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第8話 各戦

ナコが史郎を襲撃するのと同時刻。


「屋上伝いで複数の人間がこちらに来ます!」


能力覚醒を果たした私立青柳(あおやぎ)学園の生徒が住まうホテル・ガイドランを警備していた能力者が一早く敵の侵入に気が付いていた。


遠くに、ビルの屋上や壁伝いにこちらへ高速で向かってくる敵影を見つける。


「『第二世界侵攻』で間違いないね。合流可能性のあった人物が混ざってるから」

「ここからそんなに見えんのか?」


度肝を抜かれている男にマドカはあっさり肯定した。


「まぁ私レベルに肉体強化できればね? アラート鳴らしておいて。で、私は一足先に行くから」

「りょ、了解しました!」


戦闘力では劣る感知担当の男が機械を操作しアラートを鳴らす。

これにより周囲一帯には警報が鳴る。

以前より決められていたものだ。


『寮住まいは仕方がないことだけどね、地価が下がるのは困るよ』


胴体だけ映された人物は語る。

『敵襲』の可能性はとっくに言及されていた。

TVでも連日このことが報道されている。


『戦闘警報が発令されました。周囲の皆様は一刻も早く退避してください』


サイレンと共に機械音声が鳴り響き、周囲は騒然となった。


「能力者が!?」「マジかよ!?」

「おいあれ見ろ!」


そして道行く学生は屋上を駆けるマドカを指さし叫んだ。


「マジで始まんぞ逃げろ!」


一方でそれらを無視しマドカは屋上を駆ける。

ホテルの屋上にいたのは自分以外の二十名近い能力者だ。

内数名は早くもマドカを追って進撃している。


そして相手はいくらイギリアを支配したとはいえあくまで一組織。

ましてここはイギリアから遠く離れた地。


これだけの人数がいれば自分が撃ち漏らしても守り切れるはずである。


マドカは先陣を切り敵に突っ込んでいった。

こちらに向かってくるのは二十名近い能力者集団。

自分たちに向かってくるマドカを見ると敵は


「来たぞ!?」「会敵だ!!」


などと言って士気を上げるが


「ハッ!!」


マドカは交錯と同時に敵の一人に拳を叩きこんだ。

マドカの一撃を受けて男は独楽のように吹っ飛んだ。


「うっそだろ!?」

「なんだあの吹っ飛び方!?」


相対した敵はあまりに豪快なふっ飛ばされ方に度肝を抜かれていた。

だが彼らに驚いている暇は無かった。


マドカがすぐそばにいたからだ。


マドカの瞳が光り獣のような敏捷さで獲物に襲い掛かった。


マドカの特徴。それは圧倒的な肉体強化だ。

肉体強化は極限まで強化を高めると肉体が光り出す。

それを『閾値超え(オーバーフロー)』と呼び、一種の技術と化しているのだが、マドカは常にその状態を維持出来る。

そのため


「「ブハ!!」」


拳を振るうだけでそれが一撃必殺の技となるのだ。

マドカは立て続けに二人の敵を倒した。

そうしてさらに敵を倒すべく後続を睨むマドカだが、後続の中に2.3手こずりそうな敵が混ざっていることに気が付いた。


だからこそ遠慮なく個別能力を使用することにした。


もし打ち漏らしても残りの仲間が倒してくれるはずである。


「来なさい。『軍隊雀蜂』」


その一言でマドカの体から無数のスズメバチ状の機械が溢れ出る。

それは百、二百を軽く超し、数え切れないほどの黒の大群が夜空を覆いつくし


「『貫いて』」


その針から緑色のレーザーを一斉に射出した。




一方で晴嵐高校の寮となっているホテルニューレインにも複数の敵が迫っていて


「よし来るぞ!気合を入れろナナ!」

「ハイ!」


リツとナナが先陣を切り、敵を迎え撃っていた。




「なに!?」


あっさりと攻撃を避けきられ目を剥く敵にリツは言う。


「――貴様、『隙』だらけで話にならんぞ」


「ブフウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」


次の瞬間、リツの鉄拳が男の顔面に突き刺さった。




「ハッ!」


ナナも気合が入っている。


「嘘だろイテェ!」


