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第6話 キラービー①



信じられないものを見た。

そう思った。


八木田中学校には一つの伝説がある。

能力により学園を完全に支配した谷戸組の伝説だ。


視点移動(アイポイント)』『脅威度測定リスクカリキュレイター』という二大能力を有するカリスマ。谷戸剛健(やとごうけん)聖野優(せいのゆう)

彼らはその圧倒的な武力でたちまち学園を支配し、学園に新たな力による秩序を(もたら)して見せた。

だが秩序を生み出した者達も、所詮は学生の身。

卒業という幕引きからは逃れられず、然るべき時に別れは訪れ――


「任せて下さい……! 谷戸さん! 聖野さん! 八木田の支配は自分が引き継ぎますよ!」


別れの日、横田志道(よこたしみち)は涙を溢しながら谷戸と聖野に縋りついた。

谷戸組と呼ばれた一大勢力は第三学年に集中しており、これから自分は学園を支配出来るのだろうか、その重圧で押し潰されそうであった。


そんな横田の頭を谷戸はその大きな手で撫でた。


「大丈夫だ志道、お前なら出来るよ。お前はこの学園でもとびきり強い。もしかすると俺よりも強いかもしれない。だから安心しろ。お前なら学園支配を維持できるよ」

「そんな……! そんなことないっすよ~~……!」


能力を覚醒して以来、髪を金色に染めピアスを付け始めた横田はぶんぶんと顔を振るが


「安心していい志道。実はお前の脅威度は谷戸を越している。言っていなかったがお前はこの中学校最強の能力者だったんだ」


と聖野が驚きの事実を告げて来て横田は目をしばたかせた。

淀んだ瞳がうっすら光る。


「だからお前を仲間に引き込むことは必須事項だったんだ。頑張れ」


二人からの温かい言葉は世界の何よりも高貴なエールだった。

そうしてぐじゅぐじゅ溢れる涙を拭き横田は八木田中学の継続支配を決心した。


「おいおい泣くんじゃねーよ……」


一方で隠すことなくボロボロ涙をこぼす後輩に谷戸は眉を下げた。


「泣きたいのは俺たちの方だぜ。なんせせっかく築いたユートピアを離れなきゃなんねーんだから。なぁ聖野」

「違いない。全く、新天地でどうなることやら」

「せ、先輩たちなら大丈夫っすよぉぉ!! 先輩たちはいつまでも『谷戸組』! そうっすよねぇぇ! 新しい学園入っても『谷戸組』を続けてくださいッ! 自分も来年晴嵐高校に進学します! 先輩たちが支配する学園に行きますんでぇぇ!!」


泣き叫ぶ横田。そんな情けない後輩に谷戸と聖野は顔を見合わせ


「まぁ任せとけ。お前が進学してくるころには晴嵐は谷戸組の手に落ちてる」

「努力はしておこう」


と言って自信ありげな笑みを見せて去っていったのだが……



「どーしたんすか先輩!!??なんでゴミ拾いなんてしてるんすかぁ!?」

「言うな……ッ」


久しぶりに憧れの先輩に会ってみたらなんとゴミ拾いをしているのだ。


「どーしたんすか先輩ッ!? 急に連絡取れなくなったと思ったらどーしたんすか!?」


問い詰めても一向に谷戸も聖野も口を割らない。

だがしばらく問い詰めると、


「実は……入学してしばらくして九ノ枝史郎にやられてな……」


悔しそうに谷戸が口を割った。


「マジっすか……!?」


そしてそれを聞いて横田の中に沸き起こったのは学園支配に失敗した先輩達への軽蔑ではない。

敬愛する先輩達もここまで惨めな姿に追いやった史郎への身を焼かれるような怒りだ。


だから横田は


「じゃぁ自分がその九ノ枝ってやつをぶっ飛ばしてやりますよ!!!」


と意気込み


「止せ!?」「死にたいのか!?」


と血相を欠いて止めにかかる先輩たちを振りぬき


「ちぃ~っす、九ノ枝ぱいせ~ん! ちょっと面貸して下さいよぉ~」


会場で史郎を見つけると突っかかった。

そして突然突っかかれれて史郎は


「誰……?」


流石に面倒臭そうに顔を顰めたのだが、彼は何ものかも名乗らず


「実はあんたに俺の大事な人が奪われたんすわ。だから俺はアンタを絶対許さねぇ、あんたを倒し……」


一拍おいて


「俺の大事な人をアンタから奪い返してやるよぉぉぉぉ!!」


そう叫んだ。

そして宣戦布告を受けた史郎はというと


(俺の大事な(ひと)だと……?)


