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第8話 二回戦

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」


なにやら盛り上がっている。


二回戦の対戦票が掲示され大いに沸く会場に史郎は静かに戸惑っていた。

しかし悠長に戸惑っていられるのもほんの束の間だった。


『では二回戦第一試合出場選手は早急に会場に集まってください! 第2試合の選手も待機場へ向かってください!』


史郎は二回戦第二試合に参加することになっている。


史郎は促されるままに待機場に向かう。


そして――


『では第二試合を開始します~!!』


早くも第一試合が終了し、史郎の出番となっていた。


史郎は会場となる校庭で先ほどと同じように中央とも端とも言えない場所で待機していた。


そんな折だ。


「お前、九ノ枝っていうんだよな……」


「あ、あぁ、そうだが……」


突如話しかけてきた男に史郎はやや慎重に言葉を選んだ。


完全に相手が自分に敵意を向けていることが分かったからだ。


いや、『相手』などというあいまいな表現はよそう。

史郎はこの校内全員の顔と名前が一致している。


権力会、序列六位。


通船場タケシが史郎の前に立ち、敵意を剥き出しにしていた。


「お前の力をちょっと見てやるからな?」


通船場はこめかみに血管を浮かばせて史郎をきつく睨んでいた。


◆◆◆


一方場面は切り替わり観客席では、解説のミイコとフウカがマイクを握りしめ白熱していた。


『さぁさぁ始まります! 注目のカード! 正体不明の実力者! 九ノ枝史郎くんと、権力会第六席、通船場タケシくんがこの試合で会いまみえます!!』


『我が高校の最高位の能力者集団、『権力会』の構成員は七人! トップ『光の断罪』こと射手瞬太を始め、『敵意開錠』古道みずうみ君を始め強力な能力を有します! そして『物々交換トレードフォース』こと第六席、通船場タケシ、彼と九ノ枝くんはどちらの方が実力が上なんでしょう!? 注目が集まるところです!』


『『能力研究会』の会長をやってる二年H組の檜佐木くんに来てもらいました! 檜佐木くんはどちらの方が強いとお考えですか!?』


ミイコに話を振られ、壇上のパイプ椅子に座っていた檜佐木と呼ばれた痩身の少年は眼鏡をクイッと持ち上げた。


『そうですね。まず九ノ枝くんがどういった能力を有しているかが重要になると思います。彼は一回戦で一度も能力を使用していません。先手必勝で通船場君が決める可能性もありますが、拮抗した戦いになる場合、九ノ枝くんがどういった能力を有するかが非常に重要です』


