第27話 紫眼の灯
ギャルリに到着し、城跡のある中央街に入った直後、その光景が目に飛び込んできた。
「ボワ!?」
そこにいたのは、大量の闇の軍勢と一人戦うボワだった。一行は迷うことなく戦闘態勢をとった。
「ボワ、無事!?」
「へ?・・・・あ!?うわー!うわーー!!みんなだぁ!みんなだぁー!!久しぶりーー!!」
アリスの言葉に反応し後ろを向き、こちらに気付くなりハイテンションで再会の挨拶をするボワ。一行も笑顔を見せながら答えるが、まずは敵の排除に尽力する。
数分の後、相当数にまで数を減らすと、敵の攻撃が急に止んだ。
「・・・・なに?」
「わからん・・・だが油断はするなよ。」
フィユとリアンがお互いに近づきながら周囲を警戒する。
「ボワ、マレーンは?」
「わかんない。城に入って行ってから、もう3日は出てきてないんだよ。」
「探し物というのは城の中にあるということでございましょうか?」
「たぶん・・・・でもボクも、何を探しているかは聞いてないんだ。」
アリスとラプの質問に答えるボワ。その時、敵をかき分け、一人の男と形容しがたい黒い化け物が現れた。
「ど~も~。こわーいお姫さま方♪ご機嫌麗しゅう?」
男の方が陽気に声をかけながら近づいてきた。
「あなたは・・・誰ですか?」
ネージェが殺気まじりに問いかける。一行も同時に、再び戦闘態勢をとる。
「そんな怖い顔しないでくれよ。ちゃんと自己紹介くらいするさ・・・・オレは、黒極騎士団が第七位、〝盾のアイギス〟!あっちは、同じ黒極騎士団の第九位、〝無情のメルシレス〟。さぁメルシレス、お前の目当てはどいつだ?!」
そう言ってアイギスが、メルシレスに顔を向ける。夥しい殺気は先ほどから放たれていたが、それは問いかけで変わる事はなかった。
「はっ?この中にいない?!・・・・・・いないんかい?!・・・・・・・ふ~ん。いないんならしょうがない。まっ、どっちにしろ皆殺しには変わらんからなぁ―――――」
アイギスの雰囲気が、その言葉を境に一変した。同時に大きな盾を両手に現す。
一行はその雰囲気に、各々拳を握りなおす。一歩ずつこちらに近づくアイギスとメルシレス。その間も、周囲の闇の軍勢がその数を増やし、進軍を開始していた。
「・・・・・ふ・・・ふふふふ――――楽しくなってきたんじゃない?」
アリスの口から、この場にはふさわしくないであろう言葉が洩れる。しかし、その台詞を聞くと、一行の表情が変わった。
「おとなしくしているのはオレ達らしくないよな?」
「どうせやるなら・・・この状況はむしろ楽しむべきよね?」
リアンとフィユが周囲の状況を確認しつつそう口にする。
「でしたら、まずは役割分担ですわね?」
「誰が主力を相手にするかって事ニャ?」
「それが優先事項だよね。」
ラプ・チャト・ボワが冷静に判断して言葉を繋ぐ。
「じゃぁ、どうしましょう?」
「相手主力も当然ながら、周りの兵隊も侮れない数だしね―――――」
ネージェとアリスが敵主力に目を向け、そして目くばせする。
「盾の方は私が相手をするわ。」
「黒い方はわたしがします。」
一歩前に出てアリスはアイギスを、ネージェはメルシレスを見据える。その光景を見ると、一行は無言で他の敵へと疾駆していった。
「なんだ?1対1か?舐められたもんだな、オレ達も―――――!?」
言葉途中で突然、アイギスの前に斬撃が飛んできた。それを盾で防ぎ、その方角を睨み返す。
「不服かしら?っていうより、その言葉は私達に対しての侮辱よ?」
その言葉と同時に、不敵な笑みとその眼光を返すアリス。横目にメルシレスを見るアイギス。向こうは既に戦闘に入っているようだった。周囲では、次々と軍勢がその数を減らしていっていた。
「・・・・そのようだな。前言は撤回しようか―――――だが、オレの方が強い事に変わりはない!!」
そう言って全力で突っ込んでくるアイギス。振りかぶったその一撃を、後ろに飛んでかわすアリス。着地した先で、顔を上げ自分がいた場所を眺める。その場所は地面が穿たれていた。
「・・・・まぁ、お約束の威力よね?くらうつもりは毛頭ないけど!!」
アリスが剣戟の応酬を仕掛ける。しかし、その全てが盾によって防がれる。どのような変化を加えようとその斬撃がアイギスの身に届く事はなかった。
こちらの剣撃の合間を縫い、その一撃を加えんと反撃もしてくる。アイギスの攻撃をかわすことはアリスにとっては造作もない事だった。しかし、攻撃が届かないのではどうしようもない。
「悔しいか?自慢の剣技が通じないというのは?!無理もなかろうよ。オレはなんたって〝盾の騎士〟!!我が身を傷つけることは何人たりとも不可能だ!!」
挑発混じりのアイギスの口上を、歯を食いしばりながら聞き流すアリス。
