残念ながら、そこは譲れない。
長かった。
テストとかいろいろあって更新遅れました申し訳ない!
「では、単刀直入に。」
そこまで言うと、中将はその頭を下げた。
「ここへの攻撃を、中止していただきたい。」
その言葉を聞いて、姫様の眼力はさらに強くなった。
「攻撃の中止、ですって?それはつまり、事実上の停戦じゃない。」
「まぁ、そうなりますな。」
姫様の眼力にも、あくまで紳士的に答える中将。
僕とローゼはただただ驚くばかりだ。
前代未聞の魔族との停戦協定。
果たして、真意は……。
「私は―――」
「いえ、今答えを出す必要はありません。私はこちら側の条件を提示したに過ぎませんし。この決断はとても重要なものとなります。どうか、熟慮していただきたい。」
中将は、答えを出そうとした姫様を遮って、そういった。
そして僕とローゼをちらりと見るとにこっと笑って(多分そう)
「その前に、何かおいしいものでも食べに行きませんか?この辺に私が大好きなお店があるんですよ。」
なんて言ってきた。
魔王領の料理、食べてみたい。とても気になる。
カバンの中からガイドブックを取り出し、探してみると……あった。この辺の昔の案内だ。
えーっと、このあたりでは昔から唐辛子をふんだんに使った料理が多い、と。
なるほど。僕は辛いの大丈夫だけど、姫様やローゼは大丈夫だろうか。
「あの、姫様。姫様は辛いのとk―――」
「さぁ、着きましたよ。」
僕が質問しようとすると、馬車が止まった。
馬車から降りると、ちょうど太陽が地平線に沈もうとしている。
目の前の店はちょっと大きいが、何の変哲もない酒場だ。
「何かおいしそうなにおいがしますー!」
「ほんと、香辛料のにおいがするわね。」
「ええ、魔族の伝統料理とこの地域の郷土料理とを掛け合わせた料理の店です。味は保証しますよ。」
「見た感じは普通の酒場ですけどね。姫様は、大丈夫ですか?」
おそらくこういう酒場には慣れていないだろう。料理とか雰囲気とか、合うのか?
と、思ったのだが。
「ええ、大丈夫よ。並のチンピラなら秒で殺せるわ。」
そっちの心配はしてませんし、殺さないでください。
店の内装はきわめて一般的な、僕たちのよく知る酒場のものだった。
少し汚れた壁にはよくわからん落書きやら鹿の頭やらが飾ってあり、丸テーブルが並んでいて、カウンター席もあるようだ。
ウエイトレスにちょっかいをかけた客がちょっとした反撃(チョークスリーパまでならOK)を喰らうのまで大体同じ。樽から直飲みする自称酒豪が居るのも同じ。
まあここまでは至って普通だが、どうも違和感がありまくりである。
……骸骨の口から入った酒って、どこに消えるんですかね。
つまり、客がみんな魔族だ。それも多種多様な種族の。
今言った骸骨はもちろん、鬼だったり人狼だったり鳥人だったり。
そのほかにもたくさんの種類の魔族であたかも百鬼夜行だ。
「ふふ、驚かれましたか?」
「……ええ、まあ。」
魔族達がこんなに賑やかに飲み食いしている姿を見ると、今までの価値観が音を立てて崩れていく。
「なるほどな、これが狙いか?」
「狙いって何です?何はともあれ早く何か食べましょうよ!お腹ぺこぺこです!」
姫様はなにやら中将に言いたいことがあったようだが、ローゼが全身を使って空腹を訴えるので、それも諦めたようだ。
僕たちは中将に任せてテーブルについた。
「おっす、ラルス!なんだぁ、お客連れてんのか?珍しいじゃねぇか。」
僕たちがテーブルにつくと、隻腕のライカンスロープがテーブルにやってきた。
「ははっ、そうかね。紹介しよう。こちらこの酒場の店主、アウィドだ。」
「おう、高級料亭『笛吹きの駄馬亭』店主のアウィドだ。よろしく頼むぜ紳士淑女諸君!」
がっはっは、と笑いながら冗談交じりに自己紹介をするアウィドさん。
なかなか豪快で面白い人だ。
「そしてこちらは……珍しいぞ?人間、レウコユム姫とそのお仲間達だ。」
「……レウコユム……姫?マジか!ヒビスクスの姫様じゃねぇか。そりゃ高級料亭に来るさなぁ!?意味わかんねー!」
「「「……」」」
そりゃそうだ。魔王寮に人間が来るだけでも珍しいだろうに、その姫様がこんな酒場に居るんだから。
僕も今の状況が信じられない。
