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プロローグ

今日もどこかで誰かが恋をし、愛を育む。


SEXをする。子供が生まれる。そいつらが成長して僕らになった。


けど僕はその永久ループに進めないでいた。


きっかけはいつでもあるんだろうけど。


焦燥感はやがて寂しさに変わる。


寂しさを埋めるために僕らは毎日発散した。何かしらの形で。


とっても気持ちいいんだけど、終わった後のギャップは僕をいつも寂しさの渦中に戻す。


そしていつも後悔する。


僕はなにをやっているんだ。


一体何に言い訳してるんだっけ、僕は。




人生で初めて殺されそうになった午後8時。

いつもの日課であるAV鑑賞は出来ずにいた。

だって夜の学校を駆けまわらないといけないからねって。

読者に説明しながら校舎から出た。

とりあえず逃げているのだけれど、このイベントは終着するのだろうか。

さっき()()()思いっきり殴られたおかげで頭がふらふらしている。

分からないけど、多分骨折かなんかしているんだろう、物凄く身体のどこかが痛い。

今にも倒れそうだ。

息を切らしながら空を見上げる。

馬鹿みたいにデカい満月が僕たちの試合場を照らしていた。

正面の校舎は月明かりに照らされ、そのシルエットだけが山脈のようにそびえ立つ。

風が吹き荒れる校庭。流れる砂煙。真ん中に立つ僕。

どこからともなく流れて来る古い団地の室外機のような低音。

僕の知っているあいつはこんな音を出しながら日常を過ごしていなかったはずだった。

今までの出来事も。

お前のような普通スペックのハイスクールボーイの見せ場じゃない。

僕たちは普通の人生で良かったじゃないか。

今日も日が暮れ、僕は部屋で1本抜く。

そんな日常は今日変わった。

僕もあいつも何かが変わっていく。

もしかしてもう普通の日常には戻れないのかもねって。

僕の脳内彼女が下校途中の夕暮れデートでふと呟いたような気がしたが、目の前の殺伐とした雰囲気がその彼女を軽トラで轢いて行った。


校庭を抜け、薄暗い校門についた。

あいつから、友達の中でもとりわけふくよかで大食いキャラの勝山くんからようやく逃げ切れる。

彼はデブキャラの宿命を断ち切り、なんやかんや猛スピードで追いかけてきた。

おかげで何発か食らったが、彼の繰り出す一撃で学校中穴だらけである。

まるで戦車だ。いや、暴走トラックだ。ハイウェイで永遠に追いかけて来る奴だ。

とにかく早く病院へ。身体が痛すぎる。

あれ。

校門を通るとき誰かとすれ違った気がした。

というかすれ違った。

こんな時間に学校に来るなんて早起きで勤勉なんですね。

と冗談交じりだが、内心こんな場面に遭遇したくない相手がそこにいて、イラつく。

長沼紫乃。

渦中の登場人物であり、勝山くんをなかなかの()()()に仕立てあげた人物でもある。

彼女は制服のまま来たようで、僕と入れ違いに校舎に走っていく。

まさか、あいつに会いにいくんじゃないだろうなと振り返る前に呼び止められた。


「佐藤君!」

彼女の声は一刻も早くこの場から去りたい僕にとってまるで墓場から呼ぶ声のように聞こえた。

「な、何?」

「勝山君、まだいるかな?」

勝山の変貌ぶりを知らない彼女に一から説明している暇はないと、僕は知らないと答えた。

その瞬間、校舎の方から壁の崩れるような音がする。

「何かすごい音するけど、とりあえず行ってみるね。」

「いや行かないほうがいいよ。」

何で?と彼女は不思議そうな顔をする。彼女の顔はとても美人で、テレビ映えしそうな大きな瞳で見つめられるとこんな状況でも嬉しくてドキドキしてしまった。

