第21話 赤と青
『何者だ。』
起き上がったマトクレスがルージュを睨みつけ問いかける。
「あなたの敵。あなたにとってはそれ以上でも以下でもない。」
そう言って構えるルージュ。アリスもそれに合わせ、一度諦めた自分を叱りつけるかのように顔を数回叩き、大剣を構える。
「ルージュ、魔銃は使わない方がいい。そういう類のものはあいつには効かない。」
「わかった。じゃぁ、このまま直接ぶっ飛ばす。アリスは大丈夫なの?さっき一回諦めたでしょ?」
「うっ・・・ばれてたか・・・・でも、ルージュと一緒なら大丈夫。もう、諦める理由がない。」
「うん!」
顔を見合わせ、二人同時に頷き合う。
『よかろう、汝らを敵と認める。この場で塵と消えよ!』
二人の行動を合図ととったか、マトクレスが剣を構えこちらに駆けてくる。
「アリス、行くよ!!」
「えぇ、いつでも!!」
掛け声と同時にルージュが先行する。マトクレスが剣を振りかぶり、ルージュに当てんと一撃を放つ。
それを跳躍し事も無げにかわすと、そのまま上昇。軽くマトクレスの頭上まで跳ぶと、身体をひねり、右拳を放つ。
それをマトクレスは右腕を上げ防御する。しかし、その一撃は想像をはるかに超えるもので、右腕の手甲はへこみ、彼の巨体が少し後退した。
さらにその隙をつかんとアリスが接近し、左足を狙い一刀を放つ。さすがに危機を感じ取ったか、マトクレスは初めて回避行動をとる。
一刀はかわしたが、回避した先の足元にあの赤い姿。拳を撃ち上げる形で跳躍し、騎士の腹部を捉えそのまま打ち上げる。
『くぅ?!』
耐えきれず声がもれる。しかし、それでは終わらず、空中には既に青の姿があった。
「〝秘剣『一刀』 別構・担手変則―――『大地裂・宙』〟!!」
特大の斬撃がマトクレスを襲う。剣を前に出し、その一撃を受け止めるが、抑えきれずそのまま地上に突き落とされた。
ゆっくりと立ち上がるマトクレスの身体には、抑えきれなかった分の斬撃の傷跡が残っていた。視線を自分の敵に移す。隣同士に並ぶ赤と青。
『―――僥倖。我が全力を以てこの結果。ここまでの強敵、〝エクストリム〟か〝純白〟以来・・・・・』
立ち上がり視線を二人にぶつける。それを感じ取ったか、二人も構えなおしマトクレスを睨みかえす。
『この戦を制せしえば、我はひとつ上へと登りつめん。我が力の糧となってもらおうぞ。』
「そんなわけにはいかないよ。」
「勝つのは・・・・私達だから!!」
3人同時に疾駆。壮絶な激戦が繰り広げられる。
マトクレスは、防御と回避を放棄し、攻撃に専念する。その為か一撃毎がさらに強さを増す。二人は回避行動をとるも、余波をかわしきれずにいた。
しかし、ただかわしきれないわけではなかった。相手が大きい分、手数で負けられない二人は、攻撃重点の方針に移行。その分、かわしきれない攻撃が出てきたのである。
マトクレスの甲冑には傷が増えていき、二人の身体にも、徐々に傷と疲労が現れてきていた。
『汝らよ。なぜ、刃をかざす。』
「愚問ね。そこに刃をかざす者がいるからよ。」
アリスがさも当然のごとく答える。
『妥当―――――だが、解には及ばず。そこに目的を持たずして、刃を携える資格はあろうか。』
マトクレスが問答を唱える。戦闘を交わしながらも、二人はそれに答える。
「そうだね・・・確かに、刃をかざす理由にはなるけど、携える理由にはならない。じゃぁ逆に、どうしてあなたは刃をかざす?」
ルージュが逆に問いかける。
『我が主の為に。』
「「?!」」
戦域を一旦離れ距離をとる二人。マトクレスも一度剣を下げる。
「こいつが親玉じゃなかったんだ。」
「そういえば、黒極騎士団が何とかって言っていたわね。こんなのがまだ何人もいるっていうのかしら。」
溜息をもらすアリス。ルージュは少しいぶかしげな顔をし、何かを思案した後、マトクレスに顔を向ける。
「この黒い敵達はあなたの手下?」