「まあ、こんな奴だが悪い奴じゃないのは確かですよ。軍学校時代からの悪友で、事故で片腕を失ってからこの酒場を開いたんです。」
なるほど。元軍人だからこそ前線近くで酒場をやってるのか。
「……姫様にお代なんて払ってもらえねぇよ。待ってな、俺の奢りでとびっきりおいしいの作ってやるよ。」
「「「ゴチになりまーす!」」」
我に返ったアウィドさんはそそくさと厨房に帰っていった。
「……しかし、人間をこうも易々と受け入れるのね。」
「我々魔族の間では、酒場では種族など関係ないという暗黙のルールがあるんですよ。元々魔族は様々な容姿のものが多いですから、昔は種族間の対立もありました。その内のルールとして食事の時くらいは争いをやめようということになったんです。」
面白い。そういうところが脈々と受けつがれているのはどこも変わらないな。
「ん、あれはリュート?」
「ああ、誰かが忘れていってそのままの奴ですね。」
「それじゃあ、別に私が弾いても良いわね。」
姫様はそう言うとリュートを取って弦を確認し、演奏しはじめた。
ポロロン、ポロロロロン。
リュート独特の音色に合わせて、歌が紡がれる。
ヒビスクス王国の建国神話、『英雄コーラルの魔女退治』を題材にした歌だ。
昔々、まだ王都がただの村だった頃。
その村に一人の男の子が生まれた。その名もコーラル。
その男の子はすくすくと成長し、絶世の美青年になった。
村の中はもちろん、違う村や大陸からも乙女達が来て、結婚してくれと頼み込んだ。
しかしコーラルは拒否し続けた。
幼い頃から夢の中に出てくる少女。
彼はその少女が実在すると信じ、その少女と結婚すると心に決めていた。
周囲の人々はそれを馬鹿にして、結婚の話もやがて来なくなった。
コーラルは美青年だったが、周囲から疎まれるようになった。
そしてコーラルは、武者修行の旅に出かけた。
そんなある日、村に蛇の魔物がやってきた。
その蛇は言った。
―――我が主である魔女に服従し、月に一人、乙女を捧げよ。
村人達に対抗するすべはなく、一人、また一人と少女達は捧げられた。
そして、遂に最後の一人になった。
その少女はコーラルが旅に出た後に村にやってきた少女だった。
その少女が捧げられる前日、村では宴が開かれた。
最後の少女を捧げれば、村に少女は居なくなり、村人は全員殺されてしまうだろう。
彼らは最後に神に祈るために宴を開いたのだった。
するとその祈りが届いたのか、村に凛々しい騎士がやってきた。
―――おお、騎士様どうかお助け下さい。
村人達は必死にその騎士に請い願った。
すると騎士は言った。
―――そう平伏しないでくれ。私はこの村の生まれ。皆の友コーラルだ。
そう、その騎士はあのコーラルだった。
騎士は村人の願いを聞き、すぐさま魔女の所へ向かった。
そして――
「そして~騎士は勇者となって~帰る~……。」
オリエンタリズムに身を任せていた客達が、思い出したように拍手をはじめた。
僕も合わせて拍手する。
姫様も風情というか何というか……なんだかんだ敵陣の中でも野暮なことはしていない。
「ほれ、飯だ。さっきの曲に見合うレベルだと良いんだが……まぁ、食ってみてくれや。」
ちょうど料理も運ばれてきた。
独特の香草の香りが食欲をそそる。
全体的に赤いが、これは唐辛子だろう。
川魚も豚肉もおいしそうだ。
「それじゃあ、いっただっきまーっす!」
「ちょっとまってローゼ!それ多分結構辛ぃ――あぁ……」
「……qあwせdrftgyふじこlp!」
一気にかぶりつくから……。
そういう僕はナイフとフォークで優雅に……というより少しずつ食べる。辛いの苦手じゃないんだけど。
「はぁ、全く。これだからお子ちゃまは困るのよねぇ。ところで、蜂蜜はまだなの?」
「え?」
「あとミルク。」
……甘やかされて育ったんでしょうね分かります。
それにしても、料理自体は人間のそれとそれほど変わらないし、文化的にも変わらない。
感性もそんなに変わらないが……どうして戦争なんぞしてるんだろう。
まぁ、戦争なんてそんなモノなんだろうけど。
頭の片隅でそんなことを考えながらご飯を食べ進めた。
……パンと食べるとちょうど良いな、コレ。
店を出て、待機させていた(らしい)馬車に乗る。
「さて……次はどこに行きましょうかねぇ。勇者様、どこか気になるところでもありますか?」
