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スネーク・ガールズ ~豚野郎を添えて~

偏頭痛がつらい今日この頃。

何でこんなに痛いんだろう。

ウィステリア平原最西部は二つの山に挟まれている。

そしてそこには大きな炭坑があって、『炭坑平原』とも言われている。

その昔ここに移住してきた民族が掘り当てたんだそうな。

しかし、その人達が急に採掘権を売ると言いだした。

で、それを国が(何故か安値で)買い取って国営にしたんだけど、今は閉山している。

まぁ、その理由は行ったらすぐに分かるんだけど。


「いたわ!豚野郎よ!」

「せめてオークって呼んであげて姫様!」

可愛そうじゃん。オークだけど。

「ブ、ブヒィィィィィッ!」

「むぅ、死んでくださいこの豚!」

「野郎ですらなくなった!?」

ドッカーン!

ローゼが作った罠にひっかかったらしい。

何故こんな事をしているのか。

それは前日のこと……


「もう少しでイノコズチ村よ!」

「……へぇ。」

「……そうですか。」

ふむふむ、イノコズチ村。

その昔、隣の大陸からやってきた民族が作った村なんだとか。

隣の山で採掘とかやってたらしいな。

で、名物は……

「あ、見えてきたわよ!」

「……ほーん。」

「……さいですかぁ~。」

名物は、豚の丸焼き!

これはまた食べ応えがありそうな。

他に名所は何か……

「って、ちゃんと聞きなさいよ―――――――――ッ!!!」

「ん?」

「はい?」

「あぁぁぁぁぁぁ!ちゃんと聞きなさいって言ってるのよこの難聴ラノベ主人公!」

ああ、遂にお怒りになった。

僕とローゼは手に持っていた本を閉じて姫様の方を向く。

「はぁはぁ、あんたらさっきから生返事しかしないと思ったら、何読んでるのよ。」

「30年前の観光案内です。古本屋でゲットしました。」

「今流行の『推理小説』ってヤツです。ちなみに犯人は―――」

あーあああーあーあーああーあー。

きーこーえーなーいー。

「―――です。」

「もうっ聞いちゃったじゃないヒステリックメンヘラ女!」

「何読んでるのって言われたから答えたまでなんですけど……。」

いや、犯人言うのはどうかと思う。

それより質悪いのは最初のページに犯人の名前書くヤツ。

本当に許せない。

「あんたも、30年前の観光案内って……それ、意味あるの?」

「む、これすごいんですよ。今じゃ魔王領になってしまった村のことまで書いてあるんですから!」

何気にレアものなのだ!

古本屋にはこれがあるからすばらしい!

「はぁ、そう。そりゃよかったわね。ほら、着いたわよ。」

どうやら離している間に村の入り口まで来ていたらしい。

ちょっと……いや、かなりボロボロの門にはかろうじて読める文字で

『ようこそイノコズチ村へ!』

と書いてある。

本によると、昔は炭坑の街としてだいぶ栄えたらしいが……まあ、『今は昔』と言うことだろう。

さて、入村。

「はじめのいーっぽ!」

「「のーこした!」」

「何で残すのよ!?」

え、いや、最後に鬼から逃げるため?

ちなみに『だるまさんが転んだ』の話。



「いやはやみなさま、良くおいで下さいました。何もない村ですがどうぞゆっくりしていって下さい。」

と、村の長老は言った。

が。

「これ、ゆっくりさせるつもり無いでしょ。」

案内されたその長老の部屋にあるテーブルの上にあったのは、オークの討伐依頼が書かれた書類の数々。

……いや、これテーブルクロスだ。

どんだけ討伐して欲しいと!?

「……あんたたちねぇ。」

お、どうやら姫様もさすがに呆れているようだ。

まあ、客人に対する態度じゃないよね、これ。

「そんなに討伐して欲しいなら、いくらでもしてあげるわ!」

「姫様めんどくさそうだからやめましょう!」

何言ってんだこいつ!

