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御伽噺戦記  作者: ran
1/41

第0話 ーPrologueー

これは


とある世界の


とある時代の


とある大陸の


とある運命を背負い


とある出会いを経た


とある戦姫達の


とある


『 御伽噺(おとぎばなし) 』


     ・

     ・

     ・

     ・

     ・


「はぁぁぁーーーーーーー!!」


 自分の周りにいる敵を、その乱舞で蹴散らす。右手に長剣、左手に刀を握った青の服を身に纏う女性。両手の得物を振り、敵の血のようなものを払うと武器を鞘に納め、今度は腰の大剣を手に取り、再び前を見据え戦場の中へと飛び込んで行った。


 辺りを見渡せばそこは、血と硝煙が蔓延り、死が転がる場景であった。地に伏せる者達は数知れず、もはや人の形をとどめていない者も少なくはなかった。しかも、ここだけが戦場というわけではない。戦地は世界規模で散在し、平和と呼べる場所はないにも等しい。


 敵対する悪魔は、どこからともなく現れる。そして口にするのは「アルテ様復活のために」という言葉。それが何を指し示すかは誰もわからなかった。しかし誰しもが、それは阻止しなければいけないものだと思い戦っていた。


「後、少し・・・・・一気に片付ける!!」


「「「おぉぉーーーーー!!!」」」


 青の女性の指揮に応える兵士達。


兵士たちは甲冑を身に纏う者ばかりでなく、簡易的な防具だけを付けた人たちも多く見られた。しかし、それ以上に異様なのが彼女であった。防具すらも身につけず、その身に携えるのは種類の異なる剣3本のみ。さらに、明らかに見てとれる年齢の差。どう考えても、今この戦場において最年少であった。


彼女の噂は戦場に広まっており、〝(あお)戦姫(せんき)〟と呼ばれることが多い。しかし、一団の中には、彼女を将軍と呼ぶ者もいた。新しくこの一団に入って来る者たちはそこに違和感を覚えるが、戦闘が始まればすぐに合点がいく。ひとたびその強さと先導力を目の当たりにすれば、否応なく頭が理解してしまう。『彼女こそが将軍だ』と。


 数刻の後、辺りに静けさが戻る。そこに立つのは、将軍と、数百にまでその数を減らしてしまった兵団。彼らは皆、一様に目を閉じ、戦場にむかい黙祷を奉げる。


「・・・・・ごめんなさい。私には、こんなことしか、皆にしてあげられることがない・・・・許してとは言わない。ただ・・・私達はここで、止まるわけにはいかないから・・・・・今は、進まなければいけないから―――――」


黙祷を解き、地につけていた片膝を立て、その土を払う。


「・・・・・・・それじゃぁ、またね―――――」


 その言葉を最後に、後ろに振りかえり歩き出す。その後に続き、兵団も一人として乱れず同じ行動をとる。彼らの後方、先ほどまで戦場であった場所には、数え切れないほどの、十字架が建てられていた。


                ・

                ・

                ・


「増援隊はいつになったら到着すんのかね?」


「もう2日になるか・・・・やられちまってるんじゃねぇか?」


 二人の兵隊が、倒木に腰を掛け、疲れ切った顔で会話を交わす。


 数日前、彼の戦地にて勝利を収めた一団は、人員増強の為、別隊との合流を待ち、ある森の中にいた。しかし、彼らがこの場に到着したのが4日前。約束の期日からはすでに、2日が過ぎようとしていた。彼らの脳裏によぎるのは別隊の全滅。そのうえ、この森の先は激戦区であり、下手をすれば、ここもいつ戦場になってもおかしくはない。その不安も、彼らの疲労に拍車をかけていた。


「・・・・将軍は?」


「ん?そういえば、さっき向こうの泉の方に行ったのを見たような・・・」


「何をしに?」


「さぁ?」


「ふぅん・・・・・・・・ところでさ、おまえ伝説の剣の噂って聞いたことあるか?―――――――――――」


                ・

                ・

                ・


「・・・・あなた、誰?」


 青の女性が、腰の刀に手をかけつつ問いかける。その正面に立つのは、戦場に近いこのような場所には似つかわしくもない、白を基調とする服をまとう少女。頭には長い耳。右目は鮮やかな黄色、左目は同じく鮮やかな橙色だった。


「あなたが、〝青の戦姫〟ですか?」


 逆に問いかけてくる白の少女。怪訝に思いながらも、その呼び名に心当たりのあった彼女は、そこを話の起点としようと、まず自分が答えることにした。


「・・・・・・そう呼ぶ人たちもいるわね――――――それで、その名で私を呼ぶっていうことは、私を探していたということでいいのよね?何の用かしら?」


 警戒を継続しつつ、何者であるかという疑問を後回しにして先を促す。


「はい、あなたにお願いがあって来ましたです。」


「お願い?」


「はいです。あっ、でもわたしは案内役ですので。ついてきてほしいのです。」


 そう言うと、頭の上の長い耳を揺らしながら、森の奥へと走っていく白の少女。


「ちょ、ちょっと!?待ちなさい!!」


 怪しくはあったが、こんなところで彼女を一人にさせるわけにもいかず、青の女性はやむなく後を追う。


 先ほどまでいた泉に繋がる川沿いを、森の奥へ奥へと走っていく。自分は全力なのに、少女との差は全く縮まらない。


「はぁ・・・はぁ・・・・兎人(とじん)族って、こんなに足が速いの?―――――ちょっと!?何処まで行くのよ、()()()!?」


 必死に走りながら前の少女にむかって叫ぶ。すると、急に足を止め、ここが終点だと言わんばかりにこちらを向き、女性が追いつくのを待つ。


「ここでございますです。」


 にっこりと笑う少女。そこには岩壁があり、割れ目からは小さな滝のように水が流れ出ているというだけで、周りは先ほどまでとなんら変わらない森の中だった。少女の足元には、滝壺とはお世辞にも言えない小さな水たまりがあり、その水は先程まで辿ってきた川へとつながっていた。


「ここ?――――――何もないじゃない。」


 息を切らしつつやっとの思いで追いついた女性は、それでも特に何の変化もない周りの情景に、少し呆れ気味に言葉を発する。しかし、それに対して白の少女は、ここからだと言わんばかりに首を横に振った。


「ここは出発点ですです。よく聞いてくださいです。これから行く場所には、あなたを導くものがありますです。でも、それは時が来るまで決して開けてはいけないです。あなたが使い道を見出し、使うべきと思った時だけ、それを使ってくださいです。もし時を違えれば・・・・この世界に、未来は永劫訪れませんです。」


「!?―――どういうこと?!」


 少女の口調は先程までと変わりはなかった。しかし話の内容は、彼女の話しが本当だとしたら、とても重いものではないかと青の女性は感じた。そして、その言葉が自分に向けられているということも合わせて、彼女は理解しようとするだけで必死だった。


そんな女性の様子にも構わず、白の少女は先を促す。


「詳しいことは〝むこう〟に着いたらご説明しますです。わたしもお手伝いいたしますですよ。それでは、行きますですよ!」


 そういうと少女は女性の手をとる。


「あっ、言い忘れました!わたしはラパンって言いますです。()()()なんて名前じゃありませんです。それじゃ、行きますですよ!!・・・・・世界の命運を、あなたに託しますです―――――――〝アリス〟。」


「えっ――――――」


 女性が言葉を発しようとするが、それより早く、少女が水たまりの中に飛びこんだ。すると、淡い光を放ちながら少女の身体は水たまりの中に消え、手を繋がれたままだった青の女性も、勢いのままその中に姿を消していった。

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