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御伽噺戦記  作者: ran
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第9話 〝魔〟を喰らうは、『 魔 』

伝説とされる存在というのは、存在が曖昧だからこそ、いや、〝存在しえない〟からこそ伝説なのである。


しかし、この世界には〝存在の確定した伝説〟というものがある。それが、〝幻想(げんそう)現存(げんぞん)(しゅ)〟。


これに分類される者は確定順に序列が決められており、現在では七の存在がこれに該当している。その中でも、古株と称される上位三位を〝()(しゅ)〟と呼ぶ。


その中のひとつ、幻想現存種第三位、〝喰らい森のサングボイズ〟。実質的な存在年数は一位に価するとも云われており、フォレステストのどこかに存在するとされているが、その姿を確認した者は誰もいない。幻想現存種で唯一、不確実ながらに位置付けされている存在でもある。


彼女達が今いるのは、まさに、そんな悪魔の森の腹の中であった。


「〝魔の森〟、〝大食のサングボイズ〟・・・・・呼び名はいろいろあるようだが、その存在を確認した者は歴史上誰一人としていない。」


「幻想現存種――――協会発行の史書で読んだことはありましたけど・・・・まさか自分が遭遇する日が来るなんて―――――――」


「ボクはそんな奴の腹の中でいままで生活していたんだね・・・・・」


 リアンの説明にネージェが現状を頭で整理させようとしていた。その傍らでボワは落胆していた。


「でもなんで誰も見たことないのに、序列に入ってるんだしー?」


 ミカが最もな疑問を投げかける。それについてもリアンが答えた。


「噂で聞いた限りではあるけど・・・・・・あまりの遭難者の数を不思議に思った協会が、自操型の人形を使って調査をしたらしい。森の端から端まで人形を並べ、森を横断させるっていう方法で。結果は大半の人形が帰ってこなかった。だから、この森には何かいるっていう結論に達した。あくまでも噂なんだがな――――――」


「・・・・・・。」


 リアンの説明が終わり、それぞれが今の現状を確認している中、アリスだけが何か別のことを思考中だった。


(「史書は・・・読んだことない。でも、幻想現存種は知っている。なんかかっこいいと思っていたから、覚えはある。だけど・・・サングボイズ・・・聞いたことがない名前―――――これもあっち側と違うのね―――――――」)


「アリス?」


「あっ、ごめん。何?」


 ルージュに声をかけられ思考を中断するアリス。みんなの会話に参加すると、どうやらサングボイズを討伐し、ここを脱出すると言う話になっているようだった。


「それで?どうやって、誰も見た事のないそいつを探し当てる?」


 リアンが、もっともな疑問を口にする。


「え~と・・・それには一つ提案があるの。」


 そう言ってネージェが、こぶしを握った片手を口元にあて考え込みながら、もう片方の手を上げる。


「サングボイズはたぶん、自分を中心に鏡面型の結界を張っているんだと思う。だから、侵入してしまったら最後、抜け出せなくなってしまう。」


「鏡面型?」


「なんでそれだと出られなくなるの?」


 ボワとルージュが同じタイミングで小首を傾げ問いかける。


「読んで字のごとく。結界の内側の壁は鏡みたいになっていて、その壁面まで行くと自動的に全く反対方向に向かせられてしまうの。」


「???」


 ネージェが詳しく説明するが、二人の頭の上にはさらに疑問符が並ぶ。


「つまり・・・自分はずっとまっすぐ進んでいるつもりでも、壁面まで到達してしまうと、知らない間に反対側をむいて歩かされてしまっているってことね?」


「森を横断するつもりで歩いても、いつの間にか同じところを往復させられているってことか・・・・だけど、それじゃぁいつまでも見つけられないんじゃないのか?」


 アリスが自分なりの解釈を述べると、ネージェが頷きで答えた。さらにリアンも納得するが、そのまま疑問を返してきた。


「そこが一番重要なところ。だから、提案って言っても不確実な方法ではあるんだけど・・・・自分中心の牢獄結界は半球状にしか形成できないの。そして、鏡面結界における壁面での反射効果は必ず中心に返る。つまりは、どの壁にどんなふうに到達しても、〝絶対中心方向を向いて戻される〟ってこと。」