じゃなくて姫様!

僕にとってオークの群れに飛び込むのは、ガチムチのHOMOの中にやらないか☆するのと同じだ。

「何言ってるのエリック!私は勇者よ!?困っている人を助けなくてどーするのよ!?」

だったら僕を助けて!

「ツンデレド低能困った姫にしては良いこと言いますね。そうですね、受けましょう!」

「ろ、ローゼまで。」

ガチムチHOMOの中にやらないか☆することが決定しましたどうもありがとうございます。

そんな僕とは逆に感動しているのは長老はじめ村民の方々だ。

「おお、ありがとうございます。実はそうなのです。我々はオークに悩まされています。詳細をお話しいたしますので、もうしばらく、お付き合い下され。」

そう言って、長老は話をはじめた。


その昔、我々の先祖は隣の大陸から船を使ってこのビスカス大陸までたどり着きました。

そして大陸中に散っていった我々の先祖の一部が、この地に根付きました。

我々は元々採掘を得意とする民族で、だからこそ炭坑が近くにあるこの地に村を作ったのでしょう。

しかし、ある時その炭坑に竜が住み着き、坑夫たちを焼き殺してしまったのです。

その後、その炭坑に村民達は寄りつかなくなりました。

それを知った王国政府は採掘権を買いとり、我々の村は労働者達の宿として栄えるようになりました。

王都から山の向こうに行くルートは3つあって、一つはこの直進コース。あとの二つは山を迂回するコースになっています。

あの頃はこの道も多くの人で賑わったのですが……今は。

……その後、その炭坑にはオークが住み着き、ついには閉山してしまったのです。

労働者達が引き上げた後、オーク達はさらにその勢力を増し、しかし誰も討伐をしてくれないという状況が続きました。

この周辺にいくつかあった村も今ではこの村一つとなってしまって……。


「と、言う訳なんです。」

いつの間にか長老の瞳からは涙がこぼれ落ちていた。

「う、うう……」

ローゼも泣いていた。

「ぐすっ、ううう。」

姫様も泣いていた。

村民も全員泣いている。

え、泣いてないの僕だけ?

まあ、それはどうでもいいや。

「本題に戻りましょう。」

僕はパンパン、と手を叩いた。

この二人がここまで同情してるならどうしようもない。

従うほか無いだろう。

「で、どの辺のオークを狩れば良いんですか?」

「この村の周辺です。我々もそんなに細かな範囲を把握してないのです。」

「わかったわ!絶対やってやるんだから!」

姫様は情熱を持ってそう言った。

……めんどくさい予感しかしないのは何故だろう。



と、言うことで今である。

ちなみに僕は戦闘には参加せずひたすら逃げている。

スライムと同様に僕=この辺で最弱になってしまっているからだ。

魔物とかはそういうのが分かるらしい。

しかし、このままでは……。

「殺しても殺しても減らない!!」

愚痴を言うのは結句ですが、姫様。

「僕を助けてくださああああああああああああ―――あっ」

草の影になって見えなかった石ころにつまづいてしまった。

ズザザザザー、と勢いそのままにこけてしまう。

「ぅう……ぁっ」

顔を上げてみれば下品な笑いを浮かべている。

なにしろ、オークというのは人間と価値観が真逆で、人間の男の方がモテる(・・・・・・・)のだ。

そりゃもう性的な感じで。

と、いうわけで僕はホモオークに囲まれたその真ん中で無防備に寝っ転がっている状態なのだ。

絶☆体☆絶☆命

オーク達はさらに詰め寄ってくる。

ぐへへへへへ、と気持ち悪い笑いと興奮して高ぶった息遣い。

もう諦めかけた、その時。

「あーっもう!『ギガブラスト』!」

ちゅどーん。

オークの首から上が一気に消滅した。

この魔法は姫様だ。

「汚い物見せるんじゃないわよ!」

(『掃除屋』……高度すぎて戦い方が理解できない!)

