第14話 紫眼の光
「シェリン様。反乱軍は明朝、このシェマインに到着する模様です。」
「そうか―――――全軍に通達、決戦は明朝。ギャルリの仇を取る!!」
「はっ!!」
その言葉を携え、男が部屋を出ていく。扉が閉まったところで、一つ大きな溜息を吐き、男性は深く椅子にもたれかかった。
ここは、ガレ国第二都市『シェマイン』にある、ガレ国第二王家の屋敷。ここで指揮を執る、現在の当主〝シェリン〟。幼き頃よりマレーンと親しみのあった存在である。
「まさか・・・守るべき国民と戦うことになるとは――――マレーン、お前ならどうしたかな―――――」
そう言って懐から彼女の写った写真を取り出した。
「お前が死んでからもう四年か・・・もしかしたら、お前ならこれを止められたかもな――――はぁ、泣き言はここまでだな。覚悟を決めろ、シェリン!この戦いを止めなければ、オレたちにも彼らにも、明日はないんだ!」
・
・
・
―シェマイン南部の平野、反乱軍野営地―
「明日か――――」
酒を片手に、もの思いにふけりながら椅子に深く腰を預ける男。この者の名は〝ダクト〟。反乱軍のリーダーであり、マレーンが王家の外で遊んでいた友達の中の一人である。
「お前が死んだと聞かされたのは四年前だったな・・・あの時は何もできなかったが、今は違う。やっと力を手に入れた。お前は他の王族とは違った。だからいなくなっちまったんだろ――――もうすぐだ。ギャルリとシェマインさえ落とせば、王族なんてたわいもない・・・これは、お前の弔いでもあるんだ。」
・
・
・
「見えた!!」
平野の小高い丘を越えたところでフィユの声が上がる。その声に反応し、見えない瞳ながら確認しようという姿勢の現れか、身を乗り出すマレーン。
「どうなっているか、わかる?」
「ここからはまだ詳しくは・・・ただ、だいぶ激しく戦っているのは見てとれるよ―――――」
マレーンの問いに答えるフィユ。彼女の目には、都市から立ち昇る無数の噴煙が映っていた。
「主!後続は!?」
ファラダの問いに後ろを振り返るフィユ。
「大丈夫!なんとかついてきてる!!」
ファラダは本来、駆けるという行為に関して通常の馬とは比較にならないほど、常軌を逸する速度を持っていた。マレーンの心情を考えれば先行するのも手ではあったが、もし戦いが始まっていた場合、その中にフィユとマレーンの二人だけで突貫しなければならなくなる。
それではさすがに無謀だということで、ギャルリの北にある村で馬を借り、全員で向かっていたのだった。
「間に合わなかったの?!」
「いや、戦いは始まってるけど・・・まだ手遅れではないはず!!」
ネージェとアリスが言葉をかわす。
「マレーン!!この後はどうするの?!」
ルージュが後方からマレーンに問いかける。
「とりあえず双方のリーダーどちらかに会う。うまくすれば二人同時に会えるかもしれない。たぶん、王族のリーダーは〝シェリン〟のはず。反乱軍は〝ダクト〟がリーダーって話だったから・・・二人とも知り合いなの。だから、会って話をしたい!」
「了解!!じゃぁ、ボクたちはそこまでマレーンをエスコートすればいいんだね?!」
ボワの提案に一つ頷きで答えるマレーン。
「えぇ、お願い。」
「まかせてくださいですわ!」
ラプが全員の意気込みを代弁する。
「じゃぁ、とりあえず敵陣中央に突っ込むよ!!」
フィユの合図で全員が前を向く。いつの間にかシェマインへの入り口が目の前に迫っていた。
「みんな!行くよ!!」
・
・
・
辺りが騒然とする中、そこだけが異様な静けさを保っていた。シェマイン中央広場。最も敵味方が入れ乱れるこの場所で、両統率者が相まみえていた。
「あんたがシェリンだな?」
「そう言うお前は?」
「オレはダクト。王族討伐軍のリーダーだ。」
「・・・反乱軍の間違えだろ?」
「そいつはあんたら側から見た言い方だろうが。オレたちにはオレたちの正義がある――――」
そう言って手にした斧を構える。
「そうか・・・まぁ、オレたちにも、譲れない正義はあるんだ――――」
シェリンも両手に携えた刀に力を込める。言葉はいらず、しかし二人同時に踏みこみ始める。
