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御伽噺戦記  作者: ran
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第12話 双顔の騎士

「あのあの、こんなに賑やかなのは久しぶりです!」


 翌日、妃の朝の訪問を終えた後、フィユはルージュ達と街へ出ていた。ファラダも一緒に外へ出ており、ルージュとアリス・ネージェはフィユを、リアンたちとボワ・ラプは、ファラダと街を歩いていた。


フィユは本当に外に出るのは久しぶりらしく、そのはしゃぎ様は最初のおとなしい雰囲気を完全に失わせていた。


「あのあの・・・本当にこんな服を買っていただいていいのですか?」


「気にしない気にしない。あんな服でいるよりはいいでしょ?」


 控えめながら、嬉しさが滲み出ているフィユの問いかけに、当然の事をしているまでだと答えるアリス。


「かわいいよ、フィユ。ね、ネージェ?」


「えぇ、とっても似合っていますよ。」


「あのあの、ありがとう。」


 ルージュとネージェの言葉に、照れながら礼を言うフィユ。しばらくするとリアン達と合流し、昼食をとる為店を探し始めた。


「何食べる?」


「ボクは海の幸が食べたーい!!」


「わたしもー!!」


 リアンの問いに、ボワとルージュが呑気に手を上げる。


「おまえら・・・今日はフィユの為に来てるんだぞ。ちょっとは遠慮――――」


 突如として言葉を切るリアン。しかし、気付いたのは彼女だけではなく、その場にいた全員が異変を感じ取っていた。


やけに港の方が騒がしい。こちらに向かって走ってくる人も見えていた。


「ただ事じゃないわね。」


「どうしたのですか?」


 アリスが言葉にする脇で、走ってくる人の一人に事の次第を尋ねるネージェ。


「海賊だ!!海賊が港に来たんだ!!今、城の騎馬隊が駆けつけてきたんだが、奴ら数が多い・・・このままじゃ巻き込まれるぞ!あんたらも早く逃げろ!」


 そうとだけ言い残すと、その人も例にもれず走っていった。その言葉を聞いていたルージュとボワの口元は、怪しげな笑みを表していた。


「・・・・だそうですよ、ボワさん?」


「・・・・だそうですね、ルージュさん。」


 言葉をかわした時、すでに二人の両手には自らの得物が携えられていた。


「名のある海賊ならなおよし!!」


「臨時収入ーーー!!」


 止める間もなく、港へと走っていく二人。それを溜息で見送る一行。


「・・・かといって、放っておくわけにもいかないし。行くよ、みんな!!」


 アリスの号令に頷く面々。


「フィユ、ちょっと危険だろうけど・・・私から離れないようにしていて。」


「あのあの・・・はい。」


「フィユ、乗れ。」


 アリスの言葉に応え、後を追いかけようとするフィユを呼び止めるファラダ。


「ファラダ・・・いいのですか?」


「この際仕方あるまい。お前がいなくなったら、どっちにしろ、一生 あるじには会えないからな。」


「あのあの・・・お願いします―――――」


             ・

             ・

             ・


「フィユ様!!」


「えぇ、どうやら名のある海賊のようね・・・・この規模は、やっかいだわ。」


 騎馬隊を指揮するのはこの国の妃。しかし、現状は劣勢にあった。海賊の兵は数多く、この兵力差では対処が難しいが、本格的に軍を動かしてはこの街も無事では済まなくなる恐れがあった。


彼女としては、それは避けねばならないというのが心情。『どうすれば』、そう思った時である。目の端に移った光景に驚きを覚えた。果敢にも海賊の中に突っ込んで行く、明らかに少女としか思えない二人組。


しかし、その二人は次々と戦果を上げていく。目を疑うのは当然。自分達は訓練もしている騎馬隊。それが手をこまねいているという状況で、誰とも知らぬ少女達がどんどん敵を倒していっていた。


