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第7話 キラービー②


メイを巡る戦いを勝手に始めメイ達をドン引かせて見せた史郎。


一方で史郎は、


(絶対勝たなきゃ)


気合ながらステップ。息を整えながら残す9人の敵の出方を窺っていた。

晴嵐の仲間がチラリと史郎を見たが目配せで(心配ない)とメッセージを送る。


これだけ史郎が本気を出したのには理由がある。

当然それは、史郎はこれがメイを巡る戦いだと勘違いしているからだ。


原因は史郎の脳がメイを落とすべく全力で働いていたことだ。

だからこそ横田の言葉『大切な人』は史郎の中で『大切な(ヒト)』と変換され、現状、史郎が自覚出来ている『史郎と良い感じかもしれないヒト』などメイしかいない。

だからこそ奪われるとしたらメイしかおらず、そもそもメイが史郎の物かと言えば若干微妙なのだがとりあえず相手はそう認識しているようなので史郎は立ち上がった次第である。


そして仮にもメイがかかっているのだ、史郎は本気であり


虎の尾を踏んでいることにも気が付かず、彼らは特攻するしかなかったのだ。


「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


横田の指示で残す9人中3人の生徒が一斉に駆け出す。

皆がウェポン型の能力者だ。

一人はヨーヨー。一人は大鎌。一人は鞭。


それぞれが自慢の獲物を出現させ史郎に突撃したのだが


ヨーヨーを出現させた能力者がそれをブンッ!と敵に投げつけた瞬間だ


「フッ」


それをむしろ待っていたかのように史郎は腕を突き出しヨーヨーを絡めとり、一気に腕を引いた。


「うわッ!」


それにより体を吸い上げられた少年はグンッと宙を舞い史郎に向かってダイブすると鳩尾に重い一撃。


「グフッ!」


致命加護(シュートポート)』を発動させその場から離脱していった。


その隙に距離を詰めた長身の男が大鎌を大きく振りかぶるが、蠅でも払うように史郎が腕を払い、それが大鎌に当たり、あっさりと大鎌が壊れる。


「ナッ――」


相棒が壊れる様をまざまざと見せつけられ絶望する男に史郎の拳が突き刺さり『致命加護(シュートポート)』が発動。石に置き換わり、「貰った!」最後に鞭をしならせ史郎に一撃しようとした男も、鞭を掴まれ引き寄せられ、


「オブッ!」


史郎に蹴りを叩き込まれ離脱した。


あっという間の撃退劇。


「な――」


その鮮やかすぎる戦闘に観衆は


「「「「なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」」」」


目を剥くが、横田達は攻撃の手を緩めるわけにはいかない。



「行け行け! 怯むな!」


残る仲間が横田の指示で順を追って史郎に襲い掛かる。


だが次に史郎に襲い掛かった『爆霧(ばくむ)』。

『爆発する白い霧を生み出す能力者』が『爆霧』を奮うも、史郎は軽く跳躍しそれを回避、そして


「ブフ!」


呆気に取られる少年の顔面に史郎の靴の裏がめり込む。

史郎はそうして一瞬で少年を離脱させ、次に襲い掛かってきた雷撃を放つ能力者の一撃も腕を振るうだけで受け止める。


そして電撃を放った少年に目にも止まらぬ速度で迫ると一撃。


致命加護(シュートポート)』を発動させて見せ、史郎の死角を取って背後から刀を振るった能力者には、刀を見もせずあっさり気配だけで――白羽取りと表現するには荒荒し過ぎる方法――背中に手を回しむんずと掴み取ると、手から血が出るのも構わずそのまま思いっきり自分の前方へとブン投げた。