「それならっ!!」
大声を上げると同時に大きく後退し、刀を鞘に収めるアリス。そして、特大の一刀を解き放った。
「ぬっ!?」
アイギスは両手の盾を前面に構え、衝撃に備える。接触と同時に爆音と粉塵が巻き上がった。
数秒の後粉塵が晴れるが、そこには平然と立つアイギスの姿があった。盾は所々が欠損しその身を傷だらけにしていたが、数瞬と待たずに元の姿に戻っていっていた。
一刀を放った距離を保ち、対峙するアリスとアイギス。
「なによ・・・それ―――――」
アリスが驚きを隠せずに言葉を漏らす。その様子が気に入ったのか、アイギスが声高に言葉を発する。
「いい表情だ!教えてやろうか?!オレの盾は自己再生する。生きているんでな。盾にダメージを与え続けようと無駄だ。見ての通り、こいつの回復速度は半端ねぇんでな?!」
アイギスの嬉々とした表情に唇を噛み締めるアリス。〝一刀担手〟を使うことを考えたが、構えている隙にこちらがやられてしまうのは明らかだった。手詰まり。そう思った時だった。
「それなら、選手交代っていう手は?」
その声に後ろを振り返るアリス。そこには、ゆっくりとこちらに歩いてくる人物がいた。見た事のある、もちろん記憶にある姿。大きな太刀を手に進むその姿が、あの日を思い出させる、いや、あの日以上の頼もしさを醸し出していた。
「・・・・マレーン。」
アリスの口からこぼれたその言葉に、笑顔を返すマレーン。
「アリス、久しぶり。なんか頼もしくなったんじゃない?」
「それはこっちの台詞よ・・・いままでどこにいたの?」
「その話は後で。今は・・・・・」
そう言ってアイギスの方に顔を向けるマレーン。
「なんだ・・・出てきちまったのか?もう一人の王よ。探し物は見つかったかい?」
「うん?まぁね、この通り。」
そう言ってマレーンは太刀を掲げてみせた。
「なるほど・・・これでまた一つ、王の証が揃ったわけだ。まぁ、そんなことは別にいい。それより、交代したところで何が変わる?その太刀はどんなものでも殺す能力があるとでも言うのか?ってか、その見えない目でどう戦う。オレを雑魚なんかと一緒に考えるなよ!?」
アイギスが明らかな殺気をぶつけてくる。しかし、マレーンは一切動じなかった。
「別にあなたを舐めてるわけじゃないわ。実際、見えるんだから―――――」
そう言って、左目を開けアイギスをしっかりと見据える。
「おめぇ・・・・」
「目が・・・見えるようになったの、マレーン?」
「この太刀を手にした時からね。一時的な失明だったのか、それともこの子(太刀)の力なのかはわからないけど・・・・それから、なんでも殺すなんて、そんなとんでも能力はないわ。でも・・・・私には私なりの戦い方がある!!」
言葉と共にアイギスへと疾駆するマレーン。すかさず盾を前にし、斬撃をはじく。しかし、マレーンの斬撃は止まらない。何度も連続で斬り続ける。
「はっ!さっきまでの戦いとかわらねぇじゃねぇか!?」
「そう思う?でもだいぶ違うのよ?・・・・刀や太刀っていうのは、その切れ味が最大の売り。それから――――――」
マレーンの剣撃の速度が増す。それは一撃ごとにどんどん速度が増していく。
「いくら再生速度が早くても、同じところを斬り続ければ・・・・」
『ピシッ!』
マレーンはその音を逃さなかった。すかさず持ち手を変え、その一点を突きさす。
『ズサッ!!』
「がぁぁぁーーー!!?」
アイギスが叫び声を上げる。マレーンの太刀は、盾を貫き、彼の右手ごと串刺しにしていた。
「どんなに超速再生を持とうと、元に戻るよりも早く、同じところを斬り続ければいつかは限界に達する。それに―――――」
『ガシュッ!!』
太刀を斬り上げ、腕ごと盾を斬り裂き、即座に真下に切り落とす。アイギスの右手の盾はその身を真二つに寸断され、地面に転がった。
「原型を保てない状態にすれば、さすがに再生することはできないんじゃない?アリス!!」
言葉と同時に飛び退くマレーン。アイギスとの直線上には、大剣を担ぎ構えたアリスがいた。
「刀の一刀はなんとか防げたかもしれないけど・・・・さすがに盾一個だけでこの一撃・・・・防ぎきれるかしら?」
不敵な笑みと同時に、その剣を振り落とす。
「〝秘剣『一刀』 別構・担手・・・・『大地裂』〟!!」
「く・・・・くそがーーーーー!!」
残った盾を前に出し防ごうとするアイギス。しかし、撃ち出された一撃は、今までのどの斬撃よりも大きく、一瞬たりとも減速することなく、大地を喰らいながらアイギスを呑みこんでいった。
・
・
・
「で、私はこの〝ロイスサノオ〟を探していたの。」
アイギスの敗北直後、黒の軍勢は撤退するかのように姿を消していき、メルシレスもどこかへと行ってしまった。