「なに、あの子たちは―――――」


            ・

            ・

            ・


「これは・・・なかなか骨がある奴みたいだ―――――」


 海賊の母船が見える位置まで来たところで、その帆を見たリアンがつぶやく。


「知っているの?」


「〝街喰らいのグルマン〟。(ぎょ)(じん)鮫人(こうじん)族の男が仕切る海賊だ。訪れる街の全てを奪い尽くす。たちの悪いやつらさ。手下の数も多く、賞金もけっこうな額だったような。ここら辺は縄張りじゃないはずなんだが・・・荒らす街がなくなったか?」


 ネージェの問いに、細かく説明するリアン。その時「あっ・・・」というフィユの声が聞こえ、その目線の先を皆が追う。そこには、あの妃がいた。しかし、フィユが真に目にしているのは彼女ではないようだった。


「〝ロイオランジュ〟―――――」


 フィユが言葉を漏らす。


「・・・えっ?」


「ロイオランジュ。あの妃に奪われた王槍だ。」


 アリスの疑問にファラダが答える。しばしの思案の後、再びファラダが口を開く。


「アリス・・・頼みごとをしていいか?」


「・・・・なに?」


「あの女から王槍を取り返したい。手伝って欲しい。」


「それは別にいいけど・・・・どうやって?」


「それは――――――」


          ・

          ・

          ・


「こんにちは、妃様。」


 アリスが、彼女の周りの敵を一掃し、妃に近づく。


「・・・・あなたは?」


「通りすがりの武芸者ということで。ところで・・・困っているんでしょう?私達が手伝ってあげましょうか?」


「・・・・そうだとして、あなた達の実力はどれほどなのかしら?」


 挑戦的な視線を向けてくる妃。それに軽く笑みを見せるアリス。


「実力はご覧のとおりで。今、目下で戦っているのはみんな私の仲間よ。」


 そう言って、ルージュ達を指差す。それが先ほど自分が目にした少女たちであることを知り、内心の驚きをあらわにしていた。


「あの少女たちも・・・・・」


「どう?悪くないんじゃない?」


「・・・・・目的は?ただ力を貸すってわけじゃないのでしょう?」


 明らかに不穏な目でこちらを見てくる妃。しかしアリスは、そんな態度にも一切動じなかった。


「話が早くて助かるわ。単刀直入に言うわね。フィユを自由にすることと、それから・・・その王槍を彼女に返すこと。」


「!?なぜ、そのことを―――――」


 明らかな動揺を見せる妃に、さらに言葉を続けるアリス。


「理由なんてどうでもいいじゃない。私が要求したいのはそれだけ。その代わりと言っては何だけど・・・この海賊の首、あなたの手柄として置いて行くわ。まぁ、後の交渉は当人たちにお願いするわね。」


 そう言って数歩離れる。入れ替わりに、ファラダに乗ったフィユが彼女の前に立つ。


「フィユ―――――」


 なぜここにいるのか、その疑問もあったがそれ以上に、フィユの不意な登場に本来の呼び方が口に出てしまった。


「あのあの・・・・カテジナ―――――」


「・・・・その名前、久しぶりに聞いたわ。なに?私に復讐でもしようというの?笑わせるわね・・・そんな交渉に、私が応じるとでも思って?例え王槍を渡したとして、そのままオランジュにでも行かれたら―――――――」


「カテジナ―――――」


 いつもの弱々しいフィユの声ではなく、〝彼女〟を思い出させるその口調に言葉を切られる。


「信じてもらえるとは思わないけど、私はあなたの幸せを願っています。だから、私はここを出ていくと同時に、オランジュ王族の名を捨てます。」


「なにを・・・言って―――――」


「私は、別にこの国に嫁ごうとそうでなかろうと、どうでもよかった。私は、あなたと一緒にいた時間が、一番楽しかったから。あなたの幸せが、私の幸せのようなものだったから。ここに来る時も、あなたと一緒だったから嬉しかった。こんなことになったけど、あなたが幸せなら別にそれでいいと思ってた。」