はい、生きててごめんなさい。

僕は感謝するしかなかった。

一生頭が上がらないんだろうなぁ。

姫様もローゼも、大分オークを倒したはずだ。

しかし山からゾロゾロと下りてくるオーク達はその数を増やすばかり。

遂に姫様も嫌気が差しただろう。

そろそろ飽きてくる頃か?

「どちらにせよ、これで面倒とはおさらb「大元を叩くわよ!」えぇ……。」

確かに有効でしょうね。

敵の本拠地に最弱連れて乗り込むのは。

「やめましょう、ね。やめて、お願いやめてください本拠地だけは勘弁して!!」

僕はなりふり構わず泣きついた。

そらもう必死ですよ?

「うわっ、気持ち悪いから足にすがりつくのやめて!」

「姫様そのポジション代わってください!エリック、さぁ私の美脚にどうぞ!」

行かないからね?

と、そう思ったらなんだか恥ずかしくなってきた。

平原のど真ん中で女の子の足にすがりつく男。

……。

うぁ……。

「と、とにかく行くったら行くのよ!このまま放っておくのはみゃくだわ!」

脈なのか。

多分癪を噛んだんだろうけど。

「と、いうことで今日はもう村に帰って明日に備えるわよ!」

なんでこう、即決なんだか。

僕にはそんな判断力はないよ。

ねぇ、神様。



村に帰ると長老に状況を聞かれた。

僕らが今日の状況、明日の予定を話したら、村人みんなが上機嫌だ。宿にただで泊まらせてくれるという。

シャワーなんて洒落た物はないので水を温めて風呂としてはいる。

「おふろきもひいい~」

ポカポカのお風呂は一日中逃げ回った体を溶かし、蕩けさせていく。

お湯と一体になるような感覚。

体の力を抜いて、感覚をシャットアウトする。

頭の中がまっ白になってきたね。

足のつま先からどんどん気持ちいい感覚が上ってくる。

まるで体が一つの……

「そう、あなたはと~っても気持ちよくなる。体の中から際限なく快感がわき上がって―――」

「誰だよ催眠音声読み上げてるヤツ!?」

びっくりした。

何でそんなの読み上げてるの?

ともかく僕はすっきりして、ベットにはいるとすぐに寝付くことができた。

おやすみ三角明日も四角。



「ふふ、ここから先は夜の時間ですよ姫様。」

「……おやすみ。」

「ちょ、待てよです。恋バナしましょーよ、こ・い・ば・な!」

今までなんだかんだそういうお話はしてませんでしたからねぇ。

今こそ話す時です!

「私はエリックのことが好きです///」

「へぇ、そう。」

「姫様は誰か好きな男の人いますか?」

「別にいないわよ。たいてい私より弱いしね。」

……つまらないですね。

何か別の話……

「私はエリックと結婚したら三人子供のいる温かい家庭を築きたいです。お金持ちじゃなくても良いので、幸せな家庭を。」

んーやっぱり一姫二太郎ですかね。

まあ、このご時世そんなのも難しいですけどね。

「私は別にそんなのも考えてないわね……ま、魔王を倒した後にでも考えるとするわ。」

……おもしろみのない人間です。

頭はちょっとあれですけど顔はまぁ……可愛くないわけじゃないですし?

浮いた話の一つや二つ、あると思ったんですけどねぇ?

「っていうか、結婚したらコウノトリが赤ちゃんを運んでくるんだから。自分で何人か決められないでしょ?」

……はぁ?

何言ってるんですかねこのツンデレド低能困ったぴゅあぴゅあ姫。

「姫様、それマジで言ってるんですか?」

「な、なによ?私が冗談で言ってるとでも思ったの?」

……ダメですね、この姫様。

「はぁ、赤ちゃんは結婚するだけではできませんよ?赤ちゃんはですねぇ―――」

「あ、赤ちゃんは……?」


「キスするとできるんですよ!!」

「き、キス!?」


はぁ、ホントに知らなかったようです。

私は一年も前から知ってましたよ?

