表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/16

武器屋の娘はダイナマイト(ただし体型を除く)

中間テストが(いろんな意味で)終わって、やっと一息ついた感じです。

早く夏休みになればいいのに。

「あああー、何でこんなに忙しいんだよぉ~」

「しょーがないでしょ、姫さんのため、国のためなんだから。」

ここはヒビスクス王城の中にある臨時書類精査室。

その名の通り臨時に作られた部署だ。

仕事は、お姫様の魔王城遠征にお伴するパーティーメンバー候補の書類整理、審査だ。

そして私の職場。

「私だってつらいわよ、早く家に帰りたいし。でも、これはこれでどうかすると大陸の命運がかかってるんだからね。」

だって魔王を倒しに行くんですもの。

だからこそ、サボってられない。

「だぁーっ!もう俺は疲れたー!」

「はぁ、しょうがないわね。一旦休憩にしましょうか。皆さんも、休憩なさってください。」

私は室内にいる172人の作業員に言った。

「さっすがアザレア姉ちゃん!やっりぃっ!」

「もう、うるさいよ!」

こっちのさっきからうるさいのは、私の弟アロエだ。

ちょっとした手伝いぐらいなら、と思ってアルバイトとして雇ってもらった。

「じゃーちょっと俺トイレ行ってくるわー。」

「いってらしゃい。」

はぁー、これで一時的にうるさいのが居なくなったわ。

「うおぁッ!?」

猫!?

おそらくアロエがドアを開けたときに入ってきたんだろう。

ん?何かくわえて……。

「あれ?それって書類じゃないですか?」

「え、うそ!待てニャンコロ!」

がしっと猫を掴む。

口から書類を奪って内容を見てみた。

「ふむふむ、エリック・クリップね……。うあ、よだれでインクがにじんでる。まあ、気の毒だし二次審査に回してあげましょ。ダメな人なら落ちるでしょうし。」

そう考えた私はその書類を『通過』の箱に入れた。



「それでは、第32回ローゼ脳内会議を始めたいと思います。」

「「「「いぇーい」」」」

盛り上がる場内。

もとい、脳内。

「今回の議題はあのクソアm……姫様の件についてです。」

「あぁ、エリックの件だろ?です。俺も気になってたぜ。です。」

「そぉ?私は別に気になってなかったよー『ロック私』。です。だらだらしたいよー。です。」

「静寂の檻に閉じこめるぞ、『怠惰私』。です。我はあの男と共に征く。です。」

「あははははは、痛い、痛すぎるよ『中二私』。です。いひひひひひ、でも賛成だよ。です。」

「それには賛成するぜ『笑い私』。です。だってなんかロックじゃねーか!です。」

「じゃーもー私もさんせーで良いよー。です。『理性私』はどうするのー。です。」

「私も賛成で良いです。それでは全会一致で『エリックについて行く』です。」

おぉー、と感嘆の声が漏れる脳内。

「それでは以上で、第32回ローゼ脳内会議を終了します。ありがとうございました。」

「「「「ありがとうございましたー。」」」」



さ、て、と。

ちょっと冷静になろう。

状況から判断するに、今僕は『勇者のパーティー』の求人に受かったらしい。

しかし、僕の記憶が正しければ僕は『王城使用人』の求人に書類を出した。

つまり、僕が悪いんじゃなくてこれは城側の間違い。

今回の面接では僕は何も嘘は言っていないし、悪いことはしていないんだからお咎めはないだろう。

それなら今すぐにでも自己申告すればいいのだ、うんそうしよう。

「あのー、僕実は使用n「私も行きます!」は?」

今なんとおっしゃいました?

「い、今何と……?」

いきなりの出来事に姫様も困惑。

と言うより室内の全員が困惑。

「私も、エリックについて行きます!」

どどん。

と言う擬音がバックに見えるくらいの迫力。

「だ、ダメです!例外は認められません!」

「嫌です!これ以上遠くには行かせないんです!危険な目にも遭わせられないし!」

「仕方がないでしょう!魔王討伐の聖なる任務ですよ!?」

「で、でも、いくら魔王討伐でも男と女の二人旅です!ふしだらです淫らです危険です!」

「なっ……!」

姫様は男と女の二人旅である、ということをあまり意識していなかったのだろう。

顔からかすかべ防衛隊がファイアーしている。

「そ、それでもあなたがついて行く理由にはなりませんし!第一、足手まといは迷惑です!」

「あ、足手まといじゃないです!エリックの方が私より貧弱です!」

大正解ですローゼさん。

でもね、あなたの所為で言う機会のがしてるのよ?

