第25話 魔法士
「オリヴィア・・・って――――――」
「あの・・・オリヴィアか?!」
アリスとリアンが、その驚愕を言葉で表す。
オリヴィア、確かにそう名乗る魔女と相対した事はある。だが、その人物はこのように若い女性ではなく、老婆であったはずだ。
「・・・・まさか!?あなた、ラプにしようとしたことを――――――」
「えぇ、世界は広いものよ。あの娘ほどの素質には程遠いけど、それなりの素質も実力も持ちながら世界に何も影響を及ばさない人材・・・いるものよ、意外とね。」
ネージェの問いにそう答えると、口元を歪め不敵な笑みを見せるオリヴィア。
「あの日、あんた達に負けたとき、もう死ぬのかと思った。でも、こんなことで私の野望をくじかれてなるものかと思ったら、意外と粘れるものでね。だけど・・・疼くのよ。傷はもうないはずなのに、あの時の痛みが全身を駆け抜ける。その憎らしさがあんた達にわかる?・・・これは復讐よ。本当は一つずつ国を落としながら、ゆっくりと探してやるはずだったけど・・・丁度よく集まってくれたものよね――――――」
そう言ってオリヴィアが指を鳴らす。すると、アリス達の足元から光の鎖が現れ彼女達を拘束した。
「な!?」
「いつのまに!?」
アリスとリアンが声を上げる。しかし、いくらもがいても、その鎖は逆に自分たちの体を締め上げていくだけだった。トリーゼを含め、全員の身動きを封じられた。
「言ったでしょ?ラプンツェルほどではないけど優秀だって。私は今や〝魔法士〟クラス・・・いや、魔法士と名乗っても何の不思議もない!!このくらいの芸当、わけないのよ!!」
そして、杖をこちらに向けその前方に巨大な魔法陣を描く。
「あれは!?」
「ラプの時に見せた魔力砲の魔法陣!?」
「けど、でかさが半端ねぇ・・・あんなん喰らったら、ひとたまりもねぇぞ!」
アリスとネージェの言葉に続き、リアンが声を上げる。しかし、鎖をほどこうと懸命にもがくがビクともしない。その間にも、魔法陣には魔力が収束されていく。
「無駄よ。例え魔術士であったとしてもそれを解く事はできない。なんたって私の魔術は、魔法士クラスなのだからね!!」
オリヴィアの高笑いが響く。その間も、魔法陣は光り輝き、発射の瞬間をいまかいまかと待ち侘びているようだった。
「さぁ、復讐の時は来た!!これで――――――」
『ゴッ!!』
オリヴィアが魔力砲を放とうとした時、横から光の束が駆け抜け彼女の魔法陣を呑みこんでいった。同時に、アリス達の拘束も解ける。
「なっ・・・・何が――――――」
驚きを隠せない様子で、光が来た方向を見るオリヴィア。そこには、こちらに杖を向ける一人の女性がいた。
「だいぶ若返っていて見違えましたわ、オリヴィア。」
「あんた・・・誰よ――――」
自分に向かって言葉を発する、しかも自分の名前までわかっている。冷静であればすぐ気付いたであろうが、自分の最大戦力をいとも簡単に打ち破られてしまったことで、オリヴィアは軽く気が動転していた。
「あら、心外ですわね。わたくしはあなたの被検体だった女ですわ。」
「まっ・・・まさか――――」
「「「ラプッ!!」」」
オリヴィアより先にアリス達からその名前があがる。一行に顔を向け笑顔で手を振るラプ。しかし、すぐにその視線をオリヴィアへと戻す。
「み・・・見違えたわ、ラプンツェル・・・・・立派な〝魔術士〟に育ったみたいじゃないの?」
「おかげ様で、ですわ。基礎がよくできておりましたので。でも、今のお言葉にはひとつ、重大な間違いがありましてよ――――――」
「な、何が間違ってるっていう・・・・ん?」
言葉途中で目を細め、ラプンツェルの服の肩口に刻まれた刺繍を見るオリヴィア。
「そ!?それ・・・その紋章・・・・・〝エルオーダー〟――――――」
オリヴィアの様子が一変する。明らかにうろたえているのが見てとれた。
「〝エルオーダー〟ってなんニャ?」
「さぁ・・・・でも、そうとうなものだってのはわかるわね。」
チャトの問いに答えるも、はっきりとした説明もできず自身の頭の上にも疑問符を浮かべるアリス。
「協会お抱え機関のひとつ、魔術戦技女連隊〝ウィッチーズ〟を超える、魔術部門最強の部隊。それが〝エルオーダー〟。」
一行の背後から説明の声が聞こえてきた。その方向を向くと、そこにもまた久しぶりの顔があった。
「フィユ!?」
「久しぶり、みんな。」
ネージェの言葉に挨拶を返す。そこにいたのはフィユその人であった。もちろんファラダと共にいた。
「フィユ、なんでそんなに詳しいニャ?」
久しぶりの再会とはいえ、まずは当然の疑問を投げかけるチャト。
「私達は協会に保護されていた・・・・っていうよりは一員になっていたの。まぁ、詳しい事は後から説明するね―――――協会所属、魔法士特連隊。魔法士だけで構成されている世にも恐ろしい部隊・・・といっても集まる事はほとんどないんだけどね。魔法士って言ったら、一人だけでも恐ろしいくらいの存在だから。」
