第12話 デート
「お待たせッ」
六透と駄弁ること数分。
寮の一階のテラスでメイを待っていると背後から声を掛けられた。
この声質、間違えようがない。メイである。
とその声に振り返ると
「(おぉ……!)」
現れたメイが余りにも可愛くて史郎はうっそりと溜息を吐いた。
史郎だけではない。横にいた六透も実際のメイの美しさは想像以上だったようで
「(ウオッ……、こんな上玉俺も会ったことねーぞ……)」
と目を剥いていた。
六透を圧倒する。それだけ今日のメイは可愛かったのだ。
恰好はボーダー柄のトップスにワイドパンツ、パンプスという出で立ち。
普段のメイからは余り想像できないカジュアルな格好なのだが妙に似合っている。
一目で気合が入っていると分かるもので
史郎達が言葉を失っているのを見るとメイは顔を赤らめ髪を梳いた。
「……ど、どうかな? 一応カンナには大丈夫って言われたんだけど……ッ」
「どうもこうもめっちゃ似合ってるよ! 凄いね雛櫛、そんな格好も出来るんだ!?」
「きょ、今日はちょっと挑戦してみたの……ッ」
掛値の無い本音の史郎の反応にメイの表情がホッと解れた。
その純真な笑みの破壊力は凄まじく
「……ッ!」
撃ち抜かれた六透は史郎の耳元で囁いた。
「(やべーな……)」
「(あぁ凄いだろ、眩しいだろ?)」
「(いや眩しくはねーが……、お前絶対モノにしろよな……)」
そしてそのようなやり取りをしているとメイが小首を傾げた。
「どうしたの?」
「いやどうもしてないよ! そ、それとこいつが今日俺達の姿を隠してくれる六透ね。何かあったら何でもこいつに頼んでいいよ」
「ちょおま」
史郎がワタワタ手を振って誤魔化すと六透が面食らった。だが
「宜しくお願いします。六透さん」
とメイにペコリとお辞儀されると
「あぁいいよ~、何かあったら声かけて~」
と鼻の下を伸ばす。
「……」
その六透のにやつく表情に思うところがあり
「(おい六透、雛櫛に手を出したらどうなるか分かっているだろうな?)」
牽制を入れると六透の表情が固まった。
そして
「(まぁまぁ、分かってるって)」
「(ホントか?)」
「(ホントだって、疑うな……)」
「(冷や汗ヤバいぞ)」
「(うぐっ)」
「……」
「………………」
そういった醜い争いを繰り広げる男二人。
「それでどうやって皆を幻覚を見せるの? 私には九ノ枝君がしっかり見えるけど」
だがメイに至極真っ当な質問をされお開きになる。
史郎は幻覚能力についてメイに説明をした。
実は能力社会に入ると先輩能力者から早々に教わることがある。
それが『幻覚系能力者』への対処法である。
幻覚系能力に引っかかると即殺される可能性がある。
そのため早めに幻覚能力者への対抗方法を教わるのである。
そしてその対抗方法だが――単純だ。
能力者が幻覚を見せてきた場合、それは必ず現実世界の風景との相違点がある。
同じ人間が作り出す風景なのだ、完全な風景を作り出すことは出来ずどこかにひずみは必ずある。
それにいち早く気が付き、自傷することで幻覚を振り払うのだ。
そして幻覚から脱した能力者はまずすることがある。
それが『起点』の解析である。
いかなる幻覚能力も相手を幻覚に嵌める起点となる物があるのである。
それが自身の瞳を見せるか、一定範囲内に近づくかなどは能力者それぞれに違いがある。
幻覚系能力者と相対した場合、能力者は度々晒される幻覚を解き、その度に共通する原因を探り『起点』を解析し幻覚能力そのものの根を断つのである。
以上が幻覚能力者に対する対抗法であり、六透の能力『幻世の王』の起点は――