お願い分かってプリーズ!

「なにを訳の分からないことを。警備兵、この娘を城外に追い出して!」

ザッザッザッとどこからともなく警備兵がやってきてローゼを連行する。

「ちょっ、離してください!むぅ、絶対ついて行きますからね!」

最早狂気すら感じるよローゼ。

そしてもうすでに言い出せない空気になってるし。

とてもビミョーな空気の中、姫様が口を開いた。

「さて、本日はお忙しい中面接にお越しいただき、誠にありがとうございました。

慎重なる審査を重ねましたところ、

残念ですが、ご期待に添えない結果となってしまいました。

大変恐縮ではございますが、何卒ご理解いただけましたら幸いです。

皆様の今後のさらなるご活躍を、お祈りいたしております。

お出口はあちらになっております。

どうかお気を付けてお帰り下さい。」

確かに、ご期待に添えない結果だね。

で、僕も気をつけてお帰りしていいですか?

故郷に。



残念ながら落ちた人々が帰った後、残念ながら受かってしまった僕は別室に案内された。

ここは……書斎、だろうか。

高そうな分厚い本がいっぱい並んでいる。

「ふぅ、やっと終わった……。」

いや、終わってないです。

「姫、クリップ様がまだいらっしゃいますが……。」

「いいのよ、別に。どうせこれから長い旅をしていくことになるんだから。」

したくないんですがそれは……。

「王女だからって、そんなにかしこまらなくても良いのよ。」

「は、はぁ。」

無理だろ。

ただの掃除屋(しかも修行の身)にどうしろと。

はぁ、このタイミングで言うのもあれだけど、真実は告げるべきだろう。

「あのぉ~、僕はこの遠征に――」

「今更辞退なんてしないでよね。もう、『お祈り』までしちゃったんだから。」

「あ、はい。……。」

これは死にましたわ。

王都西のウィステリア平原で瞬殺じゃん。

ちなみにウィステリア平原。

ギルドに貼られている『新米冒険者への指南』の三段階目のフィールドで、戦闘になれている人じゃないと各種スライムにボコられる。

そして死ぬ。

嫌ばい、そげんか所行きたくなか!

「大体父様も父様よ!魔王なんて一人でも十分倒せるのに、何でお供なんて連れて行かないと行けないのよ!」

……今良いことを聞いてしまった。

つまり、このお姫様。

勇者に選ばれただけでなく、戦闘能力も折り紙付き、と。

だったらさ、僕戦わなくてもいいんじゃね?



夕暮れ時。

私はとぼとぼと歩いていました。

胸には悲しさがこみ上げ、今にも泣き出したい気分です。

だって、だって。

「エリックと、やっと会えたのに……。」

また、遠くに行ってしまう。

そう考えると、私は怖くて、悲しくて、切なくて……。

「お、君可愛いね。ちょっとおれたちと一緒にお茶しない?」

「もう、どうしたらいいか……」

「ついてくるだけだけで良いよ」

「でも、そんなの……」

「大丈夫、別にヘンなことはしねぇから。」

「そう、です。勝手について行けば……」

「え、いいの?じゃあ早速――」

「早速、準備しないと!」

言うが早いか、私はすぐに駆け出しました。

目指すは我が家の自室。

風になれ、風になるんだローゼッ!

「っと、行き過ぎました。」

危ない危ない。

「ただいまです!あと、私冒険の旅に出ますんで探さないでください。」

「前から個性的な子だと思ってたけど、家族会議が必要かしら?って、あれ?エリックくんは?」

あ、そうです。

そこから説明しないと。

「えっと、実は――


かくかくしかじか

てんてんまるまる


――と、いうことなんです。」

「は、反対だ!断固として反対する!ただ一人の娘であるローゼを、危険にさらすなんて許可できん!嫁にもやらん!」

う、やっぱり言われました。

お父さんはちょっと過保護だと思います。

そして、この家族会議の全権を握っているお母さん。

私はもう、ここに賭けるしかありません。

どうか……許可を。

「うーん、まず感想ね。エリックくんってすごかったのねぇ。まさか魔王討伐のメンバーとして選ばれるなんて。私も嬉しいわぁ。」

本人がどう思ってるかは知りませんが。

まあおそらく、『行きたくないなぁ』とでも思っているはずです。

「私はね、ローゼがついていきたい、って言うなら別に行かせても良いと思ってるの。あなたの秘密の『趣味』も知ってるしね。」

「お、お母さんっ!」

さすが分かってらっしゃる!

ただ趣味まで分からなくても良いと思います!

