第15話 吹き荒ぶ風
『ザザッ!!』
先行するフィユ達の後を追い、ブランネージュへと向かうルージュ達。ブランネージュ領内に入り、軍が国境へ向け進行を始めた事を耳にし、一行は急ぎ馬をとばしていた。
その途中、陸の海とも言われている内海『ランドシー』に面する、国境沿いにあった遺跡を通過中、急にルージュが馬の足を止めた。
「ルージュ?!」
何かトラブルでもあったかと思い、アリス達も止まる。しかし、アリスの声に反応するでもなく、ただ遺跡の奥の方を眺めるルージュ。
「お姉様、どうなさいましたの?」
「・・・・ごめん、みんな。先に行ってて。」
ラプの問いにそう言うと、おもむろに馬を降りだすルージュ。その様子をただ呆然と見つめる一行。そんな中、アリスも馬を降り、ゆっくりルージュへと近づく。
「ルージュ――――」
「ごめん。ネージェとリアンの大変な時だっていうのはわかってる。でも・・・」
「見つけたの?」
「・・・うん。」
二人の会話を理解している者は、この場にはいなかった。しかし、それぞれが何かしらの経緯のあった中でこうして一緒に旅をしている。そのせいか、特に説明もいらずに、皆この状況を納得していた。
「ルージュ、ちゃんと追いついてくるんだよ?」
「早く来ないとボクが手柄を一人占めにしちゃうからね!」
マレーンとボワが真っ先に声をかける。
「無茶はしないようにです!」
「お姉様、お気をつけて。」
ラパンとラプもそれに続く。
「みんな――――」
それぞれの顔を見渡すルージュ。その肩に手をかけるアリス。
「アリス・・・」
「ルージュ・・・いってらっしゃい。」
「・・・うん。いってきます。」
その言葉を最後に、アリス達は目的地へと馬を駆っていった。その姿が見えなくなるまで見送った後、ルージュは自分の馬を引き連れ遺跡の奥の方へと歩いて行く。
しばらく歩くと、ランドシーを望める広場のような場所に出た。そして、その崖の淵に腰かける人物を見つけた。
ルージュは、瓦礫に馬の手綱を括るとその人物に近づいて行った。横に並び、自分も腰をかける。会話はなく、静寂の時間が流れた。ふと、隣から声がかけられた。
「世界って・・・綺麗だよな―――――」
ルージュがその横顔を覗く。その顔はとても穏やかで、ただ純粋にこぼれ出た言葉だということが分かった。
「うん・・・そうだね。」
自分も視線を戻すと、自然とその言葉が出てきた。それから数回、単語のような会話のやり取りがあった。一言つぶやいては、また一言で返し、静寂の時間に戻る。数分の後、意を決してか初めてルージュから口を開いた。
「トルナーデさんに、会ったんだ。」
「御袋にか――――元気にしてたか?」
「うん。それと・・・〝もう、帰って来なさい〟って・・・言ってたよ。」
「・・・・そうか。」
そう言って一度目を閉じ、再び開くとおもむろに立ち上がった。
「でも・・・まだ帰れないな。」
そして、こちらを向く。
「・・・・ガーレ?」
「お前とのけじめが、まだついていない。」
後ろを向き、歩き出すガーレ。そして、拓けたところで立ち止まると、再びこちらを向く。
「さぁ・・・始めようか。」
「・・・・・でも――――」
「御袋に何を言われたのかはわからない。だが、そんなことでオレのしたことを許せるのか?お前は――――――」
俯くルージュに、戦うことを促すガーレ。お前には戦う理由がある。オレには受ける義務がある。そう口にする。しかしルージュは、踏ん切りがつかずにいた。
「だって・・・トルナーデさんは、ガーレは優しいんだって、優しすぎるくらいなんだって・・・・だから―――――――」
トルナーデに出逢ったあの日から今日まで、ルージュの中では何も答えがまとまってはいなかった。もう一度彼に出会えれば。そう思ってもいたが、実際出会えた今も、確信たる答えは出ないままだった。
「それで・・・お前は、自分の目で見たものよりも、オレの御袋の話を信じると?だったら、お前が今こうしてここにいる理由はなんだ?」
「?!」
