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第1話 メイリーズン

お久しぶりです。

本日より第8章を始めたいと思います。

10話まで書き溜めは出来たので、本日中に4話まで投稿する予定です。

よろしくお願いいたします。


あらすじ。


無事、生徒の育成を目的とした七校対抗体育祭は終了した。

しかし数日後、史郎に衝撃が走る。

雛櫛メイが、鈴木討伐の作戦に参加するというのだ。



「落ち込んでいるところ悪いが、我々としても雛櫛の参加は必須事項ではあった」

「どういうことすか……」


メイのイギリア行に史郎が項垂れているとリツはうんざりと息を吐き出した。


「史郎よく考えろ。まず大前提の確認だがケイエス大聖堂では『能力無効化』により我々既存能力者(オリジナル)は能力が使えない。しかし『覚醒犯』により能力覚醒した人工能力者(アンナチュラル)は使える。だから彼ら彼女らを育成し、能力無効化エリアを突破しようというのが今回の作戦だよな史郎」

「はい」


それが今回の作戦だ。史郎は頷く。


さらに理由を補強するならケイエス大聖堂周囲には通常兵器を無効化する『戦争涙(バトルティアー)』が立ち込めるため、通常兵力の投入も不可能。

だからなおのこと生徒に頼らざるを得なかったのだが――


「だが大聖堂内部には能力者『武器生み』がいて、能力無効化が解かれている間に銃器を作成。一度作られた銃器は能力とは無関係な物なので、その後能力無効化が展開した空間でも『使用可能』。それにより突入した生徒達はたちまち発砲されると予想されるが、そのようなものに晒されれば生徒はどうなるかね? もちろんそれで死なんように育成はしているわけだが」


「ま、まぁ怯み、ますよね……。人生で初めて命を狙われるわけですし」


「そう。いくら訓練しても怯む可能性がある。だがここに来ると雛櫛メイ、奴はどうだ?」


「……」


その問いに史郎は黙らざるを得なかった。

確かに、メイは怯まない可能性がある。

今までのメイのここぞという時の強さを何度も目の当たりにしている史郎はその可能性に納得せざるを得ない。


「だからこそ雛櫛の参加は我々としても必須だったということさ。精神的支柱が必要だった。それと史郎、お前は雛櫛の参加が意外だったようだが、私に言わせてみれば何を馬鹿なことを言っているという感じだ。史郎、これを見ろ」


テーブルに提示されたのは作戦参加確認用紙であった。

名前の欄にメイの名前が書かれており、この用紙がメイの物であると分かる。

そして問題は用紙下段にある特記事項欄であった。

そこには


『九ノ枝史郎の護衛を希望します』


そう書かれていたのだ。


「……ッ」


メイの健気な意思に史郎の胸に熱いものが流れ込む。

瞠目し黙り込む史郎にリツは話し続けた。


「見ての通り、雛櫛はお前を護衛するために任務への参加を希望している。だがこんなこと誰でも分かる。なぜなら生徒の命はかなり完全な形で担保されることになっているが、我々オリジナルは死亡する可能性がある作戦だからだ。そのような作戦にお前が参加し、生徒の誰かに命を預けるわけだ。ならば――」


リツはフゥーと大きく息を吐き


「雛櫛が自分以外にお前の命が託すのを許すわけがあるまい。だから雛櫛が作戦に参加するであろうことは、誰にでも分かることだった」


言われて確かにそうだと理解した。


今までメイは


『その九ノ枝くんを吐かせたって言うのは本当なの?』


史郎を守るためにあろうことかリツに盾突き、またある時は


『退いて下さい』


堂々と記者を追い払い、そして


ベルカイラ・ラーゼフォルンとの戦いで史郎を救うために死地に飛び込んでいた。


「恐らく何としても雛櫛には無事であって欲しいというお前の願いが視界を曇らせたのだろう。先ほどの私の言葉にお前が無自覚に頷いた時点で読めてはいたがな。雛櫛が怯まない可能性があるのはお前の命がかかっているからだろう。つまりあの時お前は無意識のうちに雛櫛に自分を守らせていた。心のどこかで雛櫛の想いに気が付いていたんだよ」


その通りである。

言われて気が付いたが、あの時メイが守っていたのは史郎であった。


「雛櫛はこれ以上ない程『最適』だった。生徒を引っ張る、絶対に史郎を守る人員、としてな」


「それが理由なんですか?」


「もう一つ『大きな理由』がある。まぁ今の話で殆ど話したも同然なんだが、もう一つ雛櫛が参加することには重大な価値がある」


「それは何ですか?」


「今は言えないな? だが雛櫛でないとならないのは嘘ではない。世界を救うために奴が必要だ。でなければお前の大事な雛櫛を参加させたりはしないよ。奴でないとダメなんだ。理解してくれ」


