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御伽噺戦記  作者: ran
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第37話 赫と蒼

 理解できなかった。理解したくなかった。自分が、ルージュを殺す。あり得なかった。


「じょ・・・冗談ばっか言ってないで、ほら、今のうちに何か考えるよ。」


 無理やり明るくふるまう。しかし、それはルージュの言葉によって崩れる。


「冗談じゃないし・・・他の方法もないんだよ。それに・・・時間もない。言ったでしょ、半日だって。」


「馬鹿言わないで!!」


 落ち着いて語るルージュに怒りをぶつけるアリス。いや、怒りというよりはただの八つ当たりだった。アリスの瞳には、すでに涙がたまっていた。


「なんで・・・・ずるいよ、ルージュ・・・・時間が迫ってるからなんて・・・その前に相談してくれても良かったじゃん!!なんで、私なの!?」


「・・・・アリスだからだよ。」


 ルージュの振るえる声に、我に返るアリス。見ると、ルージュの瞳にもまた、涙がたまっていた。


「わたしは・・・アリスだから頼めるの・・・・他の誰かじゃダメ。そんなのは嫌・・・・だって・・・アリスは強いから―――――」


「・・・・そんなの・・・理由にならないよ。」


「うん。だからね・・・・その前にもう一つお願いがあるの。」


「・・・・お願い?」


「うん・・・・わたし・・・もう一回アリスと闘いたい。」


「―――――。」


 一行は彼女が何を言っているのかわからなかった。しかしアリスだけは、その言葉の真意までがわかってしまったかのように感じた。


「初めて会った時みたいに。本気で・・・・わたし、けっこう悔しかったんだよ?だから、あれから頑張って強くなった。もう、アリスにも負けない。わたしに負けるようなら・・・・わたしを殺させてあげない。わたしより弱い人には頼めない。」


 ルージュの瞳からは涙が消えていた。その代わり、真剣なまなざしだけがアリスに突き刺さる。それだけで、ルージュが本気だという事が全員わかった。


「・・・・・ルージュ。」


「ん?」


「手加減はしないわよ。」


 アリスの瞳からも涙は消え、逆に不敵な笑みすらも浮かべていた。アリスもルージュの心情を汲み取れないわけでもない。でも唐突に言われ、さすがに我慢しきれなかった。冷静さを取り戻し、これ以上自分が吠えてもルージュの意思が曲がる事がないと察し、全てを受け入れる決意をした。


「・・・・うん。望むところ!!」


 ベオウルフとロイ・マリアをぶつけあわせ、決闘の約束を取り交わした。


 その様子を見ていた一行は、苦笑いを浮かべながらも、優しく見守っていた。今まで旅を一緒に過ごしてきた者、彼女達の心情は手に取るようにわかっていた。ネージェが二人の背中を見ながら、言葉をつぶやいた。


「まったく・・・二人とも不器用なんだから。」


             ・

             ・

             ・


「準備はいい?ルージュ。」


「万端!いつでもいいよ!!」


 数分の後、二人の決闘の準備が整った。広間であったであろうその中央に、数メートルの距離をおき対峙する二人。


 ネージェ達は、その様子を少し離れた場所で見守っていた。最後の会話から、しばしの時間静寂が流れた。開始の合図の取り決めはしていない。しかし、動き出すのは必ず同時。そうなるであろうことは皆わかっていた。


「・・・・・。」

「・・・・・。」


 静寂は続く。アルテの復活により暗くなった空が、徐々に晴天を取り戻していく。数時間ぶりの太陽が一筋差しこんだその時、最後の戦いが始まった。


 「「先手必勝!!」」


 言葉が聞こえると同時、いつの間にかお互いの距離は詰まり、ゼロ距離での剣戟戦が繰り広げられていた。


 アリスは、いつの間に抜いたのかロイ・マリアとは別の手に刀を握っており、対するルージュも、いつの間に獣変したのか、狼人の姿となっていた。


「やるじゃないルージュ!私の剣速についてくるなんて!?」


「アリスこそ!狼人化したわたしのスピードについてくるなんて――――本当に人間?!」


 笑みを含ませルージュが問いかける。それに同じく笑みを見せるアリス。


「失礼ね!私だってこんなにかわいい――――女の子よ!!」


 ロイ・マリアを振りかぶり横一閃に薙ぐ。それをルージュは跳躍してかわし、距離をおく。しかし、即座にもう一度跳躍。先ほど振り抜いたロイ・マリアの斬撃が飛んできていたのだ。かろうじてそれもかわし、着地する。