「あなたには広く世の中を知って欲しいのよ。旅なんてなかなか行けないしね。」

「し、しかし……」

お父さんは心配そうな顔で、納得しかねています。

それを見た母もうなずいて、

「でもね、やっぱり心配ではあるの。あなたがケガでもしたらと思うと、ね。」

うう、やっぱりですか。

……こうなったら勝手に行ってしまえば……。

と、私が腹を決めているのを知ってか知らずか、お母さんは私に細長い木の箱を渡しました。

「これは?」

「ジ、ジニア!それは……」

「いいのよ。いつか、こんな日が来ると思っていたわ。」

思ってたんですか。

本当だとしたらやばいですね、脳内。

「それは、我が家の伝わる二振りの宝剣。『テツ』と『トモ』よ!」

テツとトモ……テツアンドトモ……テツ&ト○。

ひどい、ひどすぎます。

ちなみにウチの家系は女系で、基本婿養子です。

お母さんも私を生むまでは鍛冶をしていたそうですが、お父さんの方が上手いので今は引退しています。

……血、なのでしょうか。

え、だとしたら私も……?

まぁ、考えないようにしましょう。

「この剣はね、二つで一つの夫婦剣。だから一方がもう一方を指し示すのよ。」

「はぁ……そうです、これを片方エリックに渡せば……」

「ふふ、あなたに預けるわ。自由に使いなさい。」

ふふふ、ザマァ見ろクソアマッ!です。



「た、ただいまぁ……。」

僕がクリアス邸に帰ることができたのは日もすっかり落ちた頃だった。

「あらあ、エリックくんお帰りなさい。遅かったわね。」

「ええ、まあ。いろいろあって。」

「ええ、聞いてるわ。」

おめでとう、と言わないあたり気遣いを感じる。

ありがたい。ホントに。

「明日から王城に来い、と言われましてね。一週間後に出発だそうです。」

「あら、早いのね。」

「ええ、姫たってのご意向だそうで。」

一週間は嘘。実はもっと早く、5日後。

一週間後には影武者使って大規模な凱旋パレードをするんだと。

反対派に狙われると厄介だからね。

「はぁ……何で僕なんかが。」

「それはエリックくんの実力でしょ。運も含めてね。」

「……そうでしょうか。」

それは、どうだろう。

僕はそんな旅に役に立つ人間ではない。

むしろ生活向きだ。

腹を決めるしかないけどな。

ここで辞退したら、社会的に殺される。

ここで逃げたら法的に殺される。

もうやるしかないのだ。

「……寝ます。ごめんなさい。」

「……いえ、いいのよ。」

僕は落ち込んだ気分のまま、ベットに倒れ込んだ。

落ちていくのは、気分だけか。

それとも。



「短い間でしたが、お世話になりました。」

「いいえ、元気でね。ケガしないでね。体調に気をつけて。」

「……まだ、落とし前は着いてねぇからな。」

クリアス夫妻のあたたかい(?)送別の言葉。

そして――

「エリック……。」

「ローゼ……。」

すっ、とローゼが近づいてくる。

ほのかに香る、甘く儚い匂い。

「これ、持っていってください。お守りです。」

手渡された物は、掌に収まるぐらいの大きさで――

「これは……お土産屋さんとかでよく見る、剣とか龍のキーホルダー!」

何か格好いいけどちょっと恥ずかしいヤツ!

って、これをお守りってどういうこと?