いかに僕が恋愛困窮者なのかがよく分かる。

美人は僕の心の中にすぐ入って来て、僕の作り上げた部屋を勝手に自分色に変えて退去していく。

それくらい僕の部屋は鍵が用意に開くらしく、幾多の被害に遭っていた。

「危ないから。」

「危なくないよ。勝山くんだし。」

「違うんだって。」

「違うって何が?」

「だから・・・」

「?」

「勝山は君を殺しゅつもりだよ。」

緊張で噛んでしまい、謎のキャラクタリスティックを出してしまった。

彼女はその点も指摘せず適当にかわす。

「大丈夫。私が勘違いさせたんだから。謝るし。」

彼女が事情を分からないのは仕方ないが、謝罪を全能だと思える思考が羨ましい。

僕は少し勝山に同情してしまうところもある。

こんな美人に謝られたところで自分の惨めさが助長されるだけじゃないか。

でもかわいいよな、やっぱ、うん。

勝山、しょうがないよ、これは。

「じゃあ行って来るね、というか元気ないね?佐藤くん。病院行きなよ。」

ばいばーいとセブンティーンの女子高生らしい適当さで言うと、そのまま軽く走り去って行った。

どうしよう、止めるか。

でも今の僕が行けば確実にヒロインを守って殺される惨めなモブキャラクターである。

まだ2ページ分くらいしか喋ってないし、冒頭で童貞であることをやんわり言っただけじゃないか。

逃げよう、とにかく無事生きて童貞は捨てたい。

そう思った瞬間、校舎の方で強烈な衝撃音が放たれる。

後に続いて、地面が揺れる。

そして勝山の悲哀に満ちた咆哮が校門の鉄格子を揺らした。


紫乃は校庭を走っていた。

さっきの音は何なの?

高校生特有の破壊衝動ってやつ?

警察沙汰は嫌なんだけどなあ、勘弁してよ。

校庭には何もいる気配はなく、堂々とした校舎のシルエットが見えるだけだった。

しかし、かすかに低音が響いているような気がする。唸り声?犬?

そして低音が一瞬止む。

「勝山君!」

紫乃は勝山が近くに居ると思い、大声を出した。

返事はなかった。

すると電球が切れたようにその場が暗くなる。

あたり一帯を空気の流れる音だけが響いた。

よくみると自分の周りだけが暗い。

紫乃が見上げると、月明かりを遮るその物体は屋上からこちらを臨んでいた。

次の瞬間、衝撃波のような咆哮で校舎の窓ガラスが一斉に割れる。

紫乃は後ろに大きく吹き飛ばされると、校庭を転がり続けた。

何が起きているのか分からない。

目の前は大きく回転し、その勢いに反発できず、身体を流れに任せるしかなかった。

校庭の真ん中まで押し戻されたのだろうか。目を開けると校舎が小さく見えていた。

見たこともない恐ろしい力に圧倒され、一瞬にして死の恐怖が襲って来る。

さっき伝えようとした言葉はもう感情の濁流に飲み込まれてしまった。

早く逃げなきゃと立ち上がるが、耳鳴りで耳がおかしくなり、直立を維持出来ない。

咆哮が止むとその物体は屋上から飛び降りて来た。

こちらにも伝わるほど激しい地響きが鳴る。

視覚で感じることの出来そうな殺意に紫乃は身動きがとれなくなった。

そしてその変わり果てた同級生の異形に恐怖し、自分がいる場所が現実かどうかを疑った。


巨大な全裸の男である。

四つん這いになっている姿で校舎の1階は全く見えなくなるその大きさは異様だった。

赤黒く血管の浮き出た巨大な四肢で四足歩行し、手足の指の先端から鋭く削られた骨が飛び出ている。無理に伸びたであろう骨は自身の身を削った血か、誰かを襲ったときのものか分からない。

何よりその異様さを彩る三つ存在する頭。目は血走り有らぬ方向を向き、歯は鮫のように複数の列で構成され、既に誰かを食べたのかその口からする激しい腐敗臭が辺り一帯に広がっていた。

