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第9話 クイズ大会・2人でサンドイッチ

その後も体育祭は賑やかに進んでいった。


大ムカデに大玉転がし、障害物走、借り物競争、エトセトラ。

生徒達は様々な能力有の競技に興じ、笑顔を弾けさせていた。

皆、楽しそうである。


だがその一方でいくつかの問題も発生していた。

例えばだ、やはりいつの時代も悪い事を考える者はいるもので、ここは新国立競技場の隅。

人影の少ない場所で、男達は小声で言葉を交わす。


「(おい、青柳高校のリンダの奴はあるか?)」

「(ある……。七種類だな……)」

「(枚いくらだ)」

「(リンダは人気だからな……。枚400……)」

「(おら、これで全部寄越せ。ぼったくりめ)」

「(毎度……)」


そうして交渉が完了したのか男たちは金銭と何かを交換する。

当然、これは薬物の売買の現場ではない。

売買されているのは、『女子生徒達』の写真である。


とある生徒がチアダンス写真を撮影し高値で売り裁くという商売を思いついたのだ。

そしてこの商売は思いのほか男子の間で好評で、写真売買は男子の間で瞬く間に話題になった。


「(お、おまっ、その写真どうしたんだよ!?)」

「(実はな……)」

「(お前……、マジか!?)」


男達はいつの間にか写真を持っている友人に目を丸くし、入手元に辿り着く。

こうして多くの男子が想いの女子の写真を入手した。

しかしその男子垂涎のチアダンス写真売買ルートが長く持つわけもなく――


「ちょっと! アンタ達何持ってんのよ!?」

「あ、いや、それは、その……」


ある時女子達にバレ始める。

そして見つけた少女達は当然


「何この写真キモ!? ちょっとアンタ!? どこで手に入れたか言いなさい!?」


青筋を立てて男子を問い詰め、バレた男は


「その、つまり……」と入手経路をバラし始める。

かくして


「行くわよ」

「えぇ……!」


複数名の女子たちによる討伐隊が組織。

チームを組んで破廉恥な輩を潰しにかかる。

だがバイヤー達の抵抗も凄かった。

金になると分かるやバイヤー達は必死に逃げに逃げ、場所を次々替え写真を売り続ける。


そのバイヤーVS討伐隊の攻防は大会の一つの大きな話題になったのだが

さすがに圧倒的な数を誇る女子チームにバイヤー達は敵わなかった。


いつしか追い詰められると


「ブフゥ!」


女子達からキツイ一撃を受けてノックアウトされた。

当然、その話題は多くの生徒達の間で上がり


「九ノ枝、ナナ。ようやくバイヤーを捕まえたぜ」


大会4日目の昼。

史郎とナナが二人でぼんやりと『移動玉入れ』を眺めているとその報は訪れた。

メイを引き連れカンナが意気揚々そう言ったのだ。


「良かったねー」

「まあ悪は長くは続かんよね」


カンナの報を聞きそれぞれ返す二人。

実はカンナはバイヤー討伐隊に参加していたのだ。

自慢したいこともあるのだろう。


「全くクソみたいなこと考える奴もいるよなぁ~」


カンナは旨そうに炭酸飲料を煽り


「全く売られる女子たちの気持ちを何だと思ってるんだか!」


と清々しい笑顔で笑い、上機嫌なのだろう、愚かにも女子のチアダンス写真に群がった男子達を指し


「全くもーよー写真買われる女の気持ちを男子は少しは考えた方がいいぜ!」

とか

「本当に男の欲情は度し難てーよ! あんなんが商売になるんだもんな!」

とか

「もっと事の分別を持たなきゃなんねーよマジで!」


などと批判しまくる。

そしてその言葉に史郎が苦い顔をし、その渋い表情に気が付いたカンナが


「お前まさか……写真を……」

「いや買ってないよ!」

「嘘だ!お前のその微妙な表情は絶対買っている! ナナ史郎のバックを漁れ!」

「了解!」

「やめろぉぉぉ!!」


カンナの指示でナナが史郎のバックを漁り始める。

そして、


「見つけたよカンナちゃん……」


バサバサとメイの前でメイのチアダンス写真が白日の下に晒される。

三十枚くらいはある。

史郎はメイの写真を買い占めたのだ。


「お前……」

「…………」

「これって……」

「いや違うんだ」


何が違うか分からないが言い訳する。

これは雛櫛の写真を拡散させないための非常処置だったんだよ、と。

しかしそのような見え透いた嘘、通じる訳もなく