苦笑いまじりに説明するフィユ。しかし、一行はなにか合点がいかない顔をしていた。
「・・・・フィユ、いま〝魔法士〟って言った?」
「誰が、魔法士だって?」
アリスとリアンが聞き返す。
「?・・・そっか、知らなくて当然だよね。ラプだよ。協会に入って1年足らずで魔法士認定を受けたの。過去最年少魔法士だってさ。」
「・・・・さすが、ラプだね。」
「なんか、ラプがこのままいったら新しい称号が生まれそうだニャ・・・」
フィユの説明にネージェとチャトが答える。そう言って上空を見上げると、すでに戦闘は始まっていた。
「さぁて、それじゃぁ私達も始めますか?」
「・・・・そうね、のんびり待つのは性に合わないものね。」
フィユの言葉に返すアリス。皆、頷きで答える。
「残る魔女は6人。オリヴィアはラプが相手をしているから、残り5人ですね。」
「そして、こっちの戦力は6人ニャ。」
ネージェとチャトが現状を説明する。
「いや、トリーゼには軍を指揮して、援護にまわってもらう。お願いできるか、トリーゼ?」
「・・・・わかった。無茶はするなよ、リアン。」
リアンの提案に、トリーゼはそう言って走って行った。
「これで・・・戦力は五分。一人につき魔女一人倒す事がノルマ。いい?行くわよ!!」
「「おう!!」」
アリスの掛け声に全員が応え、それぞれの方向に走って行った。
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「そ!?それ・・・その紋章・・・・・〝エルオーダー〟――――――」
「さすがに知っているようですわね。〝元ウィッチーズ〟様。」
挑発まじりに言葉を発するラプ。しかし、オリヴィアはその挑発にのる余裕がないほどに驚いているようだった。
「エルオーダーの紋章をつけているということは、魔法士になったということ・・・・あれからたった4年足らず・・・その期間で称号を得たとでも言うの?!」
「残念ですが、4年ではありませんわ。わたくしが魔法士の称号を得たのは約3年前・・・・あなたのもとを離れてから1年余りたった頃ですわ。」
「なっ!?――――――ふっ・・・・ふふふ・・・まさかそこまでの逸材だったとはね・・・・・まぁ、私も今や〝魔法士クラスの実力はある〟。お前にすら負けはしない!!」
杖をラプに向け、即座に魔力弾を発現させる。しかし、発射するよりも早くその全てを同じく魔力弾で撃ち落とされた。
「なっ!?」
「まぁ、お強くなられたのはわかりますが・・・・わたくしは当然、〝魔法士クラス〟ですわよ?」
「く・・・・なめた口をーーーー!!」
莫大な数の魔力弾を発現させるオリヴィア。それを一斉に掃射する。
「さすがですわ・・・・・でも、わたくしも負けませんわよ!!」
その魔力弾の雨を巧みにかわしながらオリヴィアへと肉薄するラプ。目の前まで迫ったところで、手に準備していた少し大きめの魔力弾を投げ放つ。
「くっ!?」
それを即座に回避すると同時に後方に距離をとるオリヴィア。そしてまた、一斉掃射にかかる。無粋な物量攻撃に対し、巧みにかわし、あるいは迎撃を交えつつ接近するラプ。攻防を繰り返しつつ主都の上空を飛びまわる。
「くぅっ!?本当に強くなったようね・・・・魔法士特連隊は伊達じゃないのね。」
「そういうオリヴィアもですわ。確かに魔法士クラスの実力をお持ちのようで・・・・ウィッチーズでもトップに立った事があるそうですわね?」
「そうよ!!私はウィッチーズでも最強のエースだった!本気を出せばお前など、どうということはない!?」
「わたくしが言いたいのはそんなことではありませんわ・・・・なぜそのようなお方が、禁忌を侵そうなどと考えたのですか?」
ラプが、なぜと口にする。それに対し、オリヴィアは感情をむき出しに答える。
「むしろ、そうだったからよ。頂点に立った者として、そこに立ち続けたいと思っただけ・・・そう、それだけだった・・・・最初はね―――――」
「最初は?」
オリヴィアの声がトーンダウンする。しかし、互いに攻撃の手は緩めなかった。ラプは警戒をしながらも、彼女の話に耳を傾ける。この会話の中で、彼女の狂気の根源を探ろうとしていた。
「そう・・・最初は純粋にその思いだけだった。禁忌に触れてでも頂点に居続ける―――――でも、協会を追われ、世間からも見放され、もうどうしようもないと思った時、その事実を知った・・・・そして、協会への復讐を誓ったのよ―――――」
「復讐・・・・その事実とはなんですの?」
ラプが怪訝な顔をしながら問いかける。
「ノード国で起きた大乱は知っているわね?」
「9人の魔女の起こした大乱・・・今回のこの騒動はそれをなぞっているのですわよね?」
「まぁ、確かに間違いではないわ。だけど、必要な真実はそこじゃぁない。あの大乱を起こした魔女、その首謀者は・・・私の母親だったのよ―――――」