――伝えても良いと言われているので史郎は解説する――
「相手を『魅了』することで幻覚を見せるんだ。今雛櫛が俺を視認できているのは六透がそもそも能力の対象外に設定しているからだよ」
それが『赤き光』六透が保有する『幻世の王』が有する厄介な性能である。
相手の心の中に『美しい』という感情を呼び起こし相手の脳に幻覚を叩き込む実際戦うと相当厄介な能力なのだ、
が、六透の能力を紹介していると、六透にこずかれた。
そしてなんだと聞いてみると、六透は息を潜めながらも興奮気味に伝えた。
「(てゆうかこの子、俺の外見では『幻世の王』が起動しない。全く魅了されないんだが)」
雛櫛にも『幻世の王』をかけようとしたんかい、と呆れるがそれよりもこの眉目秀麗で男女問わず『魅了』出来る六透に耐性を有するメイに驚かされた。
そして余りの驚きで六透の潜めた声は大きくなり過ぎており完全にメイにも聞こえている。
「すげーな雛櫛」
史郎が言うと
「そ、そうかな。あ、あとごめんなさい……」
メイは気まずそうに目を伏せていた。
「い、いや良いよ。俺も初めての経験だからびっくりしただけよ」
そしてその後しばらくすると六透は再び目を見開いた。
どうした、と史郎が尋ねると
「だが史郎を起点にすれば即能力が発動しそうな気配がある、だと……!?」
「お前いきなり何言ってんだ!?」
「……ッ」
史郎は間髪入れず六透にツッコミを入れ、二人の会話を聞いたメイは顔を真っ赤にしていた。
こうして一難ありつつもデートは開始された。
◆◆◆
のだが、
「……」
早速史郎は躓いていた。
まず史郎達がやって来たのは人気パンケーキ店『ペルデュシカ』
ここ一年近く人気が爆発し入店するのも困難な店で、以前、『パートナーシップマラソン』で優勝した際、優先招待券を貰ったがついぞ来られていなかった店である。
この度メイとデートという事で遂に訪れたのだ。
が
(やべぇ……)
史郎はフム、と顎に手を置いて悩んでいた。
パンケーキは良い。適当なのにもう当たりは付けた。
だがドリンクなのだが
(トールとかグランデとかベンティって何だよこれ)
聞き覚えの無い単語が並んでいて史郎は焦っていた。
横にいるメイはというと
「あ、ここはスタンバと同じ表記なんだ~」としげしげとメニュー表を眺めている。
『スタンバ』、それが女子や大学生に人気のシャレオツな有名チェーン『スタンバッテルコーヒー』の略だという事は分かる。
だから問題が生じているのだ。
実は史郎、この誰もが入ったことのある『スタンバ』に入ったことが無い。
ナナと飯に行く際もマックかファミレス。
このようなお洒落空間にはまるで縁のない人間なのだ。
しかしここの注文で手間取って
『ト、トールってな、何……? 身長のこと?』
などと尋ねるのは流石にダサ過ぎだろと史郎は苦慮していると、判決の時は早々に訪れていた。
「注文は何にされますか?」
いつの間にかスタッフが前に来てそう尋ねてしまっていたのである。
メイによりあっという間に注文されていくパンケーキ。
そして
「九ノ枝君は飲み物どうする?」
メイに聞かれ、(もうダメだ……!)と史郎が絶望に暮れた時だ。
一つの発想が脳に煌いた。かくして史郎はその閃きに従い
「そ、そうだッ、雛櫛はどれにしたの?」
「え、私? 私はソイラテのトールかな?」
「じゃ、じゃぁ俺はアイスコーヒーの、ト、トールで」
誤魔化し事なきを得た。
遠くで史郎達を観察していた六透はフフッと笑う。
(自分が分からない時、相手に先に言わせ様子を見る。見栄を張る男がよく使う方法だ。史郎、デートの中で成長する、というわけか)
そう事なきを得たと思う男性陣二人。
