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第7話 周囲の反応

「ねぇ、見て……」


 体育館に戻るとまず聞こえてきたのはそんな声だった。


 体育館をさっと見渡すと多くの生徒が史郎に好奇の視線を送っていた。


「あ、私今目あった……!」

「アンタじゃないわ……! 私よ……!」


そんな意味不明な会話が辺り一帯から聞こえてくる。


史郎は、はて、と脳内で首を傾げた。


史郎は自身の能力の一部でも見せようものなら周囲の度肝を抜くことは確実だと思いあえて能力を使用せず戦ったのだが……


『あ、九ノ枝くんが帰ってきました!  九ノ枝くん! ちょっと質問してもいいでしょうか! ホラホラ、マイク持って行って!』


史郎がいぶかしみながら自席に向かっていると途中で解説のミイコにスポットを当てられた。

ミイコの指示で機器担当の生徒があくせく走ってくる。


どうなっている。

史郎がため息交じりに事態の進行を伺っているとミイコは衆人環視のもと尋ねた。


『九ノ枝くん! あの身のこなしはどこかで習ったんですか!??!?』


ミイコの質問に周囲の人間もうんうんと頷く。

そしてマイクを手渡された史郎の返事を今か今かと待つ。


(あぁー、そうか)


そこでようやく史郎は自分のへまに気が付いた。

確かに能力は使用しなかったが、代わりに使用することになった体術は、彼らにとって異様なものだったのだ。


「あぁー、、、、」


返答に窮する。


『あ、もしかしてアレ、能力使っていたんですか!? もしかして予知系の能力ですか? それとも反射神経を引き上げる能力ですか!?』


もちろん史郎の個別能力ではない。

史郎の能力は能力世界においても特殊とされる異様な能力である。

史郎の能力を知る者は史郎を指してこう言う。


『強くはない』


と。

しかし同時にこうも言う。


『だがこれ以上ないほど、厄介』


そう、史郎の能力は『強くはないが、敵に回すと非常に厄介な能力』として知られており、その特殊性は能力を良く知るものですら息の呑むほど鮮やかで異様なものだった。



しかし、それをわざわざこの場で教える必要はない。


今現在史郎にはいくつもの選択肢があった。


実は反射神経向上の能力を有することにした方が良い可能性もあった。

ただ今後もこの学園で無難に生き抜いていくためには、もっと違う能力を有することにした方が良いだろう。

だからこそ、現状は先延ばしするに限る。


そう思い、あいまいな返事をしようとした時だ。



「うお」


目の前にメイがいることに気が付いた。


猫のような印象を与える絶世の美少女が史郎の顔をマジマジと見つめていた。

まるで今まで知らなかった史郎の魅力を発見したかのように。

ポケッとまるで未知の生命を見るかのように口を半開きにし眺めていた。


メイに見られるというだけで心臓がドコドコと早鐘をうち、頬も赤く染まりそうになる。


メイが聞いているということも意識してしまい、一気に頭が真っ白になってしまった。


『どうなんですか九ノ枝くん! 能力なんですか!? それともどこかで武術を習っていたとかですか!?』


思考停止状態の史郎にミイコが追い打ちをかける。


『どうなんだ、どうなんですか』


と。


結果、史郎から出てきたのはふざけてんのかと叱られてもおかしくない一言だった。


「ちょ」


『ちょ……?』


「調子が、良かったから……」


「「「「「はああああああああああああああああああああ?????」」」」」


史郎がポツリとつぶやくと凄まじいどよめきが会場に伝わった。


それらを代表するようにミイコが唾を飛ばしマイクを握る。


『ちょっと九ノ枝くん!? それってつまりもともと指南受けてないけど、調子よかったから何でも避けられたってこと!? そういうこと!?』


そりゃぁそうだ。体術も習わず調子が良かったから全攻撃避けられましたーなんてふざけているにも程がある。


史郎がなんとか取り繕うとすると周囲からは思いもかけない感想が聞こえてきた。


「え、それってマジ凄くない……?」

「九ノ枝くんってそんなすごかったんだ」


なぜか信じてくれたようなのだ。


(なら、このままで、良いか……)