「お子ちゃま卒業が遅すぎますよツンデレド低能困ったぴゅあぴゅあ姫。」

「お、お子ちゃまじゃないわよ!あんたこそホントはお子ちゃまなんじゃないの?根拠はないけど!」

「ないんかい!!」

ちゃんとつっこむあたり私は律儀です。

とと、なんだか眠たくなってきました。

こういう眠気って急に襲ってきますよね。

「……なんか馬鹿らしく思えてきたわ。ふぁあ~もう寝るわね、おやすみ。」

姫様もどうやら眠いようです。

「おやすみなさい。」

ゆっくりとまぶたを閉じます。

今日に未練はありませんけど、何となく終わって欲しくないですね。

でも、私はすぐに夢の中―――すぴーすぴー。



早朝。

「さ、ご飯食べたらすぐに出発よー!」

「なんでそんなに元気なんですか姫様。こちとら朝から憂鬱で鬱々しくてつらいですよ。」

「うぅ~ん、むにゃむにゃ。」

ローゼなんてまだ3割しか起きてない。

「早起きは千本ノック、善は磯部よ!レッツゴートゥー鬼ヶ島の精神よ!」

「すいません、言語レベルが高すぎて言ってる意味が理解できません。」

「あ、あと五万光年~」

ついでにローゼの覚醒度数が2割になった。

あと、光年は時間の単位じゃないゾー。

出発うんぬんはおいといて、朝食を食べることには同意だ。

黒パンにハムと少しばかりの野菜(何という名前だろうか)を挟んでサンドイッチにする。

オリーブオイルでもかければちょっと贅沢な朝食の完成だ。

まあ、この程度で贅沢とか言ってるあたり今回の旅の食糧事情をうかがい知ることができる。

携帯食料はおいしくない!ぶっちゃけ不味い!

だから久々の村での食事はちょっと嬉しかった。

はむはむはむ、うんおいしい。

生ハムのしょっぱさとか野菜のシャキシャキかんとかベリーベリー旨い。

「ベリーベリー旨い。」

「ベリー……なに?それより、食べ終わったらすぐ行くわよ!」

「ねーむーいーでーすー!」

「起きなさい。起きたらエリックに好きな事して良いわよ。」

「お目々ぱっちりバキバキです!」

起きるのはやいな!

何が彼女をそうさせるのか……。

ともかくローゼが起きてしまったので、これはすぐに行くのは確定だろう。

今回はローゼもやる気あるからな。

っと、考えている内にサンドイッチが無くなった。

あーあ。

「食べ終わったわね?ハイそれじゃ各自荷物を持ってしゅっぱーつ!」

めんどくさいなぁ。

どうか無事に終わりますように。



「こちらスネーク。坑道内に侵入する。」

「OK。ショータイムだ。」

「どこの蛇さんですか。一応敵の本陣に行くんですからね?」

ここは旧炭坑の入り口だ。

村人に聞いたところ、どうもそこから来ているらしいということが分かった。

また、オークは群れの中に『王』を作り、そいつを中心に動いているらしい。

だから王の居るところまで行って、時限爆弾を仕掛けて爆発する前に逃走するという計画だ。

「とりあえず全員に『スニーク』をかけておくわね。『スニーク』!」

『スニーク』は対象の気配を消す魔法だ。足音などは消えるが、声だったり音楽だったりは消えずに残る。

で、一回気付かれたらスニークの効果が切れてしまう。

まあ、声さえ出さなければどうにかなるんだけど。

あ、ずんずん先行ってるよ!

