第23話 アルクアンシェル
ルージェルフを出発したアリスとチャトは、仲間を探すため、まずは確実性のあるブランネージュとアルジャンを目指す事にした。
ブランネージュに到着すると、思いのほかあっさりネージェとの再会を果たす事が出来た。女王への謁見など一通りのことを済ませると、3人は城内を出て外を歩いていた。
「それにしても、ネージェが王族に戻っていたとはね、驚いたわ。」
「正確に言うと、王族になったって言うのが今の立場的には正しいんだけどね。」
苦笑いをこぼしながらアリスの言葉に返答するネージェ。
「どういう事ニャ?」
「今のわたしはお母様の養子扱いみたいなものだから。」
「そっか・・・・まぁ、仲直りできたのなら私達が言うことは何もないわね。」
アリスが優しく微笑みかけると、ネージェも表情をほころばせた。
しばらく、お互いの4年間を語りあいながら歩く。ブランネージュには、チャトの他にマレーンとボワも一度訪ねてきたのだという。
「二人もみんなを探していたみたい。」
「んにゃー・・・ほとんどみんな旅していたんじゃ、見つからニャいよね。」
チャトが遠くを見ながら苦笑いで答えた。
「そうね・・・じゃぁ、本当にわからないのがラプとフィユにラパン。それから――――――」
「ルージュ―――――」
ネージェがほかの仲間を数えていき、最後の一人をアリスが答えた。心なしかその言葉には元気が感じられないようだった。
ラプとフィユに関してはあの戦いのとき一緒にいたうえ、マレーンとボワが旅をしていることを考えれば無事でいる可能性が高い。
一番心配となるのは残る二人だった。ラパンの光に包まれ、アリスとチャトは別の場所に飛ばされた。同じ事がルージュとラパンにも起こっているのは明白である。
しかし、無事な場所に飛んでいる保証はどこにもない。不安にさせる原因はそれだけで十分だった。
「・・・・あの二人はきっと大丈夫ニャ!ラパンはちょっと頼りないけど、あの子だってだてに戦場にいたわけじゃないし・・・ルージュに関したら心配するのが失礼なくらいかもしれないニャ!」
「・・・・そうね。もしかしたら、二人合流しているかもしれないですしね。アリス、みんなの無事を信じよう?」
精一杯の励ましを込め、アリスに声をかけるネージェとチャト。二人に気を使わせてしまったことが何より申し訳なかったが、彼女にとってはそう簡単にぬぐいきれる不安ではなかった。
しかし、その心情が全面に押しでないよう必死でこらえ、二人に笑顔を返すアリス。
「えぇ・・・そうね。」
3人で顔を見合せた時だった。アリスとチャトがその雰囲気に気づく。二人の顔から、一瞬にして笑みが消える。
「・・・・チャト。」
「わかってるニャ。奴ら(ダークス)ニャ――――――」
そう言って、その気配の感じる方に顔を向ける。そこには城が見え、そして煙が数本立ち昇る様子が見て取れた。
「「!?」」
「お母様!?」
・
・
・
「あなたは・・・・何者です?」
ジェリアの前には、一人の女性が立っていた。その人物は不敵な笑みを口元に作りながら、一歩ずつこちらに近づいてくる。
「私はリフュース。黒極騎士団の第十一位、〝拒絶のリフュース〟。この国をいただきに来たのよ。」
「国を?・・・・そうですか、近年各国に被害をもたらしている厄災たち。その黒幕に位置するのがあなたなのですね?」
ジェリアを守る形に衛兵が配置につく。圧倒的な威圧を前に、固まる自らの体を抱きしめながらも、気を奮い立たせジェリアはリフュースとの会話に臨む。
「ちょっと違うわね。私達は実動隊にすぎない・・・・黒幕という考えなら、その答えは我らが主。これは我らが主の望むところ。私達はその手足にすぎないわ。主の意志こそ、私達自身。」
ジェリアの問いに淡々と語るリフュース。この間も彼女が歩みを止めることはなかった。
「どういった理屈であれ、私達の敵である事には変わりがないのでしょう?あの者を討ちとるのです!!」
ジェリアの掛け声に応え、待機していた数人の兵がリフュースに斬りかかる。しかし、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。
「ふふっ。〝私は 刃 を拒絶する〟――――――」
リフュースが言葉を口にすると、兵たちの剣は彼女に触れた直後、その全てが粉々に砕け散った。その反動で、兵たちは方々にはじき飛ばされた。
「えっ!?」
ジェリアは目の前で起こった出来事が呑み込めずに、ただ驚愕の表情を露呈したまま固まった。
