第34話 王たる責務
「未来?」
マレーンが首を傾げる。皆一様にアリスの言葉を理解しきれていないような表情をした。
「えぇ・・・・・信じられないだろうけど――――私は、ラパンと一緒にここへ来たの。私のいたところは、悪魔との戦いで世界が死で溢れていた。私もその戦争に身を投じていたのだけど・・・・・そこで彼女と出会った。そして、ここへ―――――とても綺麗なところだと感じた。夢ではないかと思うくらいに。だから・・・ここは、私のいた世界ではないと。知っている、聞いた事のあるものも多くあったけど、知らない事もまた多かった。だから・・・よく似た別の世界にでも来たものだと思っていたわ。けど――――――」
一度息を吸い、そして、正面の敵を睨むアリス。
「ここが、私のいたところから過去である証拠は・・・奴よ。あの戦争の中、悪魔たちは口を揃えてこう言っていた。『アルテ様復活の為に』。」
「それって・・・・」
「そう、今のこの状況とまったく一緒。護王が封印しこの時代にアルテが復活したように、ここで私たちが封印したものが・・・私の元の時代で復活するということ。」
ルージュのつぶやきに、アリスが続けて説明をする。するとおもむろに、背に持った十字架を手にした。
「それともう一つの根拠がこれ。私の時代、アルテが封印されていると思われる場所には、剣が刺さっているという噂があった。そして、彼女に言われた『時が来るまでこれを開けてはならない』という言葉。それは・・・真実を知り、ここでアルテを倒そうなどと躍起になり、可能性のある未来まで潰してしまわないように・・・私の役割が・・・・奴の封印だけに専念されるように!!」
そう言うと、勢いよく十字架を包む布を取り払う。そこに現れたのは、美しく白銀に輝く、そして先端付近がわずかに欠けた十字の剣。
「〝ロイ・マリア〟――――――これが、私が探していた役割よ。」
ロイ・マリアを握りなおし、アルテを睨みつける。それに、笑みを含ませ眼光を返すアルテ。それと同時、今まで見た事のないような数の闇の軍勢が現れた。
「みんな・・・・お願いが―――――」
言葉を言おうとして、口を指で閉ざされた。その手の持ち主はルージュだった。アリスに頬笑みを浮かべると。敵に視線を向ける。
「みんな、アリスの準備ができるまで時間を稼ぐよ!!」
ルージュの場にそぐわない嬉々とした声に、全員が目を丸くする。しかし、次の瞬間には皆同じ表情になった。
「おうさ。奴らの数が少なくなれば、封印もやりやすくなるってもんだろ?」
「そうですね。アリスの役割が封印なら、私達の役割はその援護ですよね。」
リアンが拳を鳴らし、ネージェはアルクアンシェルを整えながら答える。
「さながら、私達はアリスの騎士ってところかな?」
「騎士って、ボク憧れてたんだよね。」
ロイ・スサノオを肩に、前へ出るマレーン。同じように前に進み出て柔軟を始めるボワ。
「私は生まれながらにして騎士だけどね。ファラダと共に。」
「私はあなたの脚にすぎませんよ、主殿。」
「わたくしは、騎士というには頼りないかもしれませんけど・・・魔術士の立ち位置はあって然るべきですわよね?」
ファラダにまたがるフィユが、一行の列に加わる。同様にラプも前に出て、杖を地面に立てた。
「ニャぁ~。あたしの台詞がなくなったニャ。でも、戦闘では後れはとらないニャ!!」
チャトも参列し、アリスの前に8人が横一列に並んだ。その中央、ルージュが首だけをアリスに向けほほ笑む。
「アリス・・・・まかせて。」
その言葉に、アリスは一度目を閉じた。深呼吸を一回、そして再び瞳を開く。
「みんな・・・・よろしく!!」
その言葉が出ると同時、戦姫たちは敵へと疾駆していった。
「・・・・ウィズダム、いる?」
「えぇ、いるわ。」
アリスの問いに、いつの間に現れたのかウィズダムが応えた。
「封印の術式、手伝ってもらえる?」
「そのつもりでいたわ。でも、今の私では本当に補助くらいしかできないわよ?」
「それで十分。これは私の務め(しごと)。あの子から受け継いだ、大切な使命―――だから、私が頑張らなくちゃ―――――」
そう言って目を閉じる。足下に、徐々に淡い光を放ちながら陣が組まれていく。
「強いのね・・・あなたは――――――」
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「アルテは、わたしにまかせて!!」
そう言うと先陣を斬り、突貫していくルージュ。軍勢の前線を一気に突破し、アルテに会敵する。