ちょ、待てよ(某アイドル風)。



潜入して大分経ったが、内部構造が複雑で迷路のようだ。

何度もすれ違うオーク達にビビリながらマッピングをしていく。

僕の予想では、一番奥に『王』はいる。

そういうもんでしょ、お約束的に。

そろそろ最深部に出るんでは無かろうか。

実は僕、炭坑で依頼を受けたことが数回ほどある。

無論、掃除屋として。

その経験から言わせてもらえば、ここの炭坑の採掘年数などから考慮してもうすぐ最奥部なのだ。

そろ-りそろーり進んでいるうちに、目の前にちょっと豪華な扉が見えた。

大きさも結構ある。

ここが『王』の部屋だと見て間違いないだろう。

姫様が前からアイコンタクトをしてくる。

「(ここね……)」

「(はい。気を張っていきましょう!)」

僕の視線に姫様はうなずくと、そっと扉を開けた。

一際豪華な椅子に座っている、太ったオーク。

あれが『王』か。

「(おい、ローゼ。早く時限爆弾を……)」

「(任せてください!)」グッ

そしてローゼはバッグからそっと爆弾を取り出して――


「待たせたなっ!」

「「まだ蛇さん抜けてなかったあああああああああああッ!?」」


ローゼはアホの子だった。

いきなりロケットランチャー撃ってくるような人間だったのを忘れてた。

そしてその声で『王』が僕たちに気付いてしまう。

あ、がっつり俺見られてる。

なんか下品な目で見られてる。

僕が本能的に恐怖を感じたのと、『王』が咆吼したのはほぼ同時だった。



「「「にげろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」

後ろから追いかけてくる、オーク、オーク、オーク!

その数、数百体。少なくとも『元気が出る』感じの100人隊は超えている。

ドドドドドドドと鳴り響く足音。地響きに近いそれは、僕にとってガチムチホモの『掘らせろ☆』の音色だ。

だからこそ本気で逃げる。

頭と足をフル稼働させて、マップを見ながら指示をする。

「次は右!」

「右ね!」

ダバダバダバ

「次は左!」

「左ですね!」

ダバダバダバ

「次もひだrあうちっ!」

壁に顔面を強打した。

ん?壁?

これはもしかすると……

「あ、マップ見間違えました。」

「「......。」」

「……テヘペロ☆」

「『ギガブラスト』」

ちゅどーん

僕のすぐ隣の壁に大穴が空いた。

顔面蒼白ですよ神。

「……行くわよ。」

「ういっす。」

姫様とローゼは壁の大穴に入っていく。

どうやら向こうにある部屋と繋がったようだ。

そこは坑道時代の倉庫だったらしく、いろんなものが置いてあった。

ドドドドドドドド

また地響きが近づいてきた。

オークは鼻がいいから、ここが見つかるのも時間の問題だろう。

「とりあえず穴をバリケードで塞ぎましょう。」

幸いここは倉庫。棚やらなんやら使えそうなものはいっぱいある。

姫様が勇者筋力で大きな棚を動かし、ローゼが意外とある力で木箱を積み上げ、僕が戦力外通告を受けた。

何もすることがない僕は、大きな不安を持て余しながら周囲を見回す。

奥の方に麻袋が見えた。中には何かが詰まっている。

「……土嚢?」

中を除いてみると、詰まっているのは土ではない。

これは見覚えが……そうか、そういうことか!