一瞬でナナの個別能力『氷点世界(アイスワールド)』が生み出す冷気で腕を氷漬けにされ男は泡を食う。

だが男にのんきに自身の状態を顧みている暇など本当ならなかった。

なぜなら相手がナナだからで


「なっ」


男が目を上げた瞬間、目の前にナナが迫っていて、ナナは問答無用。

さらに冷気のぶっ放し一瞬で男を氷漬けにした。

なぜナナに気合が入っているか。

それは学園の友人の命がかかっているからである。


「ハッ!」


ナナは続く相手にも鋭く掌底を突き出した。


◆◆◆


このように東京の至る所で能力者同士の戦いが起きていた。


東京都内にある生徒が住まう寮。

そこを目がけて複数の能力者が襲い掛かる。

隊員たちは正確に寮の場所を把握する敵に舌を巻いていた。

これはナコの『歩む旅路の北極星』により把握したものである。

ナコはこの能力により『能力無効化』を発現した姫川アイを見つけ出し、そして今日は寮の場所を探し当てていた。


「クソ、一人逃げた!! 頼む!!」


能力覚醒した中学生たちが住まう中野区にある寮に一人の敵が迫る。


男は肉体を強化し獣のような俊敏性で寮に迫るが


「行かせん!」


寮の屋上から一人の男が降ってきてその脳天にかかと落としを叩き込む。


「クッ!」


だが男はとっさに腕をクロスにしガード。

スザザッ!と後方にスライドしながら体勢を立て直し個別能力であるフランベルジュを顕現させ立ちはだかった男に襲い掛かった。

警備の男のオーラ刀とフランベルジュがぶつかり周囲の空気を揺らした。


そして数瞬の間ギチギチとつばぜり合い演じ


「かかったな! 俺のこのフランベルジュの能力は」


と男が自身の能力の説明をし相手を威圧した瞬間だ


敵の顔面に操られた石が突き刺さり男は遠くにふっ飛ばされた。


「なにやってんのよ達郎」


そしてその石をテレキネシスで操った女性が現れ


「ありがとうミカ」

「良いってこと。ホラ早く前向いて続いてくるわよ!」


二人はこちらに迫ってくる二名の敵に再度オーラ刀を出し構えた。


そのような戦いは東京のあちこちで発生していて――


史郎のもとに『血の薔薇姫ブラッドローズクイーン』がやってきたように、各戦闘地帯でも腕の立つ者同士の戦いが始まっていた。


◆◆◆


(なるほど)


数分後、『軍隊雀蜂』で敵を撃退しながらマドカは理解していた。


「日本語がたどたどしいのは弱いのね……」


恐らく『聖別』で最近仲間になったからだ。そうマドカが理解していると

一人の男がマドカの前に立ち


「消えろ!」


一気にマドカに向かって駆けてきたのだ。

対するマドカは容赦なくレーザーを見舞う。しかし


「加速!?」


男はレーザー光の直撃を浴びるも無傷。それどころか一気に加速してマドカに渾身の拳を叩き込んだ。


「クッ!」


拳を受けたマドカは大きく円を描き後方に着地する。

そうして唇から流れる血を拭きながらマドカは即座に敵の能力の可能性を悟った。


敵はレーザーをその身に受けた瞬間、速度を速めた。

つまり可能性として最も先に上がるのが


「光を肉体強化に変換する能力……!?」

「ご名答」


相対する男は得意げに笑った。


「『日光(サンパワー)』。つまりテメーの『軍隊雀蜂』とは相性最悪ってことだッ」


確かに相性は最悪のようだ。

だがそれ以上に気にかかる点があった。


(私の能力だけじゃない!? 『能力名』まで知られている……?)


マドカは個別能力を隠していないが能力名まで知られているのは少々おかしい。


これはどういうことだろうか


マドカは警戒を強めた。


◆◆◆


他方、ナナにも『相性の悪い』敵が迫っていた。

そして氷結能力『氷点世界(アイスワールド)』を相性の悪い敵とは何か。

それは――


「え?」


その時、ナナは目を見開いた。

たった今ナナに襲い掛かってきた敵。

瞬時に『氷結』し倒したのだが、内側からパキパキと氷を破る音が聞こえてきたのだ。

次の瞬間、ガラスを打ち破るように氷が割れる。

そして氷結から生還した男は即座にナナに襲い掛かったのだ。


「うそ!?」


――『氷結』が効いていない!?


