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第5話 綱引き・騎馬戦



この体育祭、競技は多岐に渡る。


徒競走、騎馬戦、障害物走、大玉転がし、大ムカデ、二人三脚などのメジャーなものから移動玉入れ、2人でサンドイッチなどマイナーなものからUFOキャッチャーなど創作競技含め50を超え、活動的な生徒は参加種目が10を優に超える


そして史郎程の実力者ならば周囲に押される形で、本来ならば上限一杯で競技に参加しただろう。

しかし残念ながら史郎はこれまでこの体育祭に入れ込んでおらず、そこまで多くの競技には参加しない。

つまり……


(数少ないチャンスをものにしていかないとなんねぇ!)


だからこそ史郎はそのように決意していて……


「今回は、俺に任せてくれないか……?」


長距離走から間を置いて史郎が参加する第二種目。

その待合場所に行くと史郎はそう言った。


「なに!?」


それを聞いた男子生徒は泡を食った。

驚いたのは彼だけではない。

周囲の生徒は史郎の言っている意味が理解出来ず口々に言った。


「正気か史郎!?」

「お前、自分が言っている意味が分かっているのか!?」

「お前これからやるのは……!」


「「「綱引きなんだぞ!?!?!?」」」


と。


「あぁ……!」


だが史郎にとってそんな彼我の差関係ない。

むしろ彼我の差こそが重要で力強く頷くと、周囲の生徒は目を見合わせた。

そしてその史郎の余りのやる気と、これまでの史郎の助力に免する形で……



『お~~~これはどうしたことでしょう!?』



各校2団体を出しトーナメント形式で競う学園対抗綱引き。

その晴嵐高校VS青柳高校の舞台に


『晴嵐高校は九ノ枝君ただ一人だけで戦うようです!』


史郎がただ一人現れ会場がどよめいた。


「嘘でしょ……」

「さすがに勝てないわよね……」


すり鉢状の観客席では史郎の意図を理解した生徒達が息を潜めた。


そして何より面食らったのは相手の青柳高校の生徒達だ。

これは能力による攻撃有の綱引きである。

普通の綱引きではない。

綱を引く30名の生徒を囲うように同心円状に円を描くように遠距離攻撃要因が10名ずつ配置され綱を引く生徒を攻撃するのだ。

図で書くと〇の中央に一本の線が引かれるような陣形で

Φ

この記号の縦線が綱である。その周囲を円を書くように敵生徒は自由に動き回り攻撃し、相手生徒の致命加護(シュートポート)を発動させて人員削減を狙うのだ。


だからこそ本来、たった一人で勝てる訳もなく

今回の綱引きに参加する青柳高校代表の生徒達、

中でもその『中心人物達』はこめかみの血管を浮き上がらせ


「いくらそりゃ舐めすぎですぜ九ノ枝さん……!」

「俺たちを誰だと思ってるんだ?」

「青柳の赤い雷」

「「「レッドサンダーズだぜ!?」」」

「いくら九ノ枝とはいえ無事じゃ済まねーぜぇぇ??」

「まぁ良い……! そんなに舐めてかかるのなら、ボッコボコにしてやんよぉ!!」


と意気込み、彼らを率いる大柄な男は


「お手並み、とくと見せて貰おう!」

「ふ、その可愛い顔が血だらけになるのが今から楽しみだぜ!!」


などと威勢のいいことを言っていたのだが


『では位置について……! よーい……どん!』


と空砲が鳴った瞬間。


「フンッ!」


「「「「ぐあああああああああああああああああ!!!!!!」」」」


史郎が全力で綱を引くことで彼らは宙を舞った。


30人という人数差を物ともせず史郎が綱を引き切ったのだ。


それにより本気で綱を掴んでいたレッドサンダースが宙を舞い地面に盛大に落下。


「ぐえ」「ふぶふ」「ヅゥアハッ!」「あぶべひ」


当然、耐えきれるダメージなわけもなく


シュパン! シュパパパパパパパン!! と一斉に致命加護(シュートポート)を発動させその場から離脱し


『な……』


圧巻の光景を目の当たりにし、実況の女生徒は喉を干上がらせ、叫んだ。


『何という事だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 九ノ枝選手30人の人数差を物ともせずふっ飛ばしました!!! しかも複数の生徒がふっ飛ばされた衝撃で『致命加護(シュートポート)』を発動させています! 一体どんな威力でふっ飛ばされたんでしょうか!?!?』