「・・・・なによ、それ。た、例えそれが本当だったとしても、なんで王槍が必要なのよ?そうよ、これを持ってオランジュに行くつもりなのでしょう?!」


 感情のままに言葉を投げるカテジナ。フィユの優しさを、今の彼女は素直に受け入れられる状態ではなかった。


「カテジナ・・・私が、その槍でないと戦えないのは知っているでしょう?私は彼女、アリス達と一緒に旅に出るつもり。彼女達は強い。私一人がお荷物になるのは嫌なの・・・・約束するわ。私は、あなたの幸せを妨害しようとする全てのものから、あなたを守る。」


 そのまっすぐな瞳にはっきりと〝彼女〟を思い出すカテジナ。あぁ、この人が嘘をついた事など、本当になかった。そう思い出させた。


「・・・・フィユ――――」


「・・・・私にまかせて。」


 自分は間違っていたのだろうか。そんなことを考えさせられたが、フィユの言葉が、今はその時ではないと語っていた。自然とカテジナの首が縦に落ちた。


「お願いします――――――」


 カテジナのその言葉を聞き、口に笑みを浮かべるアリス。大きく息を吸い、号令をかける。


「交渉成立ーー!!派手に行くわよーーー!!」


 事情を知る者は、口元に笑みを浮かべる。何も知らないボワとルージュだけが首を傾げる。


「何の事?」


 疑問を口にするルージュに駆け寄り、足に乗るよう指示するリアン。


「頭をぶっ飛ばしてこいってことだ!!」


「えっ??」


 そう言って問答無用で、ルージュを甲板まで蹴り飛ばした。


「えぇぇぇーーー!???」


叫び声を上げながら、ルージュの姿は海賊船の中に消えていった。


「・・・・ボクは下でいいよね?」


 ルージュの惨状を目の当たりにしたボワが、リアンに、おびえた視線を投げる。


「そのかわり、ちゃんと働けよ?」


「・・・・当然!!」


 リアンの返答に口元を歪め、笑みを浮かべるボワ。同時に敵陣へと駆ける。リアンもその後に続いた。


少し離れた場所からそのやり取りを見ていたネージェとラプ。ミカとラファも一緒だった。


「みんな元気だよね?」


「そうですわね。わたくし達も負けてはいられませんわ!」


 そう言って握りこぶしをみせるラプ。それに軽く微笑み、ネージェも戦闘態勢をとる。


「そうね、がんばりますか。ミカとラファも、フォローお願いね?」


「わかったしー。」


「索敵はおまかせ下さい。」


 そう言って二人の天使も、そのやる気をあらわにする。


「うん。それじゃ、レース。よろしくね。」


 ネージェが、傍らに居る相棒に声をかけると、首を縦に振り敵へと正対した。


             ・

             ・

             ・


「よし。それじゃ、私もそろそろ行こうかな?」


 アリスが肩を回し準備運動をする。ふと後ろを向くと、ちょうどフィユが王槍を受け取るところだった。一件落着と、安堵の笑みを浮かべるアリス。しかし、次の瞬間、その変化は起きた。王槍を受け取った直後、フィユの纏う空気が一変した。


「えっ・・・・フィユ?」


 思わず声がもれるアリス。ゆっくりとこちらを向くフィユは、何も変わりはなかったが明らかに変わっていた。


「・・・・久しぶりね、この感覚。これもあなた達のおかげね、アリス。ありがと。」


 ファラダに乗ったままこちらに近づいてくる。


「フィユ・・・だよね?」


「えぇ、間違いなくフィユよ・・・・さて、腕は訛っているかしらね、ファラダ?」


「いつでも行けます、主殿。」


 ファラダの口調も変わった感じがした。明らかに、雰囲気の変わったこちらのフィユを敬っているようだった。


「そう、じゃぁ行くわよ。橙の資格、魅せてやろうじゃない!!」


「御意!!」


 その言葉を残し、敵陣へと駆けていくフィユとファラダ。それを唖然と見送るアリス。


双顔(ふたつがお)―――――」


 後ろからこぼれた声に振り向く。声の主はカテジナだった。


「ふたつがお?」


「フィユは、オランジュ騎士隊にいた時にそう呼ばれていたの。普段はあのとおり気弱な子なのに、ファラダに騎乗して、さらに王槍を手にした時だけ、あのフィユが顔を現す。」


