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御伽噺戦記  作者: ran
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第2話 復讐者

「はぁー・・・・もうちょっとかぁ。ルージェルフまでの馬車、走ってくれないのかなぁ――――――」

 

ルージュは、一人文句を垂れ流しながら、ルージェルフまでの道のりを歩いていた。


彼女は数カ月に一度、ルージェルフを内包する国であるワラフ国の首都『ワラフ』にある求配所に行き、ランクの高い賞金の依頼を受けている。高額をかけられているような大型の手配書は、ルージェルフなど田舎の求配所には回ってこないため、首都の求配所まで出向かなければいけないからである。


今回も、首都で受けた仕事を終え、賞金を携えてルージェルフへと帰る途中なのであった。


彼女が文句を言っていた理由は、主都ワラフからの馬車は、村の東にある街『ヴィルラ』までしか通っておらず、そこからルージェルフまでは徒歩で帰るしか手段がないからであった。


元から馬に乗っていけば楽なのであるが、首都ワラフには首都にて登録した馬でなければ入ることができないことになっている。登録するにも、首都近郊生まれの馬でなければ高額の登録料がかかってしまうのである。金額にして、ルージュが首都で受けている大型の手配書で3回分はくだらない。だからと言って、依頼に行っている間中ヴィルラの街に預けていたのでは、それだけで首都で受ける手配書の報酬金額の半分以上を取られてしまう可能性もある。これらの理由があり、村からヴィルラの街までは徒歩という手段しかとれないのであった。


「まぁ、いっか。もうちょっとで着くし!おっ!?門、はっけーん!!」


 村の名前が刻まれた門が目に入ると、いままでの疲れは何処かへいったかのように足取りが軽くなり、ルージュはいつの間にか走り出していた。


 しばらくして門にたどり着くが、ルージュはその違和感に気づいた。


「なんで・・・・こんなに静か――――――」


 時刻は昼過ぎだというのに、ルージェルフにあるまじき静けさ。いぶかしげに思いながらも、村の中に入っていく。しばらく歩き最初の家を通過しようとしたとき、突如ルージュの目に飛び込んできたのは、道端に転がる村人と血の道だった。


「なに・・・・・これ―――――」


 近くに倒れる人に駆けより声をかけるが反応はない。周りを見渡しても、動く人影を見つけられなかった。


不安に駆られ、しかし警戒をしつつ、とりあえずいつも通りの道を進み、集会所を目指した。


数分の後、目的の場所に着いたルージュは、ゆっくり扉を開け中に入る。しかし、ここも外と同じ光景が広がっているだけだった。


「そんな・・・・スリン・・・ウィン・・・オータ・・・みんな―――――サマ・・・サマは?!」


 倒れる人たちの中に、サマの姿が見当たらなかった。大声で彼女の名前を叫び、辺りを見渡す。


「ル・・・・ジュ・・・?」


 その時、カウンターの奥の方から消え入りそうな声が聞こえた。急いで声のするところへ向かう。するとそこには、全身を血に染め、棚にもたれかかるサマがいた。ルージュはサマの傍へと駆け寄る。


「サマ?!いったい何が?!」


「急に・・・・変なの・・・・・・現れて。みんな・・・・ころ・・・さ・・・ゴホっ!?」


 せき込むと同時に大量の血を吐くサマ。ルージュは動揺の表情を隠せなかった。


「サマ?!待ってて、いま手当てするから!」


 そう言って立ち上がろうとするルージュの袖が引っ張られる。いつの間にかサマが掴んでおり、だが引き留める力はもうなく、ルージュの立ち上がろうとする勢いに勝てず袖から手が外れ床を打った。


「ルージュ・・・・逃げて・・・・あなた・・・だけでも―――――――」


 その言葉を最後に、サマは全身から力が抜け、そのまま床に倒れた。


「サマ・・・・そんな――――――」


 ルージュの目から涙がこぼれそうになった瞬間、外に恐ろしいほどの殺気を感じ取った。涙はその時点でこぼれることなく渇き、瞬時に心は戦闘態勢に切り替わり、駆けた勢いのまま集会所の扉を突き破り外に飛び出した。


着地と同時に視線を上げ、殺気の正体を探す。すると、すぐそばの広場の中央に、それが佇んでいた。気付けば、周りの家々には火の手が上がっていた。


「あなた・・・・誰?」


 同じく殺気を放ち、上体を起こしながら怒りの表情で問いかけるルージュ。すると、その人物はゆっくりとこちらを向き、ルージュと正対した。


「・・・・・狼人(ろうじん)族――――――」


 その人物を見て、ルージュの口から言葉がもれる。頭には狼の耳、そして背後には大きな尻尾が揺れている。右目は深い赤色、左目は鈍い橙色。獣人種には何度も会っているが、狼人族に会うのはルージュも初めてだった。


「生き残りがいたか・・・・・」


 ルージュを見て、男は一言だけぼそりと呟く。その言葉を聞き漏らさなかった彼女は、この仕業はこの男が起こしたものだと確信した。


「あなたは・・・何が目的でこんなことを?!」


「・・・・・答える義理はない。」


 怒りをそのまま言葉にしてぶつけるルージュに対し、男は受け流すかのようにさらっと口にする。その時点で、赤き少女の我慢は限界に達した。


「あんたに・・・あんたなんかに!?殺されていいような人は、この村には誰ひとりだっていない!!?〝ベオウルフ〟!!!」

 