『なるほど。しかし檜佐木くん、果たしてそもそも拮抗した試合になるでしょうか? 通船場君の能力は非常に強力ですよ?』


『えぇ、だから十中八九勝つのは通船場君の方ではないでしょうか。しかしもし何かが起きるとすれば九ノ枝くんの能力次第というところです』


『ということは是非とも九ノ枝くんの能力が知りたいところですね。では注目の試合を今始めます! 皆位置について、、、、用意……!』


『ドン!』


フウカの掛け声と同時にビーッという電子音が校庭から響いてきた。



◆◆◆


ビーッという電子音が鳴り響いた。


試合開始の合図である。


史郎がわずかに集中力を高めると


「じゃぁお手並み拝見と行く、、かっ!」


通船場はすぐさま手の中に持っていた小石を史郎に向けて軽く放った。


小石が宙を描き、史郎の元に到達する。


次の瞬間。


「おらよぉ!!」


小石が空中で旋回する通船場に切り替わる。

突如目の前で大振りの蹴りを繰り出す通船場。


しかし――


「おぉ……」


史郎もすでに通船場の能力は知っている。

さして驚きもせず振ってくるかかと落としを半歩後ろに下がり回避。

しかし


今度の敵は一味違った。


通船場はそのままの勢いで地面にそのかかとを打ち下ろし、それにより乾いた校庭の地面に土煙が舞った。


土煙が沸くその中に微細な『小石』が立ち上る。


瞬間、通船場の姿が消え去り、


「油断したか……?」


史郎の直下で身をかがめて足払いを仕掛ける通船場がいた。


史郎は鮮やか敵の連撃に素直に驚いた。


そう、通船場が有する能力は『物々交換トレードフォース』。


『自分の肉体と自分が放った小石と入れ替える』能力。


それにより史郎への距離を一気に詰めたのだ。


通船場のえぐるような足さばきが史郎に迫る――


◆◆◆


その光景に息を呑んだのが観客席だ。

フウカは拳を握り叫んだ。


『おお! 今まで全ての攻撃を避け切ってきた史郎君に攻撃が当たりそうです!』


『九ノ枝くんの無被弾記録はここで消え去ってしまうのかぁーーッ!!??』


会場中の生徒が戦闘万華鏡を食い入るように見つめていた。


誰もが思っていた。


この攻撃は『さすがに当たる』と。


◆◆◆


しかし、史郎はあっさり攻撃を避け切っていた。


大したことはない。軽い身のこなしで避け切ったのだ。


そしてそれが――


「……ふ」


プルプルと震えながら通船場は声をひねり出す。


「ざッ、けんなよ、お前……ッ!!」


通船場を逆上させた。


逆上した通船場は拳での喧嘩を挑んできた。


無数の大振りの拳が史郎に迫る。


だが今のフェイント足裁きすらあっさり避け切ったのだ。

史郎はそれらを上体を僅か逸らしながら躱していく。


『『『おぉぉ!!』』』


遠くの体育館で歓声が沸くのがここまで聞こえてきた。


沸き立つ観客の存在がまた通船場の怒りを募らせる。


そして、しばらくすると、遠くの観客の歓声が今度は通船場を冷静にさせた。


それほど鮮やかに史郎は避け切っているのだ。


つまり、悔しいが、このままでは勝てない。そう悟ったのだ。


史郎を倒すのには奥の手を出すしかない、と。


悟ったのなら即実行するに限る。


通船場は史郎といったん距離を取ると、


「おい、よろこべ九ノ枝……」


不敵な笑みを浮かべながら通船場は小石を指ではじき、


ゆっくりと腕をテイクバックした。


「人目があるところで『これ』を使うのは初めてだ……!」


小石がゆるゆると地上に戻ってくる。


それに向かい渾身の通船場の拳が突き刺さる。


そして小石と通船場の拳が接触しそうになった瞬間だ。


『小石』と『史郎』が入れ替わった。


◆◆◆


同時刻、観客席は大いに盛り上がっていた。


通船場の「敵と小石を入れ替える」という大技に多くの生徒が驚いていた、


のではない。

いや、それにも驚いていたが


『おおおおおおおおおおお!!! まさか九ノ枝くん!』


ミイコがマイクにかぶりつく。


『通船場君の攻撃を受け止めましたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


◆◆◆


「……なッ、どういうことだ……!?」


通船場は殆どこの攻撃を使用したことがない。