中将がおどけたような雰囲気で姫様に尋ねる。
姫様はというと……ちょっと厳しい顔をしているな。
「そうねぇ、じゃあ、お言葉に甘えて。」
中将の方を向いた姫様は、射抜くような視線と共に言った。
「ゆっくり話し合えるところにでも、行こうかしら。もちろん公式で、ね。」
と、いうことで魔王軍司令部の会議室。
何かすっごいピリピリしてるんですけれども。
「ふぅ。さて、場所を移したわけだけど……言いたいこと分かるわよね。」
「ええ、まあ。だいたい。」
姫様と中将は分かってるようだけど、僕とローゼは頭上に?が飛んでいる。
何かとてつもないことを切り出すんだろうなー、とは思うけど。
「一週間よ。」
「……ほう、意外と時間があるのですね。」
「ま、その点では成功したとも言えるわね。」
「そうですね。それだけでも私共には儲けです。」
……。
なんのはなしですの?(←混乱しすぎてお嬢様)
私にはちっとも分かりませんわ。
「何ぼけっとしてんのよ……って、まあ分かってないんでしょうけど。簡単に言うと、総攻撃の前に一週間の猶予を与えるってこと。人間側が分かってなくてどうすんの?」
「それはどうもすみませんでした姫様。」
「……すみませんでしたド低能ツンデレ(デレ抜き)脳筋お子ちゃま困ったちゃん。」
「あ・ん・た・ねぇ!」
「きゃーっ、エリック助けてください!ぎゅっと、ぎゅっとして!」
「……図太くなったわね。怒る気力も失せたわ。」
それは分かる。
とにかく、僕が読み取ったことと推測を組み合わせると……
「つまり、中将は情に訴えかける作戦をして、それに姫様はビミョーに嵌って総攻撃を一週間延ばすことで一般人を逃がそうとしてるわけですね。わかりません。」
「わかってんじゃないのよ!」
分かってます。
久々にボケた気がする。
で、そんな僕らの漫才を見ている中将はというと。
「わかりました。その条件で。では、軍門までお送りしましょう。」
「ええ、よろしく頼むわ。」
話がまとまると、会議室を出て、司令部も出て、城壁がそびえ立つ砦のまで馬車で送られた。
金属製……おそらくオリハルコン製の重厚な門の前で馬車が止まる。
「ほわああああああ!オリハルコンです初めて見ましたオリハルコンですよ!」
「何か暴走してるわよ。」
「いや、僕に振られても困りますよ。大方作者が鍛冶屋設定思い出したんでしょう。」
ローゼは扉にほっぺたをスリスリしている。
あ、キスまでしてる。
……。
「その先まで行ったらR-18になるから止めてローゼ!」
何とかギリギリで引きはがせました。
軍門を抜けた先は交戦禁止区域だった。
広い草原の向こう側に人間側の兵士が見える。
それに軍旗ではない黄色の旗を振っているのが分かる。
「姫様、あれ何やってるんですか?」
「人質引き渡しの合図よ。おそらく魔王軍側から旗が掲げられて、それにこちらも振り替えしたって所でしょ。」
なるほど。
おそらくその間は区域内に兵士が入れるとかそんな感じなのだろう。
向こう側から兵士が近づいてくるのが見えた。
最初は遠くにいたのだが、徐々に近づいていき、ちょうど真ん中に来たところで鉢合わせる。
「殿下、ご無事ですか!?」
「ええ、別に人質って訳でもなかったしね。」
「お連れの方々も?」
「無事よ。むしろもてなされたわ。」
「……とにかく、行きましょう。」
そう兵士に促されて、姫様は尊大に、僕とローゼはアヒルの子のようについて行く。
とことことついて行ってやっと人間側に着いた。
「殿下、ご無事でしたか!」
「ええ、もちろん。」
「殿下!攻撃はいかが成されましょう。」
「一週間後よ。晩飯時にやっちゃいなさい!」
「殿下!作戦は。」
「任せるわ。私は中将と決着を付けるから、舞台を用意しなさい。」
まぁ、あれよあれよと人が集まります集まります。
人気あるなぁ。美少女だしね、一応。
ちなみにローゼはというと……
「オッス、オラローゼ!」
「エリート戦士、ベ●ータだ。」
「やれー!ピッ●ロー!!」
「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな。」
なにやってんだあんたら。
なぜかドラ●ンボールごっこしてる。
ビッグバンアタックダ!! ドドン……ハ!!