「どう?ちょっと驚いたでしょ?」


「うん、驚いた。自分の事・・・かわいい女の子って言うんだもん。」


「そっち?!」


 外野でくすくすと笑いが起きる。


「なんか、普段の二人を見ているみたいだね?」


「真剣勝負しているはずなんだけどね。」


 ボワとマレーンが笑いながら話す。その時でも、二人の闘いは続いていた。


 斬撃を飛ばし続けるアリスと、それを撃ち落としていくルージュ。


「まったく・・・・・・・でも、お得意のショートレンジ勝負は私の勝ちじゃない?」


「ふ~んだ。そんな挑発には乗らないよーだ。でも・・・・ショートレンジ勝負を仕掛けるわたしでしたー!!」


 そう言うと、無数に飛んでくる斬撃を巧みにかわしながら一気に距離を詰めるルージュ。


「速っ!?」


「これで斬撃飛ばしは使えなーい。いくよ!!」


 剣戟を仕掛けようとするルージュに剣を合わせるアリス。


「残念だけど、剣戟で私に勝てると思わない事ね!!」


「剣戟では敵うわけないじゃん。でも・・・・」


 迫りくる刀の一撃をいなし、そのまま銃先をアリスの顔面に向ける。


「?!」


「こんなのはどう?」


 そのまま躊躇なく引鉄を引く。かろうじて初弾をかわしたが、ルージュの剣戟と銃撃の乱舞はそのまま続き、今度はアリスが距離をとった。


「どう?剣戟では劣るけど・・・ショートレンジで負ける気はないよ。」


「・・・・ふふ。そうね・・・・手加減していたつもりはないけど、ここからは本気で行くわ。だから・・・・ルージュも本気で来てね。」


「・・・・・うん、わかった。」


「「はぁ?!」」


 疑問ともため息ともつかない声が外野からもれる。


「あの二人は・・・どの辺が本気じゃなかったニャ?」


「そんなこと、わたくしにはわかりませんわ。」


 チャトとラプの会話をよそに、二人は自分たちの言う本気の体勢をとる。アリスは、ロイ・マリアを背負い、刀だけを構える。ルージュは頭巾をかぶり視界を狭くした。


「アリスの真髄は・・・一なんだっけ?」


「うん、よく覚えてるね。ルージュは頭巾かぶると変わるんだよね?」


「変わるって言うか・・・安心する。闘いだけに集中できるって言うか・・・自分でもわかんない。でも、たぶんこれがわたしの本気。」


「うん、知ってるよ――――――」


 構えをとったところで、また最初の静寂が訪れた。ただ時間だけが流れる。空に太陽を隠すほどの雲はなくなり、先ほどの合図は使えない。次に動き出す瞬間は誰にもわからなかった。


「「・・・・・ふっ!!」」


 辺りの情景は何も変わらず。しかし、二人は動き出す。合図は、二人の呼吸だった。


 一息に距離を詰める。アリスの速度は先ほどの軽く倍は早かったが、その最大戦速を一撃ともらさずいなすルージュ。


 最初に出会った時は、この時点でアリスが一方的だった。だが、今回はルージュも負けてはいない。目視では軌道の見えないアリスの刀。それを、全てが見えているかのように、いなし、かわし、時には銃撃でアリスの体勢を崩し避け続ける。


 それだけではない。隙ができると見るや即座に反撃に転じてみせた。ルージュの成長は著しく見てとれる。


 しかし、だからと言ってアリスが圧されているかと言えば、そうではない。かわされるはずのない一撃一撃がかわされ、さらに反撃を受けるが、その反撃からルージュのペースには乗せない。事実、ルージュの反撃は必ず一回で終わっていた。


「強くなったじゃない、ルージュ。」


「アリスに言われると皮肉にしか聞こえないよ?」


 そう言って、速度を上げるルージュ。一気にアリスの背後にまわる。


「安心してしゃべっている余裕はないよ?」


 魔銃の引鉄を引こうとするが、その時には既にアリスの姿はなかった。


「それはお互いさまよ?」


 次にアリスの声が聞こえてきたのはルージュの背後。即座に銃先と身体を後ろに向けるがそれでも既に遅い。再びルージュの背後にまわったアリスが斬りかかる。確実と思われた一撃は、ルージュが下に屈みかわされた。同時にこちらに向けられる銃口。その時でさえ、彼女は一切こちらを見ていない。銃弾をはじき一度距離をとるアリス。