僕の心の中で存在にすら気が付かなかった歯車が噛み合い始める。

土嚢の中に詰まっているもの。

国が安く買った炭坑。

そして、住み着いた龍。

これなら、やれるかもしれない。

僕は希望を詰め込んで、姫様とローゼに指示をする。



「ローゼ、粉状の火薬ってある?」

「なんですか、なにか策でも思いついたんですか?」

「うん、そのために必要なんだ!」

僕はガシッとローゼに詰め寄った。

「ひ、必死ですね……。」

そりゃそうよ。戦闘力ゼロだし。

「えーっと、確か黒色火薬の袋に詰めたのが……ありました。」

ローゼはいくつかの袋を僕に渡した。

これの中に火薬が入っているらしい。慎重に扱わないと。

とりあえず一つはクリアだ。

そして、もう一つ。

「姫様、お願いがあるんですが。」

「……なにか作戦があるのね?」

ローゼといい姫様といい、どうしてわかるんだ。

思わせぶりに言ってるからか。

「そうなんです。それで、僕達の周囲に『エアーシールド』を張ってくれますか?」

「ふん、楽勝よ!」

楽勝なんですか。

達人でも一方向に三人分が

やっとなんだけど。

さてさてそれでは。

僕も活躍したくなってきた頃だ。

「二人共、下がって。」

僕はいつになく真面目な声音で言った。

僕史上最高に真面目だ。

それを知ってか知らずか……知らないだろうけど、二人は僕の後ろに下がってくれた。

恐怖の音が近づいてくる。

僕は、詠唱を開始する。

「眠りゆくこと風の如く、

ざわめくこと林の如く、

温めること火の如く、

塵も積もれば山の如し。

転輪せよ、輪廻せよ、廻転せよ。

我、この気を統べるものなり。

起動、『エアーインテグリティ・ノヴァ』!」

大規模複合魔法陣を並列展開して起動する。

S級空気清浄魔法。

この魔法によって、僕はこの洞窟内すべての空気を掌握した。

五感のどれでもないもう一つの何かによって、粒子レベルで把握できる。

そうして得た感覚を最大限に利用して、坑道内から炭塵を集める。

範囲はオークのいるところ全部。

……まだ足りない、ローゼからもらった火薬を空気中に散布して濃度を調整する。

炭塵には石粉が付着していて発火点を下げている。

それを取り除く。粒子レベルで。

バリケードを蹴り破ってオークの大軍が押し寄せる。

それを確認すると、僕は姫とローゼに指示をする。

「姫様、『エアーシールド』を。ローゼ、時限爆弾の雷管だけって使える?」

「使えます。時間は?」

「五秒で。向こうに投げ込んで!」

「了解です。……カウントダウン、4、3ーー」

ローゼはポイっと投げこんだ。

姫様はそのタイミングに合わせてゲートを開く。

『エアーシールド』が他の防御魔法に勝る点はそこだ。固体の防御壁ではないから、気流を変えることで内側から外側にものを投げ入れることが出来る。

「2、1。」

起爆。

と、同時に坑道内は炎に包まれた。

粉塵爆発。大気中に一定の割合で可燃物の粉塵が舞っている時に起こる爆発。

この爆発は炭坑でよくおこる。

その防止に使われるのが石粉で、炭塵の発火点を上げる効果がある。

これの散布には空気操作系の魔法使うことがままあるので、僕はその経験則から粉塵爆発を思い出したのだった。

ちなみに麻袋に入っていたものも石粉だった。

「オーク、全部焼け死にましたかね。」

「死んだでしょ、こんな大規模な粉塵爆発が起こればね。」

(こいつ……何者!?こんなのが『掃除屋』だって言うの!?)

わかってらっしゃったんですか姫様……。

その洞察力には感服するほか無い。

さてさて、それにしても。

どうやら僕は、すごいものを見つけてしまったらしい。



姫様とローゼに「すごいものを見つけた」と言って、ついてきてもらった。

行く先は、洞窟最奥部。『王』がいた場所の隣の部屋だ。

「ここです。」

僕は扉を豪快に開けた。

オークの死骸で死屍累々の様相だが、目標はそれではなく。

「何よ……これ。」

「まぁ、見ての通りでしょうね。」

「僕も、さっき魔法で見つけたときは驚きましたよ。」

これは見た人皆さん驚くだろう。

何たって、こんな所に――

「こんな所に、魔王領から掘られたであろうトンネルが掘ってあるなんてね……。」

みんな……粉塵爆発、好きだよね。

ね、ね、ね。

的な感じで粉塵回でした。

主人公が何気に活躍していることに作者もびっくりです。

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