「それは・・・中心にぶち当たるまで走り続けろってこと?根気と時間がかかるわね――――――」


ネージェの説明を理解し、溜息を吐き項垂れるアリス。


「そうね。でも、もしかしたらそんなに時間はかからないかもしれない。」


「どういうことだ?」


 ネージェの思わぬ言葉に、いち早く反応し疑問を返すリアン。


「鏡面結界は牢獄型の結界として優秀だとは思う。その反面、魔力消費は著しいの。存在年数からいって、サングボイズは十中八九、木の魔獣か精霊。魔力は森から無限に収集しているかもしれないけど、年中結界を張り続けているというなら、そんなに大きな範囲の結界は張れないはず。森の魔力を吸い尽くしてしまうかもしれないから。それと、サングボイズがいままで誰にも見つかってないことを考えると、常に動き回っていることも考えられる。止まっている対象なら協会が見つけられないわけがないと思うし。その場合だと、さらに結界の範囲は狭くなると思うの。魔術結界を張ったままの移動は難しいし、大きい結界は解除するのも大変だから。これらを鑑みると、結界の半径は大きくても1から2キロ。この人数で探しまわれば、そんなに時間はかからない・・・・とも考えられる。」


 ネージェの長々とした説明に、一様に頭を悩ませる。


「・・・・・それしか方法がないのなら―――――」


 そんな中、アリスの言葉が皆の耳に届く。それで決心がついたのか、頷きで答える面々。


「誰かが倒せば、結界は消える。その時、たぶん目に見えて変化があると思う。意に反する結界の消滅は、魔力の暴発を招くから。」


 ネージェから、補足の説明が流れる。


「じゃぁ、それがわかったら、フォレストサグシスへ繋がる西の橋に各自集合だ。そこなら森の端が見えるらしいから、たぶん集まりやすい。」


 リアンの提案を聞きながら、それぞれが背中合わせに立った。


「みんな、また会うよ!!」


「「「おぉ!!」」」


 ルージュの号令で一斉にそれぞれの方向に走りだす。次会うことを、固く誓いあいながら。


                ・

                ・

                ・


『ザザッ!!』


 全員の姿が見えなくなったところで急に立ち止まるボワ。


「・・・・・見ているんでしょ。そろそろ姿を見せたら?」


 その言葉に反応したかのように、森一面だった景色が急に拓けた。その中央、明らかに異様な雰囲気を放つ木が一本そびえ立っていた。


『気づいていたのか。見かけによらず、するどいのだな。』


 周囲に響く、重い声。


「3年間もうろついて見つけられないんだから、何かがあるのは明らかだよね?」


 ボワの読み通りであった。ネージェの作戦はもっともなもので、あながちはずれてはいない。むしろ、当たりともいえる。しかし、サングボイズは周囲の結界の他にもう一つ、自分の周りにも逆向きに鏡面結界を張っていた。つまり、作戦通り外側の結界で中心方向を向き、上手くまっすぐ走ったとしても、中心付近の2つ目の結界で、また外側に向きを変えられてしまう。これではいくら探してもみつかるわけはなかった。