キエンザン!! クリリンノコトカーーー!!
バシッ、バシバシバシ
って、口で言ってる。
効果音を口で言う子供レベルじゃん。
「では、殿下とお付きのお二方はお休み下さい。」
「うん。エリック、ローゼ、行くよ!!」
「あ、はい分かりました姫様!ローゼ、行こう。」
「あ、ハイ分かりましたー!!」
ローゼも兵士達にぺこりと頭を下げてこっちに駆けてくる。
あぁ、疲れた。
今日は早く休もう。
ふぁぁぁ~。
そこからの一週間は……特に何もしていないのでキンクリ。
僕やローゼは今まで消費したものをできるだけ補給しただけだし。
強いて言うなら、姫様が何か手配していたようだが……まぁ、よく分からなかったので割愛させていただく。
一週間が過ぎ、約束の日である。
その日は早朝からたたき起こされ、兵士達もピリピリしていた。
僕たちも各々準備をする。
姫様もローゼも重装備だ。
ボクデスカ?イエ、ボクハトクニ……集塵力の変わらない(略)箒とくまさんエプロンです。
え?なにか?
なんですか兵士の皆さん。これが僕の戦闘服ですよ?
「じゃ、全員……エリック、何それふざけてるの?」
「いえ、別に。」
「……そう。ま、いいわ。(掃除屋、この程度は余裕だって言うの!?)」
……何か勘違いがあるような気がするけど、それはいいや。
「それじゃ、出発よ!」
まあ、そんな感じでちょっと緩く進軍を開始したのだった。
「的を前方に確認!重装甲で武装しており、現戦力での突破はちょっと難しいです。」
どうやら魔王軍側は守りをがっちり固めてきているようだ。
しかし、その程度は承知の上だろう。
さて、どう突破するのか……僕がそう考えたときだった。
僕の頭上を影が横切った。
とても巨大な影が次々に通り過ぎる。
これは……飛行部隊だ!
飛行部隊は僕たちの頭上高くを通り過ぎると、そのまま部隊めがけて急降下をし始めた。
それぞれの騎手がラッパを吹いて落下していく。
そして樽を投下してまた急上昇。
投下された樽はおそらく爆弾。
本当にそうだったようで、地面に着くと爆発し、部隊は散り散りになった。
飛行部隊は樽を投下し終えると、そのまま退避していく。
「今だ!相手は混乱している、突撃!!」
「「「「オーーーーーーーーッ!」」」」
ドドドドドと人間側の兵士達が流れ込む。
そこからは先は斬り合いだ。
まあ、いくら重装とはいえ隊列がバラバラになっっては意味がない。
そしてその混乱に乗じて。
「ギガブラスト!」
「っそおおおおおい!」
「ひゃっ!きゃっ!」
姫様が魔法で道を開けてその後ろを僕達が(敵やら味方やらを避けながら)付いていく。
スレッスレを通り抜けるハルバードや振り回される両手剣を避けながら、なんとか先へ進むと、昨日通った軍門が見えた。
「ここを突破するわよ!」
「何言ってるんですか!これ、オリハルコンですよ!?」
「だから何。」
え、いや、何って。
世界最高レベルの金属ですよ?