「ならその場で潰せよ!お前なら倒せんだろ!」

「ぐ! た、確かに……!」


史郎はものの二秒ほどで論破される羽目になり、こうして史郎はメイの写真を購入したことを


「お前は少しは事の重大さをよぉ!」


とメイの目の前で断罪された。


そしてカンナにひとしきり叱られた史郎にメイは顔を赤くしながら言う。


「こ、九ノ枝君……」

「は、はい……」

「見たければ、いつでも見せてあげるから……」


何と言うか死ぬほど恥ずかしい史郎だった。


また他にも史郎はピンチに見舞われていた。


それはクイズ大会でのことだった。


実はなぜか『体育祭』だというのに七校対抗体育祭のプログラムには『クイズ大会』なるものがあり、当然晴嵐高校の代表は


『九ノ枝史郎君と佐藤大樹くんです!!』


(そう俺、いや『俺達』だ)


史郎とその親友・佐藤だったのだが、そのクイズ大会で酷い目にあったのだ。


ちなみになぜ友人佐藤と一緒に参加したかには理由がある。


どうやらこのクイズ大会。他校に強力な希望者がいたようで実現したらしく、おかげで受け身だった晴嵐高校は適当な出場者を探すことが出来ない。


そして困り果てた運営側が、チアダンスの採点者をすることになっていた史郎に同じ流れで


「お願い九ノ枝君!!」


頼み込み


「い、良いけど、俺全然解けないよ……」

「良いのよ! 出てくれればいいの! ありがとう!」


仕方がない、困っているなら助けようじゃないかの精神で了承することで史郎が代表になることが確定する。

だがそうなると問題になるのが今回の代表はチアダンスとは違い二人である、という点だ。


「で、もう一人は?」と史郎が尋ねるとまだ決まっていなかったようで


「じゃぁ七姫さんにやってもらう??」


などとその場にいたナナを見ておっそろしいことを提案し始める。

どうやら同じ本場能力者繋がりで適任と判断したようだ。


「え、私!? やるやるーー!!」


提案を受けたナナも目を輝かせていたが、とんでもない。

戦力が二分の一では済まない。

そして一瞬どうせなら(メイをペアに……)、と頭の片隅で閃いたのだが晒し者にするのはいくら何でも申し訳ないという意思が働き


「じゃぁ佐藤で」

「え!? 俺!?」


近くで作業をしていた巻き込んでも申し訳なくない友人・佐藤とクイズ大会に出ることになったのだ。


そして史郎達とて負ける気はない。

どうせ出るなら優勝だと二人は完全に勝つ気で来ていて


それに、そもそもどうせこんな大会でやるクイズ大会だ。

そこまで難しいわけがないだろうとタカを括り


「行くぜ!」

「おう!」


と二人で拳骨を突っつき合わせ挑んだんだが


『第一問! 世界で最も人口が少ない国はどこでしょう!』


((むずッ!?!?))


思いのほか難易度が高くて解けやしない。

そう、二人は完全にこのクイズ大会を舐めてかかっていたのだ。

これは完全に『予備知識を要する』レベルの問題である。

しかし周囲の学園はそれなりの切れ者を送り込んできたようで、なんとか正答を繰り出していく。

おかげで晴嵐高校はぶっちぎりの最下位で


「く、背中に刺さる視線が痛いぜ史郎」

「ホントにな……」


晴嵐高校の生徒達から差さる失望の視線が痛い。

だが最後の問題で希望の光が差し込んだ。

なんとこのクイズ大会盛り上げるためにバラエティ方式


「この問題は、取れれば10倍ポイントです!!」


最終問題で急激にポイントが吊り上がるシステムを採用しており、当然この問題を正答しても最下位脱出は欠片も敵わないのだが


「これを取れれば、史郎!」

「あぁ、『それっぽい』得点になるな……!」


他の学校がこの問題をミスり、自分達だけ正答すれば、最終ポイントが横一列に掲載された時、多少『それっぽい数字になる』。

きっと史郎達への『叩き』も少なくなるであろう。

つまり今この時こそが本気を出すべきところなのだ。


((来い!!))


史郎と佐藤の二人は最終問題に対し集中を最高に高める。

だが――


『では最終問題! 世界で一番大きい目を持つ生き物は何でしょう!』


((分かんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ))


肝心かなめの最終問題が欠片も分からない。

二人は頭を抱え、そして


(おい分かるか史郎……!)

(いや分からん……!)