『まったく、こんな事になるなら早めに喰っておくべきだったわ・・・・・』


「・・・・・そう簡単に喰われてやる気はないよ――――――」


 そう言って、腰のククリ刀を抜くボワ。先ほどまでの陽気な雰囲気は、一切感じ取れなくなっていた。


「その赤い瞳が・・・・・あなたの本体でしょう?」


 構えは解かず、片手でククリ刀を遊びながらその一点に狙いを定める。確証は何もない。しかし、彼女の勘がそうなのだと叫んでいた。


『そうだとしても、貴様に出来ると思っているのか?』


「くす・・・・・ボクはね、強いよ?」


 言った瞬間、その場から姿を消すボワ。次に現れたのは、サングボイズの幹の中央、赤い瞳があるそのすぐ近く。身体に回転を加え、一気に両断にかかる。


しかし、そう簡単にはいかず、彼女の攻撃は突如伸びてきた枝に防がれ、自身も吹き飛ばされる。なんとか体勢を立て直し着地するが、顔を上げると同時に回避行動を取る。


ボワを仕留めんと次々襲い来る枝。それをかわしつつ、または反撃しつつ、何度も幹にたどり着こうと試みる。だが、初撃以来全く近づけずに数十分と経過していった。


「くぅ!?」


『そろそろ疲れが見えてきたな?強いなどとはよく言えたものだ。その程度でな―――――――』


「まだまだ・・・・これから―――――」


 そう言って構えなおすも、明らかに疲労の色を隠せないボワ。ここまでの本格的な戦闘は3年ぶり、むしろここまで戦えたこと自体驚きであった。


『若干物足りなくはあるが・・・・これ以上は期待できんな。そろそろ喰らうか―――――』


 枝がボワに狙いを定める。それを回避しようと足に力を入れた時、足元が滑りボワはその場に倒れた。


「しまっ・・・・・」


『ガシャーーーーーン!!!!』 


ここまでかと、心が折れそうになったところに響く大音響。その音に反応したのはサングボイズの方が早かった。


『なんだ!?我の結界が、破られただと!?』


 明らかな動揺。どうやら、自分の周りに張っていた結界が破られたようだった。赤い瞳をしきりに動かし、事態を把握しようとしていた。


『いったい何が・・・・・』


「あれ?なんか予想と違う・・・・・あっ、ボワーーー!!」


「・・・・・ルージュ?」


 辺りを見渡しながらあっけらかんと登場したのはルージュだった。ボワを見つけると、無邪気に正面から駆けてきた。


「ボア、大丈夫?傷だらけじゃん!?」


「ボクは心配ないよ。それよりも・・・・・」


『貴様がやったのか?!』


 ボワの言葉をさえぎり、サングボイズが問いかけてきた。その声の方にルージュは向き返る。


「あなたがサングボイズ?まんま、木だったんだ。」


『こんなことはありえん!!我の結界を破るほどの魔力を持った人間など、高位の魔女でもごく少数のはず・・・・まさか、その歳で魔法士だとでもいうのか――――――』


「ん~、言ってることよくわかんないけど、とりあえず褒め言葉として取っておくね。でも・・・わたしは、魔銃使いだよ!!」


 幻想現存種にむかい、臆することなく、むしろ挑発的に怒鳴り魔銃をかざすルージュ。


『魔銃・・・だと?そんなもので我の結界を破ったとでも――――』


「言うよ・・・・・ベオウルフをなめないで。」


 そう言って、左の銃を腰のあたりに、右手の銃を前に出し構える。


「・・・ルージュ?」


「見せてあげる。ベオウルフのもう一つの姿・・・・・〝(かい)(てん)〟!!」


言葉に呼応し、その身を光に包むベオウルフ。その光がおさまった時、そこにあったのは、2丁の拳銃ではなく、異質な形の巨大な物体だった。


「魔銃第二形態〝ベヒーモス〟―――――――」


『巨大化した――――まさか、その程度で強さが増すわけでもあるまい?』


「増すよ。だって、ただの巨大化じゃないもん・・・・・ベオウルフの特徴を、その汎用性、使い勝手と多様性にあるとするなら、この〝ベヒーモス〟の最大の特徴は、魔力効果を無視できるほどの単純高火力なんだから。」