どうやって破るんだ。
「……オリハルコンは温度差に弱いんです。」
ローゼは門をさすりながらそういった。
「あくまで比較的、ですけど。」
「それだけ分かれば十分だわ。」
十分なのか。
「《ヘリオスヒート》!」
姫様が門に手をかざす。
これは多分温める魔法なんだろう。ヒートって言ったし。
門は徐々に赤熱して、こちらにも熱気が伝わってくる。
あったかぁい……暑い……あ゛づい゛……あ゛ぢい゛
僕が汗を拭いながら上着をパタパタするようになってちょっとすると、姫様が魔法をやめた。
そして今度は……
「《コキュートスブリザード》!」
凍てつくような寒風が吹き荒れ、割とマジでダイアモンドダストが見えそう。
すずs……さm……凍る。
「え、エリック……私、眠たいですぅ……。」
「ダメだローゼ!寝るんじゃない寝たら死ぬぞ!」
どこの雪山ですかここ。
とまあ、急激な温度変化によって、門のオリハルコンは見た感じ劣化していた。
姫様がまたしても魔法をやめて、門をコツコツと叩いてみた後、ローゼに尋ねる。
「ローゼ、この門ぶっ飛ばせると思う?」
「ふぇっ……あぁ多分いけると思いまスピィ……」
「……《オレンジピール》」
「ふにゃあ!目が、目がァ!」
……姫様の魔法によってオレンジの皮から出る汁(目に入るとエグいやつ)で強制的にローゼが起こされる。
良い子は真似しないでね!
「はぁ、行くわよ。《ギガブラスト》!」
そろそろ定番になりつつある便利必殺技ギガブラストによって門に大穴が開けられ、門の向こうの兵士もついでに吹っ飛ばされた。
この砦の一番でかい所に中将はいるはずだ。お約束的に。
僕達はそこを探しに、砦の中に駆け出した。
五分で見つかりました。ハイ。
なんでかって?
ダイジェストでお送りいたします。
敵兵「おい、そこの!」
エリ「うわっ」
ロゼ「見つかりましたね。」
姫様「さっさと片付けるわよ。」
敵兵「ちゃんと持ち場につけ。タダでさえ砦の中は迷いやすいんだ。」
三人「「「え。」」」
エリ「(しめた!これはまだバレてない)」
ロゼ「(この人、人がいいんですねー。)」
姫様「(コイツ、アホでしょ。)」
エリ「中将殿の部屋に行きたいのですが……。」
敵兵「中将殿ならそこ左に曲がって突き当たりを右の赤い大扉の部屋だ。」
エリ「ありがとうございます!」タッタッタッタッ
敵兵「おい、待て。」
三人「「「ギクゥッ」」」
敵兵「貴様ら、所属は?」
エリ「え、えっと……第九師団所属フォ●スト・ガンプであります!」
ロゼ「お、同じくカール・ハラ●ンティであります!」
姫様「同じくジ●ン・H・ミラーであります!」
敵兵「そうか……それじゃ。」
こんな感じです。
ちなみにトム・ハンクス縛り。
ローゼだけFBI捜査官だ。
「いいじゃないですか、キャッチミー・イ●・ユーキャン」
「トム・ハンクスのはだいたい好きだけど、軍人まで揃えたいじゃん。」
「そんなこと言うならフォレ●ト・ガンプだって肩書き多すぎです。」
「どうでもいいことで喧嘩してんじゃないわよ。これから決戦だってのに。」
「緊張感がないのはいつものことです。むしろ緊張感なんかあるだけ無駄だと作者は言ってます!」
「それだと納得しない読者もいるのよ!戦闘シーンはやっぱり緊張感がいるでしょう?第一、こういうメタ的会話も嫌いな人多いんだから!」
姫様こそどうでもいいことで喧嘩してる気がする。
諦めた方が早いのに。
さて、そろそろ決戦だ。
どちらが正義か、決めようじゃないか。
赤い大扉を開くと、そこには怪物がいた。
鋭い爪、強靭な筋肉、バランス能力。
フサフサとしたけに覆われた体、獲物を狙うために進化した眼光。
そして何より、見るものを虜にするその容姿。
そう、その怪物は……
「猫だ。」
「三毛猫ね。」
「ニャーンですね。」
ただし体長は十メートルくらいのやつ。
『ニャーン』