それにより刀を本気で掴んでいた少年は何十メートルも宙を舞い、当然堪え切れる訳もない。


「うおあ!?」


地面に落下すると同時に『致命加護(シュートポート)』を発動させ離脱した。


「「「えええええええええええええええ~~~!?!?!」」」」


その余りの規格外ぶりに会場は驚きに包まれた。


「な、何今の……」

「刀見ないで止めたよね……」


そして度肝を抜かれたのは横田も同じで


「嘘だろ……」


その余りの無双ぶりに生唾を飲み込むが、やめるわけにはいかない。

くそ、そう吐き捨てながら仲間を突っ込ませようとした時だ、その時横田にとって好都合な動きがあった。


そう、横田が勝手に30名中10名を引き連れ史郎に特攻したのだ。

残りの20名は守りが崩れ晴嵐高校に徹底的にやられており人数差で勝ちが見込めなくなった以上史郎を倒すしか勝ちがなくなり


「もう仕方がねぇ!! 史郎をぶっ潰せぇぇぇぇぇぇ!!」

「「りょーーかいぃぃぃぃぃ!!」」


コート奥にいた自校の生徒が史郎に襲い掛かったのだ。

これは史郎を倒さんとする横田にとって好都合だ。

横田は即座に策を巡らせ始める。

しかしそれよりも早く、追加で史郎に迫った6名の内3名


史郎の餌食となる。


一人が氷の剣を作る能力だったのだが、その一閃は史郎にあっさり躱され、

トンッと史郎に胸のあたりに手を置かれ


「え、何を……?」


と冷や汗をかいて尋ねるも、史郎は無言。

史郎はそのまま「フンッ!」と少年をふっ飛ばし


「ぐえぇぇ!?」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「おぶふぅぅうぅ!!」


ボーリングの要領でふっ飛ばされた人間が重なり、その衝撃でシュパパパパンッ! と一斉にシュートポートを発動。緊急離脱させたのだ。


その光景を見てリーダー格の男は全員で一気にかかるしかないと即断し


「やはりコイツやべぇ! 一斉にかかれ!!」

「おっけぇぇぇい!!」

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!!」


と3人が突撃。すかさず横田が、もう時間が無い


「おいお前らも今だ!!」


と残すメンバーに声をかけ突撃させたが、焼け石に水だった。


「ハッハー! 死ねぇ!!」


横田の配下の不良が史郎の前に躍り出た時だ


(先ほど突っかかってきた男の取り巻きか……)


そう史郎は認識すると


「フンッ!!」


今日一番の一撃を男の懐に叩き込み、『致命加護(シュートポート)』を発動させた。


そして『致命加護(シュートポート)』とは既定のダメージ以上のダメージを周囲に肩代わりさせるものだ。

それにより周囲にあった空気に衝撃が走り『衝撃波が発生』し


「なんだ!?」

「うわぁぁぁぁ!?」


発生した衝撃波に飲み込まれ、周囲にいた全員が『致命加護(シュートポート)』を発動させたのだ。


連鎖爆撃のような一撃。

ドミノ倒しのような攻撃で一人殴ることで一気に6名近くを緊急離脱させた史郎。


「「「おおおおおおおおおおお~~~~~~~!!!!!!」」」


その度を越した規格外の戦闘力に観客は度肝を抜かれ、史郎のそばで残ったのは横田だけ。


加えて横田は作戦のために周囲の注目をより集めていて


――『谷戸組』の復活を目論む以上、ここで逃げるわけにはいかない――


「お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


横田は怯えながら史郎に駆けだし、


即行で自身の能力を起動した。


無色爆撃インビジブルエアーボム


無色透明な起爆性の粉を散布し、無色透明の爆撃を起こす能力である。

それは一見ただの衝撃波のように見えるわけだが、その後周囲に鮮やかなオレンジの炎が上がり、敵はこの能力が衝撃波とは違う何かだと気が付く、美しく、そして凶悪な能力だ。