「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


会場ももはや史郎の圧倒的な一撃に完全に魅せられていた。


「すげぇ!」

「どうなってんだよ!?」


口々に史郎の圧倒的破壊力に口をあんぐり開け


「嘘でしょ……」

「そんなことあるの……」


といって青ざめていた。


そして史郎はこれだけの力を示せば多くの生徒は委縮するかと思っていた。

しかし実際には違った。

むしろ彼ら彼女らの中にはやる気を漲らせる生徒が複数いた。

それはもしかすると『致命加護(シュートポート)』という絶対に死なない緊急離脱装置があるからかもしれない。


いずれにせよ次に当たった戸島中学校の中学生たちは恐れを知らなかった。

というより約一名恐れを知らない女子がいた。

それは学年で一番可愛いと言われている天道サラと言う名の少女で


「見てなさいアンタ達! 力で倒せないのなら魅力で篭絡するのよ!!」


などと言い放ち


「さすがは天道さんだぜ! 九ノ枝さんにも物怖じしない!」

「全ての男を下に見るそのスタンス嫌いじゃないぜ!」


周囲の取り巻きの男たちに称賛されていた。

そして戸島中学校・校内カースト最上位に位置する天道サラはその自信を身に纏い、試合前


「ねぇ九ノ枝さぁ~ん、今度の試合、負けてくれると、嬉しいな……?」


ちろりと上目遣い。

必死に胸元の肉をかき集め谷間を作り、体育着の隙間をかがんで目一杯開け胸を見せ


「もし負けてくれたら、サラが良いこと、してあげよっかな……」


などと言って陥落させようとしたのだが


「フンッ!!」

「ニギャアアアアアアアアアアアアアア!!」


当然史郎には通じる訳もなく情け容赦なく史郎は綱を引っ張り、サラはズダダダッと地面を転がる羽目になった。


その次の試合でも史郎は圧勝しそんなこんなで最終戦だ。


「九ノ枝の攻略法が分かった……!」


敗者復活戦から見事這い上がってきたレッドサンダース率いる青柳高校第二チームを破り決勝にコマを進めた輪達中学校の生徒達は額を寄せ合う。


「なんだ博士! 教えろその攻略法を!?」


史郎の攻略法を把握したというのは頭脳明晰で知られる高崎だ。

口癖は『僕のデータによると』。

おかげで周囲から『データ君』『博士』と呼ばれている少年で、高崎自身、それ好意的に受け入れており


「僕のデータによると」


今日もそう言って話し出す。


「これまで九ノ枝は攻撃手からの攻撃を受けていない。つまり、そこに勝機があると思うんだ」

「というと!?」


尋ねられ高崎は眼鏡をクイッと持ち上げた。


「つまりさ、九ノ枝が馬鹿力で綱を引いて一瞬で決着がつくのが九ノ枝の圧勝の原因なのさ。周囲にいる遊撃手で九ノ枝を攻撃さえ出来ればアイツの致命加護(シュートポート)が発動する可能性がある。だからだ、僕たちがすべきことは、一瞬で良い、九ノ枝の引く力に耐えることなんだ……!拮抗している間に史郎を全員で攻撃すれば……」


