第2話 軋轢世界
お久しぶりです。
本日より第8章を始めたいと思います。
10話まで書き溜めは出来たので、本日中に4話まで投稿する予定です。
よろしくお願いいたします。
(これは本日投稿予定の4話中の2話目)
『悪意をさえずる小鳥』の銃殺遺体が公開されたことによって能力社会と一般社会の軋轢は一層大きくなった。
それは国民の眼前でベルカイラ・ラーゼフォルンを倒しどの国よりも良好な関係が築けて始めていた日本でも起きていた。
その映像の重大性・異常性に気づくとニュース番組ではしきりにその話題を取り上げ始めた。
『この銃殺死体をどう思いますか?』
神妙な顔つきで識者に尋ねる司会。
対する自称能力世界通の男は重々しく口を開いた。
『この映像には大きな意味があります。まず大前提なのですが彼女はかつてより一般人に害を成してきたと言われている人物です』
『かつてより、というといつから何ですか?』
『数世紀前、からですね』
『数世紀!? というと!?』
『実はこの女は固有能力『不老不死』を有する『不死能力者』だったんです。それにより数世紀もの間、世界の裏で非能力者に悪事を働き続けていた。おかげで『悪意をさえずる小鳥』と言われていたようでして』
『そ、そうなんですか。『悪意をさえずる小鳥』と。ですが、あの、死んでいるようですが……』
『えぇ死んでいます。それが重要なんです。またこれも今までの情報を統合すれば当然です。鈴木が占拠しているイギリア。その本拠地たるケイエス大聖堂には人工能力者の『姫川アイ』という少女がいます。彼女の『能力無効化』にかかれば既存能力は全て打ち消される。だからかつて能力世界を支配し安定させていた統一組織『国境なき騎士団』の最強戦闘部隊『聖剣霊奥隊』は全滅させられた。つまり恐らくこの空間では不死能力を殺すことなど造作もないことなんです』
『で、ですがわざわざ日本から救い出したんですよね!?日本政府が先日発表した一人の能力者の脱獄とはこの能力者のことですよね!? なぜ殺してしまったんでしょうか?』
『恐らくメッセージではないでしょうか』
待ってましたとばかり得意げに頷く識者。
即座に司会は食いつき、したり顔でその『意図』を解説し始めた。
『つまり、能力者に対し、一般人は悪意を振り撒くような対象ではない、というメッセージを送ったのです。一般人は豚や牛と同じ能力者からすると格下の種だと示したのです。かつて数世紀に渡り一般人に悪意を振り撒いていた『悪意をさえずる小鳥』、一般社会への敵意の象徴たる彼女を殺害することで能力者達にそれを示したのです。『能力者達よ、目を覚ませ』とね。実際、彼の支配するイギリアは今の所政治こそ牛耳られているようですが、死者は出ていませんよね』
コメンテーターの解説に会場から悲鳴が上がった。
そしてこのような報道が至る所で成されれば、嫌でも関係は悪化し
『さっさと能力社会はイギリアの問題を解決しろ』
『体育祭などやっていないで早く向かえ』
日本では上記の声が大きくなっていた。
そしてこれら反応は生徒を戦地に送り込まざるを得ない日本政府にとってはある意味都合の良いものであり
「そこ、集中が途切れてるぞ!」
史郎は生徒、中でもイギリア侵攻に参加することになった生徒を重点的により厳しく指導している。
「戦場ではいつ銃弾が飛んでくるかなんて分からないんだ。集中は解いてはいけないぞ」
「きびしーな史郎」
「ここ最近は拍車がかかっているな」
史郎の指導に参加生徒は眉を下げた
時は既11月中旬。
今では放課後は、候補生達は都内で一か所に集められ、より重点的な育成を受けている。
その内容は様々だ。
肉体強化の底上げ。
銃弾を能力で弾き落す訓練。
また
会場に乾いた銃声が響く。
そして
「今のが威力『1391』の銃撃だ。恐らく敵にいる『武器生み』が生み出す拳銃もこの種だと思われる」
奴も当然見本が必要だからな、と言いながらリツは穴の開いた壁の前でクルクルと拳銃を回した。映画などでよく出てくる誰でも名前くらい聞いたことのあるような有名な銃だ。
「これまで奴が出した銃器の形状や、銃創、などを鑑みるとこれで間違いない。そしてお前らは、『ひずみの視認』を有し『スーパーコーディネーター』の異名をとる能力育成のエキスパートである私が7月から総監督し育成した生徒達。時は既に11月中旬、お前らはとうにこの銃撃を肉体強化で耐えられるわけだが、いきなり狙撃されるのは怖いだろう」
コクコクと頷く生徒達。
「だから徐々に威力を上げてその域まで持っていこう。能力者が威力100から徐々に上げながらお前らを殴る。無理だったり怖かったらギブと言え」
と徐々に銃撃に慣れさせていったりした。
『威力』の測定は聖野の『脅威度測定』で行っている。
成長した『脅威度測定』は威力・防御力など様々な個別事項の測定すら可能となっており能力育成に無くてはならないパーツとなっていた。
能力者の威力を極限まで抑えた掌底を受ける生徒達。