しかしメイの洞察力は二人の想像を軽く超えており、無事ドリンクが運ばれてきて史郎が(冷や汗かいたわ……)と呼吸を落ち着かせながらストローを口に運ぼうとした時だ、メイは
「もしかして九ノ枝君……、スタンバ入ったこと無い……?」
「ブッ!!」
尋ね史郎を噴き出させていた。
「や、やっぱ分かるか……」
「うん、凄いどぎまぎしてたから、どうしたんだろうって思ってた」
「い、いやナナと飯行くときはファミレスばっかだからさ、こういう店は慣れてないんだよ実は」
「フフ、九ノ枝君らしいね」
メイは柔らかい笑みを讃えていた。
その後出てきたパンケーキは噂に違わぬ美味しさで
「凄いね、ふわふわ」
「マジで旨いな」
二人を感動させていた。
その後二人が向かったのは映画館だ。
今話題のアメコミ風味の能力者のバトルロワイヤル映画を見に行くのだ。
カンナがしきりに『絶対見たい』と言っていたもので、ペルデュシカでパンケーキに舌鼓を打っていた際に、『じゃぁ、試しに行ってみるか』となったのである。
ちなみにこの手の映画・漫画・アニメなどの創作業界、能力者の存在が現実の物になって大変革が起きている。
今や異能は想像上の物ではない。
だからこそ今まで目を輝かせていた題材は一気に陳腐なものになってしまい、異能バトル・ファンタジーを超える題材を目下捜索中なのである。
一方それは史郎の様に実際に能力社会に身を置くものにとって、映画の内容がより一層陳腐に見えるということでもあり――
視点部を発火させるラスボスを、遂に空間すら操作できるようになった主人公が空間を歪め敵の視点部発火攻撃を敵自身にぶつけ勝利。
ラボに帰り今後も新たな敵が出てくる事を匂わせる気になる引きで映画が終わると
――メイは気になったのだろう、史郎に尋ねた。
「こういう映画見た時、九ノ枝君ってどう思ってるの?」
と問うと
「や、俺の方が強いなって」
「映画の登場人物と強さを比べるんだ……」
メイの想像を軽く超えたも返事が来てメイは眉根を下げた。
その後カフェで一休みした後、史郎達は近くの美術館に向かった。
有名な印象派の絵画が特別展示されていると今話題の美術館だ。
そして先ほどの映画の評で垣間見えたように実は史郎、能力発現して以来とある癖があり、『怒りで嵐を呼ぶ天使』の絵を目の前にした時だ、史郎が
「これくらいなら勝てるな……」
などと腕を組み真剣にその攻略法を推察していると
「そ、その絵画の鑑賞法は辞めた方が良いかもしれないわ、九ノ枝君」
「え?」
メイをドン引かせていた。
史郎が振り返るとメイは史郎から視線を逸らした。
その後もこの美術館ではプチ事件が起きたりもした。
単刀直入に言おう。メイが消えた。
それは史郎とメイが展示物を眺め
「おぉこれ凄くね?」
「昔の人ってこんな絵を描いてたのね」
などと話して、途中メイがお手洗いに行くと言うので史郎が見送った後にそれは起きた。
周囲には実は六透以外にも複数の能力者がいるので目を離しても問題ない。
一人残された史郎は四時を指す時計にそろそろ寮に帰らないといけないかななどと考えていたのだが、待てど暮らせどメイが来ない。
そして、(うん、どうしたんだ?)と訝しんでいる時だ、
怪奇現象が起きた。
『九ノ枝君ッ』
と、あらぬ方向からメイの声がし振り向くと
『九ノ枝君ッ、こっちよ』
と劇画調の天使の絵画からメイの声が聞こえてくるのだ。
「………………」
正確に言うと美女と天使が描かれている大きな絵画の天使が史郎に向かって口をきいている。
(え、なにこれ)
想像だにしない異常事態に言葉を失う史郎。