ルージュの呼びかけに反応し、二丁の拳銃が彼女の手の中に現れる。銃を握ると同時に、男に向かって全力で駆け出す。


「魔銃使いか―――――」


 そう言葉にしながら狼人の男も構えをとり、少女を迎え撃つ。銃に付いた刃で剣戟を仕掛けるルージュに対し、それを自らの爪で受け止める狼人族の男。その場で眼光を交錯させると、双方飛び退くように後方へ距離をとる。しかし、数瞬をまたず再び剣戟を仕掛けるルージュ。近距離では斬撃、離れれば銃撃、巧みに攻撃手段を切り替え戦闘の主導権を握ろうとするルージュに対して、近距離のみしか攻撃手段のない男。しかし、実力は拮抗していた。剣戟はいなされ、銃撃はそのすべてをかわされる。男もルージュに対し未だに一撃もいれられずにいたが、表情は冷静さを保っているように見えた。


「怒りに身を任せても、この実力・・・か――――――ならば、一気に畳みかける―――――」


 剣戟に合わせ一気にこぶしを振りぬき、ルージュを吹き飛ばす。彼女は体勢の崩れた空中にも関わらず、体を回転させ無難に着地を成功させた。着地の際に外れてしまった視線を男に戻す。すると、男は上着を脱ぎ、自分の後方へと投げ捨てているところだった。


「おぉぉーーーーー!!!!!」


 次の瞬間、男は雄叫びを上げる。それと共に、風が吹き荒れ砂塵が舞い上がる。そして一層大きな風が吹くと、舞い上がった砂塵の全てが吹き飛ばされ、その中心にいたはずの男は、容姿が狼そのものに変貌していた。


「まさか・・・・・(けもの)(がわり)――――――」


「ふぅ――――――行くぞ!!」


 言葉がこぼれ驚愕しているルージュなど気にも留めず、男は自分の中で一呼吸つける。吐き出した言葉と同時に眼光がルージュを捉えた。刹那、ルージュの視界から男の姿が消えた。


「へっ?!」


 驚くと同時、右手に衝撃が走り、持っていた銃が吹き飛ぶ。しかし、瞬時に頭のスイッチを切り替え、感覚で敵を探る。即座に反応し逆手の銃口を自分の後方へと向けるが、引き金を引くより早くもう一つの銃も彼方へ飛ばされた。


「飛べ―――――――」


 そして、その声が聞こえた瞬間、ルージュの目の前が真っ暗になった。


『ドゴッ!!』


吹き飛ばされ、鈍い音と共に家の壁に衝突。地面に倒れ伏したルージュの周りは土埃が舞い、ガラガラと細かい瓦礫が彼女の上に転がり落ちてくる。


「・・・・死んじゃいないだろ―――――」


 独り言のようにつぶやきながら、人の姿に戻った男は上着を拾い上げるとそのまま羽織おり、立ち去ろうとする。


「まっ・・・・・ま・・・・ち―――――――」


「ん?」


 かすかに聞こえた声に反応し男が後ろを振り返ると、崩れた瓦礫の下から這い出てくるルージュの姿があった。しかし、彼女はその状態で精いっぱいらしく、立ち上がろうと試みるが片膝を立てる程度しかできなかった。


「意識があったか・・・・おとなしくしていろ、どうせもう戦えないだろ。」


「なんで・・・・ころ・・・さないの―――――」


「別に、殺す理由がない。」


「みんなを・・・・みんなを殺しておいて!!なんでわたしだけ?!」


 初めて会話らしい言葉を発した男に、当然の疑問をぶつけるルージュ。しかし、感情的な彼女とは対照的な態度をとってきた彼は、やはりここにきてもその姿勢は崩れず、毅然とした態度で受け答えを続けた。


「言っただろ―――――〝答える義理はない〟。あえて言うなら・・・オレは自分の目的を果たしに来ただけ・・・・・まぁ、それも未遂に終わってしまったけどな―――――」


「なに・・・を――――――」


「憎ければ、追ってこい――――――逃げはしないが・・・待ちもしない。オレの名は〝ガーレ〟だ。忘れるな。」


 男はその言葉を最後に、再び彼女に背を向け歩き出した。村の外の方へ男が歩いていく姿を見つめながら、ルージュは今この場から動けないこと、そしてそれ以上に、村人の仇をとれなかったことを悔しく感じていた。そして今の彼女には、ただ地面を握りしめることしかできなかった。


                ・

                ・

                ・


「じゃぁね、みんな。いつ帰って来れるかは、ちょっとわからないけど・・・・必ず、帰ってくるから。」


 そう言って、片膝をついた状態から立ちあがり、燃え尽きていた自分の家の方を向く。


「おばあちゃん・・・・行ってくるね――――――」


 そう言葉にすると彼女は眼を閉じた。そして、開くと同時に後ろを向き、門の方へと歩きだし、そのまま村を出た。村の姿が見えなくなるまで、彼女は決して振り向くことはなかった。


 村の広場、そこには木で作られた十字架が、無数に建ててあった。

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