「驚いたかしら?私は、私が拒絶したものを破壊する力を持っているのよ。私に触れたもの、私が触れたもの、それが拒絶したものであるならば例外なく壊しつくすわ。それに、言葉が正確であればあるほど破壊力は増していく。まぁ、一つの言葉に対して10秒程度しかもたないのが欠点ではあるんだけど。その程度じゃ、大した弱点にもなりはしないわ。」
そう言いながらジェリアの目の前にまで来るリフュース。すると、ジェリアの胸に手をおく。
「じゃぁね、女王様。〝私は あなたの心臓 を拒絶する〟――――――」
『ドッ!?』
ジェリアの背中を突き破り、大量の血があふれ出る。ジェリアはその場に崩れ落ち、薄れゆく意識の刹那、扉を開き部屋に駆けこんで来たネージェが見えたような気がして、その口元に笑みを浮かばせた。
・
・
・
『バンッ!!』
勢いよく王室の扉を開くネージェ。そこに飛びこんできたのは、見知らぬ女性の前で、血を噴き出させながら倒れゆくジェリアの姿だった。
「・・・・・お母様――――――」
「あら、どなたかしら?」
「・・・・あなたが・・・やったのですか?」
ネージェの雰囲気が変わった。以前の彼女からは決して感じ取る事のなかった雰囲気。それは、戦士の風貌。
「えぇ、そうよ。あなた・・・・〝王の証〟を持っているわけじゃないのね?確か、この街に二人ほど入っているって聞いたのだけど――――」
「わたしはネージェ。あなたの殺した・・・・ジェリア女王の娘です。〝王の証〟・・・というのは聞いたことがありません。」
その単語に、アリスとチャトのことを言っているであろうことは想像がついた。しかし、ネージェは二人の名前を出さずに呑み込んだ。
「あら、そうなの?できれば証の所有者と戦ってみたかったけど。まぁ、本来の目的を思えばあなたの方が当たりね。」
そう言ってこちらに対峙するリフュース。それに臆さず堂々と構えるネージェ。
「・・・みなさんは一度退いてください。武器のない状態では危険です。」
視線は崩さず、ジェリアの護衛にあたっていた兵たちにそう言葉をかけるネージェ。
「し、しかし、我々はジェリア様をお守りできなかったうえ、ネージェ様まで失ってしまったら!?」
自分たちの不甲斐なさと悔しさに必死に叫ぶ兵士。
「御心配ありがとうございます。お母様の事は確かに悔しいですが・・・・ですが、生きる意志なき盾を、わたしは許しません。わたしを守ろうというのであれば、武器を手に、自らも生きるという意志を見せてください。」
厳しくも優しい声をかけるネージェ。
「「・・・・・。」」
誰も何も言えなかった。ネージェの言葉にはその意味の他に、王の重みが感じとれるようになっていた。そして、隊長と思われる人物が立ちあがるとネージェに敬礼をした。
「我々は必ず戻ります。生きる為の意思を持って!それまで、ご無理をなされませんように。」
「はい。よろしくお願いします。」
「もう一つ。奴の言葉にはお気を付け下さい。あの女が〝拒絶〟と口にしたものは、例外なく破壊されるとのことです。我々の剣も、件によって破壊されてしまいました。」
「・・・・情報、ありがとうございます。」
「では、ご武運を!!」
そう言って、兵たちは部屋を出ていった。残されたのは二人だけ。
「あ~あ、ばらしちゃった。女の秘密を暴露するなんて、ひどい男。それに、女一人を残して逃げるなんて――――――」
「いいえ。勇敢な戦士達です。」
ふざけて言葉を放つリフュースを、一喝するネージェ。場の雰囲気が緊張に包まれる。
「・・・・まぁ、いいわ。わかったところで、あなたになにができるのか、って話だから。武器も持ってないようだし。もしかして、そんな細腕で格闘家なのかしら?」
「いいえ、わたしには頼りになる〝子たち〟が付いていますので。〝レース〟!!」
ネージェの声に応えるかのように、彼女の前に魔法陣が現れ、そこから見慣れた人形が姿を現した。
「あら、かわいい。確かにあなたよりは強そうだけど・・・すぐ破壊しちゃうわよ?そんな人形一匹。」
徐々に声に凄みを加えながら、眼光をぶつけてくるリフュース。しかし、その威嚇にネージェは一切動じなかった。
「聞いていなかったのですか?わたしは、〝子たち〟って言ったんですよ?」
「なんですって?」
リフュースの顔が陰る。その様子に、口元にわずかに笑みを作るネージェ。
「わたしも、4年前のままというわけではありませんから。レース!!〝召喚陣展開〟!!」