「そんなに違う?」


「えぇ。あの子はオランジュ騎士隊で、最強と謳われた初代と同様の、〝橙将〟の名を受け継いでいるわ。」


「最強――――」


 その言葉を聞いた瞬間、アリスの表情は唖然から笑みに変わった。


「最強ねぇ・・・でも、私だって負けないんだから!」


 そう言って自分も敵陣中へと駆けだす。逆に呆気にとられているのはカテジナだった。敵は自分達では手に負えないような海賊。しかし、彼女たちはそんなことは苦でもないと言った感じで戦っている。それをどのような顔で見守ればよいのか。加勢?むしろそんなものは邪魔になるのではないか。自分がどれだけ小さな世界の中に留まっていたのかを、カテジナは感じていた。


               ・

               ・

               ・


 戦地は大荒の中にあった。もちろん主役は彼女達である。その場に、ボワの姿を捉えられる者はなく、リアンの一撃は、敵を軽く海まで吹き飛ばし、ネージェの指示でレースは無駄なく戦果を上げ、ミカとラファもフォローに入り、ラプは自分やネージェ達を守りながら魔術で応戦する。


フィユは、久々と言いながらもその実力は本物で、途中からの参戦でありながらその戦果は目を見張るものだった。ファラダという機動力を持ち、王槍の一撃は軽く敵をなぎ払う。オランジュ騎士隊最強の名は伊達ではない。


しかし、その実力を突出させないのが彼女、アリスの存在である。現に、あれだけの実力を発揮していながら、この戦場においてフィユが目立つ存在とはなっていなかった。


アリスの手にする剣は次々と敵を打倒し、彼女の身に触れる事を許されているのは大気のみであった。まさに、戦姫。それ以外に表す言葉がみつからない。


そしてもう一人―――

 


『ドゴッ!!』



 爆音が響き渡る。周囲の目がその方向へと自然と集まる。その先では、海賊船のマストが徐々に崩れ倒れていっていた。ふと、甲板の先に赤い姿が現れる。その人物は、さも何ともなかったかのようにこちらに大きく手を振っていた。


その姿を確認し、彼女達は戦いの手を休めた。かくして、此度の戦闘の幕は下ろされたのだった。


                ・

                ・

                ・


「あのあの、改めまして、これからよろしくお願いします。」


 海賊を討ちとった翌日、新たにフィユを傘下に加え出立をするところであった。リアンは、このスディアの西の隣国〝コート〟が故郷で、生家に寄った後また合流するといい、一度別れることになった。


「それじゃ、またな。」


「すぐ追いついて来てね。」


 ルージュが拳を出すと、そこに自分の銀の拳を重ねるリアン。そして背中を向け、一足先に歩いて行った。


「皆さま、それでは。」


「またねだしー!!」


 ミカとラファも続き、3人を見送ると一行も次の目的地に向かおうかとした。その時だった。


「み、見つけましたです!!」


 一行の後方から声が聞こえてくる。それに振り向くと、突然アリスの胸に飛び込んでくる人物がいた。


「なに?!」


「アリス~。やっと・・・やっと見つけましたです~。」


「・・・お知り合いですか?」


 ネージェが不思議に思い問いかける。


「いや、私は・・・・ん?」


 否定しようとしたアリスの目にそれが映る。飛び込んできた人物の、頭にみえる長い耳。自分を知っていて、さらにやっと見つけたという言葉。合点がいく。そうだ、自分も探していた人物だ。やっと。そう、やっと。


「えぇ、やっと見つけたわ。〝うさぎ〟―――――」



 『ガシッ!』



 おもむろにその人物の頭を掴み、顔を覗く。表情は笑みを見せているが、明らかに再会を手放しで喜んでいる様子には見えなかった。


「うさぎじゃなくて、〝ラパン〟ですです。って、あ、あれ?アリス・・・怒ってるです?」


「当たり前だーーー!!」

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