第13話 光を失いし国の瞳に映るもの
「なに・・・・これ――――」
一行が目にしたのは、荒廃しきった都市の惨状だった。
ここはスディア国の東の隣国『ガレ』、その首都である『ギャルリ』。スディアでの一件により、オランジュ国を通るのを避けるためにこちらに進路をとったのだが。
「どうなっているの?」
「ここは首都のはずですわよね?」
ネージェとラプが疑問の声を漏らす。
「わたしが前来た時は、まだキレイな街並みが揃っていたはずですです。」
「それはいつ?」
「半年は経っていなかったと思いますです。」
ラパンの疑問にボワが聞き返す。その変わり様は明らかに異様なようだった。そんな中、赤と青の二人は冷静に分析を行っていた。
「・・・ルージュ。」
「うん。硝煙の香りが残ってる・・・十中八九、戦闘の傷跡だね。」
「その通りよ。」
突如として会話に参加してくる声。一行の正面、荒れ果てた瓦礫の山から下りてくる一人の女性。両目が閉じられ、紫色の髪は上部で二つに結われ残りは後ろに流し、その腰には2本の刀が携えられていた。その人物にラプが声をかける。
「どちらさまでございますか?」
「私は〝マレーン〟。一応、この国の姫って立場だったけど・・・・まぁ、こんな状態だし、そんな肩書きはもう必要ないわね。」
マレーンの話によれば、この国は王族が〝主有権〟というものを手にしているらしく、特に今代の国王はその傾向が酷かったのだという。それにしびれを切らした国民の一部、つまりはこの首都の人々が反乱軍を組織し王族討伐を始めたということだった。
「そんなことが・・・・」
ネージェが口を抑えながら、声を漏らす。
「ねぇ、マレーンはどうして無事でいたの?」
ボワがふとした疑問を口にした。
「私はずっと、父様に監禁されていたから・・・・あそこに見えない?」
そう言って指差した先には、城であったらしき建造物の隣に、大きな塔が立っていた。
「あんなところに・・・・・ってか、監禁って!?」
ルージュが驚きを隠せず声を出す。それについてもマレーンが続けて説明をした。
「元をただせば、原因を作ったのは私なんだけど・・・・・私が、街の人たちと友達になって、よく遊ぶようになっていたの。内緒にはしていたんだけど、それが父様にばれて―――――父様は王族と民という差を顕著に表す人だったから・・・・・私も例にもれず厳罰。それがあの塔への監禁だった――――もう5年も前になるわね。」
「「5年!?」」
一行が揃って驚く。驚かない方がおかしい。5年もの間、光すら差し込まない塔の中に監禁されていたというのは、もはや拷問をも通り越し、マレーンという人物の否定ともとれる扱いだった。
「あの時点で勘当されていたんだろうけど、外で自由にされるのも我慢ならなかったんだろうね。」
「・・・・マレーンはそれで納得できたの?」
淡々と語るマレーンに、アリスが問いかける。それに対して首を横に振る。
「納得できるわけないわ。5年間もただ一人、暗闇の中で過ごして・・・・視力だって失ったしね。それに・・・今回の件で、私の唯一の支えだった人も死んじゃったし。」
「支え?」
マレーンの言葉に反応を示すルージュ。
「私の侍女をしてくれていた人。ずっと私を気遣ってくれてたの。今私がここにいるのも彼女のおかげ。彼女がいなかったら、私は何も知らず、まだあの塔の中にいたかもしれない。」
「そうだったのですか・・・・・最後まで、あなたを思ってくれていたのですわね?」
「うん――――」
ラプの言葉に答えると、静かにマレーンの目から涙がこぼれた。彼女の中で、その人との触れ合いが甦ってきたのだろう。しばらくしてマレーンが落ち着いた頃、アリスが話を切り出す。
「それで?マレーンはどうするつもりだったの?」
いきなりだったが確信をつく質問だった。マレーンは考えるでもなく、すぐに口を開いた。
「反乱軍を止める。確かに、主都に住む王族は天罰を受けても仕方がなかったかもしれない。でも、本当に罰を受けるべきだったのは、父様一人だけと言ってもいい・・・私が言っても説得力ないかもしれないけど、この国の王族は、基本的に良い一族ばかりだし、この国を造り上げたのはその血筋。さらに言えば、主有権なんてものは自分達が創った制度じゃなく、元々は国民が与えてくれたものだって聞いたわ。それを特別に私物化していたのは、いまや先代国王となる私の父様だけ。だから、他の王族も制裁を受けなければならない道理はない。だから・・・私は何としてでも反乱軍を止めなければならない。」
マレーンのその言葉には、明らかに強い決意が込められているように感じた。だが実際問題として、視力を失っている彼女が反乱軍に追いつき、なおかつその進行を止めるというのは無理にもほどがあった。
「あのあの、反乱軍が次に向かうとしたらどこですか?」
フィユがまず、根本的な疑問を返す。
「たぶん・・・第二都市『シェマイン』だと思う。この街でのことが3日前だから・・・反乱軍達の休息も含めながらだと、まだ侵攻は始まっていないはず。馬が手に入ればギリギリ間に合うかもしれない。」
「なるほど・・・・みんな――――」
マレーンから現実的な時間の目安が提示され、それに対しルージュが全員に合図する。承知したというふうに、その問いに頷いて応える一行。
「では決まりですね。マレーンさん、わたし達もお手伝いさせていただきます。」
ネージェが皆を代表するように答える。
「それはありがたいけど・・・・・・命をかけることになるかもしれないんだよ?」
当然の疑問を持ちかけるマレーンだが、そんなのは問題でもないと答える一行。
「大丈夫、大丈夫。ボクたちは何度も死線をくぐってきてるからね。」
「それにわたくし達、けっこう腕もたちましてよ。」
ボワとラプがやる気の表れを言葉にする。
「わたしもがんばって逃げ回るです!」
その言葉を出した途端、ルージュとアリスに頭をこつかれるラパン。そして二人はマレーンに向き直る。
「みんなでやればなんとかなるよ!」
「マレーン。私達を信じてみて―――――」
そう言って、二人同時にマレーンの手を取る。
「・・・・ありがとう。世界には、あなた達のような人もいるんだね。」