「ふふっ、おそろいですよ!」

「いや……うん、そうだね。で、なに?」

「……。」ひゅーひゅひゅひゅー

吹けもしない口笛を吹いてらっしゃる。

コレ絶対何かあるな。

まあ、聞かないでおいてやろう。

何よりこういう物は……

「旅の励ましになるよ。ありがとう。」

孤独を感じずに済む。

それだけでよかった。

だからさ。

「えへへ、どういたしましてです。」

目を見開いて完全に何か黒い物考えてる顔しないで。

怖いから。



それからの数日間はとてもつらかった。

礼儀作法やら野営準備やらなんやらかんやら教え込まれ叩き込まれ。

他にもいろいろ……

「えーっと……こう、でしたっけ?」

「ち・が・う!何度言ったら分かるの!?ナイフは右よ、み・ぎ!」

「んなこと言ったって……僕ナイフは左利きなんですよ。」

「口答えするな!」

「えぇ……できない。」

とか

「はい、これ。」

「……ナイフ?」

「そう、ナイフ。アンタにはそれで一日猛獣の檻にいてもらうわ。」

「……は?」

「ああ、大丈夫よ。広いから。」

「はぁ、どうも。……ついでに一つ、質問良いですか?」

「どーぞ。」

「これ……バターナイフなんですけど、これでどう生きろと。」

とか

「もっと大きな声で!」

「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」

「もっとテンポ良く!」

「あっ!えっ!いっ!うっ!えっ!おっ!あっ!おっ!」

「ハイそれ続けて!」

「あっ!えっ!いっ!うっ!えっ!おっ!あっ!おっ!あっ!えっ!……」

後にこれが全く無駄だったと知り、怒りを通り越して戦慄した。



そして、出立の朝。

まだ日も昇らないうちに王都を後にする。

僕は振り向かない。

これからの長い旅、つらいこと苦しいこともいっぱいあるだろう。

だからこそ、僕は振り向かない。

振り向くと、つらいから。



最初の目標は西の激戦区、カンセー地方ホウリュウ要塞。

行きたくないなぁ。つらいなぁ。

ということで今居るのは王都の西、ウィステリア平原だ。

そう、スライムがいっぱい居る。

そしてスライムはめっちゃ寄ってくる。

なんでかって?

(さいじゃく)がここにいるからです、はいホント申し訳ございません。

「ねぇアンタ!なんでさっきからずっと私に戦わせてんのよ!」

(こいつ……わざと戦わずに体力を温存している!これが『掃除屋』……ッ!)

戦えないからです申し訳ございません。

「あぁ、もう!吹っ飛べ!《ギガブラスト》ォォォォォォッ!」

姫様がおキレになった。

A級戦闘魔法《ギガブラスト》。

魔法陣が展開されたかと思うと、瞬時に閃光が走り、目の前の野原が焼け(・・)野原になっていた。

スライム達は消え去り、戦闘は終了した。

……ふぅ、終わった。

僕はほっと息を吐くと、辺りを見回した。

まだ焼けていないスライムの死体が散乱している。

それらを拾って瓶に詰める。

ふと上を見上げると、姫様が心底気持ち悪そうな顔をしていた。

酷い顔だけど、美貌はそのまま。

どういう理屈だろう?

「うえ、なにやってんの……」

「……来たときよりも、美しく、の精神ですよ姫様。これはとても重要なことです。それに、グリーンスライムの死体は布を浸すと湿布になるんですよ。」

グリーンスライムの死体ばっかりだから。

他にも、ブルーだと水分がちょっと取れるし、レッドは薪に塗ると良く燃える。

いろいろ使えるスライム。ただ、別になくても良いので採集とかは行われない。

だから便利さの認知度が低いっていう。

「ふーん、でも湿布なんて私使ったこと無いわよ。大体この程度でそんなモノいらないわ!」

ふふーん、と胸を張る姫様。うん、意外とペチャァ。

「――っ!危ない!《エアーシールド》!」

轟ッ、と風が集まり分厚い大気の壁を作る。

これもA級戦闘魔法だっけ。

姫様剣も強いのにA級魔法もいっぱい覚えてんのか。

すごいなー。

と、思っていると

「ドッガァァァァァ―――――――――ン!!!」

その大気の壁の向こうで信じられないような規模の爆音が轟いた。

これは……

「これは、明らかなる敵意だッ!しかも人間の!」

姫様はそう叫んだ。っていうか分かるんだ。

今の爆発で舞った砂煙が徐々に薄れていく。

そしてゆらゆらと見えてきた敵の姿は……女の子?

服装は一般的な王都風の少女のそれだが、顔には全体を覆う黒い仮面をかぶっている。

何とも奇妙な出で立ちのその少女(?)はこちらを見て言った。

「ちっ、お姫様だけをしっかり狙ったんですが。これは予想以上のようですね。」

……どこかで聞いたことあるような声だ。

どこからともなく風が吹いてきて、砂煙を一気に消し去った。

と同時に、ほのかに香る、甘く儚い匂い。

なんかデジャブってるんだよなー。

「では、もう一発いきますよー!」

少女はそう言うと筒状の細長い物体を構えた。

……何かやばそうな気がする。

「っ来るわよ!」

「ロールケーキとプリンにビーフストロガノフかけて食べた記念グレネード29、略してRPG-29!ごーあへっどです!」

ダシュン、ピューーッという音の直後にすぐ爆音が轟いた。

これ人に向けて撃つもんじゃないだろ。

「ローゼ、もうやめて。」

「気付かれました!」

誰でも気付くでしょ。

「えっへへへーエリックううううううう!」

駆け寄ってくるローゼ。

気持ちは嬉しいけど黒い仮面のままはやめて。

という僕の願いは通じず、仮面のままガバっと抱きついてくるローゼ。

「これぞ愛のなせる技ですそうに違いありませんだから結婚しましょう子供は何人が良いですか私は何人でも良いですあたたかい家庭をなんたらかんたら――」

『違いありません』のあたりから長くなりそうなので声をシャットアウトしていた。

色即是空に考えを巡らし、そろそろ宇宙の神秘にたどり着こうかと言うところで意識が戻された。

今度はお姫様だ。

「ねぇちょっとこれどーゆー事なの!ついて行けてないんですけど!」

「うるさいですねぇさっきから。感動の再会なので少し黙っててください。」

ローゼも容赦ないなー。仮にも一国の王女よ?

