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2日前

天は俺を見捨てていなかった!


土日の2連休を勝ち取ったのだ。勤続3年、初の快挙である。


現在は、2連休初日の早朝。

普段なら、仕事の疲れで起きることすら難しい時間だが、気持ちよく起きることができた。6連勤が5連勤になったことで、普段より疲れがないせいだろうか。明日1日ゲームするために、今日は丸1日休養にあてるつもりだったが、その必要はないらしい。

嬉しい誤算だった。

なんだかしみじみする。社会人になってから、誤算からはミスとかクレームしか生まれなかったからな。

はっはっは。


まあ、そんなことはどうでもよろしい。何をするも自由な時間が、俺には丸2日残されているのだ。

窓から注ぐ朝日のなんと心地よいことか。窓からは雲一つない青空がのぞき、今日の僕並に自由な鳥たちが、元気よくそこらを飛び回っている。カーテンを揺らすそよ風と一緒になって、めくるめく休日を祝福してくれているようだ。

未来に希望が差している。ああ、いい日だ。


おっと、こうしてはいられない。時間というのは、だらだらしているだけで、意外とあっけなく過ぎ去ってしまうものだ。

思い立ったが吉日というし、早速ゲームを始めよう!


と思ったが、そううまくはいかなかいらしい。

いざゲームを始めようとすると、散らかった部屋が気にかかる。溜まった郵便物がテーブルの上に山盛りになっており、やや視界を損なうのだ。座る場所を変えたり、座椅子に座って高さを変えたりしてみたが、どうにも気になる。

いっそ全て捨ててやりたいが、何か大事な手紙があるかもしれない。しかし山が高い。職場を思い出す嫌な高さだ。できれば触りたくないが、放って置いてはゲームを楽しめないジレンマ。


くそが。イライラする。

どうしてこうもうまく行かないのか。私が快適なゲームライフを送ろうとすると何かが必ず立ち塞がる。大抵が仕事を連想させる煩雑さを伴って、俺から時間だけを奪っていくのだ。


だが、それも昨日までの話。


俺はこの手に取り戻したのだ、仕事に奪われた体力を!磨り減った情熱を!

無限に湧き出す仕事きさまらが、何度私を挫こうと、その度に立ち上がる覚悟を!


たとえ 第2第3の砦(げつようび)が来ようとも、それを踏み越えて先へ行くと決意したのだ。


まずは倒れよ、郵便物の山(だいいちのとりで)。我が腕の閃きを前に、貴様は脆くも崩れ去るのだ。


無理やりテンションを上げて選別作業を開始したところ、思いの外盛り上がってしまった。

最近のチラシは結構色とりどりで綺麗だし、新しい発見もあるし、予想よりバリエーションが豊かで面白い。


生協の勧誘、タウンページ、東京都の共済、近所のスーパーの特売チラシ、水回り修理業者のマグネット、仕事で贔屓にしている商店からの暑中見舞い、免許更新のお知らせ……


免許更新のお知らせ。


見つけた。見つけてしまった。なんだコレ。

何が新しい発見だ、苦しみが顔を出したではないか、馬鹿が。馬鹿が!

わざと「こちらからめくって下さい」以外の部分から引き裂き、内容を検める。初回更新のため2時間の講習があるようだ。

何かの間違いであることを期待して、財布の中の免許証を確認する。

免許証の表示が正しければ、あと3日で期限が切れるようだ。免許更新のお知らせにも、同様の案内が記載されている。どうやら本当のことらしい。くそが。


予定変更だ。この2連休のうちに最寄りの運転免許試験場に行く必要がある。

もともと、今日は1日休養してゲームは明日にする予定だった。当初の予定に戻るだけだ。なんら問題ない。

むしろ、今日を休養に回していたら、明日は免許の更新で潰され、ゲームすることなく休日を終える羽目になるところだった。

今日確認できてよかったと思おう。天気も良い。外出には絶好の日和である。念のため、スマートフォンで明日の天気を確認する。

曇りだ!降水確率が40%もある。やはり、今日行くべきだ。幸運だった。俺は幸運だったのだ。

ついでに初回講習についても確認する。やはり2時間必要らしい。テーブルの整理に時間を使ったとはいえ、今の時間帯は朝ってところだ。本日最初の講習開始時間にも余裕で間に合う。うまくすれば、午前中のうちに全て終わるかもしれない。


出鼻をくじかれて少しばかり取り乱してしまったが、さしたる問題ではない。

僕は気を取り直して、外出の準備を始めた。

妙に見辛いお知らせにイライラしながら持ち物を揃えていき、まとまったところで項目を照らし合わせて不足がないことを確認した。

最後にトイレに行って準備万端……と思いきや、トイレットペーパーが見事に丁度無くなった。戸棚を確認してみると、トイレットペーパーどころか、蛍光灯や洗剤なんかの消耗品のストックが軒並み切れている。何もない戸棚を未練がましく睨めつけながら、戸棚を間違えた可能性を探るが、そんなことあるはずがなかった。馬鹿か。

思えば、最後に買い物に行ったのはいつのことだっただろうか。記憶が遠すぎて思い出せない。やはり、ストックは使い切ったのだ。もしくは、ストックなど初めからなかったのだ。


ストックは補充しておくべきだろうか。

実際、大した手間でもない。この程度の手間を惜しんだせいで何か邪魔が入るのも馬鹿らしいが、諸々を揃えるために店を回ってまで必要と言えるだろうか。ぶっちゃけ面倒だな。そもそも、どんな邪魔が入るというのか。

トイレットペーパーはないと困るから買うにしても、蛍光灯て。狭い部屋だ、テレビの明かりでどうとでもなるように思えるが……なんだか嫌な予感がする。


無理矢理頭をひねる。あらゆる状況を想定することが、明日の栄光を約束してくれるような気がするからだ。


そうだな、1つのゲームをプレイするのに飽きて、ソフトを交換しようとした瞬間に蛍光灯が切れ、ソフトを取り落とし、なんとか明かりを点けようと四苦八苦してるうちに踏み割ってしまい、どうにか部屋に光が差した頃、心だけ暗黒面に落ちちゃう場合とか?


……あり得る?あり得るのか?あり得るかも。あり得るか。あり得るな。間違いない。

くっそ限定的な状況だがあり得る。そもそも今日からして幸中の災い、または奇跡的不幸である。


なんだか不安になってきた。暗黒面が間近に迫る。ストックどうこう以前に、明るいうちに蛍光灯は新しいものに変えることとする。懐中電灯も買っておくべきだな。

ストックも一式揃えてしまおう。ないと不安だ。

例えば洗剤がないからと言って何か問題が起こるとは思えないが、それでもだ。


私はちっぽけな人間だ。知らないこともたくさんあるだろう。思いもよらない些細な出来事で、ゲームができなくなる可能性がないとは言えない。


しかし、出がけに気付けて本当に良かった。帰りにその辺の店のいくつかに寄ればこの問題は解決だ。俺はなんて運の良いやつだ。全ては明日のための準備だ。

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