「そうだった・・・後ろにも目がついているんだったわね。」


「そういうこと♪」

 

 振り向き、笑顔を見せながら答える。二人同時に微笑みあうと、また剣戟が展開された。


「あのあの、すごいですね!!真剣勝負だというのに、なんだか踊っているみたい!!」


「うん・・・本当に綺麗―――――」


 フィユとネージェはその闘いに見惚れていた。いや、二人だけではない。そこにいる者達は皆見惚れていた。


 確かに、綺麗だった。闘いをしているようには見えない。舞いを踊っているかのようだった。それほどに美しかった。しかし、当人達にそんなことは関係ない。彼女達は、互いを倒すことに夢中で、そして、楽しんでいた。


「アリス?!」


「なに?ルージュ?!」


「楽しいね?!」


「うん。楽しいね!!」


 二人は心の底から楽しんでいた。


 しかし、アリスの顔が少し陰る。この後に待ち受ける運命を考えると、今ここで楽しんでいる自分すらも許せなくなりそうだった。楽しみたい。もっと、ルージュと共に。それが本音だった。だが、


「・・・・・くっ!?」


 大きく後方に跳び、距離を作る。様子が一変したアリスに疑問を抱くルージュ。


「アリス、どうしたの?」


「・・・・・。」


 無言のまま気持ちの整理をする。しばしの時間静寂が流れる。そして、アリスは目を開けると、意を決してその言葉を口にした。


「ルージュ・・・・そろそろ・・・楽しむ時間は終わろうか――――」


 アリスの言葉には、別に重みはなかった。表情も険しい顔をしているわけでもない。しかし、ルージュがその意味を理解するには、言葉だけで十分だった。


「・・・・・そうだね。ちょっと楽しみすぎちゃったかな。ずっと、この時間が続いてほしくて・・・・でも・・・うん。そろそろ・・・終わろう。」


 ルージュの表情も、とても落ち着いていた。だがその雰囲気は、今までのものは本気でもなんでもないと言わんばかりの圧力を発していた。


 それは、アリスも同様だった。刀を鞘におさめ、抜刀の構えをとる。ルージュはベオウルフを強く握りしめ、その時に備える。


 刹那、アリスの姿が〝ぶれた〟。今までで最大の速力、誰の目にも捉えられることなく、ルージュの足元に現れる。しかし、彼女の魔銃は、しっかりと蒼の戦姫を捉えていた。


「〝秘剣 『一刀』〟!!」

「〝ツインバレット 『フレア』〟!!」



 『ドゴッ!!』



 双方の力がぶつかり、轟音と衝撃波が奔る。


 アリスはその場から数メートル押し戻され、ルージュはその数倍吹き飛ばされた。着地すると同時、ベオウルフを投げ捨て、自分の周囲に風を巻き起こす。


 その様子を見たアリスは、刀を天に掲げ、上段に構える。ルージュは周囲の風を右手に集め、そこに嵐を発現させる。


「「・・・・・。」」


 またも合図はない。アリスはその場から動かず、ルージュは勢いよく駆けだす。右手に嵐を纏いその拳を握る。二人ともそれぞれから視線を外さず、その顔には不敵な笑みが浮かぶ。