盛大な勘違いを始めていた。

なぜならこの時史郎は、メイを落とすために頭が極度の恋愛脳になっていたからである。


◆◆◆


こうして二人が会いまみえたのは創作競技『キラービー』であった。

大会序盤の『男子』の目玉競技だ。


『ではいよいよ始まります! キラービー!! 参加する男子生徒達は各校の強豪です!!』

「「「おおおおおお~~~~」」」」


おかげで会場は否が応にも盛り上がる。


ボンボンボンボン!と空砲が上がる。

この競技の司会の少女の声も跳ね上がる。


『本大会男子の第一の目玉『キラービー』! 簡単にルールを説明します! キラービーは二校対抗で行う競技でまず各校30名ずつ代表選手を選出します! そして各校はまず『女王蜂』役を選定! そして相手の女王蜂役の『致命加護(シュートポート)』を発動させたら勝ち! というルールです! 試合時間は5分! 試合時間内にどちらも女王蜂を倒せなかったら残った生徒の総数で勝敗を決します!』


「「「「おおおおおおおおおおおお~~~~」」」」


それが目玉競技。『キラービー』のルール。

既に周知のルールだが改めてそれを聞いて生徒達は歓声を上げた。


一つ特殊なルールを上げるなら女王蜂役の生徒はコートの両サイド、奥の限られたスペースしか動けない、という物だ。


それは晴嵐高校の生徒が、史郎を女王蜂役に縛れば自分達が活躍出来るという思惑と(史郎は倒されないだろうから自分たちは守りを捨てて攻撃に専念できる)、


どうしてもこの手の『そのまんま能力バトル』を競技に導入したいが相手に史郎がいると勝てっこない。

だが史郎が女王蜂役になれば最終的に人数差で勝ちに持ち込めるという他校の思惑が一致したものである。


こうして出来上がったのが目玉競技・そのまんま能力バトル『キラービー』で、大会開始以前より注目度は他の競技よりも段違いで高く


「沢村くーん! 頑張ってーッ!!」

「近藤―! しっかりするんだぞー!!」


会場から黄色い声援・野太い応援が届く。

そんなてんやわんやの中試合は始まって


『まずは四宮中学校と輪達中学校の試合です! ヨーイ……!! ドン!!』


ビーッという電子音が鳴り


「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」


会場が今日一番の盛り上がりを迎えた。


それからしばらくコートでは多くの生徒が能力を飛ばし賑やかな光が錯綜した。

ビームや炎、雷が迸り、刀や槍、ミサイルなどがコートを駆け巡る。

そんな中、とある長身の生徒が相手の女王蜂を倒すべく一気にコートを突っ切り、それを『戦闘万華鏡』で見た生徒が歓声を上げ、


『おおおおお! 林道高校の古瀬君! ついに――ッ!!』


と司会も声を張り上げる。

そして男子生徒が敵のボスを『致命加護(シュートポート)』で離脱させると大きな歓声が沸き起こったりしていた。


◆◆◆


そしてそうこうしている内に数試合が終了し、史郎擁する晴嵐高校と横田擁する八木田中学校の試合開始時間を迎え


「女王蜂役頼んだぞ!」


史郎は案の定女王蜂役に任命されており、史郎は


「任せろ。お前たちは攻撃に専念してくれ」

「OK! 任せたぜ!!」


周囲の生徒をにこやかに送り出していた。

こうして両校生徒がコートに居並び


『では晴嵐高校VS八木田中学校の試合を開始します!』


電子音が鳴り響く。

こうして試合が始まった。


「「おおおおおおおおおおおおおおおお~~~!!!」」


会場から男女混ざる歓声が上がる。


そして試合開始直後、動きがあった。

なぜなら言ったように


『なんとぉぉ! 晴嵐高校全員突撃だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 九ノ枝はやられないとの判断の元防御を捨て全員で攻撃に専念するようです!!』