一行は、マレーンとボワに今までの事を説明し、また彼女達の4年間の話を聞いていた。
「なんでそれが王の証だと気付いたのニャ?」
チャトが当然の疑問を口にする。皆同様のことを考えていたのか、視線がマレーンに集まる。
「シェマインでみんなを待ってみようってボワと決めて、1ヶ月半くらい経ったのかな?今からだいたい2、3週間前くらいになるんだけど、私は一人で夜、街を歩いていたの。その時ある女性に出会って、その人からスサノオのことを聞いたの。」
「・・・・その人って、王の証のこと詳しく知る人なのか?」
リアンが意見を呈するが、マレーンは首を横に振って答えた。
「多分知らないと思う。その人からは〝スサノオ〟としか言われなかったから。でも、その名を関する太刀があるだろうと言われた時、かすかに昔のことを思い出して・・・それで城に来てみたの。これがロイスサノオだっていう確証を得たのは、これを手にして視力が戻った時。この太刀が刺さっていた台座に、『ロイスサノオここに眠る』っていう文字が掘られてあったから。子供のころにはいつも見ていたはずなんだけど。気にしてないと記憶には残らないものね。」
「そっか・・・王の証の確信は分からずじまいってことね。」
アリスが、残念というように肩を落とす。
「そうだね。でも・・・結局その人はなんだったのかな?直接でなくても何かしらの形で、王の証に関わっている人のような気はするけど?」
アリスに賛同しながら、ネージェは新たな疑問を投げかける。
「それも全然。名前を聞くこともできなかったし・・・・ただ、私の刀を見て『懐かしい』って言ってた。それと、私のことをスサノオの血を引く者だって。」
「血を引く・・・あのあの、ではスサノオとは実在した〝人物〟ということでしょうか?」
フィユの推察に、揃って考え込む。その雰囲気に耐えられなかったのか、ボワが話題を変えた。
「と、とにかく。まずは王の証がまたひとつ揃ったってことでいいんじゃないかな?」
「・・・・それもそうだな。奴らに対抗する手段が増えたってことだ。まぁ、力の解放だのなんだのって諸問題があるにせよ、とりあえず、ものが揃っていくことを喜んでもいいんじゃないか?」
ボワの言葉に続くリアン。そこでやっと、一行は肩を休めた。
「でも、王の証っていったい何個あるニャ?」
しかし、すぐさまチャトが疑問を返す。それに対し、一行は再び首を傾げる。
「フィユの〝ロイオランジュ〟、チャトの〝ロイチャート〟、そしてマレーンの〝ロイスサノオ〟―――――」
「ここにあるだけで3つだね。」
リアンとボワが言葉を紡ぐ。
「いえ、4つですわね。4年前の戦場で標的になっていたのは、フィユとチャトだけではありませんでしたわよね?」
ラプがそう言いながらアリスを見る。そして全員の視線がアリスに集まる。
「・・・・そうね・・・たぶんだけど、私のこれも――――――」
そう言いながら、いつも背負っている十字架を手に取る。
「それは何処で手に入れたの?」
「これは・・・・ラパンに・・・・もらったのよ。」
ネージェの問いかけに歯切れ悪く答えるアリス。
「開けてみた事は?」
マレーンが十字架を包んでいる布を不思議に思い、問いかける。それに対しアリスは首を横に振る。
「ないわ。ラパンから言われたの、『時が来るまで決して開けてはいけない』って。まぁ、その時がいつなのかも検討つかないんだけどね。これの使い方もわからないで、その時何て・・・気づけるのかしら?」
苦笑いまじりにそう答えるアリス。
「・・・・ま、まぁ!こうして徐々に集まれてきたのはいいことだよね!?」
「・・・・そ、そうニャ!むしろ4年間集まれなかった事が不思議ニャ。」
「そうですね・・・・これも運命なんでしょうか?」
ボワ・チャトの言葉に、意味深に返すネージェ。
「あのあの、運命というなら、その流れに任せていれば、また全員集まれるでしょうか?」
フィユが期待を胸に言葉にする。
「ん~・・・でも、その可能性は捨てきれないね。実際、この短期間でこれだけのメンバーが集まったんだから。後、残るは――――――」
「ラパンと―――――」
「ルージュ―――――」
マレーンの言葉にリアンとアリスが繋ぐ。
「どうするニャ?探すニャ?」
「・・・・・いいえ。ここは運命というものに任せてみましょうか。私達は、望んだ事ではないとしても、この騒動の中心部分にいるわ。なら、先へ進めばそれだけ答えに近づける。」
チャトの問いに、アリスが明確な方針を加え答える。
「じゃぁ、次の目的地は決まったようなもんか?」
リアンが立ち上がり答える。それに全員が頷く。
「よし。じゃぁ、行ってみましょうか・・・・・〝帝国〟へ―――――――」




