第20話 吹き荒ぶ赤
『我は黒極騎士団が第二位、〝無敵のマトクレス〟。〝王の証〟を滅する為に参上した。』
身の丈5mはあろうかというほどで、全身を黒の甲冑で覆っている。その黒騎士と共に、黒い敵も多数出現した。しかし、すぐには襲いかかってこない。先ほどまで戦っていた敵も同時に静まる。まるで、黒騎士の指示を待っているかのようであった。その様子を確認したフィユが、即座に仕掛ける。
「敵なんでしょ!だったら、黙って見ていることもないよね!?」
「その通りニャ!!」
チャトもそれに続く。フィユはファラダを走らせ足を狙い、チャトは跳躍し頭部を狙う。
『ガキンッ!!』
振るわれた一撃は、双方とも、何もせず立ったままの騎士に直撃。
したはずだった。しかし、刃は騎士に触れる寸でのところで〝何か〟にはじかれた。
「「えっ!?」」
『ふむ、威勢は良し。だが、力の解放もできていない〝王の証〟など恐れるに足らず。』
「〝雷閃〟!!」
走り抜けるファラダの後ろに乗るラプが、魔術を使い、騎士に雷を撃ち降ろす。しかし、その一撃も、敵に到達することなく大きな音を立てて霧散した。
『無駄だ。我が〝無敵〟と呼ばれる所以、教えてやろう。我が身は特殊な力の一切を受けつけぬ。魔術しかり、魔剣・聖剣の類しかり。〝王の証〟は唯一、我が力を関与させぬが、力を解放せぬのであれば敵にあらず。』
「ということは――――」
「主殿の王槍が、その王の証というものであれば、我らに奴と戦う術はありません。」
ファラダの結論に唇をかみしめるフィユ。その後ろでラプも、自分の魔術が使えない事の悔しさを表情に表していた。
「・・・それじゃ、私のこの子達も使えないのね――――」
会話を聞いていたマレーンも、その表情を曇らせた。彼女の持つ二刀は、妖刀らしく、やはり特別なものとして捉えられてしまうだろうと考えたのだった。
一行が揃って士気を低下させている時、一人、大剣を両手で持ち、騎士の前に歩み出る者がいた。
「つまり、私は、あなたの無敵の条件に値しないってことよね?」
アリスが不敵に笑いながらそう答える。
「私の武器は〝王の証〟なんて大層な代物じゃない。ちょっと頑丈につくられているだけの〝ただの武器〟。あなたとは実に相性がいいわよ?」
『ふん、王の証を使わなければいいというだけか。そんな程度でのぞみができたとでも?否。汝の死期が早まるだけだ。』
そう言うと、騎士は腰の巨大な剣を抜きとる。アリスがその様子をじっと見ている時、ボワがアリスの横に並ぶ。
「ボクも加勢するよ。」
「ありがとう。でも、こいつは私一人で相手をするわ。ボワはマレーンの援護にまわってくれる?」
「それはいいけど・・・大丈夫?」
「まかせて。今日はいたって冷静のつもりよ。」
そう言ってボワに頬笑みかける。それを見たボワも、安心したかのように微笑み返すと、〝がんばって〟と一声かけ、マレーンの元へと走っていった。
それを見送ると再び騎士に顔を向ける。騎士がこちらに剣のきっさきを向ける。それを合図ととったか、アリスは一層大きく口元を歪ませると、一気に間合いを詰め剣戟を仕掛けた。
アリス達の戦いが始まったことで、黒い敵も活動を再開させる。
「・・・ボワ。アリスの元に、こいつ等を向かわせないよ!」
「うん。ボク達でこいつ等を食い止める!!」
マレーンとボワも意気込みを明らかにし、戦闘を再開した。
「ファラダ、私達も行くよ。」
「御意。」
「ラプ、しっかりつかまっててね?私達も、負けてらんないから!!」
「えぇ、わかりましたわ!」
マレーン達の様子を見ていたフィユ達も、ファラダを駆り、敵の陣中へと突っ込んで行った。
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『ぬぇぇーーーーい!!』
騎士の振りかぶる一撃は、簡単に大地に傷をえぐる。しかし、アリスはその余波すらもかわし、剣戟をしかける。明らかに手数はアリスの方が上だが、彼女の一撃は鎧に阻まれ有効な攻撃とはならず、鎧に傷が残る程度だった。
「くっ、埒が明かないわね・・・・ちまちまやってちゃダメか―――――」
そう思うや、体を回転させ、〝秘剣 『一刀』〟を放つ。剣が大きい分抜刀はできないので、遠心力を利用して放つ一刀の変則技だった。
『ぬぅ?!』
今度は僅かばかり効いたのか、鎧にはまた傷程度であったが、騎士の身体が少し後ろに下がり、なにより声をもらした。
その反応を逃さなかったアリスは、今一度騎士の一撃をかわすと大きく後退、剣を右肩に担ぎ、しっかりと両手で柄を握る。足を大きく開き、どっしりと構え、目を閉じる。一度深呼吸をして集中し、全身に力を込めると同時に瞳を開く。
「〝秘剣『一刀』 別構・担手 『大地裂』〟!!」
剣を一気に前へ振り落とす。〝一刀〟の数倍はあろうかという斬撃が、大地を裂きながら騎士に向かう。
『づぇぁぁぁーーーー!!!』
その斬撃を、渾身の一撃を以て相殺する騎士。噴煙が巻き起こるが、すぐに、風がそれを吹き流していった。再び対峙する二人。
『・・・・謝罪しよう。あれほどの斬撃を、己が剣技のみで具現化し実体を持たせるとは。汝を過小評価しすぎていたようだ。』
騎士は、剣を両手に構えなおす。
『手を抜いていたとは言わん。しかし、加減していたことは認めざるをえない。今この時より、一切の我が隙を排除する。無敵の所以が能力だけでない事を、教えてしんぜよう!!』
そう言って、こちらに駆けてくる騎士。アリスはそれに対しても一切動かず、ただ敵を睨みつける。
(「あぁ・・・もう駄目ね―――――あれが効かないんじゃ、もう私一人でなんとかできる次元じゃないか―――――」)
動じず。だが、その実アリスは既に諦めを決意していた。しかし、最後まで表面上は諦めない姿勢を見せようとして、その行動をとっていた。ボワが加勢してくれれば、まだ何とかなったかもしれない。しかし、それではマレーンの身が危険になる。その可能性があったせいか、彼女は、その選択肢を考えるということを放棄していた。
(「ごめんね、ルージュ―――――」)
この戦場にいない少女に心の中で謝り、向かってくる敵に覚悟を決め、一層するどく睨みつける。その彼女の目の端に、赤い閃光が映った。
『ドゴッ!!』
数瞬を待たず、音をたて黒い巨体が吹き飛ぶ。騎士の右側頭部を捉えた閃光は、ゆっくりと無難に着地を決める。
「あ――――――」
アリスは、自分の声がもれた事に気付いた。それに小さく微笑むと、降り立ったその人物に目を凝らす。自分の知るその人物と若干姿が変わっているが、そんなことで間違うはずがない。なにより、あの赤が似合うのはあの子しかいない。
「ルージュ!!」
アリスの声に反応し、その人物がこちらに顔を向ける。そして、にっこりと笑顔を見せた。
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(『何が起きた―――――』)
マトクレスは自分の身に何が起きたのか理解できていなかった。自分は確かに、あの青の娘に向かっていたはずだ。では今は。
自分が地面に倒れている事に気づくと、即座に身を起こし、自分がいたであろう場所を臨む。そこにいたのは、一人の人物。第一印象は、
『赤―――――』