『我が主より産まれし欠片。我らも同義。しかし、我らは統率するものである。』
「・・・・あなたもそいつらも同じものから出来ているけど、あなた達はそいつらを率いる為に上位種として造られた・・・・そういうことかしら?」
アリスがマトクレスの言葉を自分なりに解釈し、それに解を求める。
『是である。』
「主・・・か。わたし達の前に現れた目的は?」
『〝王の証〟の消滅。可能であるならば〝王の資格〟たる人物の抹殺。彼の存在は、我が主の怨敵となりうるもの。可能性の一切を排除するために。』
「じゃぁ・・・・わたしの村を襲ったのもそれが理由?ルージェルフに王の証やら資格を持った人間がいたとでも言うの?!」
「ルージュ―――――」
アリスの視線をよそに、感情をむき出しにし、問いかけるルージュ。
『件に関しては我の関与するところではない。』
「そう―――――」
核心を手に入れたにもかかわらず、解にたどり着けなかった悔しさを噛みしめるルージュ。アリスはその横顔に同じように悔しさを共有し、自分を落ちつけた後マトクレスへと顔を向ける。
「『我が主の為』、そう言ったわよね?その主とやらの目的は何なの?」
『主の目的はただ一つ、〝闇が世の創世〟。そして、我らの目的は主の復活。』
「復活―――――それなら、まだ間に合うわけか・・・・ルージュ、聞いた?」
「・・・・うん。理解もした。その主とやらを復活させる前にこいつ等を全部やっつける。それですべて終わり。」
「そういうこと。」
そう言って構えをとる二人。マトクレスもその様子に再び構えをとる。
『否。主の復活を妨げる者を排除するのが、我らの役目。汝らは危険である。この場で消し去る!』
そう言って、こちらに突進してくる騎士。
「ルージュ。」
「ん、なに?」
この状況にもかかわらず、アリスの声は穏やかだった。
「もっともっと、強くならなくちゃね。」
「・・・・・そうだね。毎回命かけた一撃ばかりじゃ、身体保たないだろうしね。」
そう言って苦笑いを見せ合う二人。そして、二人同時に敵へと視線を向ける。
「でも今回はしょうがないから――――」
「――――命かけますか!!」
言葉と同時に大きく後ろに跳躍するルージュ。さながら狼が獲物を狙うかの様に低く構え、勢いよく走りだす。アリスは大剣を両手で握り、高々と空に掲げる。目を閉じその瞬間に集中する。ルージュはスピードが乗るまで走ると跳躍、一気に空を翔けあがる。それとほぼ同時、アリスが閉じていた瞳を勢いよく開く。
「〝秘剣 一刀・真 『 青衝 』〟 !!」
言葉と同時に振り落としたであろう剣は、いつ振ったのかもわからず、いつの間にか地面に到達していた。斬撃が飛ぶ様子も見えず、マトクレスもそのまま侵攻を続ける。
『バギッ!!』
「ぬぅ!?」
突如音をたて、鎧が縦に割れる。そのあまりの衝撃にマトクレスの足が止まり膝をつく。
「どう・・・よ・・・・・」
口元に笑みを浮かべると、その場に膝をつくアリス。マトクレスが再び立ち上がろうとした時、頭上に影が映る。そこには、ものすごい勢いでこちらに落下してくるルージュの姿があった。
「 私式 〝嵐纏衝 『 赤嵐 』〟 !!」
嵐風を携えた拳を振りかざし、そのままマトクレスにぶつかる。
『ゴアッ!!』
マトクレスを包み込むように竜巻が起こる。その中から飛び出し、アリスの横に並ぶルージュ。
しばらくすると風が止み、大きく穿たれた大地の中央に、マトクレスが倒れていた。
『くっ・・・・我が・・・負けを、認めよう。だが、我らが・・・目的の為、汝らも・・・消えてもらう。』
その言葉を言い終えると、マトクレスの身体が黒い球体に包まれ、周囲のものを吸い込み始めた。闇の軍勢が抵抗なくその球体に次々と呑みこまれていくと、徐々に大きくなり吸い込む力も強くなっていった。