晴嵐高校にディフェンスは必要ない。

参加30名の内史郎除く29名で一斉に敵陣に向かい駆けだしたからだ。


これまではオフェンスディフェンスに別れ小規模な戦いがコート上の至る所で起きるという事態が続いていた。

それでも盛り上がったのだが、今回は全員一丸となっての特攻だ。


ズダダダダダッと土煙が巻き起こりそれを見た観客たちは


「すげぇ!」「めちゃくちゃ乱暴だな!!」「でもそうか史郎が女王なら守らなくていいのか!!」「アイツら考えたな!!」「これはアツイぞ!!」


などと言いながら大いに盛り上がっており


『おおおお! これは全員一丸になっての特攻だぁぁぁぁ!! 高校生たちの大人げない力押しだぁぁぁぁ!!! どう裁く中学生たち!!』


司会の声も自然と上ずる。

だが一方で『本気で』晴嵐と戦うことを想定していた八木田中学にとって晴嵐の作戦は完全に『読めていた』

だからこそ


「予想通りだな! ならやることは決まっている!」

「あぁ敵を一人一人倒し両校女王残留の総数勝利を目指す!」

「お前ら『陣』を固めろッ!!」


と、予定通り守りを固めて人数差による勝利を狙い始める。

当然参加する横田志道(よこたしみち)も守りの陣形に参加しなければならないのだが


「ハッ! やってろカス共!!」


横田は目障りだった目の前にいた同校の生徒を自身の能力で『倒し』周囲の谷戸組の残党と目を見合わせ、一気に前に駆けだした。


「何をッ!?」


仲間が『致命加護(シュートポート)』を発動させるのに目を見開く同校の生徒に横田は吐き捨てるように言う。


「めんどくせーんだよ! 俺達が狙う首は九ノ枝だけだからよぉ!! 行くぞお前ら!!」

「「「おう!!!」」」


「どういうこと!?」

「仲間割れ!?」


当然、仲間への攻撃で会場は騒然としていた。


『どうしたことでしょうか!! 守りを固めようとした八木田で仲間割れです!! しかも10人ほどで一気に九ノ枝君に向かっていきます!!』


司会も目を瞬かせて、たった今起きた現象を捉え実況する。


――そして、それこそが横田の狙いだった。


そう、仲間を倒したのはそのショッキングな映像で周囲の・観客の司会の目を引くためである。

そうすることで、自身の異常性を知らしめることが目的だったのだ。


なぜなら横田、実は八木田中学校の支配に「失敗していた」。


谷戸や聖野に八木田中学の支配を任された横田はあろうことかその支配の維持に『失敗してしまった』のだ。


理由はいくつかある。

まず第一に主力であった第三学年が消えたことが痛かった。

そして第二に


『何これ凄くない!??』

『本場の能力者はこれくらいできるらしいよ!?』


ARmS(アームズ)』とかいう能力組織を倒す史郎の映像が学園に出回ったことが痛かった。


そして第三に


『今まで放置していて悪かったね。誠に勝手ながら今日から君たちを育成する』


本場の能力者が学園に介入し始めたことが痛かった。

当然彼らの力は横田よりも強く、圧倒的に強い管理者の登場に谷戸組の残党は委縮した。


だがこんなにも周囲の目がある環境で史郎を倒し八戸組の力を見せつければ話は変わる。


なぜなら普通の中学だって教師という絶対強者がいる中、不良たちが幅を利かせるのだ。


ここで力を示せばいくら本場能力者がいる空間だろうと、学園に谷戸組の支配を響かせることが可能。

自身の失態を取り返す唯一のチャンスなのだ。

だからこそ横田にこのチャンス、元々逃す道理は無かった。

例え谷戸や聖野が史郎の餌食になっていなくとも、かねてより横田はアームズを討伐した史郎を倒す予定だったのだ。


だからこそ『仲間倒し』により周囲の注目を集めたのを感じると叫ぶ。


「今から俺達()()()が九ノ枝をぶっ潰すッ!!」


そしてそれはしっかりと『戦闘万華鏡』に捉えられ、会場全体に響き渡り


『おおおっと! なんと九ノ枝君討伐宣言だ!! これは盛り上がるぅ~~!!!』


司会もしっかりこれを拾い、構図が確定する。


これは谷戸組が九ノ枝史郎を倒そうとしているシーンであると。


そうなれば準備は完了だ。あとは九ノ枝を倒すだけである。

九ノ枝という圧倒的存在を倒すことでハリボテとなった『谷戸組』という権威に再び血を通わせる高貴な聖戦、ジハードの始まりだ。


しかもこちらとしては好都合なことに、相手は史郎を守らない予定だったため既に前方はほぼがら空きなのだ。


複数名の生徒が咄嗟に横田の前に立ちはだかったが、こちらは仮にも戦闘集団だ。

物ともせず倒し『致命加護(シュートポート)』で離脱させ、早くも史郎に第一陣。


圧倒反射(インスタントプレー)』を有する仲間が襲い掛かっている。


圧倒反射(インスタントプレー)』、反射神経を強化する能力だ。


史郎の単純な強さとは別の場所に強さを有する仲間だ。

ひょっとすると一撃で史郎を倒してくれるかもしれない。


あっという間にこの尊い戦いは終わってしまうかもしれないな、と僅かに期待した時だ


ズドンッ


と乾いた音が『圧倒反射』の仲間から鳴り響き、『致命加護(シュートポート)』。


規定ダメージ以上の衝撃を周囲に逃がす複合能力により仲間が転移。

代わって石ころが宙に浮き、ダメージを肩代わりした周囲の空気が衝撃で爆発。

ブワッと前髪が逆立つほどの突風が発生し、また肩代わりした大地にひびが入った。


一瞬で仲間が倒されてしまったのだ。


(嘘だろ……!?)


それを見て横田は驚愕する。

何せ今の仲間は『圧倒反射(インスタントプレー)』を持つのだ。

そう簡単にやられるわけがない。


そう、思っていた時だ。

終始うつむき加減に表情が見えなかった史郎が顔を上げて


「ベルカイラより全然遅い……。それと……」


言った。


「お前らに雛櫛は渡さねぇ……ッ!」


(何の話だ……)


横田は混乱した。


そして周囲の注目を浴びていたからこそ史郎の呟きは『戦闘万華鏡』によって拾われ


『お前らに雛櫛は渡さねぇ……ッ!』という史郎のセリフは会場中に響いており


『おおおおおおお!?!? これはなんだ痴情の縺れかぁー!?』


横田の聖戦・ジハードは女を巡る男の戦いという低レベル過ぎる争いに一気にグレードダウンした。


一方で司会や戦闘万華鏡の映像・音声を聞いたメイとカンナは


「何やらお前を巡って戦っているようだが、心当たりはあるか」

「いや……全然無いわ」


理解不能な戦いの開幕に青ざめていた。



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