第4話 二人のスタート
ええええええええええ!? 雛櫛!? なんでここに!?
ハイグレード合コンに無意識のうちに参加してしまった史郎。
何としてもそのことはメイには知られたくないと思った史郎の目の前に、メイがいるのである。
史郎は目を剥いた。
そして考える。
え、どうしよう。と。
例えばだ、この場で、(心が痛むが)知らない人を装って立ち去ってみたらどうだろうか。
「あ、人違いでした~何でもないです~」みたいなことを言ってだ。
そうしたら明日
『そういえば昨日九ノ枝君のそっくりさんに会ったよ』みたいな展開にならないだろうか。
いやならねーな。
即座に回答を得る史郎。
というかそのようなことを言われたら悲し過ぎる。
だがそうだ。
史郎は気が付く。
この場にいる雛櫛メイが雛櫛メイでは無いという可能性である。
そもそもメイがここにいる訳がないのだから。
ただの超ソックリさんという線だってありえる。
などと史郎が考えていると
じ……とメイの視線が史郎に突き刺される。
おかげで
あ、これ雛櫛だ……。この時々出る妙な圧、雛櫛だ。そもそも声から外見から匂いまで雛櫛だよ。というか俺が雛櫛を間違える訳ないじゃん。
という自明の理に辿り着いた。
かくして史郎は
「あ、いや、六透が……。六透が行きたいって行ったから……」
「ヒマだったから……、頼まれたから……」
という情けなさ過ぎる言い訳。
対するメイは動揺する史郎に
「実は知ってたわ」
と溜息を吐きながら告げた。
完全に悪事がバレたモードの史郎は
「あ、あぁそうなんだ。よ、良かった、の、のかな?」
と完全に上の空であった。
その後動揺しながら
「え、てゆうかなぜ雛櫛がこんなところに?」
と尋ねると
「ナナちゃんに誘ってもらったの。ナナちゃんもリンダさんに誘われていたそうよ」
という衝撃の事実が転がり出る。
そして史郎が注意深く周囲を見回すと
「あ、史郎~~~~~~!!」
と会場の隅からドレス姿のナナがこちらに手を振っていた。
皿に食事を運びまくっている。
横にはフンスと眦を吊り上げるカンナもいる。
聞いたところによるとナナが先日の史郎と六透の会話を聞き、その話をメイとカンナにする。
そしてそれにいきり立ったカンナがナナに頼み込みメイを現場に潜入させたという流れらしい。
だからこそメイはここにいるわけで
(ナナ、貴様また余計なことを……!)
と史郎が自己批判とナナへの恨みをないまぜにしていると
「でもまぁ、色々思うところはあるけど、来て良かったかも」
メイはポツリと顔を赤らめてそう言った。
「な、なぜ……」
「だって久しぶりに九ノ枝君の素の顔見れたから」
「え??」
史郎はメイの予想外の言葉に固まった。
するとメイは眉根を下げながら切り出した。
「だってここ最近九ノ枝君、眉間に皺が寄ってばかり。どこか余裕が無さそうだった」
確かにメイの言う通りであった。
もともと生徒は責任を持って育てる気ではいた。
自分のミスが原因で彼らを能力者にしてしまったのだ。
死なせないために、その努力は当然であった。
だがそこに、メイが実際に現地に赴くという情報が加わるのは大きな意味があった。
確かにメイが参加すると聞いた瞬間から――余り褒められた姿勢ではないが――今まで以上に熱を入れて生徒を指導していた。
メイを死なせない。そのためである。
だから史郎はずっと気が張っていて
『おいそこ! 連携乱れている!』
と激しく激を飛ばしたりもしていたのだ。
確かに、ずっと気が張ってはいた。
やはりメイにはお見通しだったかと史郎が驚嘆していると
「九ノ枝君、九ノ枝君がそうやって頑張ってくれるのはとても嬉しいけど、無理はし過ぎないで? 今までも九ノ枝君が頑張って来ていたことは皆知っているわ。ゆっくりでも確実に、みんなと一緒に進んでいきましょう?」
メイにそう言われ、史郎は大きく息を吐き出し観念した。
「まさかそんな心配までしてくれているとは思わなかったな……。ありがとう雛櫛」
そこからはいつもの二人の会話であり
「九ノ枝君、踊りましょう……?」
「え、あ、うん!」
史郎とメイは手を取り合いホールへ向かう。
そして(許された!)と史郎が顔を綻ばせていると
「許したわけじゃないわよ?」
「う……」
メイの軽やかな牽制が入った。
「……」
「フフフ、おもしろい」
史郎の百面相にメイはクスクス笑っていた。
「からかわないでくれ……」
「さぁ、どうかしら?」
メイは天使のような笑みを溢した。
そうして二人はダンスホールに入っていき、
「こ、こんなもんなんだろうか……」
「わ、分からないわ九ノ枝君……」
周囲の様子を見ながら見よう見まねで手と手を取り合い、身を寄せ合い音楽に合わせて足を動かす。
夜闇を裂く明かりの元、メイと密着し服が衣擦る。
メイと踊る。
それは夢のような時間だった。
そしてしばらくするとメイは言うのだった。
「去年の文化祭を思い出すわね」
と。
すぐに史郎は合点した。
「そういえば、あの時も一緒に踊ったよね」
そう、あの一年前の文化祭。
そこで起きた一つの騒動。
いや、騒動と言って良いのかも怪しい小さな事件。
それが切っ掛けで史郎はメイに惚れこんだのだ。
そしてそれはメイにとっても同じことであり
「懐かしいわね。もう一年」
「そうだな、あっという間だ」
二人揃って、出会った時のことに思いを馳せ、踊る。
◆◆◆
一方、会場では
「ぐへぇイテェ! 誰だてめー!」
ダンスの合間に水を飲んでいると股間を背後から蹴り上げられ六透が怒りながら目を剥く。振り返るとそこには
「私は史郎の友人のカンナだ! メイと史郎は殆ど出来ているってのによくもこんな場所に史郎を連れて来てくれたな!!」
とカンナが気炎を巻き立っており
「罰としてテメーにはナナと踊る刑に処す! 他の女の元にはいかせねーぜ! 行けナナ!」
「分かったよカンナ!」
「あーやめろ近づくなナナ。お前の周囲は基本的に『無意識影響圏』で若干さみーんだ! その上女と踊れないなんて最悪にも程がってさみーーー!!」
六透はナナに手を握られ悲鳴を上げていた。
ハンターハンターが再開して嬉しいです。