今も天使は『どうしたの九ノ枝君? こっちよ』と声を発し――あろうことかその劇画調の腕を振っている。
そうして史郎が、なんだこれ、と目をしばたたかせて注意深く見た時だ、宗教画の中の天使だと思っていた絵がズザザザッと乱れそこから騙し絵のようにメイが現れた。
なんだ天使だと思ったらメイだったか。
今起きた現象をあっさり受け入れる史郎。
どうやらメイが余りにも美しくて絵画の中の人物と間違えてしまったようだ。
よく見ると美女と天使の絵だと思っていたのは美女が描かれただけの絵であった。
(なんだよも~見間違えちゃったのか俺は~、テヘッ)
と史郎が自分の脳内でコツンと自分の頭を軽くブツ。
やっちまったぜ! という奴だ。
だがここでようやく史郎は今起きたことのからくりに気が付いた。
流石にそこまで史郎の目は狂ってないらしい。
なぜなら史郎は今、六透と同伴しているのだ。
きっと任務に退屈した六透が史郎に『幻世の王』をかけて暇を潰したのだろう。
だから史郎は
「どうしたの九ノ枝君。呼んでるのに全然気づかなかったけど」
と一向に気が付かない史郎を不思議がっていたメイに
「いや実は六透が能力で悪戯したみたいで雛櫛が宗教画の中の天使と錯覚させられてさ、気づかなかったんだよ」
「も~なにそれ~」
そう説明し、二人してタハハと笑いながらその場を後にした。
そしてそれを聞いた六透はというと
「……アイツの目、どーなってやがるッ」
史郎がナチュラルにメイを宗教画の中の天使と錯視したことに恐怖を覚えていた。
その後も史郎達は時間も時間という事で
「じゃぁそろそろ帰るか」
「そうね」
と寮に向かったのだが、その途中寄ったのが
「入ってみるか、ここ」
「そうね、時間もあるし」
ゲームセンターである。
そこで二人はいくつかのゲームに興じ、UFOキャッチャーでは、いくら頑張ってもアームの力が弱くて拾えやしない。
だから史郎が口惜しそうに
「テレキネシスを使えば造作もないんだが……」
「そ、それはダメよ九ノ枝君」
とメイに本気で静止させられたりしていた。
だが楽しい時はあっという間に過ぎる。
ゲームセンターで遊んでいたらもう時は午後六時過ぎ。
帰らねばならぬ時となり史郎がメイを連れだって雑踏の中を歩いていた時だ。
「ん?」
気が付くと隣にメイがいない。
そして振り向くと数歩後ろにメイが立ち止まっていて、真っ赤な顔で史郎に尋ねた。
「九ノ枝君、今日は誘ってくれてありがとう。それと――」
核心を。
「――どうして今日は誘ってくれたの?」
周囲の雑踏が嘘のように音が止む。
史郎とメイ、二人だけが世界から隔離されたようだった。
◆◆◆
あぁ、そうか。
「――どうして今日は誘ってくれたの?」
そうメイに問われ史郎は理解していた。
なぜなら今回のデート、史郎からすると化粧や無関心やらでメイの気持ちが分からなくなり、再確認のために誘ったデート。
つまり普通に遊びメイと楽しい時間を共有するだけで目的は果たされる。
だがメイからするとどうだろう。
どういう風の吹き回しか急にデートに誘われたが、別段史郎は何もしないのである。
それはもしかすると『肩透かし』のように感じるのではないだろうか。
だからこそメイは不安になりそう尋ねたのではないか。
そして、何度もメイに心を読まれた史郎は既に理解している。
メイには敵わないと。
だから史郎は観念したように顔を赤く染め、顔を掻きながら恥ずかしそうに口を開いた。
「い、いや、それはあれだ……。ひ、雛櫛、大会始まって化粧し出したりしたじゃん……凄い似合ってたんだけど、中学生に群がられても無反応だったから、や、色々思うところがあって誘った。う、うん、いやそれだけなんだよ」