そう、ルージェルフの人たちは確かに死んだ。一人と残らず。そこに怒りを覚えないわけはなかった。しかし、トルナーデの話が嘘とも思えない。
それでも彼は、ルージュに答えを求めた。いや、もしかしたら答えを求めているのではなく・・・・・
「何を迷っている?迷う必要があるか?迷うのは、オレに勝ってからでも遅くないんじゃないのか?」
「・・・・・ガーレ?」
俯いた顔が上がる。彼の言葉が正しいかはともかく、一貫して、とてもまっすぐにルージュという人物に投げかけられていた。本当に、迷っている自分がおかしいのではないかと思わされる。そんな力強さがあった。
「オレを叱れ・・・・従妹。」
「・・・・・うん。従兄ちゃん。」
ルージュの中で、突然何かが吹っ切れた。魔銃を召喚し、その手に握る。ガーレもそれを見るや、即座に獣変する。
「今度は、最初から?」
「なんだかんだ言っても、負けてやる気はないからな。」
お互いが笑みで口元を歪ませると、まったく同じタイミングで踏み出す。
ガーレの爪の応酬を、その刃でいなすルージュ。距離を取ろうとするガーレに向け、銃撃。すぐさま距離を詰めにかかる。速さでは明らかにガーレが圧倒していたが、ルージュはその姿を確実に捉え、一度と見失うことはなかった。
「やるな・・・・後ろにも目があるのか?!」
「当然!ぜぇーんぶ、見えてるんだから!・・・って、あれ?前にもこんなこと言ったような?」
「はっ、余裕見せてくれるな。なら、こんなのはどうだ!?」
自らの爪を振るい、虚空を斬る。すると、その斬撃がそのままルージュに襲ってきた。しかし、ルージュは動じることなく、飛んでくる斬撃の全てを撃ち落とした。
「おっ?」
「似たようなものを経験済みでした♪今度は、こっちの番!!」
楽しそうに言葉にすると、一気に距離を詰め、二つの銃口をガーレに圧しつける。
「なっ!?」
「行くよ!!〝ツインバレット 『フレア』〟!!」
轟音をまきちらし、瓦礫を砕くルージュの一撃。しかし、そこにガーレの姿はなく、少し離れた場所に回避していた。
「おっかねぇー・・・・そんなもん喰らったら、ただじゃすまないな。」
そのガーレの言葉に不敵に笑うルージュ。それにつられてか、彼も同じように笑みを見せ、再び疾駆する。
速さで撹乱し、斬撃を仕掛けようとするガーレに対し、銃撃で足を止めさせ、逆に自分から剣戟に臨むルージュ。攻防は互いに引くことを知らなかった。そんな中、ルージュがふとバランスを崩した。ガーレがそれを見逃すはずがなく、止めとばかりに飛びかかってくる。
「もらったーー!!」
「?!」
『ドゴンッ!!』
ガーレの振り落とした一撃で、周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。決着はついた。そう思える状況でありながら、一向に動きが見えない。それは、彼が今目にしている状況で、決着がついた事を悟ったからだった。
「・・・・なんてやつだよ――――」
地面に突き立てた自分の左手のすぐ横。どうかわしたのか。傷を負いながらも、こちらの胸元に銃口を向け、懐に潜り込むルージュの姿があった。
「〝ツインバレット 『プロミネンス』〟―――――」
言葉と共に、銃口から撃ち出された双頭の火の竜は、ガーレをその場から吹き飛ばし、地面へと叩き落とす。それが決め手となり、ガーレは人の姿に戻った。
「わたしの、勝ちだね――――」
起き上がろうとすると、ルージュが銃口を向けながらこちらを見下ろし、そう口にした。ガーレは再び寝ころび、目を閉じた。
「負けたか――――――」
そう口にするも、悔しそうな感じはせず、さわやかさがあった。その隣に腰を下ろすルージュ。
「なんで・・・手を抜いたの?」
「・・・・どうしてそう思う?」
「だって・・・わたしがガーレに勝てるわけないもん。最初に会った時だって圧倒されてたし。まぁ、わたしもそれなりには強くなったと思うけど・・・まだガーレにかなうほどじゃないはずだもん。」
「そうか・・・それは、お前の勘違いだ。」