その猫は可愛く鳴くと、殺人的に愛らしく、殺人的な大きさの肉球を振り下ろしてきた。
「おおおう!」
「あっぶないわねこの猫。」
「そうですね……。」
確かに危ない。
大きさが違うから、こっちを獲物かなにかだと思ってるかもしれない。
でも、それでも。
「かわえぇ~」
「え?」
「あんな獣がですか!?」
うん、そう。
あの肉球、あの尻尾。
目もそうだし耳も可愛い。
ギューッてしたい。
「ほわああああああ」
「エリック……アンタ猫好きだったのね。」
「チッ、毛玉風情にエリックの心を私はしないのですよ。」
なんかローゼが闇のオーラを噴出させてるような気がするけど気にしない気にしない。
モフモフしたい。
「……姫様。」
「ど、どうしたのローゼ。
「私にはこの毛玉を倒す理由ができました。ここは私に任せて、先に言ってください。」
「せ、セリフ的には死亡フラグだけど、あの三毛猫が倒される気しかしないわ。」
「さ、早く。あっちに扉があります。その向こうにおそらく中将がいます。」
「わ、わかった。ほら、エリック。行くわよ!」
ズルズルズルズル。
「ああああああ猫ちゃーん!」
後で飼っていいか姫様に聞こう。
エリックは姫様に連れていかれてしまいました。
それを見た毛玉はそっちを追おうとしますが。
「そうはさせませんよ、毛玉風情が。」
パァァンッ
手榴弾Mkー1。かんしゃく玉程度のものですが、注意を引きつけるには十分です。
狙い通り毛玉はこちらに注意を向けました。所詮獣ですね。
私は本気を出す証として黒い仮面を装着。
「さて、毛玉さん。」
『ニャーオ』
「ちょっと、遊びましょう。殺す気で。」
背嚢に入れていたRPGを組み立て、装弾。
腕にも装甲と兵器を仕込んであります。
これが私の本気です。
「さぁ、始めますよッ!」
襲い来る剛腕にRPGがぶち込まれたら、試合開始です。
扉の向こうにはさらに階段があった。
その階段を登り、さらに扉をぶち破るとついに、中将と対面した。
「ハハハ、よくおいでなさった勇者様、エリック様。おや、もう一人のレディはどちらかな?」
「下であんたのペットとこのアホの取り合いしてるわ。」
「それはそれは。さて、やりますか?」
「そうね、そうしに来たんだし。」
そう言葉を交わすと、お互い剣を抜いた。
僕も箒を構える。
なんかしょぼくね。
仕方ないけど。
「フフフ、この部屋に入ったこと、後悔なされよ!」
突如、床が光り始めた。
「クッ、なにこれ!」
「これは……!」
幾何学模様の光の線は十中八九魔法陣だ。
しかもS級の。
これをたった一人で起動し、制御しているのか!?
「チッ、あんたもエリックと同じような奴ってことね。」
「しかもこれ、僕達の魔法の発動を邪魔しています!魔力が動かせない!」
「そう、この魔法陣は発動者以外の魔法を禁止する魔法。この部屋の中にいる限り、魔法は使えませんよ!」
これは……厄介だ。
僕は魔法が使えないと、ただのちょっと家事ができる人になってしまう。
バラエティー番組によく出る掃除の達人と同じレベルだ!
そんなもの、戦闘では何の役にも立ちはしない。
「これで終わりではありませんよ。《ブラッディ・ボール》!」
中将が叫ぶと、何も無い空間に血色の球体が三つ出現した。
どうやら中将はこれを自由に動かせるらしい。
「この球は最速165キロ。さて、魔法なしでこの私の剣と三つの球体、捌くことができますかな?」
なんて速さだ。
時速165キロということは、大谷翔●の最速と同じ速さじゃないか!
そんなもの魔法無しで捌ける気がしない。
しかし姫様は、
「フンッ、私にはその程度無問題よ!」
できるのか……。
プロ野球選手超えちゃったな。
今更感あるけど。
「……そうですか。では、見せていただきましょう、その力を!」
「望むところよ!」
両者が共に踏み込み、剣が火花を散らした。
……アレ?僕ちん忘れられてない?