「だまッ――ううううう!そもそもあんた誰なのよ!」

「はっ!私からエリックを奪っておいて誰かとほざきますか!これだからド低能困ったちゃんは……」

あ、これ気付いてないな。

「ローゼ、顔。仮面かぶったままだよ。」

「ほえ?……あっホントです!ありがとうございますエリック。これも愛のなせる技……」

何かいろいろ言いながらローゼは仮面を取った。

その顔を見た姫様は、誰だか気がついたらしい。

「あ、あんたは!サイコヒステリックメンヘラ女!」

「だ、誰がサイコヒステリックメンヘラ女ですか!」

むむむむむむ、と両人はにらみ合いをはじめた。

いや、なんか変な雰囲気になったけどさ。

「ちょぉーっと状況を整理しましょうか。」



「で、どうしてここに来たのかは大体分かるけど、どうやってここに来たの?」

それがまず一つ疑問だ。

「あ、愛の力です!」

「嘘よ!瞳孔が開いたわ!」

「ぎくっ」

姫様、瞳孔見えるのか。

何かどんどんスキルが解放されてってるな。

「で、本当は?」

僕が追求すると、ローゼはむむむ、と唸って渋々といった様子でポケットからある物を取り出した。

それは、お土産屋さんとかでよく見る、剣とか龍のキーホルダー。

僕が持っている物とほとんどデザインが同じだ。

「……これは、我が家に伝わる夫婦剣『テツ』と『トモ』です。一方がもう一方のある方を指し示すという効果があります。」

「て、『テツ』と『トモ』ねぇ。」

「こ、これは本当ね……」

そうですか。

何かわりとすごいキーホルダーだったのか。

「じゃあ、もう一つ。さっきのあれは何?」

「そ、そうよ!さっきのあの攻撃……魔力の波動を感じなかったわ。」

魔力感受性まで高いんですか姫様。

「え、ああ、あれですか?あれは『ロールケーキとプリンにビーフストロガノフかけて食べた記念グレネード29』ですよ?」

「「わかんないよ(わよ)!」」

「えーと、詳しく言うと、あれ火薬を使ってるんですよ。」

火薬?

火薬って、あの爆発するヤツ?

「で、でも爆弾にしては飛距離、スピードがあったし、そもそも手ですら投げてなかったわよ?」

「ああ、それは花火の原理を応用してですね……後は企業秘密です。」

「……どこで覚えたんだよ、あんなにエグいの。」

「んー最初は鉄を打つときの火花が好きだったんですけど、それから花火に行って、最終的にここに行き着きました。」

……。

つまり趣味、と。

なるほどなるほどこれはちょっと危ないですねぇ。

「あ、お薬出しときますねー。主に頭とか、精神とか、心とかの。」

「完全にヤバい人扱いですよね!」

「いやいやそんなことないよ。うん、別にヤバい人とかそんなこと、ね。……僕はいつでも君を信じてるから。」

「わ、わたしも。さっきは、酷いことを言っちゃったわね。で、でも……応援、するから。」

「酷い!ここまで酷いデレ方はないですよこのツンデレド低能困った姫!」

意外と姫様ノリ良いな。

やっぱりローゼはちょっと困ったところがかわいい。

っとと、本題を忘れるな。

「で、これからどうする?」

「ついて行くに決まってます!」

「む、だ、ダメよ!……とも言い切れないわね。意外と良い戦力だし。」

お、この流れはもしや?

「べ、別にまだ認めた訳じゃないけど、認めた訳じゃないけど!つ、ついてくるのを許可してあげても良いんだからね!」

勇者のパーティーに武器屋の娘が加わった!


「やりました!」

夏休みに何かするって訳でもないんですけど、なんか気分上がりますよね。

別に海に行くわけでも友だちと遊ぶわけでも彼女ができるわけでも無いんですけどね畜生め!

はぁ、泣きたい。

これからしばらく祝日無いし泣きたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