「いいよ。じゃぁ、ぼくの相手は君だ。〝バハムート〟!!」
ベオウルフの刃で、アルテに斬りかかるルージュ。しかし、剣状の闇の塊りを両手に創り、その一撃を凌ぐアルテ。体勢を立て直し、即座に剣撃に戻る赫。
「自分の名前にはこだわったくせに、人の名前は間違えるのね?」
「何の事だい?」
「わたしの名前!〝バハムート〟じゃなくて〝ルージュ〟!!バハムートはこの子の真の姿で、あなたが昔戦った護王の一人の名前でしょ!?間違えないでよ、ね!!」
大きく振りかぶり、アルテを引き離すルージュ。互いに一度体勢を立て直し、再び剣撃に戻る。
「それは失礼。だけど、君を名前で呼ぶ機会はそうそうには訪れないだろう。」
「そうだね。わたしもあなたの事を名前で呼ぶ義理はないし・・・・呼びたくもない!!」
二人の攻防は次第に激しさを増していく。その一戦をよそに、後方ではさらなる激戦、いや、乱戦が様を呈していた。とてつもない数の軍勢を、確実に消滅させていく戦姫達。
「はぁぁーーーー、せぇい!!」
リアンの振り抜いた右拳が、轟音と共に敵を挟んで地面に落ちる。その直後、今までは霧散し大地に還るだけだったものが、身体が石に変わり徐々に崩れ塵となっていった。
「ふぅ、この使い方にもやっと慣れてきたかな。」
立ち上がりながら一息つける。しかし、間髪をいれず敵が襲い来る。それに対し、左手を向ける。すると、襲い来るはずだった敵が、壁にでもぶつかったかのように制止した。
「ちょっとは休憩もさせろよな!!」
そういいつつも、振りかぶり、右拳を振り抜き消滅させる。
「ミカ、ラファ・・・・あんた達のおかげで、まだ戦えるよ。」
自分の腕に向かって一礼し、再び敵の中に身を投じていった。
リアンから少し離れた場所では、斬撃音と共に次々と敵が塵に変わっていっていた。
「いやぁ・・・気分は壮快だけど、この剣、もう人には向けられないね?」
両手の剣を振り回しながら、ボワが口を開く。適当に振りまわしているように見えるが、一度たりとも空振りはなかった。
「そう思うなら、私の近くで剣を振り回さないでくれる?右側は死角なんだから、ちょっと怖いのよ?」
そう言いつつも、死角であるはずの右側の敵を、顔を向けもせずスサノオの一撃で葬るマレーン。彼女達のところに迫る敵は、襲い来るのと同じ速さで消滅させられていっていた。
「ところでボワ?今、何体目?」
「304。マレーンは?」
「311。あっ、今2になった。」
「えぇー・・・あっ、でもボクは必ず二撃与えなくちゃいけないから、倍でいい?」
「必ず二撃で済むんだから、そのままよ。」
「ニャぁ~。こんなときでも競争だニャんて、二人とも余裕だニャぁ~。」
宙を跳びながらチャトが二人に声をかける。着地後も、ゆらゆらと敵の間をすり抜けながら、着実に殲滅していく。そしてふと足を止め、二人に振り返る。
「真面目にやらニャいと、だめニャよ?」
「「あんたが言うな!!」」
「ニャ!?」
「まったく・・・・緊張感がないな。」
「しかし、それでこそあの方々だとお見受けしますが?」
アリスから少し距離をとったところ、そこに防衛線を張るフィユとファラダが会話をかわす。アリスに向かってくる敵を、殲滅していた。
「そうですね。こういった雰囲気の方が、わたしたちは力を発揮できるのかもしれませんよ?」
フィユからさらに少し下がったところ、その場所に同じく防衛線を張るネージェ。アルクアンシェルを展開し、着実に敵を倒していた。
「・・・・それもそうかもね。まぁ、あのメンバーが前線に出ていれば、こっちとしては安心して防衛線を張っていられるってものだし。」
「えぇ。おかげさまで、まだ一人としてアリスに近づけさせていませんし、それにこっちには――――――」
『ドゴッ!!』
ネージェが顔を向けた直後、その方向から爆音が響き、衝撃波が奔って来た。閉じてしまった目を開き、凝らして見る。爆音が起きたであろう場所は、地面を深くえぐり、同時に周囲の敵を一掃していた。
「あらっ?威力が強すぎたのでしょうか・・・・まぁ、許容の範囲内ですわ!次は、アレを試してみましょうかしら。あぁ、決戦兵装の試し撃ちなんて、そうそう出来るものではありませんし・・・こんな絶好の状況はもう二度とないかもしれませんわ!!もう、考えつく限り試しますわよ!!」
普段以上の嬉々とした声に目を丸くする二人。その視線を感じ取ったのか、はっとし、ゆっくりとこちらを向くラプ。