多くの者が横田の能力の本質を捉えられず敗北していった。

そしてその無色透明の起爆性物質はすでに史郎の周囲に散布していた。

この能力を信じてやるしかない。


これで谷戸や聖野を取り戻す――

引いては谷戸組の権威を取り戻すのだ――

だからこそ横田は


「喰らえ!!」


栄光を夢見て、能力を起動した。


同時にジンッ! と鼓膜が破れるような衝撃音が発生し史郎が無色透明の爆発に巻き込まれた。

爆発自体は見えない。

しかし周囲の光景には明確な変化があり、史郎を中心に半径十メートルの地面の砂が消し飛び爆風が駆け抜ける。

衝撃音でバタバタバタッと一斉に鳥が羽ばたき、会場にいた誰もがただならぬ攻撃を横田は出したのだ、と思った。


横田自身も手ごたえあり。ここ一番の出来だ。どうやら八戸組を取り戻すというプレッシャーが良い方向にシフトしたようだ。と期待を込めて史郎を見るが、待てど暮らせど史郎の『致命加護(シュートポート)』が発動しない。

ん、これはどうしたんだー?と横田が訝しがっていると、横田の渾身の一撃を受けた史郎がスタスタ歩いてきて


「え……?」


言葉を失う横田に


「フン!」

「ふげぇ!!」


拳を振るった。


こうして横田の学園再支配の夢は儚く消え


「おめーに雛櫛は渡さねぇ」


『男の争いを制したのは九ノ枝史郎だぁぁぁぁぁぁ!!』


谷戸組の復活を目論む横田の聖戦は一人の女を巡って争う大会の珍事として片づけられた。

会場のどこかで誰かが言う。


「横田って面食いなのね」と。






ちなみにもう一人高野原真一という少年も史郎に敵意を抱いていたが、彼も


晴嵐高校VS青柳高校の試合において


「ブフゥ!」


史郎に一撃でのされ、致命加護(シュートポート)を発動させていた。


(なんだ急に……)


久しぶりに自分を攻め立てた男を一撃で倒し、史郎は眉をひそめていた。


そして案の定あっさりやられてしまった高野原は


「あ~全然ダメだったな……」


青柳高校の『キラービー』に一通り出終えると自販機でコーヒーを買い項垂れていた。


史郎を倒す。そう息巻いた。

だからこそチームの輪を乱して史郎に特攻を仕掛けた。

だというのに自分はあっさりやられて周囲の人間からは『何やってんだよ』『イキってんなよ』などと言われる始末。


何やってんだ……。


これじゃメイと、自身が以前から応援しているアイドル・ランカを両取りをする史郎に一指も報いられていないじゃないかと高野原は自嘲的に笑った。


だがその時、好機は突如現れた。

史郎との戦いはまだ終わっていなかったのだ。

いや、まだ戦いすら始まっていなかったのだ。


高野原がいたのは会場の自販機前のベンチ。

丁度そこに――史郎の試合が行われていないからであろう――メイが現れたのだ。


黒髪の美少女は自販機で何を買おうか逡巡しているようだ。


そしてこれは、好機である。

噂ではメイにちょっかい出そうとした生徒が史郎に血の制裁を受けていると聞くが、今ここに史郎はいない。

キラービーで優勝した史郎はまだ会場に残っているはずだ。

おそらくその合間を縫ってメイは自販機に来たんであって、だからこそ今ならメイに話しかけることが出来る。


ランカを取られて苛立つのなら、逆に史郎からメイを奪ってやろうと思ったのである。

そもそも能力におけるバトルで史郎に敵いっこない。

ならば史郎と自分の間で競われる戦いは何であるべきか。

それは当然メイをどちらが手にするかという戦いであろう。

つまり今から始まるナンパ(バトル)こそが自分達の真の戦い。ラグナロクなのである。そう決意し高野原は


「ねぇ君」と話しかけたのだが


「?」


さっと振り返り直近でとらえたメイの表情が


「!?」


余りにも美しくて


「あ……、あ……」


高野原は固まってしまい、メイはそんな高野原を奇妙な目で見つめると、困ったように眉を下げ、立ち去ってしまったのだ。


(最大の好機も逃した……)