「 嵐纏衝(らんてんしょう) 〝新式〟――――――」

「 秘剣 一刀 〝(きわまり)〟 天構(そらがまえ)――――――」


 ルージュが走り込むことで、同時に互いの間合いに入る。より一層深い笑みが、顔に刻まれる。ルージュが右拳を振りかざし、アリスは刀を振り下ろす。



「 〝赫狼(あか)〟 !!」

「 〝蒼宙(あお)〟 !!」



 轟音。周囲には先ほどの衝突の数倍の衝撃波が奔る。一行は、飛ばされぬように身構えた。風がおさまり、衝突によって舞い上がった粉塵が徐々に薄れていく。


 そこにあったのは、大の字で地面に転がるルージュと、そこに馬乗りとなり、首元に剣先を突き立てるアリスだった。


「・・・・・・はぁ。」


 地面に頭をつけ、目を閉じて天を仰ぐルージュ。


「あ~ぁ、負けちゃった。」


 そう口にするルージュの顔は、言葉とはうらはらに清々しい笑顔だった。


「やっぱり、アリスは強いなぁ。」


「ルージュも・・・・強かったよ―――――」


 ルージュの顔に、冷たいものが降って来た。ふと、目を開ける。彼女を見下ろすアリスの目からは、涙が溢れ降り注いでいた。


「アリス・・・・・ありがとう。」


 それに、再び笑顔を見せるルージュ。そして、彼女の手がアリスに伸びる。開かれた掌には、お守りと〝神珠〟が握られていた。


「ルージュ――――――――」


「お願い、アリス。この戦いを・・・・終わらせて――――――」


 刀を脇に置き、アリスが神珠を受け取ると、ルージュはまた大の字になり、その瞳を閉じた。


 その場に立ちあがり、背中からロイ・マリア取り出す。柄に輝く透明な玉に触れると、それは砕けて無くなった。それと交換に、神珠をくぼみにはめる。


 すると、神珠の綺麗な緑色が輝き、刀身がまばゆい光に包まれる。しかし、アリスはその幻想的な雰囲気にも感情は示さず、ただその切っ先をルージュの胸に定める。


 瞳から流れる涙は止まることなく、しかし一切の言葉も口にしない。ルージュの覚悟がわかる。だから、自分がどうこう言っても仕方ない。今はただ、彼女に選ばれた自分を、誇りに思い、彼女に敬意をはらう。


「・・・・ルージュ、行くよ――――――」


 両手で強く握り、剣を振りかざす。ルージュは言葉を返すことなく、ただその表情には笑みだけを映していた。


その笑みに、自分も笑みを返す。


「「ありがとう――――――」」



 『ズサッ!!』



 二人の言葉が重なると同時、剣がルージュの胸に突き刺さる。すると、刀身がみるみるうちに黒く染まり、彼女の身体から全ての闇を吸いだしたところで、ロイ・マリアは砕け、塵は光となり空へ昇って行った。


「マリア・・・・お疲れ様―――――――」


 その光景を見ていたウィズダムが、いまの言葉を手向けとし、ロイ・マリアを見送った。視線を戦場へと移すと、アリスがその場にしゃがみ、彼女の頬を撫でていた。


 安らかな顔で横たわるルージュは、ただ眠っているのではないかとさえ思えてしまった。もう一度「ありがとう。」と言葉にしたアリスが後ろを振り返る。


「みんなもありが・・・・・」


 言葉途中で声が切れる。振り向いた先には、戦姫達の姿は揃っておらず、ネージェだけがその場に立っていた。そのネージェの身体も、足下から透けていっていた。


「ごめんね、アリス。」


 困った笑顔でそう言葉にするネージェ。よく見るとその眼もとには涙が溜まっていた。


「ネージェ・・・それは―――――」


「わたし達・・・・今ここにいたわたし達は、魂だけの存在だったの。」


「魂だけ・・・・?」


「うん。あの日・・・アリスがこの時代に帰った後、わたし達はある約束をした。」


「約束?」


 おもむろに話しだしたネージェに、必死に状況を理解しようと聞く耳を立てるアリス。


「2年後に・・・自分達のするべきこと、したいことをして、2年後にまたここに集まろうって。強制じゃないよって言ったんだけど・・・結局みんな集まっちゃって。」


 苦笑いをこぼしながら話を続けるネージェ。その間も、彼女の身体は徐々に消えていっていた。


「集まったわたし達は、ウィズダムにお願いして魂をここに封印してもらったの。自分達の武器と一緒に。」


「アリスがいる時代はわからない。だから、新たに〝封珠〟を創りそこにみんなの魂と武器を封印した。そしてそれを、ロイ・マリアに封印させてもらった。マリアの封印が解けた時、彼女達の封印も一緒に解けるように。」