彼のトレードマークでもあったスタッズのついた首輪が三つそれぞれに付いていたが、それ以外は彼を彼だと判断できる材料は何もなかった。

()()血でべっとりと汚れた頭を振り、ビチビチッと校舎に血液の打ちつける音を響かせる。

尻から伸びた背骨のような尻尾を真横に振り、それが校舎にあたり、校舎の一部分が崩れた。

尻尾に付着した血液が紫乃のところまで飛び、頰に当たる。

いやっと小さな声を出すと、彼は後ろ足を縮め、紫乃を喰らおうと飛びかかった。

紫乃はあまりの速さに目が追いつかず、瞼を閉じてしまう。

あ、死んじゃう。

死ぬときって結構あっさりなんだ。

そう思ったその時、誰かに突き飛ばされ、一緒に校庭に転がった。

目を開けると、隣で目線だけ紫乃の胸元に突き刺している佐藤がいた。

自分のブラウスが衝撃ではだけていた。

ありがとうと言う前に危機にエロスを求めた佐藤の気持ち悪さがその言葉を止めてくれた。

こいつ、まだバレてないと思ってやがる。


ギリギリで僕の能力が発動し、身体能力が上がる。

そして合法的に長沼さんに飛びつき、勝山が当たる直前にその突進を避けた。

勢い余った勝山はそのまま学校を囲む塀に激突し、校外へ出た。

さっきよりもデカくなってやがる。

このくらいじゃまた戻って来る。

早く立ち上がろうと思ったが、ちょっとこの状態を楽しみたい。

ほのかなシャンプーの香り。

ブラウスの胸元がはだけている。

視線は誰かに操られるように胸元を向き、僕の頭の中の録画ボタンはその誰かに押された。

最終更新が保育園で止まっていた脳内の()()()()()が更新され、歓喜に湧いた。

これでしばらくはオカズに困らない。

「佐藤君、どうなってんの?」

更新が止まった。

「どうもこうも、さっき言ったじゃん。」

砂を払いながら何もなかったかのように僕は立ち上がった。

しかし、身体の痛みが激しく、正直、立っているのもキツかった。

能力の発動はもう限界だ。

はやく逃げよう。

その言葉が出る前に紫乃は勝山君とバカでかい声で叫んだ。

「何やってんだよ。」

「何って話すのよ、彼と。」

「話なんか出来ないだろ、今の見ただろ!?」

「分かんないでしょ、怒っているだけかも。」

この女は、本当に。

呆れて物も言えなかった。

今の殺意を感じて何も思わないのか。

勝山を傷つけた彼女。

いろいろあって彼は憎しみの果てまで行き、ああなった。

ああなったが、あいつは数少ない友達だった。

陰気な僕の相手もしてくれた。

少なくとも人を殺すほどの憎しみを持つ奴ではなかったはずだ。

それを謝るだけで済まそうとしている。

あんな姿になってしまった彼に。

恋愛は必ず上手くいくとは限らない。そりゃそうだ。

ただ、悪役なら悪役になれ。

この状態から勝山に手を差し伸べるお前は一体何なんだ。

「話してどうするんだよ。」

「謝るのよ。今までのこと。」

「謝ってどうする。」

「何よその聞き方。終わらないじゃない。」

勝山を差し置いて、本当の彼氏と付き合い、幸せに暮らす。

そして、子供を産み、永久ループに入っていくんだ、こいつらは。

何食わぬ顔で。

闇に落ちた勝山は一人ループから外れていく。

そしてこいつらの記憶からは消えていくんだ。

残念だった友達として。

勝手にエピソードが美徳化され、彼がいたから僕らは今幸せだなんて、間抜けな思い出の一つにカテゴライズされていくんだ。

そうなっちゃいけない。

人の人生の一部に養分として加えられるだけの人生だなんてごめんだ。

まだ何もしていないんだろ。

だったら奴らの間抜けな人生ごと食ってしまうぐらいできるだろ。

助けるよ、勝山。

ループには入れないのはお前だけじゃないんだ。


「何よ、黙っちゃって。」

遠くで勝山の咆哮が聞こえる。そして直後、校庭に強い風が吹いた。

校庭に砂煙が巻き起こり、視界が一気に遮られた。

来る。

「あ、勝山君だ。おーい。」

やめろって言ってるだろと僕は長沼の口を塞いだが、怒涛の殺気を感じその勢いで長沼の頭を思いっきり下げた。

その瞬間、砂煙ごと勝山の腕が空を切り裂いた。

何百本のバットを一気に振ったような音。

勝山の爪に付着していた血液が飛び散り、校庭にビチャビチャと音を立てて叩きつけられた。

いやっと彼女が声を出すと、さらに勝山は腕を振るった。

地面に伏せていたお陰か間一髪当たらずに済んだが、僕は迷った。

このままじゃやられる。

でも僕の能力を使うのは正直嫌だ。

友達をあの状態にした彼女を助けるために命は張りたくない。

僕はヒーローじゃないし、そんなに優しくない。

誰だって助けることが正しい?