メイが立ち去っていくと高野原はがっくりとベンチに蹲った。

一体自分は何をやっているんだと自分をなじる。


どうにもここ最近、ランカの記事が載るサイトでランカが史郎に気があるのではないかという記事が掲載されて以降ダメだ。

全てが空回りしている感がある。


全くどうしたもんかと高野原が呆れていると、ようやく解放されたのだろう、キラービーに参加していた晴嵐高校の生徒がぞろぞろ会場から吐き出されてきて、


先程のメイと出会えるという幸運に対して何て腹のたつ不運なのだろう


「あ、俺飲みもん買ってくから」


史郎が一人、先ほどメイが立っていた自販機の前に残った。


「さ、どれにしよっかな~」


そして顔も見たく無い史郎が上機嫌に飲み物を選ぶのを眺める。

どうやら先程のメイと出会えるという幸運は顔も見たくない史郎と出会うという不運と相殺されるべくして生まれた幸運だったらしい。

糞野郎が、後ろからぶん殴ってやろうかとも思うが

そんな折だ、携帯が唸った。

携帯を見てみるとランカの記事が載るサイトの更新通知だ。


何だこんな時に、そう思いながらも普段のルーチンでパブロフの犬式画面タップ。携帯を覗き込む、とそこにはーー


『速報ニュース! ランカ、史郎に特別な想いは無いと明かす!!』


という驚愕の文字が躍っていた。


(ーーーーーッ!?)


驚愕で、高野原は目を見開いた。


それは、ずっと見たかった、聞きたかった言葉だった。

そしてその記事を見た高野原はというと――


「おい史郎」

「え?」

「なんか奢ってやるよ」

「え? 俺もうコーヒー買ったんだけど……」

「買わせろ……」

「は……?」


突如なぜか上機嫌な男に飲み物を驕られ史郎は目を白黒させていた。


◆◆◆


そうしてなぜか追加でコーヒーを手に入れメイやカンナ達と合流した史郎。

案の定、


「てゆーかさっきのメイを巡る戦い何だったんだよー!?」


と周囲にいたクラスメイトに茶化され、ついに史郎が現れ顔を真っ赤にし俯くメイに、史郎も顔を赤く染めながら先ほどの事情を説明する羽目になっていた。


そしてさすがに音声を拾われていたことは把握しており、というより周囲を牽制するために敢えて口にした節もあり、言い訳は考えてあった。


「あ、いや、あいつ雛櫛に気が合ったようでなぜか俺に突っかかってきたんだよ……。で、なぜかあんな流れに……」


そう言い訳をし


「ま、不味かった……?」

「ま、不味くないけど……そうだったのね……」


両者ともぎこちないやり取りをしていた。


そして話題は当然、史郎がなぜか持っている二本のコーヒーに飛び


「なんか奢ってくれた人がいたんだよ」


そう史郎が説明すると


「ふぅん、おかしな人もいるものね」

「だよな」


史郎とメイは呆れて笑うのだった。


そしてそれからしばらくした後だ。

女子の目玉種目が始まった。


「行くよメイ!前準備!着替え!」

「わ、わかった!」


カンナに呼ばれてメイが駆け出していく。


「こ、九ノ枝君! じゃ行ってくるね……!」

「あぁ、頑張ってね!」


顔を赤く染めながらかけていくメイを史郎は笑顔で送り出した。


こうして女子の一大イベント。創作競技。『チアダンスバトル』が始まった。


新国立競技場の隅で一人の少女が意気込む。


「じゃぁ今度は私が行くわよ! 私がメイをぶっちぎって史郎を落としてやるんだから!」

「だからお前も止せリンダ!」


意気込む好美氏リンダを一般人代表・野崎大地は必死で止めた。



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