「・・・母・・・親―――――」
ラプとオリヴィアの攻撃の手が同時に止まる。それにより二人は自然と対峙状態になった。
「そう・・・私は孤児として育ったから親の顔なんて知らなかった。まぁ、今でも知らないままではあるけど。でも、どういう人物かはわかった。そして、どんな気持ちであの大乱を起こしたのかも・・・・・」
「大乱の理由は世界の転覆でしたわよね?」
「表向きにはね・・・・だけど、母上の思惑は違うみたいだったわ。」
「どういうことですの?」
「母上も私と同じ境遇だったのよ。禁忌に触れ、討滅指定を受け、何年も何年も逃げ回って・・・・そして、たどり着いた答えが・・・復讐。ほら、私と全く同じ。これは、母上の弔いでもあるのよ!!」
「・・・・そう・・・ですか―――――あなたの境遇は、理解はしましたわ。しかし、この行為は許されるものではありませんわ―――――」
会話が終わると少し上空に上がり、杖を前に出し魔法陣を展開させるラプ。
「魔力砲―――――こんな程度で私の復讐に、幕は下ろさせない!!」
オリヴィアも同じようにラプに杖を向け、魔法陣を展開させる。
『ドゴッ!!』
しかしその直後、巨大な斬撃が大気を二分にしながら空に昇って行った。それに巻き込まれ、オリヴィアの杖が魔法陣と一緒に〝半分喰われた〟。
「なっ・・・何が!?」
驚きを隠せないオリヴィア。しかしそれも束の間、その身体は突如現れた鎖によって拘束された。見上げると、ラプの魔法陣が黄金に輝いていた。
「オリヴィア。あなたが間違っているとは、わたくしには言えませんわ・・・ですけど、これだけは言わせてもらいますわ―――――わたくしの友達に手を出すことは、絶対に許しません!!」
「ま、待って―――――」
オリヴィアの制止を聞かず、ラプは握った杖に力を込める。
「これで終わりですわ―――――〝ゴルト・フレイム・バスター〟!!」
言葉と共に、魔法陣から黄金色の光が放たれ、オリヴィアを呑みこみ地面へと突き刺さり爆発した。
「オリヴィア・・・もうよろしいですのよ。疲れましたでしょう?ゆっくり、お休みくださいですわ。」
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「あのあの、私達はあの後、調査に来た協会に保護されたのです。」
「それで、そのまま協会に入りながら、皆さまを探しておりましたのですわ。」
全ての戦闘が終わり、無事魔女を打倒する事に成功。その後、協会の部隊が現れ、魔女の数名を連行していった。その中にはオリヴィアの姿も含まれていた。
すべてにひと段落がついた頃、フィユとラプが自分たちの4年間の事を説明する。フィユはやはり、ファラダを降りると性格が変わるようだった。
「ところでさ、協会って実際にはどんなところなのニャ?」
「あのあの、それは私達にもはっきりとは・・・・」
チャトの問に、申し訳なさそうにフィユが答える。
「わたくし達も協会の核心には触れることができませんでしたの。協会本部からの伝令などは、支部を通して文書で届きましたし・・・・・」
「あのあの、重要な事だと本部から直接幹部の人が来るのですが、それも伝達だけで終わりましたので。」
「結局、協会の謎は謎のままってことね。」
二人の説明にアリスが答える。
「でもラプは魔法士の認定を受けているんだろ?しかもお抱え機関にも入っているし・・・・他の魔法士には会ったことないのか?」
リアンが思いついた疑問を口にする。
「わたくしのエルオーダー入隊の際に一度お会いしました。協会の幹部の方だそうです。その時にお聞きしましたが、幹部の推薦と現幹部半数以上の賛成があって初めて幹部となって、本部へと招待されるそうですわ。あと、機関と言っても、通達がなければ集まる事もありませんし、それにわたくしたち魔法士が集められるような事態もそうそうありませんので。」
「今回の事とかは、召集はかからなかったの?」
ラプの説明に対し、ネージェも疑問を口にする。
「あのあの、だから私達がここにいるんです。」
「「・・・・あぁ~。」」
皆が納得したと言った感じで頷く。しばらく情報交換した後、今後の話に移った。
「あとはルージュにラパン、ボワにマレーンだな・・・・どこから探すか?」
「居所がわからないのはみんな同じだけど・・・・あてがあるとすればマレーンね。ボワもあの戦いのときマレーンと一緒だったから、今も一緒の可能性が高いし。」
リアンの問いにアリスが答える。
「ところで、リアンはいいのニャ?トリーゼを待たニャくて?」
「野暮なことは聞くんじゃねぇよ、チャト。オレはお前達と一緒に行く事を心に決めていたんだ。トリーゼにも話はしてある。そういうことだ。」
そう言ってほほ笑むリアンに、皆笑顔で答える。
「よし。じゃぁ、行ってみるとしますか、シェマインに――――――」