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「あんなのに呑みこまれたら、ひとたまりもないわ――――ファラダ、大丈夫?」
「なんとか―――――」
王槍を地面に突き刺し、ファラダの身体を支えるフィユ。
「ラプ、しっかりつかまってて。」
「えぇ、わかりましたわ・・・・お姉様、ご無事で―――――」
「アリス・・・・アリスーーー!!」
どこから駆けてきたのか、リアンと退いた筈のラパンが、アリス達がいるであろう場所に向け走っていった。
「ラパン!?あのバカ、何やってんのよ?!」
「主殿、追いますか?」
「・・・いや、あの子はアリスにまかせよう・・・・・大丈夫。そう信じなさい。」
ファラダの問いに、自分に言い聞かせてそう答えるフィユ。間をおき、ゆっくりとファラダは返事をした。
「・・・・御意。」
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フィユ達から球体を挟んで反対側辺りにいるマレーンとボワ。二人も、自分の武器を地面に突き立て耐えていた。
「ボワ、大丈夫?!」
「ボクは平気・・・マレーンは、絶対ボクの後ろから離れちゃダメだよ?!」
「えぇ、わかったわ・・・・アリス達は、大丈夫かな―――――」
「大丈夫。あの二人なら、絶対・・・・絶対大丈夫!!」
自分に言い聞かせるかのように強く言葉にするボワ。その様子を感じ取り、ボワに体重を預けるマレーン。
「うん、そうだね。二人を信じよう――――――」
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「ルージュ!!」
大剣を地面に突き刺しなんとか耐えるアリス。その片手を少し前の方に伸ばす。手の先には、球体に徐々に引きずられていく、地面にしがみついたルージュがいた。
「アリス――――」
ルージュも前に進もうとするが、手を少しでも地面から離せば、そのまま呑み込まれてしまいそうで、なかなか進めずにいた。その間も、徐々にルージュの身体は球体の方へ近づいていた。
「アリス・・・わたしはいいから――――――」
「いいわけないでしょう!?待ってて、もうちょっとで・・・届く――――」
必死で手を伸ばす。しかし、口で言うほどの距離は縮まっておらず、むしろ遠ざかっていっていた。
「諦めないわ。絶対に・・・さっきそう言ったじゃない。だから、ルージュも絶対諦めないで!!」
「アリス――――」
「その通りですです!!」
二人の間にラパンが飛びこんできて、それぞれの手を握った。
「ほら、何とかなったです。」
「ラパン!!」
「ばか、無茶なことして!?―――――ありがとう、ラパン。」
アリスの口から礼がこぼれると、わずかな時間3人は笑顔になった。
「二人とも、今から飛びますです。絶対に手を離さないでくださいです。」
「飛ぶって?!」
「後で説明しますです。今は手を離さない事だけに集中してくださいです。」
「・・・・わかった!!」
ラパンの説明にルージュは疑問を返すが、次の言葉にアリスは了承だけを返した。すると、ラパンの首飾りが淡い光を照らしはじめる。そして、
「行きますです!!」
そう言った直後だった。ラパンとアリスの手が離れた。
「「あっ――――――」」
ラパンの身体が宙に浮き、そのまま吸い込まれるかと思った時、
「させないニャ!!」
その二つの手を繋ぐ者が現れた。
「「「チャト!!」」」
「ラパン!!何をしようとしていたかはわかんニャいけど、早くするニャ!!」
「わ、わかりましたです!!」
チャトに促されて慌てるラパン。直後、淡い光が4人を包み込むと、その場から姿を消した。
しばらくの後、球体が勢いよく収縮すると、次の瞬間大爆発を起こし、大きな傷跡だけを大地に残し霧散した。
後に、ブランネージュとアルジャンとの間で起きたこの事件を、『白銀事変』と呼ぶようになった。