「ハァァァッ」
私は爆発力を利用して高く飛び上がると、毛玉の顔面に左手の照準を合わせて思い切り、引き金を引きます。
すると噴射したガスに火花が散り、炎が放たれます。
火炎放射器《吉原炎上》です。ちなみに腕には耐熱性のサラマンダーの皮プロテクターが仕込まれているのでちっとも熱く……むしろ暑いです。
『ニャーゴ!』
毛玉は熱いのか、少し苦しむような素振りを見せますが、それだけです。
ダメージはほとんど通ってません。
次は何をすればーー
「っくぅッ!」
足にばかり注意していたせいでしっぽの警戒がおろそかでした。
そもそも私は戦闘なれしていませんし。
うーん、今のは痛いですね。壁に背中を強打し、肺の空気が全部押し出される感覚。
息がなかなかハードです。
これでは私のスタミナと火薬が持ちません。
火炎放射のガスも今ので切れましたし。
残すは右手の『奥の手』と少しの爆薬のみ。
『アレ』を狙うしかないんですかねぇ。
でも、『アレ』は割とピンポイントですしおすし。
考えている間に毛玉も回復したようで、再び私を狙ってきます。
避けるのもスタミナ使いますしねぇ。
「仕方ないです。これに賭けましょう。」
心は決まりました。
毛玉の剛腕も近づいてきます。
スローモーションに見える景色の中、私は半ば後悔しながら手榴弾のピンを抜きました。
手榴弾Mkー11、跳躍推進用。
爆風に身を任せて宙を舞い、Mkー1で微調整しながら毛玉の背中に着地……あ、しっぽ。
またしても尻尾に阻まれ、その上に乗ってしまいました。
そしてそのまま滑り台のように滑り降ります。
ただしほぼ90度。
「ふぎゃああああああああああああ!」
しゅるしゅるしゅるしゅる、ぽてっ。
最後は顔面で着地と相成りましたが、モフモフだったのでセーフ。
そのまま背中の上を首めがけて走ります。
モフモフしてて走りにくいですね。
そんな私に気がついたのか毛玉も身をよじり始めました。
なにせ巨体ですので、ちょっとよじっただけでも相当な揺れになるわけで。
毛にしがみついて揺り落とされないように耐えます。
そしてなんとか這い上がってやっとこさつきました。
狙っていたアレとは首の上の方。うなじの部分の延髄です。
よくマンガとかである『首トン』をやって失神させるのです。
あれ、相当な威力がいるようですけど、それは大丈夫。
「クックック、さて行きますよ!」
私の秘密兵器、p『ニャオーーン』
ふわっと宙に舞いました。
毛玉が体をくねらせて、その反動で私が宙に舞い上がったのでしょう。
で、私は思いました。
ここから当てられたら、カッコよくない?
ぶっちゃけ超難しいけど、カッコイイですよね!
「喰らえ!必殺パイルバンカー《吸血姫の牙》!」
火薬によって打ち出された杭は、その爆発力を最大限に発揮して鋭くうなじに突き刺さりました。
血は出ていないので、どうやら衝撃が凄かったようです。
どうなってるんでしょうね、この毛玉の皮膚。
まあ、とにかく。
私のミッションクリアです!
と、安心したらなんだか眠たくなってk……。
スピー、スピー
ふふ、モフモフ、あったかい。
姫様と中将の戦いは苛烈を極めていた。
姫様の剣の腕は超超一流だ。
無論、中将も一流だが、姫様ほどではない。しかし、それを三つの球体が補っていた。
……僕にもなにか出来ることはないだろうか。
でも僕には戦う力がない。ただの掃除の達人だ。
……あ。
そういえば忘れていた。あの秘密兵器を。
僕はカバンをゴソゴソあさって、見つけた。
ソーセージと同じ豚の腸の袋の中に、重曹と酢が分けて入っている。
これは一緒に使うとシンクの滑りとかに絶大な効果を発揮する。
が、保存には注意が必要だ。
なにせこの二つ、混ぜると気体が発生し、密封状態では爆発の危険もある。
と、いうことで。
それを五つほど取り出して振って混ぜまくって向こうに投げ入れた。
「喰らえ!必殺《滑り取り爆弾》!」
ひゅー
ポン、ポン、プスッ
威力激弱。
そうだよね!
前の粉塵爆発の回がちょっと運が良かっただけで基本的に僕は無能だもんね!
特に戦闘能力とか皆無だしね!
……うわあああああああっもうどーにでもなれコンチクショー!
