第16話 白銀の戦乱の中で
ブランネージュとアルジャンの国境にある白土地帯。薄く雪化粧がかかったこの場は、歴史に名を残す戦場になろうとしていた。
しかし、戦闘が始まって数分、両国の軍が交わることはまだなかった。では、何との戦闘が始まったのか。
「アルジャン・・・悪魔と契約など―――――」
ブランネージュ女王、ジェリアは怒りに歯を食いしばっていた。
そう、今ブランネージュ軍が戦っていたのは悪魔の群れであった。しかも、この悪魔たちはアルジャン軍に一切手を出していない。そのことからジェリアは、アルジャン国王が悪魔との契約に応じたものだと思った。
「なんと卑劣な――――撤退はならん!なんとしてでもこの悪魔どもを打ち破り、アルジャン軍に鉄槌を下す!!」
勇むブランネージュ女王。反対側の陣では、アルジャン軍がその様子にどよめきを隠せずにいた。
「慌てるな、悪魔もどちらが正義か・・・・それがわかっているんだろう。進軍の用意をしておけ。疲弊したところを叩く。我々は仕掛けられた側だ。向こうも文句は言うまい。」
アルジャン国王、トリーゼの口元が妖しく歪む。その時である。
「本当に・・・それは真実か?」
アルジャン軍の中央を堂々と歩き、トリーゼの前まで近づく一人の女性。
「・・・・リアン―――――」
そう、近づいてきたのはリアンその人であった。
「トリーゼ、本当に仕掛けられたのはアルジャンなのか?」
「間違いなく―――――」
「そうか・・・・嘘をつくならもっとましな嘘をつきな、〝ベリアル〟!!」
その言葉に、不穏な笑みを浮かべ突如として上空へと浮かび上がるトリーゼ。次の瞬間、その姿は別のものに切り替わった。アルジャン軍はさらにどよめく。まさか、指揮を執っていたのが国王ではなかったなどとは、思いもよらなかった。
『久しぶりだねぇ、リアン。よく見破ったよ。』
「トリーゼは絶対にこんなことはしない。それに、本人に会ったからな。」
『なんだ・・・つまらん、人間どもの血飛沫飛び散る舞踏会が見たかったのだけど・・・・まぁ、こうなっては仕方ないか。』
ベリアルと呼ばれた悪魔が指を鳴らす。すると、アルジャン軍の上空からも悪魔の群れが現れ、攻撃を仕掛けはじめた。
『踊れ踊れ、惨殺劇場の始まりだ――――』
「貴様―――――」
『おや、怒ったかな?ダメよ、キレイな顔が台無し。クックックッ―――』
あざ笑うかのようにリアンを見下ろすベリアル。それを睨みつける。銀の腕でベリアルを指差し、それをそのまま地面に落とす。
「降りてきな、ベリアル・・・そろそろ、決着つけようぜ―――――」
『クックックッ―――――良い顔だ。』
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ブランネージュ陣内は、依然激しい闘争の中にあった。悪魔の軍勢に果敢に攻め入るブランネージュ軍。しかし、徐々に圧されつつあった。
「こんなことが・・・・」
ジェリアの口から、悔しさの声がもれる。その時、一匹の悪魔がジェリアに襲いかかってきた。
「なっ!?」
恐ろしさに目を閉じる。それとほぼ同時、
「レース!!」
懐かしい声が聞こえてきた。その声に反応し、目を開ける。そこにあったのは、あの日自分と決別を果たしたはずのネージェの姿だった。
「ネージェ・・・・」
「間に合った、のでしょうか?予想とはだいぶ違う状況だったけど、でも、あなたを守れたのなら・・・・来た意味があります。」
優しい話し声とその白き姿に、ジェリアの目からは涙が溢れてきていた。
「なぜ・・・ここに―――――」
「わたしがここに来た事が不思議ですか?」
そう言って振り向くネージェ。その顔はあの日と違い、とても優しい表情をしていた。
「確かに、決別は決めました。でも・・・わたしにとって、あなたがお母様である事に変わりはないんですよ。」




