第22話 再会の蒼
「ん~、やっぱりここなのかニャー。」
あの日、ラパンの淡い光に包まれてどこともわからない村に飛ばされたチャトは、この4年間大陸を歩きまわり仲間達を探していた。
ネージェとリアンに関しては、ブランネージュとアルジャンにいた為すぐに会う事が出来た。散り散りになった仲間達とも必ず再会できるだろうという事を誓い、とりあえず二人はそのまま国に残る事にし、チャトは所在の分からないみんなを探すことになったのだ。
しかし、一度と他の仲間に会うことはできず、最初に飛ばされた村、『ルージェルフ』に戻ってきた。自分がここに飛ばされたのには何か理由があるのだろうという事を信じて。
「それにしても・・・・・誰にも会わないってのはどういう事ニャ?一人くらいは出会えると思ったのに・・・・・ニャ。」
十字架の羅列をのぞめる公園のベンチに腰をかけ、深く座り空をボーっと眺める。
「・・・・なんだかニャー―――――――ニャ?」
ふと嫌な気配を感じた。あの日から感じなれた感覚。あまり覚えたくはなかったが、嫌でも覚えてしまうあの重い雰囲気。
「〝闇の者達〟――――――」
顔を空から正面に戻すと、目の前にはあの闇の軍勢が現れていた。
4年前の、何ともわからない形状のものとは違い、黒い甲冑を身に纏い戦士の風貌を現していた。1年ほど前からしっかりとした姿をとるようになってきていたのだ。
特に名称というものは存在しないが、チャトはこの黒を『闇の者達』と呼んでいた。
次から次へと増えていく黒い戦士。チャトはいまだに座ったままだが、すでに心は戦闘態勢に移っていた。
「あたし一人にその数ですかニャ?―――――っ。」
口の端に笑みを浮かべると同時、ベンチの上からチャトの姿が消える。
数舜を待たずして次々と霧散していく闇の軍勢。チャトも、ただ4年間歩き回っていたわけではない。否応なく戦いに巻き込まれてしまうが、その分、技量は格段に上がる。ここにいる彼女はもう、あの日の彼女とは別人だった。
「ん・・・・・でもちょっと、多いかニャ?」
一旦距離をおき一息つける。新たに出てくる事はなくなったようだが、今でも十分なくらいの数がいる。
「やっぱり魔術は覚えたほうがいいのかニャ~?さすがに体術だけじゃ限界が・・・・」
困ったような顔をしながら顎に手をあてしばし考えるが、今どうにかなることではないと諦め、もう一度剣を握る。
しかしその時、巨大な斬撃のようなものが駆け抜け、残る黒い一団を一掃していった。
「・・・・・え?」
驚いたのは一瞬、だがその斬撃に身に覚えがある。斬撃の発生源であろう場所に目を向けるチャト。そこにいたのは、蒼い姿の剣士。抜刀したであろう刀を鞘におさめるところだった。
「久しぶりね、チャト。」
「アリスっ!!」
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「うまい具合に、行きあわなかったみたいね。」
「まぁ、こうして出会えたんだから良しってことで!ニャ!」
二人でベンチに腰をかけ、4年間の事を互いに話し合った。しかし、目新しい情報はたいして得られはせず、世界の状況が危ういという事だけが、より鮮明に理解できてしまうだけだった。
「アリスは何処に飛ばされたのニャ?」
「私はオランジュだった。今はもう、死都になっちゃったけどね――――」
そういってアリスの顔が一瞬陰った。
「オランジュ・・・・半年くらい経つかニャ?」
騎士国『オランジュ』。フィユの故郷にあたる国だが、半年ほど前、黒の軍勢の総攻撃を受け滅んでしまっていた。かの騎士国も、黒の前には打つ手がなかったのか。真相は定かではないが、事実として、ただ荒廃した都市が残っているだけの土地になってしまっていた。
「うん・・・私が駆けつけた時にはもう、手遅れだった。最初の半年くらいお世話になっていたから、何か力になってあげたかったんだけど――――チャトは何処だったの?」
自分の沈んだ気持ちを無理やり切り替えるかのように、口調のトーンを上げてチャトへと問いかけるアリス。
「あたしはここニャ。」
チャトの答えに一度目を見開くアリス。何かを感じ取ったのか、その後しばらく無言となった。数分後、ゆっくりとその口を開いた。
「・・・・・そう、これも運命なのかしら―――――チャトは、この村の名前って知ってる?」
おもむろに質問を投げかけるアリス。その表情には少し陰りがあった。
「ルージェルフだったかニャ?隣町のヴィルラに行った時に聞いたニャ。」
「当たり・・・・そして、ルージュの故郷――――――」
「えっ―――――」
声を上げ立ち上がるチャト。そして、建てられた十字架に目を向ける。
「それじゃぁ、ここに眠っている人たちが――――――」
「―――――ルージュが旅に出た理由。どうやらあの子も、何かの因果に絡めとられているみたいね。」
「どういう事ニャ?」
アリスの意味深な発言に聞き返すチャト。
「あの時・・・・黒極騎士団のマトクレスと戦っている時、あの子は〝なぜわたしの村を襲ったのか〟って聞いていたの。」
「たしか・・・あいつらがあたし達に手を出してきた理由は―――――」
「――――〝王の証〟。それから―――――」
「〝王の資格を持つ人物〟だったニャ。」
4年前の戦場を、あの黒い騎士を思い浮かべながら彼の言葉を思い出す2人。
「そう。あの時集中的に狙われていたのは、私とチャト、それからフィユ。この3人。」
「つまりこの3人、それからルージュは〝王の証〟もしくは〝王の資格〟に該当する人物だってことかニャ?」
過去の記憶とアリスの言葉を整理しながら、言葉をつなぐチャト。アリスもチャト同様、記憶をあさりながら言葉を続けた。
「ルージュはまだ確定したわけではないけど・・・・もしくは、その両方でしょうね。一番怪しいのは武器。チャトとフィユがマトクレスに攻撃したとき、〝力の解放もできていない王の証など〟って言っていたのを覚えてる。」
「それが一番妥当かニャ。なんたってあたしの剣には〝王〟の名前が入っているんニャから。そうなると、この剣は一段階上の何かになるって事か・・・・ニャ?でも、アリスはどうニャ?アリスの剣は全部ただの量産型ニャんでしょ?」
「・・・・考えられるのはこれね。」
そう言ってアリスは、いつも背負っている巨大な十字架を手に取る。
「ラパンが言うには、これが私の役割らしいわ。この十字架が〝王の証〟だとすれば私が狙われるのにも理由がつく。」
「ニャ~~・・・・結局〝王の証〟ってニャにかニャ?」
頭を使うことに疲れたのか、首を後方に反らせながら根本的な問をつぶやくチャト。アリスも一度体の力を抜き、チャトの問いに答えた。
「わからない・・・でも、奴らに対抗する手段って言うのは確かね。」
「んニャ~、わからないことだらけニャ。」
そう言って腰掛けたベンチに、グタリと身体を預けるチャト。
「でも、私たちは〝王の証〟・〝闇の者達〟という何かに縛られているのは明白。謎はおいおい解いていくしかないわね。」
「じゃぁまずは、またみんなと合流するのが先決ニャ!」
先程までうなだれていたチャトが、ベンチから飛び起きると力を込めて言葉にした。
「そうね、私達が会えたのも、また何かの巡り合わせだと考えるのが妥当だろうし。なにより・・・みんなに会いたいしね!」