史郎は思考を切り上げると表情を変えないまま阿鼻叫喚の体育館を歩き、自席に着いた。


「……凄い」


尊敬のまなざしを向けるメイの顔が今も脳からはがれなかった。




1グループの試合時間は大体5分から10分程だった。

朝9時から始まった試合も午後2時前後には終わる予定になっている。


史郎は持ってきていたサンドイッチの袋を破いた。

時刻は12時半すぎ。

13時までは昼休憩なのである。

史郎は作戦の進捗状況をナナにメールで送信しサンドイッチにかぶりつく。

そんな折だ


「ねぇ九ノ枝くん? 一緒にお昼食べない……?」


目の前に今まで話したことのない女生徒二人がやってきた。


「あ、私は――」「で、私の名前は――」


どちらの名前も史郎は知っている。

任務の関係上頭に叩き込む必要があったからだ。


にしても……


史郎は結局史郎の了解も得ずに目の前で弁当を広げ始める女生徒に溜息をついた。


(めんどうなことになったな)


◆◆◆


一方でここは体育館の端。

メイとカンナのお昼の風景である。


「あ、いいのぉメイ? 九ノ枝くんに早くも悪い虫が寄って行っているようだけど」


メイの前で弁当を広げるカレンは試すような視線をメイに送る。


「、カンナの意地悪……。良いわけないでしょ……」

「なら拗ねてないで今日こそ話しかけに行ってみれば~」

「そ、そうしたら、私まで九ノ枝くんを今日急に好きになったみたいじゃない……! いけないわよ……!」

「でもいいの? そんな悠長なこと言っているうちに、ホラ、、また二人追加~。大所帯になってきたわよ?」

 

確かに見ると史郎の周囲には早くもさらに二人の女生徒がやってきていた。


やいのやいの、何やら言い合っている。


「……ッ!」


メイは唇を固く結んだ。


「ホラ、そんな顔したらせっかくの美人が台無しだぞぉ~?」

「別に美人じゃないし……」

「そんなことマジで言っているのはメイくらいでしょうね……」

「???」

「まぁいいわ。私はメイが自分で動き出す瞬間を楽しみにしているわよ」


両者とも溜息をつき昼食を開始しようとすると、そこに二人の男が割って入ってきた。


「よ、よう白鳥……」

「白鳥さんチィーッス」

「……なによアンタ達」


現れたのは『権力会』の会員、通船場と古道だった。

そしてカンナは知っている。

通船場がどうやらメイに気があるようだと言うことを。


「や、や、何があったわけではないんだが、ホラさっき雛櫛がやられたろ? けがはないか心配になってな……!」


カンナがうろんな視線を送ると通船場は焦ったように汗を垂らした。

確かに先ほどメイは試合に参加し他の参加生徒にすッ転ばされていた。

怪我をしてもおかしくはないような転がされ方だったのだが


「……大丈夫」


メイはさして興味がない相手には、徹底した無関心を貫く。

下心を敏感に察したわけではない。


「そ、そうか……」


メイのあまりにもフラットな対応に思わず通船場はたじろぐ。

実は通船場は古道に押されてここまで来たのだ。

曰く……


『通船場がやりたいって言ったから開催した試験だよ! ここで押さないでどーするんだよ!? 押して押しまくらないと! で、さっき怪我したかもしれないし話しかけに行こ!』


そういわれるがままに来たのだが、ここまでの塩対応だと気持ちが削がれる。


だが背後には


『押せ!!!!』


そんな強い視線を送る古道がいる。

仮にもここまで勇気を振り絞り話しかけた以上、このまま引き下がるわけにはいかない。


「あ、あぁ、そうか。なら良かったよ。そうだ、俺は一回戦突破したんだぜ白鳥。知ってるか?」


すぐさま話をカンナに振り直し体制を立て直す。

そうしながら話を振っているのはメイだ。

メイに自分が一回戦を勝利する程の実力者だということを知らせたかった。

しかし


「知ってるわよ、頑張ってたわね」


白鳥が睥睨しながら返事をよこす、その横で


「……」


メイは通船場の話など聞きもせず、ある一点を眺め続けていた。


その先にいたのは――




カンナたちの元を離れた通船場は古道に息巻いた。


瞳を真っ赤にしながら。


「古道、協力してくれ……ッ!」


通船場の言うことを予想しやれやれと古道は首を垂れた。


「二回戦で九ノ枝をぶっつぶす……ッ!!」


権力会はその気になればトーナメントの操作も出来る。


昼休み終えしばらくすると一回戦が全て終わり二回戦出場者が出そろった。


そして抽選により二回戦のグループが発表される。


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~」」」」


抽選結果を見て、観客がどよめいた。


二回戦第一試合。


そこに史郎と通船場の文字があったからだ。


誰もが史郎と権力会のバトルに期待を高鳴らせていた。


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