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第3話 ダンスパーティー

お久し振りです。

2週間の間に10話分程書き溜めたので本日(7/11)は4話分投稿します。

この話数は本日投稿予定の4中話の3話目です。

宜しくお願いします。







史郎はよく学校にいると自分が浮いているなと実感することがあった。

それほどまでにかつての自分は能力者と非能力者の間に壁を感じていたのである。

そして今史郎が感じているのも同じだ。


「……俺達、超浮いてね……」

「ま、まあそりゃそうだな?というかそれ目的だしな俺は」


史郎達はいかにもステータスの高そうな人たちが優雅な笑みを溢すのを見てうっそりと呟いた。

今史郎達がいるのは何百人という人間が会すホールである。

天井は何十メートルと高く見上げるほどだ。

そこに史郎も何度もTVで見たことのある芸能人や、聞いたことのある商社の重役がドレスやスーツなどに身を包み会話を交わし、その合間を食事の盆を持ったスタッフが歩いているのだ。

光源は夜の暗闇を艶やかに浮かび上がらせ、その光源の下、上級階級の人間たちが上品に何か喋っている。

これが一体どういう関連の集まりであるかは欠片も分からないのだが、今までの自分の人生で殆どであったことのない人種が会していることは史郎でも理解できた。


おかげで


「ど、どうしよう……」


と居場所を失ってしまうのだが、相方である六透は違った。

というよりなんという浅ましさだろうか


「どうしようもこうしようもないぜ史郎。お前は隅っこで待機してるんだろ? 俺は良い出会いを探してくるぜ。結構芸能人来てるみたいだからな!」


と言って六透は史郎を置いてさっさと人海に飛び込んでいったのだ。


「……」


そのような先輩を茫然と見送るしかない史郎。

普段から先輩として別に敬愛していなくて良かったと痛感する。

そしてこのように浮いてしまった時、飯を食うなどして時間を潰すくらいしか手が無いのは中高でカラオケ打ち上げなどに強制参加させられて学んだことである。

したがって史郎は


(あ、これうめぇ……)


とスタッフが運んできた食事に舌鼓を打っていたのだが


「あなたが九ノ枝君?」

「ハ、ハイ……」


目を上げるとそこには妙齢なドレスを着た女性がいた。


「私、鍬泉シズカと言います。よろしく」

「よ、宜しくお願いします……」


すごすごとお辞儀をする史郎。

実は先程、史郎と六透はゲストとしてこの会の主催者に


『今日は林田リンダさんのお友達である、今をときめく能力者、九ノ枝史郎君と同組織所属の六透優君に来てもらっています!』


と紹介されていたため、史郎の存在は会場の誰もが把握しているのだ。


「この前の戦い、見たわよ? いつもあんな風なの?」

「そうですね。あそこまで大規模なのは滅多にないですけど……」

「それじゃ命が幾つあっても足りないわねぇ?」

「ま、まぁそうですね……」

「頑張ってね、おばさん応援してるから」


しばらく話すとシズカと名乗った女性はウフフと笑って去っていく。

そして史郎が立食パーティーのありように合点していると、その後も多くの大人に声を掛けられた。


壮年の男性は史郎を見るなり


「いやぁまさか本当に能力なんて異様なものがあるなんて心躍ったよ。いやぁ羨ましい限り!」


ブハハと満足そうに笑ってみたり


「九ノ枝君、良かったら私とスポンサー契約を結んでみないか?いや確かに今は両世界の関係は悪いけどね? 今後は改善していくと思うんだ。そこに商機がありそうでね実は」


などと高価な時計を身に着けた髭面の男性に話しかけられたりもした。


またこのダンスパーティーにはリンダなどを始め、多くの史郎もTVでしか見たことのない人物が混じっていて


「あ、九ノ枝君だ! 私リンダと同じグループのヨウコね! よろしく~」


未だ面識のなかったアイドルグループの一人に話しかけられたり


「あ、私、光乃メグミ? 知ってる??」

「は、はい。有名ですよね?」

「あ、良かった~! 知ってくれてる~!!」


などと雑誌のモデルに声を掛けられるシーンが続いた。

そしてそのような空間にいるにつれハタと史郎は気が付いた。


あれ、この状態マズくない?と。


この場を出会いの場のようにとらえている男は六透だけではない。

多くの人間がここを出会いの場と認識しているのである。

というよりこのような立食パーティーは本来そういうものであるようで、大人たちは面識を広げるという意味合いで名刺などを交換している。

だが史郎を始めとした若い世代はどうだ。


「ねぇ、ボーダーの番号教えてくれない?」

「今度、一緒に遊びに行かない??」


などと完全に下心ありの出会いを求める場になっている。

既に史郎だって何人という女性に連絡先を聞かれている。


つまりよくよく考えてみれば史郎はグレードの高い街コンのようなものに参加しているようなものなのだ。まして一応御呼ばれしたのはダンスパーティー。

この後食膳を片付けホールで男女が手を取り合いダンスを舞うのだ。


そのような出会いの場に自分は来て良かったのだろうか。


雛櫛メイが、好きだというのに。


リツに頼まれて、能力社会の事情のために、TVに出るのとは訳が違う。

仕方なしに行ったわけではない。

ただ単に、六透に頼まれて、なんとなく出会いの場に足を踏み入れてしまった状態である。


これは不味いでしょと。

申し開きできねぇな、と冷や汗をかく史郎。


気が付くと軽やかな音楽が流れてきた。


「うん??」


とある可能性が頭をよぎり表情を固める史郎。

そして進行している事態は史郎の予測通りであった。


見るといつの間にか会場にあった食膳が片付けられ広間に大きな空間が開いている。


そう、始まったのだ。


ダンスパーティーが。


もはや皆、何度も参加していて勝手を知っているのだろう。

得心した様子でお互い手を取り軽やかに広間に躍り出る男女。


(やべぇ……)


その様子を目の当たりにし青ざめる史郎。

とりあえず嵐が過ぎ去るのを待つべく会場の隅に避難する。

そして


「ヒュー」


なんて言いながらワイングラスを口に運ぶ男性などと共に夜が過ぎ去るのを待つ野生動物のように息を潜めていたのだが、


「あれ?」


ふと史郎が隠れる会場の隅にメイとよく似た女性がいることに気が付いた。

史郎がメイとよく似てると言ったら、その似方は半端ではない。

後姿しか見えないが、放たれるオーラだけでメイのそっくりさんだと分かる。

だから史郎はつい、アレ、メイにお姉さんなんていたっけ?などと思いつつ


「あの……」


とその女性に話しかけたのだが、その女性が振り返った瞬間、史郎は目を剥いた。


「九ノ枝君」


似ているか似ていないかとかいうレベルではない。


「ちょっとこれは許せないかも……」


雛櫛メイがそこにいたのだ。



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