「も・・・もちろん、アリスを守るためですわ!!・・・・よ?」
それだけを口にすると、すぐさま顔を戻し、魔術を発現させ次の一波を殲滅した。
「――――――ラプもいますしね。」
苦笑いをしながらフィユを見るネージェ。
「・・・・そうだね。」
それに対し、フィユは同じように苦笑いで返事をした。
各々が戦果を上げていく中にありながら、敵の数は一向に減らない。それは倒すたびに新たに出現していたのが理由であった。
彼女達自身としては、まだ十分に戦える状況ではあったが、やはり本命を崩さねば事態の解決には至らないようだった。そんな時、閉じていたアリスの目が開き、足元の陣が強く光を放ち始めた。
「術式、完成―――――みんな、準備できたよ!!」
アリスの声が戦姫達の耳に届く。前線組が、自分の周囲にいる敵を一気に排除し、ネージェ達の張る防衛線に集まる。
一人を除いて。
「ルージュ、何してる!?早く来い!!」
リアンが声を上げる。しかし、ルージュは反応しない。
「君は、行かなくていいのかい?あんなに必死で呼び掛けているじゃないか。」
鍔迫り合いの中、アルテが口を開く。その口元には、いまだ笑みが含まれていた。
「そんな挑発・・・・かけても無駄だよ。わたし、知ってるんだから。」
「何の事だい?」
「とぼけようとしても無駄。あの塔が力の源なのは理解してる。でも、あれだけじゃダメ。あなた自身も・・・その身体ごと封印しなくちゃいけないんでしょ?」
「・・・・知っていたか―――――」
「あの塔はあくまでも〝力〟。本体は・・・こっち!!」
言葉を言い終ると、ベオウルフをロイ・バハムートへと変化させる。そして、砲身をアルテに押しつけ、双翼の羽ばたきで一気に塔へとそのまま突貫していく。
「準備が整った今、この瞬間が最大のチャンス・・・一緒に封印されよう?アルテ!!」
「何!?離せ!?くっ、ルージューーーーー!!」
『ゴッ!!』
大きな音と共に、塔の足元に粉塵が巻き起こる。ルージュがアルテと共に塔へ突っ込んだようだった。
「ルージュっ!?」
『がしっ!』
身を乗り出そうとするアリスの肩を掴み留めるウィズダム。
「アリス・・・このまま封印を。」
「何を言っているの?!あそこにはルージュが―――――」
「これは作戦なのよ。」
「えっ――――」
ウィズダムの言葉に動きが止まるアリス。一行も揃ってウィズダムに顔を向けた。
「ルージュの最初の攻撃。あれでも倒す事できないのは最初からわかっていた。だから、封印しかないと、あの子には言っていたの。」
「なんでそんなこと、わかるのよ・・・・」
歯切れ悪くアリスが問いかける。
「塔はあくまでも〝力〟の塊。本体は、あの身体の方に入っているのよ。だから、封印をするときは塔と本体を同時にしなければいけないの。500年前もそうっだった・・・・一度失敗しているから、わかるの。」
「・・・・。」
言葉をなくす一行。しかし、その間にも敵が侵攻してきていた。一番に飛び出したのはマレーン。それに続き戦姫達は応戦にかかった。
また、アリスとウィズダムだけがその場に残された。静寂の時間が流れ、そこだけ時間が止まっているかのようであった。しかし、時間としてはそんなに長くもなく、また、止まっている余裕もなかった。ウィズダムが意を決し口を開く。
「・・・・アリス、決断して。ルージュだってずっとアルテを抑え込めるわけじゃない。早くしないと―――――」
「わかってる!!」
アリスが大きな声を立てる。
「ごめん、ウィズダム――――――ひとつ、聞いていい?」
「・・・・なに?」
「ルージュは・・・承諾したから、いまあそこにいるんだよね?」
「・・・・これは、あの子が言い出したことよ。」
「・・・・そっか――――――」
そう言うと、再び前を向き、塔を見据える。ロイ・マリアを掲げ、切っ先を塔に向ける。
「・・・・〝座標、特定〟・・・・〝空間、凍結〟―――――――」
文言を唱え一度目を閉じる。
「・・・・うん。わかったよ、ルージュ―――――」
目を開くと同時、剣先を地面に向けなおし、陣の中央に狙いを定める。
「〝封印〟!!」
そして、言葉と共に、剣を突き刺す。すると、陣が光り輝き、その光が塔へと向かって地面に一本の道を創る。そして塔に到達すると、アリスの足元にあるものと同じ陣の巨大なものが空中に現れ、轟音を鳴らしながら、塔が地面へと沈んでいった。
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塔が完全に姿を消した後も、その場にいた軍勢だけは姿を消す事もなかったが、数分の後、彼女達によってその場には静寂が戻った。
