第3話 強襲
ギアナ兄弟。
かつてメキシコの基幹組織『アルフレイヤ』の差し向けた要人暗殺部隊『アルル』を返り討ちにしたことなどで有名で、この作戦を行うに当たっても作戦会議の場でその名が上がるほどの曲者である。
そして彼らの真価はシナジーを生む能力連携であり
「行くぜ兄貴ッ!!」
小太りの男が生徒の前に立ちはだかる史郎に突進してきた。
「ッ」
対しこいつらを生徒達に近づけるわけにはいかない。
史郎も一気に駆け出した。
結果数瞬のうちに二人は距離を詰め、
「おらよぉ!」
弟・ナクリの拳が史郎に向かって飛ぶ。
それを史郎は頭を軽く振り躱し、返し手。
空気を割いて史郎の拳がナクリに向かう。
だがその瞬間、ナクリの体がアメーバの分裂のように二つに分かれた。
「!?」
想定されていたものだが、実際に見るとでは訳が違う。
始めて見る光景に史郎は目を剥いた。
そう、これがギアナ兄弟・弟ナクリが有する個別能力。
『自走分身』である。
それにより液体をまき散らしながらズルリと分身を生み出し、これまでと全く同じサイズで二人に分かれたナクリ。
そして前面に現れたナクリが史郎の拳を受け、赤い血を飛び散らせた。
結果、恐らく本体であろうもう一人のナクリは史郎の攻撃を回避し、そして、
「おうよぉ!!」
史郎に向かい強化し輝く拳を振り下ろそうとするが
――対応は可能。
史郎のテレキネシスがたった今目の前に誕生した死体にかかり、死体がナクリに砲弾のように飛び
「グッ!!」
ナクリを後方数十メートルまで吹き飛ばした。
そしてふっ飛ばされたナクリはというと
「やっぱコイツやるよ兄ちゃん……」
「だな、ならやるしかないな弟よ……。発動――」
兄・ドマと言葉を交わし、二人同時に呟いた。
「「『完全統制一個師団』」」
瞬間、ナクリの『自走分身』が発動。
ナクリの体から湧き水のように、もしくは菌糸類の早回し成長を見るようにみるみる人形が現れ、ナクリは数十・いや百数十体にまで分裂した。
そして分身したナクリと兄・ドマの瞳が
「発動、『両視界』」
その一言で『赤く輝く』
そう、これが二人の有する能力連携。
弟・ナクリの有する能力は『自走分身』。
自身の肉体の分身体を無数に生み出す能力であり、
兄・ドマの有する能力は『ナクリとの視覚を共有する』、『両視界』。
それにより無数のナクリの分身体とナクリ・そしてドマは自分たち全ての視覚を共有し完全統制された部隊となる。
それこそが史郎達が警戒していた戦闘性能の真価であり、
「行くぞ!! 兄弟たち!!」
「「「おう!!!」」」
駆け出すと同時、彼らは一斉にテレキネシスを使った。
それにより彼らの背後の石畳が土石流のような勢いで土煙を上げ史郎達に突っ込んできた。
襲い掛かるのは百数十名の既存能力者が振るう高出力テレキネシス。
それら攻撃は地形を変えるほどの出力なのだが、
「フッ!」
対し史郎が『本気で』テレキネシスを起動した。
それにより轟音を立てて史郎の背後の石畳も巻き上がり、ナクリ達に襲い掛かる。
数瞬後、それらはナクリ達のテレキネシス瓦礫と真正面から衝突し灰色の土砂の壁を作り出した。
そしてその百名以上の能力者のテレキネシスに対抗した光景は生徒を守る担当だった能力者達も思わず
「すげぇ……」
と感嘆の声が上がるほどなのだが、史郎からすると当然。
その後も視界不良となった壁の先から
「ウオオ!!」
無数のナクリ達が突っ込んでくるのだが、それらを史郎の操る瓦礫が
「ぶふ!」
針の穴を通す正確さで進行を阻み、
「『極大氷撃』!!」
ナナも能力を起動。
右腕を一振りするとそこから莫大な冷気が放出され銀世界の一本道が突き抜ける。
冷気のトンネルに巻き込まれた分身体は一瞬で物言わぬ氷像となった。
そして土砂が自由落下で地に落ち、――視界が開けた瞬間だ
「「「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」
一気に開戦となった。
百数十名のナクリが史郎達に突っ込んでくる。
そこに史郎は突進し、
「ヒブチッ!」「グフッ!」
拳を的確にナクリの顔面に叩き込みナクリを無力化していく。
そうしながらもテレキネシスも起動しており
「ウグッ!」「ハヴェェッ」
操る瓦礫で一人また一人とナクリを倒す。
一方でナナも敵に突っ込んでおり
「なに!?」
「強ェ!?」
「氷製の速度が半端じゃねーぞ!?」
ナクリの群れの中に突っ込むと『氷製』。
氷の棍棒を作り出し、それを振り回し
「「グアアア!!」」
ナクリの頭部をふっとばし殺害し、
「うおお!」
ナクリの一人が飛びかかってくるのを見つけると
「フッ」
一瞬で『氷の壁』を作成。
対象のナクリの侵攻を防ぎ、攻撃を分散し、背後から突っ込んできていたナクリに
「『氷点撃』!!」
氷の冷気を飛ばし氷漬けにする。
そしてようやく厚い氷の壁を破壊し先ほどのナクリが襲い掛かって来ると、既に『氷製』で氷の階段を作っていたナナは高く跳躍していた。
そうして氷を破り襲い掛かってきたナクリの上方を取ると、
「フッ!」
その顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。
しかし同時にナナは空中。
格好の攻撃の的であり、さもありなん。
そこに一斉にナクリの操る瓦礫が突っ込んだ、
のだが
フッと一息吐くと瞬間、ナナを中心に氷が瀑布のように発生し『氷山』を形成される。