その後耐えられることが分かると、拳から銃撃に切り替え
「あ、本当に弾ける」
あっさり銃弾を防いだ自身の肉体に、メイを始め多くの生徒は目を丸くした。
「でも少し痛いかな。何回も浴びたくはないかも……」
「そうか」
史郎やリツが求めるレベルは何発でも銃弾を平気で弾くレベル。
つまりまだ出力不足ではあり、
「まだ育成は必要っすね」
「その通りだ」
史郎とリツは深夜まで育成方針に関して話し合う。
また
「おいそこ! 連携が乱れているぞ!」
リツの指導の元、連携・陣形の取り方の習得が始まっていた。
「貝塚も参加するならもう少し視野を広く持った方が良いぞ」
「そ、そうか九ノ枝」
「戦闘慣れしていないと難しいもんだが、慣れるとそれが普通になる」
ちなみに本番では多くの外国の優秀な能力者も参加するらしい。
生徒の安全を守るため、作戦の確度を上げるため、他国に募りまくっているそうだ。
だが今やどの国もイギリアへの能力者流出を防止するので手一杯。
おかげで東京侵攻の際も救援は間に合わなかった程だ。
このような環境下で、能力者は死亡する可能性は普通に存在する作戦に、各国のエリート、まして絶対に第二世界侵攻と繋がっていないと確信できるようなその国にとっても高価値な人材を送ること許すのだろうか、と史郎は思うのだが
「今回に限って言えば、策がある」
とリツは言っていた。
そのため数週間後には、日本語にある程度堪能な優秀な能力者が日本にやって来るらしい。
だからこそ今から連携法などを把握しても本番は別人と行うことになるのだが
「おい気を抜くな! 轟!」
「ハイ!!」
「鯨坂もタイミング少し遅れた! 気を付けて!」
「分かった九ノ枝!」
と、教官含め、生徒達は必死に修行を行っていた。
それだけこの作戦の重要性が皆分かっているのである。
そんな折だ。
「お、今日はこっちなのか史郎」
「ん。監視任務も無いし、何となく今日はこっちだな」
深夜風呂上がりの史郎が『赤き光』アジトの休憩室で髪を滴らせながらスマホをいじっていると任務を終えた六透が帰ってきた。
「お帰りすぐる~!」
「おぉ~今帰ったよナナ。にしてもお前また菓子食ってんのか……」
「ここ最近指導で疲れちゃってねッ。カロリー補給は必要」
「そうかい。で、進捗はどうなんだ史郎」
「まぁそこそこだな」
と言ってスマホに目を落とす史郎。
その真剣な様に六透はハハ~ンと笑った。
「さては連絡先の相手はメイちゃんか史郎?」
「ん? いや違うけど?」
「あれ? 違うのか」
意外な返事に目を瞬かせる六透。
そして相手は誰なのだろうと不思議がった六透は、
「え、じゃぁお前誰と連絡とってるんだよ?」
と尋ねると、事も無げに史郎は言った。
「え、林田リンダ。あ、芸能人のね」
「はあああああああああああああああああああああああ!?」
瞬間、六透が目を剥いた。
「お前何やっちゃてんの!?!?」
林田リンダとは今を駆け巡る人気アイドルグループの一人である。
客観的に見て史郎のような一般人が関わって良いような人物ではなく
「どういうことどういうことどういうこと!? お前何芸能人のアドレスちゃっかり知っちゃってんの? てゆうか何の連絡とってんの??」
六透が問い詰めると、史郎はぎょっと息を潜めた。
「え、あぁいや、今度財界人?のダンスパーティー?があるらしく、なんか一緒に来ないかって言われていて、な」
なんか知り合いに自慢したいらしいのだそうだ。
「で、ど、どう断ったらいいんだろうって悩んでんだ」
「はあああああああああああああああああ!?!?! 断るんかい!!? どういうことだよ史郎!?」
「あ、いやだから今能力世界と一般世界は仲悪いだろ……? だから少しでも関係悪化させないためにもこういう発信力ある人には悪印象持たれない方が良いだろ……。だからどう穏便に断れるんだろうなって、悩んでいてさ……」
どうすればいいんだろうな?
と史郎が言うと六透は史郎の肩をがっつり掴むと言った。
「なら断らなければいい。行くぞ史郎……」
「ハァ!?」
「俺も行く……!」
「お前が行きたいだけだろ!?」
「その通りだ。芸能人も呼ばれちゃう財界人のパーティーなんて良い出会いがありそう過ぎるだろ!? 連れてけ史郎!」
「いや~~、俺は行きたくないんだけど?」
「良いじゃないか。それとも何だ? この前のデート、俺の能力が無ければお前らはデートにすら行けなかったんだぞ? 最後の最後で俺が雰囲気壊しちまったのは申し訳ないと思うが、あそこまで行けたのは俺の高い自由度を誇る『幻世の王』のおかげだったんだぜ? おい史郎、感謝はねーのか???」
そこを突かれると痛い。
おいおい?? と押してくる六透に遂に史郎は陥落した。
「今回だけだぞ! リンダの相手はお前がしてくれ!俺は端にいるだけだ!」
「よっしゃー! 話が分かるな史郎!!」
こうして史郎達は場違いなパーティーに参加することになったのである。