「なぁ、他の部隊の手伝いに行かなくていいのか?オレ達の力がなかったら消滅させられねぇんだろ?」
「そうですわね。でわ、すぐに手分けして・・・・」
「その必要はないわ。」
リアンとラプの提案を、一言で切るウィズダム。疑問に思ったネージェが直ぐに聞き返した。
「なぜ必要はないと?」
「やつらは、アルテの力がないと形をなす事は出来ない。だから、完全に封印され彼が存在していない今なら、霧散させても再結合されることなく、ただ大地へ還っていくだけよ。」
「そう・・・それなら、心配はいらないってことね。」
マレーンが区切りをつけると、静寂の時間が再び流れた。戦いは一応、終結を迎えたというのに、両手を離しては喜べる状態ではなかった。しかし、その静寂を一番に破ったのはアリスだった。ゆっくりと、ロイ・マリアの場所まで歩く。一度大きく深呼吸をすると、振り向かずに口を開いた。
「それじゃぁ・・・みんな、私・・・帰るね。」
唐突だった。皆動揺を隠せなかった。しかし、それも一瞬。直ぐにアリスの心情を察した。
「早いな、そんなに焦らなくてもいいんじゃないか?」
「そうですわよ?せっかく一つの戦いが終わったのですから、休んでも罰は当たりませんわ。」
リアンとラプがわざとおどけて問いかける。二人とも帰ってくる言葉は想像できていた。
「ありがとう・・・でも、私の本当の戦場は向こうだから。それに・・・・」
「それに?」
「・・・ルージュが、待っているから。」
その言葉を聞き、全員の顔にかすかに笑みが浮かんだ。
「そうだね・・・・それはアリスの役目だね。」
「そうニャ。アリスが行かなくて誰が行くって言うニャ。」
「うん。アリス、がんばだよ!!」
マレーン、チャト、ボワがアリスの言葉を後押しする。
「あのあの、アリス。気をつけてね。」
「ご武運を祈ります。」
フィユとファラダがアリスを鼓舞する。そして、
「アリス・・・・ちゃんと、迎えに行ってあげてね。」
「・・・・うん。」
一歩前に出て問いかけるネージェに、そっと返事をした。
アリスは胸元にかけていたラパンからもらった首飾りをとりだした。そして、そこについていた珠を握る。すると、淡い光が現れアリスを包み込む。そして、光が強くなってきた時、ようやく後ろを振り向いた。
「みんな!本当にありがとう!!こんな別れ方でごめん。みんなと過ごした時間は絶対忘れないから!!ほんとに・・・本当にありがとう!!みんな、元気でね!それじゃぁ・・・・・バイバイ――――――――」
最後の言葉を言いきるかというところでアリスは姿を消した。
「行っちまったな・・・・・」
リアンの口から言葉が洩れる。その瞳には涙がたまっていた。それは、リアンだけではなく、中には涙をあふれさせている者もいた。そんな中、ぐっとこらえ目元を腕で拭い、一行に振り返るネージェ。
「みんな、提案があるんだけど―――――――――――」
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「ん・・・ん~――――――」
ゆっくりと目を開け、辺りを見回す。見覚えのある木々の風景。近くには川が流れ、そこから分岐して出来たであろう水たまり。そう、間違いなくあの場所。ラパンと出会った始まりの地。握りしめていた手を広げると、首飾りについていた珠は砕けていた。
「・・・・戻ってきたんだ。」
目を閉じ、感慨にふける。今までの事を思い返し、そして胸の中にしまう。
「あの楽しかった日々は、ひとまず封印。ここはもう・・・・あいつ(アルテ)のいる戦場だ。」
川の水で顔を洗うと、表情を引き締め、記憶を頼りに部隊のいる方角を目指す。しばらく歩くと、部隊の兵と合流した。アリスを探しに来たようだった。
「将軍、こちらにおられましたか。何をしていられたのですか?」
「ちょっと涼みに・・・・ところでどうしたの?ただ探していたわけでもないでしょう?」
「あっ、はい!先ほど増援隊との合流ができました。いつでも出動可能です!」
「そう・・・わかったわ。とりあえずこのまま休息を。明朝、進撃を再開します。」
そうとだけ言い残すと。アリスは先に歩き始めた。
「了解しました!!・・・・・将軍、なんか雰囲気変わったか?」
兵はふとした疑問にとらわれながらも、アリスの後をついて行った。
(「ルージュ・・・待ってて。今、行くからね!!」)