僕はやけくそになって戦闘のさなかへと突っ込む。
「こうなったらカミカゼじゃあああああああ!」
ツルッ
「あっ」
さっき投げた爆弾の皮の部分で滑ってしまった。
そして本能的に姫様の何かを掴んでそのままずり下ろした。
剣戟が、止まった。
冷や汗だらだらですよ。
本能が言ってるもん。顔上げたら死ぬって。
僕はずり下ろしたものから(多分布)そっと手を離し、這いつくばったままその場を離れようとした。が。
ザクッ
「ひぃ!」
目の前に剣が振り下ろされ、髪の毛が数本落ちてきた。
「ふふ、エリック様お戯れはおやめ下さい。」
姫様の優しい声が聞こえる。
完全に何かが切れてる。
「うふふ、エリック様。お顔をお上げになって。」
「は、はい!」
優しい声音に含まれる修羅のごとき感情に、僕は突き動かされたかのように顔を上げた。
僕がずり下ろしたであろうズボンはちゃんとはかれていた。よかった。
「さて、私は何もしませんから、おっしゃって?一体何故、このようなことを?」
絶対嘘だ。
僕には分かる。
「さぁ、おっしゃって?」
でもこの圧には。
逆らえない!
「し、」
「し?」
「白のレースでした。シルクの。」
ふふ。
ふふふふ。
終わった。
シュゴゴゴゴゴゴゴ!
姫様の周りに可視化された闘気が炎のように渦を巻いている。
心なしか地面もゆれている。
「うぐ、う……うがあああああああああああああああ!」
叫び声と共に、魔力の衝撃波が僕と中将を吹き飛ばした。
「がッはぁ!」
「ぐッ……魔法陣が!」
床に走っていた光の線がガラスが砕けるように散る。
姫様の暴走によってふくれあがった魔力が、魔法陣を破壊していた。
これで、これでやっと魔法が使える!
僕が自分のファインプレーに打ち震えていると、中将は立ち上がり自分の状態を確認していた。
「魔力は……今の衝撃波で乱されて使えんか。しかしまだ無事な球が一つある。」
いけない。姫様はまだ暴走状態で動くことができない!
「さらばだ勇者。《ブラッディ・ボール》!」
中将が大きく腕を振り上げた。
このままでは、時速165キロの球が姫様の頭めがけて飛んでくる。
でも、このコースならまだ間に合う!
僕は箒をしっかりと握り、じっとボールを睨んだ。
景色が、変わる。
僕の箒はバットに変わり、中将はマウンドに立っていた。
かっ飛ばせーエリック!
かっ飛ばせーエリック!
観客の声援が聞こえる。
僕はバットでバックスクリーンを指し、ホームラン宣言をした。
九回裏フルカウント3点差。
しかし、満塁。一打逆転のチャンス!
考えるな、感じろ。
中将が大きく振りかぶり、投げた。
僕はボールから目を離さず、力一杯振り抜いた!
カキーン
快音が響いた。
と共に現実へと引き戻される。
僕は球体を打ち返し、破壊していた。
しかし……
「箒、今までありがとう。」
箒は中程からポッキリと折れていた。
姫様は無事だ。暴走状態からも復帰したらしい。
「あれっ、私……」
どうやらいろいろ覚えていないようだ。どうかそのままで。
「あっ!中将!どうやら魔法も使えるみたいだし、いくわよ!」
姫様は中将の方に掌を向けて超便利必殺技を放った。
「《ギガブラスト》!」
「お疲れ様です、殿下。」
「いやはや、我が軍の快勝ですな。」
「さすがです、殿下!」
僕たちが陣地に戻ると、兵士達がそれぞれ声をかけてきた。
でも、僕らにはそれに応対するほどの気力もなく、すぐにお風呂に入って布団に入り、泥のように眠った。
眠るのには、何の障害もなかった。
そして、翌朝。
窓から朝日が入りこみ、その光で目をさました。
「ん、朝か。」
体を動かそうとするが、節々が痛い。筋肉痛だ。
そして体が重い。
特に右の方が。
右の方だけ。
右。
「だれ?」
「アコナイト・ドレッドノートと申します。」
どなた?
「はじめまして、そしておはようございます、ご主人様。」
僕の隣にいる美少女はどなたですか?
長かった。
時間的にも分量的にも
これ二つに分けても良かったですね。
いつの間にか夏休みですしおすし。
花火大会?海?彼女?ふざけんな!
更新遅れてごめんなさい。