高さ十数メートルに及ぶ透明な氷の山だ。
自身を中心に発生させたそれで周囲の瓦礫を防ぎきり、当の自分は氷山の中央、登頂点を突破し、そしてたった今自分で作った氷山を滑り落ちながら、その山を登頂し攻撃を仕掛けようとするナクリ達に
「ふ!」
無数の氷の刃で一閃する。そして先ほどの『氷山』の一撃で平地ももはや氷が張っていて相手は滑って自由に身動きが取れない。
だがそこはナナの領域。
滑り、加速し、フィギュアスケートの選手のように無数のナクリを倒していく。
「「ぐああああああああああ!!」」
無数のナクリの悲鳴が上がった。
だが無数のナクリを倒し、さらにもう一人のナクリを倒そうと標的を定め滑り寄ろうとした瞬間、
「ついたッ」
ナナの背後をつき攻撃を仕掛けようとする者が現れるが、そこに
「ぶふっ!!」
「俺もいるんだ忘れんな」
史郎の瓦礫が突っ込む。
男は鼻血を拭きながら倒れた。
そうして史郎はナナに駆け寄り、いや、滑り寄り、
「行くぞナナ!」
「了解!」
息を合わせた。
場所は敵陣中央。
二人を百名以上の敵が周囲を囲む状況。
本来ならば、絶体絶命。
しかし――
「フッ!」
史郎は容赦なく瓦礫を操作しナクリの一人を轢き殺す。
そうしながら史郎の背後はガラ空きで、攻撃がし放題――
案の定
「貰ったァ!!」
分身体の一人が史郎に横なぎに腕を振り襲い掛かるが、
「なに!?」
史郎は重力に従う自由落下で膝を折り、横一線に振るわれるそれをあっさり回避。
そして史郎が膝を折り広がった視界の先には
「ッ――」
ナナがいて分身体は目を見開く。
そうして(ヤバイッ……このままじゃ……ッ)と喉を干上がらせなんとか対応しようとするが、――遅い。
「『氷点撃』!!」
氷の冷気が駆け抜け分身体を真っ白に染め上げる。
だが今度はナナが背後から狙われる。
背を向けるナナに二人の分身体が襲い掛かる。
が――、
「遅いッ」
「オブゥ!」「ウゲフッ!」
史郎のテレキネシスが慈悲なく起動。
ナナが『氷製』した氷柱や氷塊が男たちに躍り掛かる。
そうして数秒もしないうちに敵二名を倒した史郎は言う。
「ナナ、『氷棒』」と。
それで全てを察したナナは合点承知で『氷点世界』で『氷製』
棒高跳びのポールような氷の棍棒を作り出す。
だがそのサイズは30メートルを『優に超える』。
そしてナナは次に史郎が何をするか分かっていて、即座に足のばねを収縮させ天へ
同時に史郎の『力』が氷のポールに漲り氷棒を一気に強化し、
それを史郎は円を描くように振り回した。
瞬間、
「「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」」
広がる殺戮円。
数十名のナクリの体がミンチとなる。
だが攻撃はそれで終わりではない。
天に掛けたナナは陽光を遮り一つ呟く。
「『氷柱豪雨』」
それにより一メートル以上の規模を誇るツララが豪速で無数に飛来。
大地をめちゃめちゃにしながら破壊しつくし
「「「「あああああああああああああああああああ!!!」」」」
数十名のナクリを倒しきる。
……だがこれで攻撃は終わりではない。
「クッ……、なんつー威力だ……」
と敵の一人がぼやく中、史郎の瞳が光り輝き――
そうして本気を出した史郎はナナが作り出した氷塊・瓦礫『全て』に『力』を送りテレキネシスを起動し呟いた。
「――『全破壊』」
瞬間、
先程の氷棒とは逆回転に全ての物を豪速で周回移動。
「「「「あああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」
大量のナクリが地面のシミと化す。
そうして一気に多くのナクリを倒す史郎とナナだが、戦いはこれで終わらない。
史郎は一気に残兵に駆けた。
対するナクリはテレキネシスで瓦礫を操作し向かってくる史郎を攻撃しようとするが
「無駄」
「なんだと!?」
史郎は拳で一撃でその瓦礫を破壊し駆け寄り一撃。
ナクリを倒し、その後を追って史郎を倒すべく向かってくる複数のナクリの攻撃を屈んで避け、手を地面につき、カポエラの要領で回転蹴り。
襲い掛かるナクリを弾き返して見せ、そこにナナの
「『氷撃路線』!!」
冷気の線路道が一気に駆け巡る。それにより史郎の鼻先数ミリが氷の世界で覆われるが、これも百も承知。
『氷撃路線』のあとついでに『氷製』されていた氷刀を握るとそれに『力』を送り込み、
「ブハッ!!」
背後から狙ってくるナクリを両断した。
その史郎を上空から無数の男が狙うが
「『氷陣』!!」
半月状の冷気の斬撃が飛び男たちを氷結、墜落させる。
同時に
「ようやくだぁ!」
と、地面を掘り史郎の足元からモグラのように襲い掛かろうとしたナクリがいたが
「ふぐぅ!!」
既に気が付いていた史郎がその顎を蹴り上げ無理やり地面から引き抜き、そのドテ腹に一撃。男を無力化する。
続いて向かってくる敵にも拳を打ち込み、血をまき散らさせる。
史郎の背後を取り拳を打ち込もうとする輩には
「なに!?」
ナナが史郎の正面、敵の視界の奥から拳を振るい無力化する。
同時にそのナナを右手から狙う敵には、史郎がナナの左手側を身を回転させながら追い、ナナの体で自身の身を隠し敵に死角に入りながら、一閃。
一気に躍り出て裏拳気味の拳を見舞う。
そうして二人は揃って前面を向き、死角となった背後から
(隙あり!!)