「魔力効果を・・・・・」


『無視するだと――――――』


 ボワどころか、サングボイズまでもルージュの説明に耳を向けていた。


「この子は、撃てる弾種を3つしか持ってない。しかも、1発撃てばその弾種の再生成に1日を費やす。だから、この子の最大連射数は、3種類の弾種を一気に使ったとしても3発――――――でも、それは大したデメリットでもない。」


「・・・・つまり、その弾数の少なさをおして余りある力を・・・その銃は備えている?」


 ボワの問いかけに顔を向けもせず頷きで答えるルージュ。彼女の瞳は、先程からずっと標的に狙いが定まったままだった。


「うん。さっきも言った通り、この子の利点は単純な高火力。その破壊力は、まさに魔銃と言って然るべきもの。・・・・まぁ、喰らってみればわかるよ?サングボイズ――――――――」


 そう言って、そこが銃口であろう赤黒い瞳のような球体を、サングボイズへと向ける。


『おとなしく受けるとでも思っているのか!?』


 案の定先手を打ってくる。しかし、伸びてくる枝をボワが阻止する。


「ボクが時間を稼ぐよ!!今のうちに準備を!?」


「ありがとう、ボワ。でもその必要はないよ―――――弾種は3つって言ったよね?この子は内部で弾を生成するから、使わなければ常にストックされている。だから・・・・必要な時間は、弾種を選んで左手のレバーを引くわずかのみ!!ボワ、退いて!!」


 ルージュの声に反応し、その場を離脱するボワ。ルージュの目の前には敵だけが見えるようになる。


「弾種、装填〝エクスプロード(爆裂型)〟!!」


 声と同時に左手のレバーを引く。ガゴンと、弾が装填される音が重く聞こえた。そして、照準を合わせなおしたルージュの口元は、普段からは想像できない、妖しげな笑みを現していた。


『させるかーーー!!』


 サングボイズが、枝を総動員してルージュに襲いかかる。しかし、それに一切動じず構えを崩さないルージュ。


「ベヒーモス―――――〝(ばく)(れん)()〟!!」


 撃ち出された赤い球体は、襲い来る枝をことごとく焼き尽くしながら幹へと迫る。


『バ・・・バカな――――――――』


 『ゴァッ!!!』


 爆炎と爆風が立ちこめ、音はその衝撃の大きさで逆に無音となり、着弾の瞬間さえ見落としたのではないかと言うほどの閃光であった。徐々に余波が消え、完全になくなる頃には、サングボイズの姿は跡形もなく消え去り、空には先ほどまでは考えられなかった青空がところどころから覗かせ、地面には巨大な傷跡を穿っていた。


 『パキンッ!』


 乾いた音を立て、ベヒーモスはベオウルフの姿に戻る。そしてその所有者は、「ふぅ。」と息をひとつ吐き出し、その場に横たわる。


「ルージュ!?」


 ボワが急いで駆け寄るが、その表情は心配するような顔はしておらず、むしろさわやかな笑顔だった。


「青空、キレイだね?」


「うん・・・・3年ぶりの、空だ――――――――」


 一つの大仕事を終えた二人はその余韻に浸っていた。しかし、不意にルージュが、何かを思い出したかのように立ち上がる。


「・・・・・ボワ?」


「ん、なに?」


「・・・・方角わかるもの、持ってる?」


 ルージュの言葉に小首をかしげるが、すぐに言葉の意味を理解したのか、突然自分の体をくまなく触りだした。その手が止まると、ボワは無言のまま顔を上げた。


「・・・・・。」


「・・・・・。」


 そのまま無言で見つめ合う二人。


「「うわぁぁぁーーーーーー!!」」


 あてもなくやみくもに走りだす二人。この後、約2日をかけて他のみんなと合流できたが、サングボイズが消えたこの森で迷った人物は、後にも先にもこの二人だけだったという。


しかし、それを知る者は本人達も含めて誰もいない。


 さらに余談となるが、サングボイズが幻想現存種から除外されるのは、この時から数えて5年後であったという。

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