ダクトの斧は音を立てながらシェリンに迫る。それを事も無げにかわすと今度はシェリンが打ち込む。当たるかと思われた一撃は、彼の体型からは普通では考えられない俊敏さで、以外にもあっさりかわされた。
二人の攻防は一進一退。この戦場の中にありながら、ここだけが闘技場のような雰囲気を出していた。
「なぜ、お前達はこんな事をする!?」
攻防の最中、シェリンが声を上げる。
「そんなことも言わなきゃわかんねぇのか!?てめぇらが腐ってるからだろうが!!」
「オレたちは、民と平和に暮らしていこうとしている!!それのどこが腐っているというんだ?!」
「気弁を語るな!!あのくそ国王は、オレたちとの距離を広げていってただろう!!民との平和?オレをこれ以上怒らせるなぁーー!!」
ダクトの一撃が地面をえぐる。かろうじてかわしたシェリンは、その一撃に息を呑む。しかし、ここで自分が下がるわけにはいかないと、果敢に攻めていった。
「確かに、あの人はやりすぎた。それは認める。だが、王族の全てがそうじゃない!!」
「じゃぁ、なんでマレーンは死んだんだ!!」
「?!・・・なんで、その名を知っている――――」
その言葉に動揺を見せるシェリン。しかし、すぐに冷静さを取り戻し攻防に復帰する。
「マレーンはオレたちの仲間だった。だがある日を境に全く顔を出さなくなった。殺したんだろ?あいつは他の王族のやつらとは違った。だから殺したんだろ、てめぇらが?!」
「・・・・そうか、お前か。マレーンを外に連れ出したのは・・・そういうことか。マレーンはあいつに殺されたのか・・・お前のせいで!!」
シェリンの一撃にいきなり重さが増す。その表情は先ほどまでとはうって変わり、怒りに満ちていた。
「わかるだろう。マレーンがそんな事をしていれば、あいつが何をしでかすかくらい!わかるだろう、そう言う奴だってことくらいわかっただろう!!おまえがマレーンを殺したも同然だ・・・お前は、絶対に許さん!!」
「・・・なに、ほざいてる。てめぇらがそういう体制を作ってきたんじゃねぇか!!人のせいにしてんじゃねぇーー!!」
双方が言い分をぶつけ合う。そして、二人の懇親の一撃が重なる。その刹那、そこに割って入るひとつの影。
『ガキン!!』
轟音をまきちらし、二人の一撃を二本の刀で受け流す一人の女性。二人はその反動で体位が崩れ、攻防が一旦停止した。そして同時に女性へと目がいく。
「二人とも・・・もう、やめよう?」
受け流した状態の体勢から、ゆっくりと戻る女性。やさしく放たれた声と、開かれたその瞳に、二人は見覚えがあった。
「その・・・紫の瞳―――――」
「まさか、マレーン・・・なのか―――――」
武器を握る拳から力が抜ける。二人の間にいたのは、まさにマレーンその人であった。
「お前・・・生きてたのか――――今までどこにいたんだ?」
「ダクト、久しぶり。でも今はまず、再会の挨拶はおいておこう?あなたは反乱軍を止めて。これ以上血を流すのは無意味よ。シェリン、あなたは王族軍を。」
この会話中も、周りでは凄惨な戦いが続けられていた。マレーンの目的は二人を止めることではなく、戦いを止めること。しかし、この状況で戦いをやめさせる方法を見つけるのは困難に等しかった。
二人の男は、突然の再会と提案に困惑していた。しかし、先に状況を飲み込み、冷静さを取り戻したのはシェリンだった。
「・・・わかった。マレーン、おまえに従おう。だが、どうやって止める?何か方法でもあるのか?」
「ん・・・それは――――」
シェリンの問いに歯切れ悪く答えるマレーン。
「じゃ、わたし達の出番かな?」
その時、不意に聞こえてくる声。言葉を発したのはルージュだった。周りにはアリスたちも揃っていて、戦闘の余波をいなしていた。
「みんな?」
瞳で確認はできないが、マレーンには、その雰囲気で全員が揃っていることがわかった。
「やっぱり何も考えてなかったのね。」
「そんな事だろうと思った。」
やれやれと行った表情を見せるアリスとフィユ。
「意外とやんちゃさんだったんだね?」
「でもそういう面があった方がかわいいですよ?」
「そうですわね。」
ボワ、ネージェ、ラプが優しく微笑みかける。
「マレーン、この人たちは?」