言葉を聞き、レースは両こぶしを胸の前で合わせ、その後、片方の拳を地面に突き立てた。すると、自分を中心に左右に3つずつ、レースが出てきた時のような陣が現れ、そこから色の異なる人形たちが姿を現した。
「なんなの・・・・こいつらは?」
「レース率いる最強の人形部隊。その名も〝アルクアンシェル〟!!みんな、〝 set(戦闘準備) 〟!!」
ネージェの声に応え、それぞれが武器を手に構える。
「〝 go(突撃) 〟!!」
言葉に反応し、一斉に駆けだす。刀を持つ赤い人形が先陣を切る。
「くっ!?〝私は 刃 を拒絶する〟!!」
リフュースが言葉にした瞬間、赤は回避行動に転じた。
「なっ!?」
驚くのも束の間、その後ろから駆けてきた大鎚を構えた黄の人形が一撃を振りかぶる。
『ドゴッ!!』
鈍い音をたて、リフュースが吹き飛ぶ。たたみかけるように黄が追撃を仕掛ける。
「ちぃっ!?」
それに回避行動をとりつつ時間を稼ぐリフュース。そして急に立ち止まると、
「〝私は 武器 を拒絶する〟!!これで―――――」
『ゴッ!!』
「!?」
再び鈍い音が響く。リフュースの腹部に、レースの拳がめり込んでいた。ここぞとばかりに連撃を加えるレース。リフュースは逃げの一手しか手段がなかった。
そう、この連携こそがアルクアンシェルの最大の長所。そして、さらに彼らにはもう一つの役割があった。
「くぅ・・・・ならば、本体をたたくまで!!」
リフュースは反転し、ネージェへと向かってきた。
「!?」
「死になさい!!〝私は あなたの心臓 を拒絶する〟!!」
言葉と共に、ネージェに狙いを定め伸びてくる腕。しかし、その手は紫の人形の持つ盾により防がれ、そのまま突き飛ばされた。
さらに、赤の刀・橙の銃・黄の大鎚・緑の槍・青の双剣が牙をむく。攻撃を受けたリフュースは壁際まで追い込まれ、とどめとばかりに投げられた杭のようなもので四肢を磔にされた。
「これで終わりです。」
「なにを・・・・!?それは―――――」
苦言を口にしようとしたリフュースの目に、それが映った。ネージェの手には、白く輝く刀が一振り握られていた。それをレースに手渡す。
「これは、わたしが創り上げた、あなた達〝闇〟を滅する力です。そのあまねく光を以て、大地に還りなさい・・・・レース!!」
刀を手にリフュースに向かって駆けるレース。しかし、彼女は口元を歪め言葉にする。
「馬鹿ですか?!その努力も、私の言葉で水の泡となるのよ!!〝私は 刀 を拒絶する〟!!」
『ズバッ!』
「なっ――――」
言葉に反して、リフュースは一刀両断に伏された。徐々に光となって霧散していく。
「馬・・・鹿な。なん・・・で・・・刀・・・でしょ――――――」
言葉を言い終えるかといったところで、完全に光へと変わってしまった。それと同時に刀も光へと還った。
「その疑問は、当然ですね。実体が出来るほどに圧縮したのですから。でも、残念ながらそれは刀ではありませんよ。刀の形をした、魔力の塊です。名前は、〝白雪〟。」
そう、アルクアンシェルのもう一つの役割。それは、ネージェが〝白雪〟という魔術を創り上げるまでの時間を稼ぐ事であった。これが、彼女が、彼女達が4年間で身に付けた力であった。
・
・
・
主都ネジュアを一望できる丘の上に、アリス達の姿はあった。主都にむけ手を合わせていたネージェが顔を上げる。城が襲撃されてから3日が過ぎていた。
「・・・・いまさら言うのもなんだけど、ネージェ―――――」
何かを言おうとしたアリスの口を、指一本でふさぐネージェ。
「それ以上は言っちゃダメだよ、アリス。わたしはそう決断したから、今ここにいるの。お母様の事は・・・・確かに悔しい。でも、ブランネージュは大丈夫。兄様達がいるから・・・・むしろ、悔しいからわたしはここにいるとも言えるかな。だから、それ以上は口にしちゃダメ。」
優しい言葉と裏腹に、悲しみと悔しさを秘めた彼女の瞳を見たアリスは、要望通り、それ以上追求することをやめた。
「・・・・わかった。じゃぁ、この話はもう終わりね。」
「うん。」
「それじゃぁ、次の目的地に向けて出発しようニャ!!」
チャトが出発の掛け声を、高らかにあげる。彼女なりの、ネージェへの気遣いが込められていたのかもしれない。
「了解。それじゃぁ、行こう、ネージェ!」
「うん。」
アリスの声に応えると、もう一度首都へ顔を向けるネージェ。
「いってきます、お母様―――――――」