前情報なしでこの攻撃を受け止められるものなどいるはずがない。

通船場の顔が驚愕で彩られる。

自身の拳を受け止めて離さない史郎が異次元の生命体に感じられた。


一方、史郎はポーカーフェイスを保ちながら大きくなる鼓動を押さえつけていた。

史郎は内通者発見のために多くの能力者の能力情報を収集していた。

だからこそ、通船場の能力も事前に知っていた。

だからこそ防げた一撃なのである。

だがいざ向けられるとなかなか驚くものだ。


史郎はタラリと汗を一筋流し、終わりだと通船場の胸元に手を伸ばした。


対する通船場は完全に毒気を抜かれていて史郎の迫る手を払いのける戦意すら喪失している。


よしこれで一人倒せた、などと心の中で小さくガッツポーズする史郎。


だがそう簡単には問屋がおろさなかった。

というよりも、そこに敵の攻撃が挟まったのだ。


事実だけ記そう。


半透明の人形が飛んできて通船場の校章を奪い去ったのだ。


「あ、」


目の前で敵が倒され間抜けた声を出す史郎。


視線を周囲に向けるといつのまにか金髪の少女が立っていた。


金髪の少女は告げた。


「通船場くんでもダメ。でも、アタシの能力ならいけるんじゃない?」


「・・・・・・ッ!」


現れたギャル風の少女。


その女こそ、史郎が実はこの大会において最も警戒していた相手だった。

史郎は息をのむ。


そう、ベテラン能力者の史郎をして、警戒する相手がいないこともないのがこの能力覚醒犯により能力覚醒した能力者たちなのである。


なぜなら――


「行きなさい、『お菓子契約キャルロッテちゃん』」

『命令はー?』


少女の横で浮遊する人形はまるで命があるかのように小首をかしげ主を見上げた。


「その男の校章を取ってくるのよキャルロッテ」

『分かった、じゃぁビスケット4枚ちょうだい~』

「いいわよ」


言って女はポケットからビスケットを4枚取り出しキャルロッテに与える。

それを数秒で食べきると、キャルロッテが淡い光を帯び始める。

そして――


『じゃぁいっくよーー!』


人形の亡霊のような、力の塊が史郎めがけて飛んできた。


「うおっ!」


その姿に史郎は瞠目し、一目散に背を向け駆けだした。


史郎は校庭を走り出しながら、今ほどの少女の情報を脳内で再生する。

1年D組、花街はなまちキョウコ。

外見が良く多くの男子から人気を集めるギャルである。


そして保有する能力が、


『お菓子契約キャルロッテちゃん』


なにそれお前ふざけてんのかというネーミングだが、相当恐ろしい能力だ。


というのもこのキャルロッテちゃん、敵に攻撃することは出来ない。


しかしだからこそ『こちらからの攻撃も効かない』のだ。



そして有する能力というのが『キョウコの指示を実行する』というもの。

だが命令というのも、どうやらボタンを押す、物を取る、などの簡単な命令しか出来ないようなのだが、その結果誕生するのは任務達成まで消えない『攻撃不能』の妖精だ。


この戦いにおいて厄介にもほどがある。


史郎はキャルロッテから逃れるべく校庭の中心に躍り出る。


そして、多くの生徒が史郎をその瞳に捉えた。


◆◆◆


一方でここは観客席である。


『やはりキョウコの攻撃は九ノ枝くんも困るようね』

『ま、まああの能力はこの大会ルールからしたら反則ものだしね』

『しかも本人は自分の周囲にきっちり護衛をつける徹底ぶり。かぁーモテる女は違うねぇ』

『あ、それよりミイコ見て!!』


知り合いの女の強力無比な能力に呆けていると戦闘万華鏡に変化があった。

戦闘万華鏡は校内で起きている全ての戦闘を自動フォーカスし画面の一部を割いて映し出す。

それら割れた画面の多くに『史郎』の姿が映り始めたのだ。

それはつまり――


『参加者一斉に九ノ枝くんを攻撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


二回戦に残るような生徒は多少は腕に覚えがあるものばかりだ。

だからこそ史郎が全ての攻撃を避け切った一回戦。

あの姿に嫉妬したのだ。

二回戦に上った多くの生徒が史郎に土をつけたいと思っていた。

そう思っていた矢先、校庭の隅で戦っていた史郎がキャルロッテから逃れるべく校庭のど真ん中に移動。

多くの生徒の攻撃の矛先は史郎へ向いた。