「・・・・私の・・・仲間よ。」
シェリンの問いかけに、一瞬だけ考え、笑みと共にそう口にするマレーン。その答えに同じように笑みを浮かべるルージュ。
「よし。じゃぁ、やりますか?」
そう言って全員の顔を見回すルージュ。それに、頷きで答える一行。
「やりますかって・・・・何をする気?」
マレーンが当然の疑問を口にする。
「見てればわかるよ・・・って、マレーンは見れないんだった。」
「簡単に言いますと、皆さまの注目を集めて語りかけるだけですわ。語り部はもちろん、あなた方3人ですわよ?」
ルージュがつまったところで、ラプが大まかな説明をする。
「語りかけるって、どうやって?」
「ラプの魔術で、彼らの心に直接語りかける。一瞬でもこの喧騒が静まればなんとかなるらしいから・・・その時間を私達が作る。」
いつのまにか戦意の抜けたダクトが問いかけてくるが、アリスが続けて説明した。
「作るって・・・このシェマインだって決して小さいわけじゃないんだぞ?何をするつもりだ?」
「まぁ、必ずしも全員の注目を集めればいいわけじゃないし・・・」
「ある程度の方に届けば、その余波で戦いは治まるはずです。方法は・・・見ていればわかりますよ?」
シェリンの疑問にボワとネージェが答える。どうやら、打ち合わせは事前に出来ているようだった。全員が各々の武器を手にする。
「要領はラプの時と同じね。」
「人数から言ってあのときなんかと比べ物にならないくらい高く上がりそうよね?」
「まぁ、その方が目立つしいいんじゃない?」
ルージュとアリスが言葉をかわす。
「ボクは着地が心配だよう~。」
「とりあえず初弾は私の一撃にかかってるわけだ。ファラダ、頼んだよ?」
「御意!」
ボワの嘆きをよそに、フィユとファラダは気合を入れる。
「それではマレーンさん、それにお二方。わたくしの背中に手を乗せてくださいですわ。」
ラプが3人を促し、魔術の準備に入る。半信半疑ながらも、背に手を乗せるマレーン。シェリンとダクトは、まず周りの兵をいさめにかかっていた。
「ん、それじゃぁ、行こうか!!」
アリスの号令でそれぞれが行動に移る。
ルージュとアリスが、レースの手に飛び乗ると、そのままレースはフィユの槍に乗り上空へ投げとばされる。続けざまに、同じようにボワを打ち上げた。
上空でルージュ達に追いついたボワは、ククリ刀を交差させ、そこにレースを乗せる。両足を使いククリ刀を振り抜き、その勢いで、さらに上空へと打ち出す。
勢いが完全に死なないうちに、レースはまずルージュを投げ、続いてアリスを投げる。
「ルージュ、いくよ!?」
ルージュに追いつくと、アリスは抜刀の構えを取り〝秘剣 一刀〟を放つ。その斬撃にうまく乗り、ルージュはさらに上空に飛んでいく。その時、彼女の手に握られた魔銃は、第二形態へと姿を変えていた。
「今日は大盤振る舞い!!まず、一発目、〝爆蓮花〟!!」
撃ち出された赤い球体が空を昇っていく。それを確認する間もなく、すかさず次弾を装填。
「次、〝崩穿花〟!!」
爆音と共に放散される。それが最初に撃った球体にあたり、さらなる大音響と共に破裂した。それだけでも、十分に音は響きわたったはずだが、それで終わりではなかった。
「トドメの一発!!〝焔輪花〟!!」
撃ち出された3発目は、音こそ先ほどには劣るが、それでも爆音を響かせながら、空に螺旋の傷跡を描いて行った。その音に一瞬とは言わず、シェマインは静けさに包まれた。
『全軍攻撃止め!!我々はこの戦いより手を引く!!』
『同じく、我らも王族への攻撃を中止する!』
間をおかず、両統率者の声が街中に響きわたる。その声に戸惑いをみせる両軍。そこに、真打の声が現れる。
『みなさん、私を覚えていますか?私は・・・マレーンです。』
街中がざわつく、その名前に聞き覚えのない者はいない。
『いま私は、仲間の力を借りてこの言葉を伝えています。私は5年もの間、私の父様、前国王に幽閉されていました。みなさんは私が死んだと聞かされていたようですが、それはまったくの偽りです。』
ざわつきが大きくなる。この声を本当に信じていいものなのかどうか。しかし、その心配は中央広場から徐々に消えていっていた。彼女の姿を目にしている者は、しっかりとその紫眼を確認していた。