高崎少年は汗の玉を浮かべながら言った。


「九ノ枝を倒せる……!」

「お前天才か!?」

「フフフそうおだてないでくれよ」


という作戦会議があり


「む?」


最終戦開始と同時、綱を引こうとしたら意外と重くて引き切れない。

仕方がない、『本気を出すか』、と史郎が思った時だ


「打てええええええええええええええええええええ!!!!」


一斉に史郎に無数の遠距離攻撃が襲い掛かった。


「今じゃぁぁぁぁぁぁ! 今が天下分け目の関ケ原じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「塵も残すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


と遊撃手たちが一斉に史郎に向かい全力で攻撃を飛ばす。

赤青緑の光線が史郎に飛び、史郎が白煙に包まれる。


「おぉ!!」

「これはいったんじゃないか!?」


観客も盛り上がるが、ブシュゥゥゥゥゥ~と煙が晴れると


「なん、だと……?」


無傷の史郎が出て来て、その場にいた全員が瞠目。

そして決まった掛け声。「フン!!」とそこそこ本気で綱を引っ張り


「こんなパワー! 僕のデータにありませんッ!?」

「高崎ぃぃぃぃぃぃ」


と賑やかな断末魔の叫びを残し輪達中学校の生徒達はふっ飛ばされた。


こうして史郎は勝利をもぎ取ったわけだが、史郎が勝ったのは綱引き。

それをたった一人で勝利したのだ。

というよりしてしまったのだ。

それにより


「やっぱりゴリラだったな」

「マジゴリラだわ……」


と生徒の中で史郎=ゴリラの構図を助長する結果になり、負けた輪達中学校の生徒であるところの高崎は腹いせに表彰の舞台で


「ゴリラには敵わないよ。だって俺らホモサピエンスだし」


と言い、周囲の同級生がそのノリに乗っかりだす。


「てか上野動物園から出てくんなよ」

「檻から逃げてんぞ飼育係」

「ちゃんと首輪付けとけよ」

「ゴーリラ」「ゴーリラ!」「ゴーリラ!!」


こうして表彰式で起きたのは怒りの史郎へのゴリラコール。

対し史郎が


「今ゴリラと言ったやつ、横に並べ……! 今から殴る……!」


熱い息を吐き出しながら言い


「あ、ゴリラが怒った! 皆殺されるぞ!」

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ウホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!(注:史郎)」


などと子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す、という事態が起きていた。


(クソオオオオオオオオオオオオオ!!)


史郎は心の中で叫んだ。


中学生たちはとても楽しそうだった。


しかもメイの反応も


「す、すごかったね九ノ枝君……!」


あまり芳しくない。

こうして史郎は失意の中、次の参加競技、騎馬戦を迎え


「行くぞ史郎!」

「お前と組んでれば俺たちは活躍間違いなしなんだ!!」

「頼んだぞ!!」


と仲のいい佐藤・田中達に声をかけられ


「あぁ、皆頑張ろう……」


史郎が気合を入れて


「皆、俺を引き立ててくれ……!」


などと調子乗ったことを言って


「さすがにうざいからコイツおろすか?」

「そうするか?」


などと友人に脅されていた。


「やめて! 生言ってスイマセンしたぁぁ!」


史郎は割と本気で謝罪させられた。

その後も史郎は騎馬戦で大活躍し晴嵐高校を勝利に導いたのだがメイの反応は良くなかった。


そんな折だ、


「ちぃ~す、あんたが九ノ枝パイセンすかぁ~? ちょっと面貸してくださいよ~」


とガムをくちゃくちゃ噛みながら男が現れたのは。


明確に、史郎に敵意を持つものが現れたのだ。


また新国立競技場の隅では


「じゃぁ……俺がそろそろ行くぜ……」

「マジか……」

「あぁ九ノ枝とぶつかる競技は次のしかないからな……!」


先日、ホテルガイドランで史郎を倒すと息巻いていた高野原真一(たかのはらしんいち)が史郎を倒すために動き出していた。


そして次に控えていたのは男子のみで行われる競技『キラービー』

この大会第一の注目競技である。


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