「えっ?」
ガーレの意外なセリフに、彼の顔を覗き込むルージュ。
「自分でわかってないかもしれないけど、お前は強いんだよ。初めから。オレなんかよりずっと、な。」
「・・・だって、わたしガーレに負けたじゃん?」
「お前は、頭に血が上ると猪突猛進になるタイプだ。まぁ、それでも十分強いんだけどな。あの時は、オレが冷静だっただけだ。ちゃんと戦えば、こういう結果になる。むしろ今日は、オレが頑張った方だ。」
そう言って、くすくすと笑う。それにつられてルージュも笑った。ひとしきり笑うと、ルージュがそっと口を開いた。
「ガーレ。わたしと一緒に、トルナーデさんのところに帰ろ?」
「・・・・お前は、それでいいのか?」
「うん。ガーレなら、ちゃんと罪滅ぼしをしてくれそうな気がするし。」
「そうだとしても、あの村の連中が許してくれるかはわからないだろう?」
「そうだね。許してくれるかどうか、それはもうわかんないけど・・・・わたしが許すよ。」
「ルージュ――――」
「わたしも一緒に背負うよ。だから、ガーレも自分を縛らないで。」
目を閉じ、そっと〝ありがとう〟とガーレが口にした。その時だった。
『ガタガタッ!!』
「「!?」」
後ろの方で、何か嫌な音がした。二人が揃って振り向く。そこには、先ほど繋いだはずの馬の姿はなく、代わりに、黒い何かがいた。その、たぶん口であろう個所から、馬の脚が見えていた。
「何・・・あれ――――」
その異様さに怯えを覚えるルージュ。その前に立ち、ルージュを背に守る体勢を取るガーレ。その顔に、先程までの穏やかさは微塵もなかった。
「奴だ・・・・」
「え?ガーレ、あれを知ってるの?!」
「知ってる?あぁ、当たり前だ。奴が・・・奴等が、お前の村を全滅させた犯人だ!!」
「え!?」
ガーレの口から出た言葉に驚きを隠せない。しかし、同時に全てに合点がいった。そう、ガーレは誰も殺してなどいなかった。犯人は、〝これ〟だ。
「オレがばあさんを見つけて、話をしている時、いきなりこいつが現れたんだ。なんとか、ばあさんとオレでこいつを追い払ったんだが、ばあさんは致命傷を受けて・・・・そしたら外でも同様にこいつみたいのが暴れまわってた。なんとか全部排除したんだが・・・・・」
「そう、だったんだ・・・・」
ガーレが実は、村を守ろうとしてくれていた。そのことを嬉しく思いつつ、また勘違いしていた自分を恥ずかしく思った。しかし、それを表現できる余裕が、今のルージュには存在しなかった。
「ルージュ、行け――――」
「えっ?」
「お前には、行かなきゃいけない場所があるんだろう?」
「なんで、それを?」
「お前がここに来た時、馬の足音が複数あった・・・・・行けよ。こんな奴、オレ一人で十分だ。」
「ガーレ――――」
「心配すんな。二人で、御袋のところに行こうぜ。あっ、それと・・・」
ガーレは自分の首に付けたお守りをルージュに投げよこした。ルージュはそのお守りに見覚えがあった。
「これ・・・・」
「ばあさんからだ。お前に渡してくれって。死ぬ間際まで、オレたちの心配をしていたよ。」
そう言ってガーレは自分の胸元を見せる。そこには、いまルージュが渡されたものと同じようなお守りがさがっていた。
「おばあちゃん―――――」
そのお守りを一度握りしめ、自分の首にかける。そして、そのまま後ろを向く。
「ガーレ、約束だからね?」
「わかってる・・・・ルージュ、目的地は?」
「ブランネージュとアルジャンの国境沿い!」
「それなら、ランドシーに沿って行け。少し遠いがずっと国境沿いだ!」
「わかった。ありがと・・・・ガーレ、またね――――――」
そう言うと、一度も振り向くことなくルージュは駆け出していった。
「あぁ。」
それを、ガーレも振り向くことなく見送り、先ほどから目線を一切離さず捉えるその敵を、睨みつける。
「お前らがなんなのかは、わからん・・・・だがな、こっから先にはそう簡単に進めると思うなぁ!!」
獣変し、目の前の敵に疾駆していった。




