第30話 智竜神
「あ~、なんか聞いた事あると思ったら・・・・・」
約1日をかけ、〝ノード国〟北の首都『ホクト』にある霊峰『アマツチ』へと到着した。着いた早々、リアンがふと何かを思い出したかのように口を開いた。
「ウィズダム。幻想現存種の第一位、〝智竜神 ウィズダム〟。始まりの祖主の名前だ。」
「えぇ、間違いなく。人は私の事をそう呼んでいるわ。」
竜から人の姿に戻り、こちらに歩み寄りながら話すウィズダム。
「竜人族は絶滅されたと伺っていたのですが?」
「そうね。だから、私が最後の生き残りになるわね。」
ネージェの問いにそう坦々と答える。
「まず、無事にここに来れた事を祝いましょう。疲れもあるでしょうし、家に入って、話しはそこでしましょう。」
「話し?」
「えぇ。今後の事などなど、ね。」
そう言いながら、家へとむかい歩いて行くウィズダム。一行もとりあえず、それに続いた。
食事をとり、しばしの休憩をとった後、一行は広間のような部屋に集められた。
「それじゃぁ、何から話しましょうか・・・・・」
「あの、ウィズダムさんとお姉さまはどこでお知り合いになられたのですか?」
ラプが挙手して口を開く。ウィズダムが軽く首を傾げたのを見て、お姉さまとはルージュの事であるとアリスが告げると、納得し話し始めた。
「ルージュは4年前、突然私の前に現れたの。あぁ、経緯はあの子に聞いたから説明は不要よ・・・・白銀事変、あの日から闇の軍勢の侵攻が始まった。それはこのノードも例外ではなかった。でも、あの時のノードはそれ以上に不安定だった。」
「不安定っていうのは?」
リアンが疑問を提示し、ウィズダムに先を促す。
「ノード国全体が抗争状態にあったの。東西南北に対立していたわ。きっかけとなったのは、北と東の首都の抗争だったのだけど、いつの間にか国中をまきこむ事態になっていた。私はその時から、というかずっと前からここに居をかまえていたのだけれど、特に介入しようとは思わなかったわ。昔からいざこざが絶えない国だからね。4つの首都に、それを治める人種はそれぞれ。よく国として成り立っているものだと感心はしていたけど・・・・・特に興味はなかった。」
「あの~・・・ルージュの話は?」
ボワが小さい声で意見を唱える。
「ここからちゃんと出てくるわ・・・・そんな時、あの子が私の前に現れた。懐かしい感じがしてね、いろいろ話したわ。」
「懐かしい感じ?」
続いてマレーンが口を挟む。
「昔、手を貸した狼人族の女性と同じ感じがしたの。そしたら案の定。ルージュは彼女の孫だった・・・・ノードでかつて起きた魔女たちの反乱は知っているわよね?」
「はい、ある程度は。」
ネージェが代表するかのように返事をする。
「その時魔女を倒した人物は英雄と呼ばれ、その中でも、一人で3人の魔女を倒した人物がいた。それが彼女、オラージュ。彼女は強かった。私が生きてきた中でも、指折り数えるほどに。ルージュは、その雰囲気をそのまま纏っていたわ。この子なら、この国に再び奇跡を起こせるかもしれないと思った。だから、頼んでみたの。一緒にこの国を救ってくれないかって。あっさり了承されて驚いたものだわ。オラージュの孫なら当然の反応なんだろうけど。まぁ、治めるのに2年くらいかかってしまったのだけれどね。でも、無事ノードは平和を取り戻した。そして、あの子は英雄になった。かつての彼女と同じように・・・と、ここまでが私とルージュの話しね。まぁ、実際これは話しても話さなくてもいい内容ではあったのだけれど。」
「あのあの、では話さなくてはいけない事とはいったい・・・・」
フィユがもっともな疑問を口にする。
「それはもちろん闇の軍勢のこと。やつらを倒す方法、その為に何が必要か、そして、あなた達がやらなくてはいけない事・・・・・まずは、やつらについて知識を持っていなくてはね。」
「・・・・知っているの?やつらのこと。」
アリスが声色低く、全てを聞きだす剣幕でウィズダムを見る。
「えぇ、よく知っているわ・・・・みんな、〝護王〟の話は知っている?」
ウィズダムの問いに、一行が揃って曖昧な顔をする中、フィユがおずおずと手を上げ、口を開いた。
「あのあの、オランジュの言い伝えで聞いたことがあります。〝この世界を救い、この世界を作った王の話〟。あのあの、合っていますか?」
「えぇ、そのとおりよ。あなたはオランジュの血を引く人間なのかしら?まぁ、知らない方が本当は普通なんだけどね。あまり世に出回っている話ではないから。これは500年前、私がこの立場になるきっかけになった戦い。そう、全ての始まり・・・・・」
〝護王〟。王とはつくものの、一国の王という意味ではない。どちらかといえば〝英雄〟というのが妥当であろう。この話は500年の時をさかのぼる。
