8話 突然
「え、魔導武術学園に入学!?」
家に帰って来た俺はその話を聞いて素っ頓狂な声を上げた。前に母に聞いた話がある。学園は世界各地から超エリートな人が集まると言う世界の憧れの場所だ。
「そうだぞ、あの魔導武術学園にだ」
父はまさに嬉しいと言った顔で言った。それは母も同じなのだが、何故か姉さんだけは微妙な顔をしていた。
「でも、突然どうして?」
別段俺は学園との繋がりは無いし、何かした訳でもない。ならばどうして?
「実はな……フェルには内緒で学園の審査官の人に来てもらってたんだよ」
「なっ!?」
審査官が!?でもそんな奴見なかったぞ?
『あー確かに、見知らぬ方が居ましたね』
どうやらクロは知っていたようだ。なぜ居た事をつたえない。
『いや、だって来て10分程度で帰りましたし』
そうなのか。しかし、何でそんなちょこっと来ただけで帰ったんだ?
この疑問には父が答えた。
「それでな、お前のマナ総量を調べてもらったんだ」
父は申し訳なさそうに言う。おいおい、俺のマナ総量は異常なんだぞ。それを見られたら……。
「そしたら審査官の人が手を震えさせてすぐ帰っちゃったんだ。で、今日の朝推薦状が来たんだよ」
やっぱり……そりゃ俺の今のマナ総量――8200000を見たら震えるだろうな。だが、それで何で推薦状が来るんだ?
『確か学園の入学条件は――』
クロ曰く、1つ目は魔術に長けている事。2つ目は武術に長けている事。3つ目に学問に長けている者。そして最後に“マナ総量が10000を越える者”だそうで、これらの内2つをクリアしていれば入学できるのだそう。
俺の場合はマナ総量が10000を越えていたので良かったらしいのだが、これでは1つのみしかクリアしていないことになる。だが、推薦状は届いた。
何故か、それは俺のマナ総量が異常だったからである。本来、最後の“マナ総量が10000を越える者”という入学条件は有って無いようなもので、学園設立からまだ一人しかこの条件をクリアしていない。なので、この条件さえクリアしていれば入学出来るようになっているそうだ。
ちなみにこの条件をクリアした一人と言うのは母の事である。
「いやー父さん嬉しいぞ。何せ父さんと母さんの母校だからな。そう、入学式のあの日父さんと母さんは校門前でぶつかって――」
父が母との出会い話を始めたので、無視して母と話す。
「それで、入学っていつ?」
「明日よ」
「早っ!?僕まだ3歳だよ!?」
そう、なんか普通に入学とか言っていたが、俺はまだ三歳なのだ。とてもではないが学園に入学出来るような歳では無い。
「大丈夫だ。学園は入学条件さえクリアしていれば歳は関係なく入学出来る」
無視されていた父がそう告げた。
「だからすぐ行けるわ。それにフェルは私たちの子だもの。きっとすぐに上級生をボコボコにして学園を征服できるわ」
いや、しないししたくないよ。
というか母は俺に何を求めているんだ。
「荷物はもう詰めてあるぞ」
父がパンパンになった荷袋を見せる。
相変わらず無駄に行動が速い。
「だから今日はしっかり寝て明日に備えなさい」
こうして俺の学園入学は有無を言わさず決定となったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くそっ!なんでこんなことに!」
俺は今、姉さんを担ぎながら必死に逃げていた。
「グギャァァァァッァア!!」
背後から化け物の咆哮が響く。
「この森に魔物は居ないはずだろ!?」
木々をなぎ倒しながら化け物……グレーター・ワイバーンが俺らを喰い千切らんと襲いかかってくる。
「――ッ!【シールド】!」
それを【シールド】で防ぎつつ、走る。
だが、どういう訳か森から出る事が出来ない。まるで同じところを延々と走っているような感覚。
倒された木々が走る先にないので、それはありえないはずだが――。
「くそっ、かかってこいよトカゲ野郎!」
俺はグレーター・ワイバーンの方を向き、戦闘態勢を取る。
このまま走り続けていても埒が明かないし、姉さんを抱えたまま、【身体強化】を発動させた俺の高速移動で姉さんがグロッキー状態となっている。
ならば、殺るしかない。
「まったく、何でこうなったんだか……」