『どおおおおおおおおおおおおなる九ノ枝くんんんんんんん!?!?!?』


◆◆◆


まず始めに視界に飛び込んできたのはオレンジ色の棒だった。

遠くに見えていた棒。こちらに向けられており、獲物の長さは分からない。

だが棒の先端の円がみるみる巨大化することで事態に気が付いた。

ここは能力者が通う学園。


棒が『伸長し』こちらに向かってきているのだ。


「おう!」


とっさにリンボーダンスの要領で身をそらし攻撃を躱し切る。

鼻のほんの少し先をオレンジ色の棒が突き抜けていく。


岩田のウエポン型能力。『如意棒』である。


それを避け切ると今度は


「隙ぃ!」


鼻が狼のように変化した獣人型の人間。


「有りぃ!!!」


犬崎ユタカの攻撃。

犬崎の能力は獣人変化タイプ:狼。

その爪は鋭く変化しており、それが身を傾がせる史郎を捉えた。

が、


史郎も簡単にはやらせない。

頭上に伸びていた『如意棒』を掴み


「ふん!」


鉄棒を掴むように無理やりそれで上体をわずかに起こし、


「ヒブッ!」


かわりに下がった如意棒で犬崎の頭を叩く。


だがこれで周囲の攻撃は終わりではない。

早くも三人近い能力者が手に炎を、雷を、水を、纏い史郎に襲い掛かろうとしていた。


「行くぜぇぇぇぇぇぇ!!」

「うおおおおおおお!!」

「いつまでも調子乗ってるんじゃねぇぇぇぇぇぇェ!!!」


それぞれ思い思いの言葉を発しながら史郎めがけてとびかかる。


「ッ」


史郎は素早く対応した。


即ち、


「うお!」


如意棒を掴み、そのまま主・岩田側へむんずと押し、逆に岩田を突き飛ばす。

かくして岩田は地面に倒れ、如意棒が岩田の手から離れる。

能力主を失いウエポン型の能力が消失する。

その間際に、史郎はその長獲物で自分の周囲を一薙ぎしたのだ。


「「「うぐあぁぁ!!!」」」


似たような叫びを放ちドサドサドサァと史郎に襲い掛かろうとしていた三人衆が纏めて薙ぎ払われる。


直接攻撃がどうこうなどとルールがあったが、さすがは生徒が思いつきで始めた企画。早くも形骸化しているので気にする必要はない。


ものの数秒で五人の能力者を打ち払う史郎。

だが周囲の生徒はひるまず史郎を囲い込んでくる。


数を瞬時に数える。


視界のいる残り6名に背後から駆ける1名。

加えて、


『くそ~~~!!』


史郎が身を下げて躱す。

『お菓子契約キャルロッテちゃん』こと花街キョウコ。

そしてその脇に立つ肉体強化系能力者『竜胆』

総勢9名の生徒が史郎を狙っていた。


それだけじゃない。


「イッテェ……」

「ルール上はセーフか……」


たった今倒した五人の生徒。

彼らまで立ち上がり史郎を狙い始める。


そしてじりじりと史郎と距離を詰める生徒たちのうち、誰かが言った。


「俺こそが九ノ枝に土をつける」


と。


「ちょっと強いからって調子に乗ってんじゃねぇ」


と。


「きっと能力は雑魚に違いないのに……」


と。


正直、カチンと来た。


自分の力で能力覚醒したわけでもない、他人の介添えでようやく能力者になれた


才能が乏しいため裏では能力を忘れ一般社会に戻す流れの彼らに


『能力が弱い』 と言われたことに、非常に腹が立った。


思えば、


ただでさえ、今ある能力世界と一般世界の均衡を崩しかねないからといつ爆発するか分からない腫物のような扱いを受けていて、


だがそのことを知らず自分たちは選ばれた人間だと風を切って歩く彼らには違和感を持っていたのだ。


イメージとしては、にわかファンが知った風な口を聞いているのを眺める時の感情だ。


だからこそ、史郎は


ほんの少し、ほんの少しだ。


世界の広さを知らしめることにした。


「いいぞ。かかってこい」


史郎は、誰かが能力に使用していたものなのだろう、落ちていた木片に


『力を送った』


バンッ! とまるで木片に命が通ったかのように跳ね上がる。


空中に木片を浮かばせ史郎は言う。


「少しだけ遊んでやる」


「「「「ふざっけんじゃねえええええええええええええええええええ!!!!!!」」」」


総勢14名の能力者が史郎に襲い掛かった。

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