と敵の一人が刃を光らせ襲い掛かるが
「――見えてるわ」
「何ッ―――!?」
ナナが光を宿さぬ冷徹な瞳で振り返り、その顔面に高速でその伸びやかな蹴りを叩き込む。
一方で史郎の前面からは馬鹿正直に無数の能力者が走って来るが、
「フンッ!!」
史郎はテレキネシスを起動。
石畳がばね仕掛けのように跳ね上がり敵をはるか上空までふっ飛ばした。
そうしながら次の瞬間には無数の敵が今度は円周上に一気に円形の陣を敷き攻めてくるが
「『円形氷結陣』!!!」
円形の氷結冷気が一気に彼らを氷像に変え、空を飛び残った敵には無数の史郎の瓦礫が牙を剥き
「「「グアアアアアアアアアアアア!!!!」」」
敵を薙ぎ払った。
こうした戦いを続け、数分もするともう殆ど『自走分身』は残っておらず、また追加することも敵わず、
泥だらけで浅い息を吐いているオリジナルと思しきナクリに
「言い残す言葉はないな」
史郎は牙を剥いた。
「……ッ!」
対し疲れ果てもはや能力起動すら出来ないナクリが何か言おうとするが、それよりも早く史郎のオーラ刀がナクリを両断した。
ゴトンと重たい音を立ててナクリの頭部が地面に落ちる。
そして
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
弟の死にドマが絶叫しながら襲い掛かってきたが、瞬間、史郎の操るテレキネシス瓦礫が
天空から飛来。
「なッ!!」
直撃の寸前その存在に気が付きドマが目を見開くが、
「――遅い」
史郎が呟くと同時、ドォン!!と鼓膜を叩く轟音と共に隕石はドマに直撃しドマをただの汚い肉体に変えた。
こうして史郎とナナは要注意人物『ギアナ兄弟』を退けることに成功し、
「「「………………」」」
余りの状況に生徒達は若干引き気味だったが、そんな彼らの護衛を立派に勤め上げた男が
「ホラ行くぞ」
と声を掛けると、生徒達は史郎の後に続きケイエス大聖堂に向け駆け出した。
その後も史郎達に無数の要注意人物達が襲い掛かる。
会議に出た『迷宮』、『鉄砲』、『異界の王』『エヴァ・ガードナー』、様々な敵が襲い掛かる。
だが生徒達を守る師団は十分な戦力が備わっていて、それら兵力を時には史郎とナナが、時には六透が、時にはその他の護衛兵が担当し、撃破する。
その間生徒に襲い掛かって来る敵は他の既存能力者が撃退する。
そうする中で生徒達も史郎達の行いが当たり前のことであると理解した。
これは一つの戦争なのだと。
何度も説明を受けてはきたが実際に現場にいるとでは話が違う。
ようやくその現実感を理解しだした生徒。
そうしながらも――
イギリアは小国家。大した面積を有さない。
能力により強化された生徒達の総力を持ってすれば一気にイギリア中心部にあるケイエス大聖堂に辿り着くことも不可能ではなく――
イギリア上陸から約一時間。
史郎達、強襲隊第3班はケイエス大聖堂のある広場前まで来ており、
強襲隊は相互の連絡を取り合い調節をしていた。
史郎達と時を同じくして十数ある強襲隊が各方面からワッと広場に駆けだしてきて
一気にケイエス大聖堂。
敵本拠地に向け駆け出した。
向かうはケイエス大聖堂敷地内。
敵の本丸。
姫川アイの有する『能力無効化』が起動する既存能力者必死の殺戮空間である。
第9章はラストまで連日更新する予定です。
宜しくお願いします。