「………………ッ!!!!!」
その史郎の本音の返事に、ここまで本音の返事を貰えると思ってみなかったメイは意表を突かれてカァ~と顔を赤らめた。
そう、今回のデート、史郎の予測通りメイサイドから見ると話が変わるのだ。
なぜならこのデートはメイがバトルトーナメントでの大胆な発言の後誘われたもの。
そして普段の史郎の挙動はメイから見てもバレバレでありメイも殆ど史郎の本心には気が付いている。
だが99%確定の外の1%の可能性を恐れて次の段階に足を踏み出せないという状態だった。
そして勢い余ってトーナメントでのメイの言葉の後『初めて』の史郎からの誘いだ。
だからこそメイは遂に次のステージに足を踏み出すことすら視野に入れて、このデートに臨んでおり、たった今出てきた史郎の
「い、いや、それはあれだ……。ひ、雛櫛、大会始まって化粧し出したりしたじゃん……凄い似合ってたんだけど、中学生に群がられても無反応だったから、や、色々思うところがあって誘った。う、うん、いやそれだけなんだよ」
という受け取り間違いのないほぼ告白のような言葉だ。
だからこそメイは顔を赤らめ
「そ、それは……」
メイも勇気を出して言うのだった。
「こ、九ノ枝君言ってくれたでしょ。そ、そのわ、私が世界一、か、か、……可愛いって……」
「ッ!?」
その言葉を聞いて史郎は目を見開いた。
先日TVに出演するにあたって史郎が言った
『この世界で一番可愛いのは雛櫛メイなのにか??』
というカンナに史郎が思わず言った言葉だ。
あの後なあなあで済ませてしまっていた言葉だったが、やはりそれはメイに聞かれていたのだ。
それは身を焼かれるような恥ずかしさで、一気に史郎の顔が赤くなるが、そんな史郎にメイは言ったのだ。
「だからわ、私はこ、九ノ枝君を信じたの……! 確かに九ノ枝君が色んな女の子に囲まれるのはい、嫌だったけど、でも嫉妬して嫌われるのも嫌だった、から。け、化粧もそのせい」
「そ、そのせい??」
どぎまぎしながら史郎が返すとメイは目を煌かせた。
「だって私が少しでも可愛くなれば……他の子に目移りしなくなるでしょう……?」
「……ッ!?」
そう言う事か。ようやく全てが繋がる。
カンナの言っていた『お前のためだよ』とはつまりはこのことを指していたのだ。
そして史郎が自責の念と圧倒的恥ずかしさに悩まされているとモジモジするメイは尋ねた。
「じ、実は今日も化粧、少ししてみたんだけど、……ど、どうかな」
「そ、そりゃぁ、凄く似合っているよ」
そしてまさかこんな会話をすると夢にも思わなかった史郎の口からポロリと本音が漏れた。
「……この世の物とは思えない、くらいには」
そしてその瞬間、メイはとんでもないことを言われた衝撃で、史郎はつい口が滑ってとんでもない本音を言ってしまった衝撃で
「「――――ッ」」
二人の瞳は燃え上がり、
「「……ッ!!」」
そんな両者の視線が夕焼けの赤い日差しの中真正面から交錯した。
周囲の雑踏から取り残され、二人だけの異空間。
そしてこんな空間だ。
もう、言うしかないじゃないか、と史郎が勢いに任せて『ある言葉』を吐こうとした時だ
「お~い史郎。もう時間だ帰るぞー」
いつの間にか六透が二人のすぐ横に立っていて史郎とメイの合間に入り
「うおおおおおおおおおおおい!!!」
「ひゃい!!」
二人は体を跳ねさせた。
こうして二人の初めての本物のデートは『未遂』という形で幕を閉じたのだった。
「いきなり入ってくんじゃねーよ!!」
「わりーな史郎。しゃーなしなんだわ」
赤い夕陽の下、史郎の罵声が通りに響く。