『この戦いが起きてしまった原因には、私の父様がいたと思います。しかし、あの人はもういません。戦う理由はもうないのです。もう、戦わないでください・・・この国に、もう血を流させないで―――――』
静まりかえる街並み。しかし、変動は次の瞬間だった。
「「わぁぁぁぁーーーーー!!!」」
歓声がわきあがる。もう戦わなくていいという安堵か、マレーンが生きていたことへの歓喜。どちらかはわからなかったが、この瞬間、ひとつの戦いが終わった。
・
・
・
「なんか長居しちゃったね?」
「たまにはゆっくりするのもいいと思いますわ、お姉様。」
ルージュとラプが、荷物をまとめながら会話を交わす。
抗争から数日、一行は新たなる旅路の途につくため、シェリンの屋敷の前に集まっていた。
「あのあの、それよりも、ホントについてきていいのですか?」
「えぇ、死人がいつまでもいる必要はないわ。それに、この国はもう、大丈夫だろうから。ダクトもシェリンとなら仲良くできるでしょうし。」
フィユの問いに笑顔で答えるマレーン。
「ところで、シェリンってマレーンの何?許嫁とか?」
アリスがふとした疑問を問いかける。
「ううん、シェリンは私のお兄ちゃん、腹違いのね。私も元々は第二王家の子だったの。小さい時に前国王の父様に連れられて第一王族になったってわけ。父様には子供ができなかったみたいでさ。」
「・・・・意外と複雑だったのね。」
会話を交わしながら、次の目的地へ歩き出そうとした時、こちらに向かって走ってくる人影があった。目の前まで来ると急停止し、帽子をとり一礼する。黄色い短髪に、背後に見える尻尾、頭には猫耳、どうやら猫人族の女性のようだった。
「あ、あの、一つお伺いしますが、この中にネージェという人はいますかニャ?」
「ネージェはわたしですが?」
いきなりの問いかけに、戸惑いながら答えるネージェ。手を小さく上げながら彼女の前に出る。
「あなたでしたニャ。リアンさんから、伝言ですニャ。〝ブランネージュとアルジャンが戦争状態に入ろうとしている。すぐに戻って、ブランネージュの方を何とかしてほしい。オレはアルジャンを止めてみる。〟との事ニャ!」
「えっ――――」
言葉を失ったのはネージェだけではなかった。その中、いち早く行動に出たのはルージュとアリス。
「フィユ!ネージェを連れて直ぐに出て!!ファラダで先行すれば何とか間に合うかもしれない!!」
「あのあの、わかりました!!」
ルージュの指示に慌てて答えるフィユ。
「私達もすぐ後を追う!!ラパン、馬を借りてきて!!あなたの脚ならすぐでしょ!?」
「わ、わかりましたです!!」
アリスの言葉にそう言って、ラパンが街の方へ駆けていく。
「ネージェ、乗って!」
ファラダに騎乗したフィユが、ネージェを後ろに乗せる。
「みんな・・・・」
「大丈夫ですわ。わたくしたちならば、何とかできますわ!」
「そうそう、ボクたちは今までもそうしてきたんだから!」
不安そうな顔をするネージェを、ラプとボワが励ます。そこにルージュが近づく。
「ネージェ。わたし達もすぐ追いつくから。まずは、ネージェにできることだけを考えて。大丈夫、わたし達がそばにいる。」
「・・・・うん。ありがとう、ルージュ。みんなも気をつけて。」
「あたしも同行するニャ!」
「でも、ファラダには3人も乗れないよ?!」
猫の少女も名乗りを上げた事に対し、フィユがスペースを確認しながら答える。
「こうすれば大丈夫ニャ!」
そう言うと、彼女は猫の姿に変わり、ファラダの頭に飛び乗った。
「・・・なるほど、獣変ね。ところであなた、名前はなんて言うの?」
「あたしはチャト。コートでリアンさんにお世話になったニャ。今回の件で伝言に走ってきたニャ。〝すごく頼りになる仲間だから〟って言ってたニャ。」
アリスの問いに、完結に答えるチャト。
「よし!じゃぁ、行くよ!?しっかりつかまって!!ファラダ!?」
「御意!!」
フィユの掛け声で、走りだすファラダ。
数刻と経たずラパンが馬を借りてきて、一行もすぐに後を追った。しかし、さすがの一行も今回ばかりは、不安で胸をつまらせていた。