当時、一人の魔術士がある事件を起こす。それは世界に重大な傷跡を残した。彼が創りだしたものは、現象という姿を手に入れた。その名は〝闇〟。それは大陸をめぐりながら力を手に入れ、騎士団を創り、さらに軍隊を創り、世界に反旗を翻した。闇の影響力は絶大で、世界は混沌に呑まれんとしていた。
しかし、そんな中彼らが立ちふさがる。〝護王〟である。
彼らは智竜神によって与えられた自らの名を冠する王の証を以て、闇を封印することに成功した。
世界は救われたが、この話があまり世に出回る事はなかった。それは、闇を倒す事が出来たわけではなかったからだ。いつ復活するかもわからないものにおびえる暮らしが世界に蔓延してはならないと感じた護王は、それぞれの一族と智竜神にのみ、この話を伝え残そうとしたのだった。
そして今、その封印が解かれ、世界は再び混沌に呑まれようとしている。
「・・・・・と、ここまでが事のあらまし。何か質問は?」
ウィズダムの問いに誰一人として反応しない。今は頭の整理でいっぱいのようだった。そんな中、リアンが手を上げた。
「そんなたいそうな戦いがあったのなら、もっと話が残っていてもよさそうなんだが?」
「それは護王の考えで、この戦いと自分たちの存在を歴史から抹消したから。そして、世界の歴史を今なお操作しているからに他ならないわ。」
「操作・・・どういうことですの?」
ウィズダムの回答にラプが続けて問いかける。
「協会発行の史書、読んだことある?あの中に護王の戦いは載ってない。それは、協会を作ったのが護王の一人だからよ。」
「・・・なるほど、自分たちで歴史を管理して、人々から暗い歴史を隠した。それが、『いつ復活するかもわからないものにおびえる暮らしが世界に蔓延してはならない』ように、というところに繋がるんですね?」
ネージェのまとめにウィズダムが首を縦に振って返答した。
「加えて言えば、史書には過去からの年月を数えるもの・・・〝年号〟とでも言えばいいのかしら?そういったものも載ってない。数字って人の記憶に意外と残りやすいものだから。何十年前、何百年前といった表記もされていないはずよ。」
ウィズダムの言葉に一行が相槌を打つ。「他には?」と言い、一行に目を向ける。次に手を上げたのはチャトだった。
「あたしの剣は・・・・その、〝王の証〟なのかニャ?」
そう言って、自分のレイピアを掲げる。
「えぇ。それは間違いなく、〝ロイ・チャート〟よ。」
「そうですかニャ。さっき一族にのみって言ったニャ?でも、あたしはそんな話聞いたこともないニャ。確かにこの剣は代々受け継がれてきたものらしいけど、それなら話も伝わってニャいとおかしいんニャ?」
「500年も前の事だからね、世代が変わったりしただけで曖昧になるかもしれないし、その一族が絶滅する可能性だってある。現に護王の一人、バハムートは竜人族だった。」
「そんな適当・・・・・再び脅威が来た時、武器が集まらなかったらどうするつもりだったの?」
マレーンがもっともな意見を出す。
「そうね・・・・でも、それはたいした問題じゃないわ。〝王の証〟なんていうのは所詮ただの武器。もし仮に集まらなかったとしたら、今回の戦いの中心にいる人たちの武器を、新たな〝王の証〟として創り上げるだけでしたから。でもまぁ、こうやって全部揃ったのですからよしとしましょう。」
「・・・・全部?どれを指して全部なのですか?」
ネージェが疑問を呈する。
「・・・・そっか、わからないわよね?まず猫のあなた、それが〝ロイ・チャート〟。それから、橙色の髪のあなた。その槍が〝ロイ・オランジュ〟。そして片目のあなた、その太刀が〝ロイ・スサノオ〟。そして、蒼のあなた。その十字架が、〝ロイ・マリア〟よ。後はルージュの魔銃。あれが、〝ロイ・バハムート〟。」
「でもルージュは、あの魔銃をベオウルフって・・・・・」
「あれだけは特別。バハムートの頼みもあって、元々あった2丁の魔銃にさらに二つの形態を付与させたのよ。」
アリスの疑問を、言葉途中で切り、そう答えるウィズダム。
「そういえば、第二形態がベヒーモスって言っていたね?」
「じゃぁ、第三形態が〝ロイ・バハムート〟か・・・・そういえば、4年前の戦いのときにマトクレスが『力の解放』とかって言っていたよね?じゃぁ、私達の武器も、もう一つ形態があるって事?」
ボワに続き、マレーンが口を開く。その疑問に一行の目がウィズダムに向く。
「いいえ。だから言ったでしょ?バハムートが特別なだけ。王の証は元々護王が持っていた武器に私が力を付与しただけ。だから、そこから形が変わるのはロイ・バハムートだけよ。」
「あのあの、じゃぁ力の解放というのは?」
