何がだ!!」
バルカンの振るう棍棒が迫る。リアンは事も無げにそれをかわし、一歩下がった位置に着地する。
「あなた達は、根本的に理由を違えていると、そう言ってんだ!」
「だから、何がだ!?」
リアンの意味深な言葉に、苛立ちをふくらませていくバルカン。声の荒げ方で彼の怒りの度合いが測れるほどだった。
「いましばらく待ってくれ!その時が来たら必ず説明――――――――」
言葉を途中で途切れさせるリアン。その時、確かに彼女の耳にはその音が聞こえていた。
「来た!!」
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「なに?!」
最初に気づいたのはアリス。続いてルージュが反応する。
「地鳴り・・・・・何か近づいてくるよ?!」
徐々に大きくなる音。明らかにこちらに向け近づいてくる影も見えた。
「・・・・・騎馬?」
ネージェが答えたとおり、既に遥か近く、騎馬隊の姿が視認できる位置までその侵攻を許していた。
「来た!!」
リアンの声が一帯に響く。戦場の誰もがその音に気付き、聞こえてくる方を向く。
「リアーーン!!」
「遅れて申し訳ありません。ただいま到着でございます。」
リアンのもとに、純白の服を身につけた、翼の生えた小人が近づき会話を交わす。
「ミカ。ラファ。御苦労さま。それじゃ、後は任せるとするか。」
リアンに先程までの闘志はすでになく、もう全てが終わったといった感じで戦闘態勢を解いた。
「・・・・リアン、何が起きている?」
バルカンが状況を把握できずいぶかしげな顔でリアンを睨む。それは彼に限ったことではなく、戦場の大半の者がこの状況に動揺していた。
「オレが話すまでもない。これが、今の〝真実〟だ――――――」
リアンは多くを語らず、自分の目で確かめろと言わんばかりに口を閉じた。
騎馬隊は、戦場に躊躇することなく進行し、統制軍の守っていた場所を中心に陣を展開していた。
「・・・・・・なるほどね。こういうこと?」
「アリス?」
何かに納得したアリスに、ルージュが声をかける。
「ある部隊なんて言うから、どんな物騒な奴らが来ると思ったら――――――」
「大本命の御到着、ですね。」
アリスの言葉に続けるネージェ。彼女も事の次第を理解したようだったが、やはりルージュだけは首を傾げていた。
騎馬隊が陣をしき終ると、その中央の人物が高らかと名乗りを上げた。
「私は、アルジャン国第13代国王、トリーゼ!!この場は我が名のもとに預からせてもらおう!!」
戦場全体がどよめく。その人物の登場もさることながら、一番の要因は、名乗りを上げた人物が国王と発言したことだった。
「国王だと・・・・・トリーゼって言えば、第二王子だろ?」
バルカンが現状を理解しようと、必死で頭を動かしていた。
「バルカン、わかったか?反乱軍の目的自体、最初から的外れになっていたんだよ。」
そのバルカンに、優しく言葉をかけるリアン。
「だが、しかし・・・・・・いつ、いつ代わったんだ?!」
「あんたらが事を起こしたのとほぼ同時。奇しくも、手段すらも同じ方法でね。」
リアンの言葉に、不意に状況を理解したバルカン。手から棍棒が放される。
「!?――――じゃぁ、もう―――――」
「あぁ、もう戦う必要はないんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、バルカンは足の力が抜けその場に膝をつく。瞳からは雫が流れ落ち、嗚咽が漏れだした。周囲の人間も、どうやら状況が理解できたらしく、歓喜の声が湧き上がり始めていた。誰もがこの戦いに、真に正当性をもてずにいた。この歓喜は、そんなことからの開放感の現れかもしれない。
その光景を優しく見守ると、リアンは陣の中央にいる人物へと顔を向けた。
「まったく、遅いんだよ・・・・・」
溜息まじりにそっと呟いた。
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戦場は王国騎馬隊の登場によりその場で治まり、事なきを得たのであった。戦場で最も映えていた彼女たちは、リアンの元に集まり会話を交わしていた。
「リアン、知っていたのなら最初から言って欲しかったんだけど?」