手遅れの友達は放っておいて、美人を助け、どこかの誰かに友達が、残念だったねって慰められる。

その後仲が悪かった二人だけどだんだん仲良くなっていって最終話には二人で人生を歩んでいく。

そんな安い、己の欲を満たすだけの物語にはしないんだ、僕は。

理想論ばかりが書かれた虚構の物語。

それこそまさにオ●ニーというんだろ。


僕は地面に伏せた長沼さんのお尻を鷲掴みにした。

仕方がないんだ仕方がないよねとつぶやく真顔の僕に顎を狙ったストレートをかます長沼さん。

この力なら正直勝山も倒せるよねと僕の脳内彼女がファミレスデート中にパフェを食いながら言う。

違うんだ。

違うんだと、更にこっちを向いた長沼さんの胸を揉みしだいた。

長沼さんのストレートはフックに変わり、僕の顎がおでこに行きそうな勢いで飛んで行った。

これは長沼さんが少年漫画のように覚醒するシーンねと脳内彼女はフックの勢いで吹っ飛んだパフェを頭に被りながら言った。

違う。

僕は勃起した。

違う。

これが僕の能力なんだ。

脳内彼女の顔は長沼さんに変わり、やがて彼女への熱い欲望が込み上げて来た。

勝山はイチャイチャする僕らを見て、ドン引きしたのか少し勢いがなくなり、遠くへ離れていく。

ドン引きなんかしてないぞと勝山の咆哮が聞こえると。彼は猛スピードで僕たちに突進してきた。


高速の鉄の塊が巨大な岩に叩きつけられたような破壊音。

僕は目の前の勝山の頭を身体の踏ん張りだけで受け止めた。

一度は食らいついた勝山だったがその歯は自身の突進の衝撃と僕の()()で折れ、それでも衝撃を殺せず、頭上を超えて吹き飛び、校舎とは反対側の地面に大きく転がった。

長沼さんは頭を抱え、小さな声で何が起きてるのとつぶやいた。

僕は興奮すると硬くなるんだ、()()()みたいに。

受けた衝撃で意識が飛び、倒れこみそうになったものの、大きく足を地面に叩きつけその場に踏みとどまった。

頭から血が吹き出し、鼻血が止まらない。

けれど何故か力が湧いて来る。

その時僕は自分では気づかないものの、ある種の興奮状態にあった。

まるでお気に入りのAVを見つけ、これから一仕事しようとするかのように。

ピンクのような赤いオーラが包み込み、炎のように燃え盛っていた。

この為に僕はずっとしていなかった。オ●ニーを。

俗に言うオ●禁。

僕は性欲を溜めると強くなる能力を身につけてしまったんだ。

でもその能力についてまだ詳しく分からない。

実際、身体が強くなる程度しか感じられず、足が速くなったり身体が丈夫になったりする。

でも今分かった。

この能力は()()()()()()()()()()()()強くなるんだ。

オーラが出たのは初めてだった。

風俗店のような色合いだけど、気分は悪くない。


「聞こえるかよ勝山盛大!」

盛大とは勝山の名前で、あだ名はもちろん「大盛。」

「まだ貸したままのDVDがある。返してもらうぞ。」

とあるアイドルが昔出演したとされる作品。もう一度見たいのは本当だ。

「こんな女を殺して化け物としての本望をとげる必要はないだろ。」

勝山からは何の反応もなかった。

けど、これくらいで死ぬようなやつでもなかった。

「だからお前がもし死ぬんなら化け物の成り損ないとして始末するよ。」

少し小さい声で言った。

こんな場面経験したくなかった。

友達を殺さなきゃいけない。

「まだ死ぬかどうか分かんねーけどな!」

大声で願うように言った。

大きな咆哮とともに勝山が起き上がる。

本当に。

本当に人を恨んで殺してしまったらそいつらの思うツボだぞ。

僕たちはループから外れたって進んでいけるんだ。

またピンクのような赤いオーラが包み込み、赤みが増した。

放出するのは初めてだ。

ループには入れないもどかしさと友達を失う絶望と、さらに増した性欲を。

()()()()()()()()()()()()()

人生で初めて殺されそうになった午後8時。

化け物になった友達と対峙した。


そして性欲の強い僕がオナ禁したら滅茶苦茶強くなることが初めて分かったんだ。

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