顔を苦悶に歪める。


そして史郎はというと、このクイズ大会に佐藤を巻き込んだのは自分だ。


自分が何とかしなければと頭を捻り、一気に脳内のアドレナリンをテレキネシスで操作。

疑似的ゾーンに自ら突入していき、最も大きな瞳の生物に検索をかける。


その汗の玉を浮かべ歯を食いしばり苦悶する様に


「お、お前まさか分かるのか……?」


佐藤が史郎に一縷の望みを託しだす。

こうして頼みの綱は史郎、自分自身しかいなくなった。

やるしかない史郎。そう自身にエールを送り

史郎は知力を結集し答えを探り、この世で最も大きな瞳を有する生物。

その答えに辿り着く。

そうして出てきたのは――


「ひ、ひなぐし……?」


「お前には心底がっかりした」


史郎に佐藤の感情を宿さぬ瞳が突き刺さった。


その後、案の定晴嵐高校はクイズ大会でぶっちぎりの最下位になり、


「帰るぞ!」

「あぁ!」

「やってられるかこんなの!」


ブーブーと観客席から鳴り響く晴嵐からのブーイングを無視して史郎達は肩を怒らせ会場を後にした。


「逆切れすんじゃねー!!」


会場からは野次と共に瓶缶が飛んだ。


またその後も競技は続く。


史郎が次に参加したのは『二人でサンドイッチ』という競技だ。

二人でサンドイッチ。

男女の胸と胸の間に風船を挟み、それが割れないように落ちないようにゴールまで走るという競技だ。

そしてここは能力者による体育祭。

当然、風船を胸に挟んでゴールするという基本ルールに加えて能力により生徒や風船を攻撃して良いというルールが付け加えられていて


当然史郎の相方は


「が、頑張ろうね……九ノ枝君……!」


メイであり


「あぁ、頑張ろう……!」


メイに良いところを見せる必要がある。

史郎は気合を入れていた。

かくして競技は開始。

すぐに第8走第3レーンの史郎達の出番は訪れ


「行きましょう!」

「OK!」


ビーッ!と鳴り響く電子音の後、リズミカルな音楽をBGMに、史郎とメイは二人の胸の間に風船を挟んで駆け出した。


そう、始まったのだが、200メートルのトラックを走りながら史郎は考えていた。


(いやこれ何かの拍子に風船割れた方がおいしくない?)


と。

なぜなら、現状、史郎とメイの胸と胸の間に風船を挟んで走っているのだ。

胸と胸で押し合い風船を挟んでいるわけだ。

つまり何かの拍子で風船が割れたらメイの胸と極めて自然な流れで激突することが可能だ。


その決して小さくなく、そしていつぞやのプールで死ぬほど柔らかいことが証明済みの胸と再度接触することが可能なのだ。


しかも今回は欠片も自分の過失ではない。


所謂『事故』という奴だ。


いやしかし、とも思う。

果たして『胸に触りたい』その欲望のためにわざとやられるのは人としてどうなのだろうかと。

人として決して踏み外してはならない道を外す行為なのではないか。


いやしかしこのような好機。

今後訪れるのだろうか。

今起きているこのイベントは、空前絶後の大チャンスなのではないか、

と、これまで二人とも練習する機会が無く初めて行うこの競技で史郎は思う。


そう史郎はメイの胸をガン見しながら解けることのない悩みを考え続けていたのだが


周囲の生徒はそんなことは関係ない。


「喰らえ!」

「死ねぇ!」


などと言って史郎達を倒すべく能力を飛ばすが


「うっせぇ! 思考の邪魔だ!!」


史郎が半ギレ気味にテレキネシスを起動。


「「ぐあああああああああああああああああ!!」」


攻撃してくるあらゆる敵を半分無意識のうちに撃退し


『おーこれは凄い! 九ノ枝君! 欠片も寄せ付けません! あらゆる敵を葬り去るぅー!! というか九ノ枝君! 雛櫛さんの胸しか見ていません! これはただのセクハラなんじゃないのかー!? 誰がどう見てもセクハラだろー!!』 


と解説されながらも、ぶっちぎりでゴール。


史郎としては悩んでいる間にいつの間にかゴールしてしまった、という感じなのだが、ゴールした後メイが胸のあたりを手で覆い


「九ノ枝君……、見すぎ……!」


そう顔を赤くして言われ、いかに自分が恥ずかしいことをしていたか自覚した。


そのようなトラブル?もありつつ大会は楽しく進行し

楽しい時間はあっという間だ


「では最後の試合! トーナメントバトルです!」


体育祭、最終日。

最後の競技が始まった。

最終競技、出場するのは雛櫛メイ、その人である。




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