「それも実際にはとっても簡単なことよ。」
フィユの質問に、そんなものは質問ですらないと言った感じにあっさり答えるウィズダム。
「力の解放・・・・王の証とは、私が彼らの武器に魔術により光の力を付与させたもの。そしてその光の力は、引き出せる者によっては、絶大な力を発揮することができる。それを力の解放と言えなくはないわね・・・・・力の解放に必要なもの、それは強い意志。誇りや信念と言ってもいいわ。そういった思いを以て武器をふるうこと。ただそれだけよ―――――――これらの強い意志を持ち、王の証から光の力を引き出せること、それを『王の資格』と彼らは呼んでいたわ。まぁ、あなたたちの場合素質は問題ないだろうから、武器の方に不備があったようね、たぶん。長い年月で武器自体の力が弱まっているみたい。あとで力を吹き込んでおくわ。そうすれば、闇の軍勢を倒すことができるはずよ。なんといっても〝王の証〟は闇に対してだけ効果を発揮する武装だからね。」
「・・・?やつらはいままでも倒してきたニャ?」
ふとした疑問を言葉にするチャトに、ウィズダムは首を横に振る。
「残念ながら、それは霧散して形を失っただけ。時間がたてばまた元に戻るわ。だから、あなた達が今まで倒したと思っていた奴らも、その実、絶対数はそんなに変わっていない事になる。」
「そんな・・・・・でも、黒極騎士団は?彼らもまた元に戻るの?」
「いえ、彼らは戻らない。黒極騎士団は、2人を除いて元々は全員人間だったの。闇の力は霧散するだけかもしれないけど、人である実体は消滅するから再び同じように現れることはないわ。なんといっても、元になっている肉体は500年前のものだからね。」
アリスの問いにそう答えるウィズダム。しかし、すかさずリアンが問いかける。
「2人ってのは?誰と誰を指しているんだ?」
「第八位〝空席のエア〟、それから第九位〝無情のメルシレス〟。でも二人とも倒されているから問題ないわ。一人は500年前スサノオに、もう一人は、わかるでしょ?」
「でも、あの時ルージュはなにも持っていなかったが?」
「ルージュの両腕に、王の証と同じ能力を持つ刻印を彫ってあげたの。あの子に頼まれてね。」
「じゃぁ、オレにもそれをしてくれ。オレは王の証を持っていないし武器も持ち合わせていない。みんなの足手まといにはなりたくないんだ!」
リアンが声をあげながら立ち上がる。そのこぶしは力強く握られていた。
「あなたには彫れないわ。だってその腕・・・天使でしょ?なら、使い方さえうまくすれば私の刻印なんかよりずっと強い力が出せる筈よ。神代の力なのですから。」
「・・・・そう・・なのか。」
「では、わたしにお願いします。」
リアンに続きネージェが申し出る。
「あなたには・・・必要ないわね。どちらかというと、あなたのお人形さん達に必要だろうけど・・・それはあなたがしてあげなさい。あなたの魔力属性は光のようだし、それで十分だと思うわ。それから帽子のあなた。あなたにも刻印は必要ないけど、その2本の剣、ちょっといじらせてもらうわよ。」
「ボクの?」
ボワの剣を指して言葉にするウィズダム。
「えぇ。それはね、実はとても危険な剣よ。今は魔力を失っているみたいだけど、元々は黒極騎士団の第四位〝魔剣のソーディアン〟が持っていた決死の魔剣。右左順番は関係なく、その両方の刃を受けたものはなんであれ死にいたる。死ぬというのはまだ優しいわね・・・無に帰すの、跡形もなく。だからその剣があればあなたも十分に戦えるわ。」
「わ、わーい・・・うれしいけど、なんかすごく怖いなぁ・・・・」
苦笑いを浮かべながら乾いた言葉を吐き出すボワ。
「それからあなた。」
「わたくしですか?」
ラプが自分を指差しながら返事をする。
「えぇ。あなたは魔法士でしょう?あなたくらいの魔力なら造作もないでしょうから、ありったけの魔力を込めてぶつけてやりなさい。そうすれば吹っ飛ぶはずよ。」
「・・・・えぇ。わかりましたわ。」
そう言って、とても明るい笑顔を見せた。
「それにしても・・・・なんでそんなにわかるの、ウィズダム?」
もっともな疑問を投げかけるマレーン。
「まぁ、だてに長い事生きてないからね。」
そう笑いながらウィズダムは答えた。
その後、これからの方針としての話題が出された。大陸全てが標的となっている現状、自分たちでどうにかできるほど事態は小さくない。そこで、各国を巻き込んでの最終決戦に挑もうと言う事になった。
既にルージュ達の計らいにより、ノード国四都市の協力を得られる事にはなっていた。彼女達は、ノード同盟軍を率いて各国を回り、その勢力を増やし、大元である帝国を目指して、数日後進軍を開始した。