 二人の会話に、ウィズダムが混ざる。的確な説明に、アリスの頭の中は整理されていった。


「でも・・・それって・・・自分たちの人生を捨てたってこと―――――」


 アリスの言葉を、片手を上げ制止させるネージェ。


「言ったでしょ?自分のやりたい事をやってから集まったって。それに強制でもなかったって。全部自分達の意思でやった事。アリスに文句なんか言わせません。」


 そう言ってネージェはにっこりと笑って見せた。


 アリスは、納得しきってはいなかったであろう。だが、今更騒いでも事は変わらない。だから、全てを受け入れよう。そう決めた彼女の口から出る言葉は、やはりこれしかなかった。


「・・・・ありがとう、みんな。」


 その言葉を聞けて満足したのか、ネージェがもう一度笑顔を見せると、後ろを向いた。


「本当は、ロイ・マリアが消滅した時点でみんな消えちゃうはずだったんだけど・・・少しずつ力をもらって、わたしがメッセンジャーになるよう残されちゃったんだ。だけど、その時間も後ちょっと。だから、みんなからの最期の言葉を伝えます。」


 そう言ってアリスに向き直るネージェ。


「アリス、〝幸せになりなさい〟。」


「え・・・・」


 出てきた言葉が理解できず、アリスは府抜けた声を出してしまった。それに構わず、ネージェは言葉を続ける。


「あなたはこの世界で、もっとも過酷な運命を背負わされ、その任を今解かれた。だから、あなたには幸せにならなければいけない義務がある。」


「で、でもそれじゃぁみんな・・・・・義務?」


 その言葉になにか引っかかりを感じたアリスが問いかける。そこに気づいたことがうれしかったのか、ネージェは微笑んだ。


「そう、義務。今アリスは、この世界で最も不幸な人。こんな戦いの中心に巻き込まれ、わたし達という仲間とも別れてしまう。だからこそ、全てが終わった今、アリスには新しい使命が生まれる。」


「新しい・・・使命―――――」


「そう、〝幸せになる事〟。これは、わたし達の願いであると同時に、人々を導かねばならないということでもある。」


「・・・・どういうこと?」


「アリスが幸せになれば、この世界に生きる全ての人たちに、幸せになれる可能性があるという事だから。なんたってアリスは、今世界で一番不幸な人なんだから。」


 笑ってそんな事を口にするネージェ。実際、そんなことはただ単に彼女達の勝手な理由づけにすぎない。ただアリスに幸せになってほしい。でも、こうでも言わないと、自分まで命を断ち、「これでこの戦いの全てに終止符を打つ」などと言いかねないと思ったのだ。


 この効果は思ったよりてきめんであったらしく、アリスは言葉を発せずにいた。その様子にネージェは優しく微笑んだ。


「アリス・・・ちゃんと幸せになるんだよ?ならないとみんなで呪いに来るからね?」


 そう言うとまた後ろを向き、アリスから遠ざかっていくネージェ。その身体は、もう九割近くが消えかかっていた。ネージェの歩く先、その足下にレースが待っていた。他のアルクアンシェルは、すでにその活動を停止していた。


「レース・・・今までありがとう。」


 お辞儀をすると、レースもそれに合わせ一礼した。ネージェが顔を上げる。しかし、それ以後レースが動く事はなかった。


 彼女の頬を一筋の滴がつたう。


「ありがとう・・・・・みんな――――――」


 再びアリスに振り向くと、ネージェは涙まじりのとびきりの笑顔を見せた。


「アリスーー!!バイバイ!!」


 そう言って手を振ると、その残像を最後に、光の中へ消えていった。


「ネージェ!?」


 アリスの声だけが、静寂の中にこだましていた。静かな時間が流れる。アリスは俯き、地面に膝を着くと、全然動く様子がなくなった。


「アリス―――――」


 数分ののちウィズダムが声をかけながら近づくと、アリスはおもむろに立ち上がり背伸びをした。


「ん~―――あぁっ。みんな・・・いなくなっちゃった。」


 出た言葉と対照的に、その声色は妙にさっぱりしていた。


「せっかくこんな戦いが終わったって言うのに、またこんな重い使命課さなくたっていいじゃない。みんな意地悪なんだから。」


 呆気(あっけ)にとられたウィズダムだったが、優しく微笑みを作りなおすと、アリスに問いかけた。


「これからどうするの、アリス?」


 問いかけに振り返るアリス。その顔は涙でぐちゃぐちゃだったが、とても彼女らしい、明るい笑顔だった。


「とりあえず・・・幸せにでもなってみようかな――――――」

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