承服せずに史郎が黙っていると、「まあそりゃそうだよな」とリツは軽く笑った。


「承服できないのは分かる。しかしこれは雛櫛が決めたことでもあるし、雛櫛が参加を希望したからこその作戦でもある。もし雛櫛が行きたがらなかったら、このような作戦にはならなかった。鶏と卵さ。我々だけの問題ではない。それと史郎、お前の任務参加も強制だ」


「あぁやっぱりそうなんですか」


出し抜けに言われ史郎は頷いていた。

実は史郎はリツに自分が作戦に参加して良いのか相談していたのだ。

史郎としては、自分が事の発端で晴嵐高校が能力覚醒したのだ、なんとしても自分でけじめをつけたい。

しかし――


『何を言っているんだい史郎君……!? 君はあの場にいたんだろう……? 『無差別能力覚醒犯』が彼らを覚醒する様を目撃したんだろう……!? ヒントを上げよう。その光景に『答え』がある……』


東京【裏】中央資料館にて青木と戦闘した際、なぜ晴嵐高校にだけ予告状が届いたか問い詰めた際、青木はそう言った。


そして先日『第二世界侵攻』が攻めてきた際のナコの言葉だ。


『九ノ枝史郎。お前を連れて行くニャ』


上記を踏まえると、史郎は敵の作戦の1ピースになっている可能性が高い。


当然洗いざらい一ノ瀬やリツに話していて、それを踏まえて自分は今回の参加したいのだが問題ないか尋ねていたのだ。


「やけにあっさり認めるんだな。てっきり止められるかと思ったよ」


「フッ、それにも理由がある。雛櫛選出の重大理由と一緒だ。お前と雛櫛にはやってもらうことがある。まぁそれに関して今は殆ど何も言えないんだが、そうだな、今私からお前に言えることは一つだ」


言って、リツは史郎の瞳を真正面から捉えると、真面目腐った顔でこう言った。


「何があっても、()()()()()。それだけだ」


「……ッ!?」


何年もの付き合いだから分かる。

今のが本音からの忠告であることは。


「おいそれ一体どういう意味なんだよ」


問い返す史郎。しかしリツはこれで話は終わりだ、仕事をする興が削がれたと言わんばかりにさっさと資料を片付けると


「まーあれだ、私を信じろ。長い付き合いだろ? 私もお前を弟子として愛しているよ」


そう言ってバタンとリビングのドアを閉めリツは去って行った。


「……」


休憩室には釈然としない顔の史郎だけが残された。


そして時は流れ


数日後。昼休みだ。


「ごめんなさい」


史郎はメイに謝られていた。


「い、いや良いんだけど……」


学校が始まるとすぐに史郎はメイに戦士候補に立候補した件を尋ねたのだ。

そして尋ねられたメイは申し訳なさそうに眉を下げ


「でも、どうしても九ノ枝君が心配だったの……! 他の人に任せたくなかったの……! だから……!」


参加させて……!


そう懇願して来る。

そして横にいたカンナも


「責めてやるなよ史郎。メイだってお前を守りたいから必死に練習したんだぜ? おかげで今や校内トップクラスだろ。それに死なないんだろ? ならメイにさせてやれよ」


などと史郎を篭絡しようとする。

だが、そのようなことせずともメイの参加を『許す方向』で史郎の心は決まっていた。

なぜなら史郎はもう何度も理解しているからだ。


ある時は、オリジナル能力者であると告げることを躊躇った史郎の苦心を読み取り、またある時は生徒を騙す言葉の中の本音を読み取り、そしてまたある時は、史郎がその時最も必要としていたものを読み取って見せた。


メイには敵わないことなど何度も痛感させられているのだ。


そんなメイは様々なことに悩み、それでも史郎を守る道を選んでいるのだ。


史郎を守ることを、勇気を出して選んでくれたのだ。


ならば史郎がすることは、一つである。


「分かった。ありがとう雛櫛。エントリーしてくれて。俺が何があっても雛櫛を守るよ」

「九ノ枝君……ッ」


史郎が了承すると、メイは目元に涙を浮かべた。



こうして次のイギリア侵攻の任務では遂に既存(オリジナル)能力者の史郎に人工(アンナチュラル)能力者のメイが正式に同伴することになった。


のだが


一方で、実は世界で一つ大きな動きが既に起きていた。



『ではこの映像を多田氏はどう思います??』


『え~これは少し解釈が難しくてですね……』


日本から攫われた不死能力者・パトリシア・ベアード。

通称『悪意をさえずる小鳥』の銃殺遺体がネット上に公開されたのだ。


TVのパネルには大聖堂前につるし上げられた物体がモザイクがかかって映し出されていた。


おかげで世界全体の空気は悪い方向に向かい


「で、この状況を打開する策があると」

「えぇ、あります」


日本の能力社会を統治する『評議会』

新平和組織の長たる鷲崎を始め、そうそうたるメンツが集まる場にてリツと一ノ瀬は出席していた。


「そしてこの作戦ならば、問題だった『他国からの協力』も得られます」


一ノ瀬は前かがみになり言った。


史郎がメイのイギリア侵攻への参加を知る数日前のことであった。


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