「すまん。まぁ結果として良かったんだからいいだろ?」
笑ってごまかすリアン。アリスもそれ以上は言及せず、微笑みで返した。
「ねぇ、リアン?」
「なんだ?」
「そこの二人って、もしかして―――――」
ルージュが興味津々と、リアンの肩口で羽ばたく二人の小人に目を向け問いかける。
「あぁ、紹介がまだだったな。こっちのちょっとバカっぽいのがミカ。で、こっちの智的そうなのがラファ。想像通り、二人とも〝天使〟だ。」
「バカってひどいしー!ミカだって頭いいしー!」
「お初にお目にかかります。ご紹介に預かりましたラファでございます。」
リアンに紹介された対照的な二人の天使。ミカは頬を膨らませながらそっぽを向き、ラファは丁寧にお辞儀をしてあいさつをした。
「天使・・・・初めて見ました。どのような御関係で?」
ネージェも、好奇心を隠せず質問する。
「話すと長くなるけど、まぁ、簡単に言えばある人物を探していることで、行動を共にしているってとこだな。」
「ある人物?」
アリスがその言葉に反応し問いかける。
「あぁ、そこで提案があるんだが・・・・オレも一緒に行っていいか?お前達の旅に。」
リアンが突然提案を投げかけてきた。彼女も何かしら訳ありである。それを感じることができた。提案には賛成だったが、アリスが一度問い返す。
「それは心強いけど・・・・いいの?」
「今回の件抜きにしてもこの国はあらかた回ったしな。それにだいぶ時間も食っちまった。他の国に行くにしても理由がほしかったところだ。いろんな意味で。」
「やったぁ!3人も仲間が増えちゃった!!」
手放しで喜びを露わにするルージュ。しかし、それは他の二人も同様だった。
「よろしくお願いしますね、リアンさん。」
「あぁ、こちらこそ。」
ネージェが代表するかのように言葉にし、リアンも答える。そして皆がほほ笑みあった。その時、彼女達に近づく人影が一つ。それに気づくと、リアンが先に声をかけた。
「よっ。ご到着が遅かったんじゃないか?」
「そう言うなよ。こっちとしても準備を整えるのに苦労したんだからさ。」
その人物はまさしく、アルジャン国王トリーゼその人であった。
「・・・・国王様?」
「・・・・どういう関係?」
3人は、頭の上に疑問符を並べていた。それにトリーゼが気付き、リアンに問いかける。
「この人たちは?」
「今回の最大の協力者。あっ、それと、オレみんなの旅について行くことになったから。」
「はっ?・・・・まったく、まだまだ私のそばに寄り添ってくれる気はないみたいだな。」
「そんな気はさらさらない!」
「ふぅ。早く素直になってほしいものだな。」
そう言ってため息をつくトリーゼ。二人の会話を聞いていたアリスたちだったが、状況を把握するには至らなかった。
「え~と・・・・どういうことですか?」
しびれを切らしたネージェがリアンとトリーゼに質問する。
「ん?あぁ、私はリアンに求婚しているんだよ。ずっと前からね。だが、なかなか返事をいただけなくてね。」
「「「・・・・・・・えぇーーー!?」」」
「ちょっ?!何言って?!」
3人の当然とも言える反応と、あからさまに慌てるリアン。今の彼女に総司令の威厳はかけらもなかった。
「でもまぁ、リアンが決めた事なら文句は言えないさ。早く私のもとに来てくれるのを祈っているよ。」
「・・・・言ってろ。」
優しく微笑むトリーゼから顔を背け返事をするリアン。しかしその頬は、朱に染まっていた。
「そうだ、〝アレ〟を持ってきてくれ。」
トリーゼの言葉に側近らしき騎士が反応し、一つの包みを持ってきた。
「なに、それ?」
「お前へのプレゼントだ。」
リアンの問いにそう答える。包みを開けると、そこには銀で作られた腕が入っていた。
「オレの為・・・・・でも、どうやってつけるんだ?」
嬉しさを悟られぬよう、現実的な問でごまかすリアン。
「それはミカ達にお任せだしー!!」
「私達の魔術で、リアンさんに縫合いたします。」
それに二人の天使が力こぶを見せながら答えた。
「ちゃんと打ち合わせ済みだよ―――――気をつけて行ってくるんだぞ?」
「・・・・・あぁ、行ってくる。」
トリーゼの気遣いに、リアンも最後は素直に言葉を返した。