それは完全に想定外の現象。

ナナはとっさに片腕を上げて男の蹴りをガードするも大きく吹っ飛ばされた。

しかしナナとて戦巧者。

地面をゴロゴロと転がりつつもブレーキ、即座に体中から浅く血を流しながら立ち上がる。


そして先ほど氷結が効かないことに驚愕したナナだったが、その瞳にすでに驚愕の色は無かった。


――『氷結攻撃』が効かない。


その事実さえ分かれば十分だと思考を切り替えたのだ。


――自分の友達の命がかかっている。


それだけでナナは本気になれる。


ナナの感情を灯さぬ暗い瞳が氷から生還した男を捕らえていた。



一方で男は作戦が上手く行ったことに感動していた。

男の保有する能力は『一点強化(ワンポイントカバー)

肉体の有するあらゆる力のうち一つを選択し、強化倍率を上乗せできるという物である。

そしてその結果齎される戦闘は変幻自在。

ある時は速度を強化し、またある時は膂力を強化する。

今ほど氷を耐えきったのは『耐寒力』を強化したのだ。


そして、さぁどう料理してやろうかと相手のナナと呼ばれる少女を見ると


(なッ――)


即座に自分に向かって駆けだしてきた。

そのあまりの行動の速さに驚くが、状況はこちらが有利。


(――なるほど即座に『氷』を捨てたか! その思い切りは良し!)


などと心の中で吐き捨て、『一点強化(ワンポイントカバー)』の強化対象を『耐寒力』から『敏捷性』に切り替えナナと相対しようとする。

しかし


(なッ)


足を何かに掬われる。見ると


(氷か!?)


小さな氷の壁が生まれていて自分の足を引っかけていた。

そして男はすぐにナナの意図を悟った。

これは目くらまし。視線を下に向けさせるためのトラップだ。

男は即座に前を向く。

が、そこにはすでに巨大な氷のハンマーがあった。


(早い――)


ナナが『氷点世界(アイスワールド)』で瞬時に作り出して振りかぶっていたのだ。


(主に氷結メインで戦うという前情報だったが氷による武器作成もここまで早いのか)


「クッ!」


とっさに高めていた『敏捷性』で空中に逃げた。

だがすぐに


(嘘だろ)


先を読むかのようにナナもすでに中空に跳躍していて、氷で出来た鎌を両腕で握り思いっきり振りかぶっていた。


避けられない。

とっさに男は強化対象を『防御力』に移し鎌を受けとめた。

だがその威力はかなりのもので男は横なぎにふっ飛ばされる。


「――――ッ」


そしてナナは氷の鎌を受けた腕を凝視していた。

その赤く『凍傷』のようになった腕を――


――それで十分だった。


即座にナナは持てる能力の最大速度で男に迫り、氷の剣を突き出した。


そして男が『一点強化(ワンポイントカバー)』で『敏捷性』を強化し最大速度でナナの氷の剣から逃れようとした時だ、ナナは――


「――『氷点撃(ブラスト)』!」


一気に冷気を放った。


先ほど氷への絶対耐性を示した男に冷気をぶっ放したのである。


先程までなら男にダメージはないはず。

しかし男は『敏捷性』を強化していて


先ほどは氷への絶対耐性を示した男は、あっさりと氷漬けになっていた。



だがなぜこのような結果になったのか。

能力の全容を知らないナナは敵が一点だけ強化できるという事実を知らないはずである。


だがナナは鎌を受けた男の腕が『凍傷』のように赤くなっていたことで即座にその事実に気が付いたのだ。


極度の強化と、氷への絶対耐性は両立し得ないと。


だからこそナナは速度を極度に強化せねば逃げられぬほどの高速で男に迫り、男が速度を強化した瞬間に、冷気を放ったのだ。


ナナは頭が良くない。

だがそれは座学が出来ないというだけで、起きている現象を見た通り受け止め、対応するという戦闘において最も重要な思考は『赤き光』の誰よりも優れる。

純粋だからこそ彼女は誰よりも物の本質が良く見えるのである。


それによりナナは敵の能力の全貌を把握せずとも弱点に即座に気が付いたのだ。


「私の友達に手を出すからこうなるの」


ナナは氷漬けになり何も言えない男に一人呟く。


男の背後数十メートルは『氷点撃(ブラスト)』により氷漬けになった白色の世界が広がっていた。




◆◆◆



一方でマドカサイド。


「どう私の『軍隊雀蜂』は? とてもじゃないけど受けきれなかったでしょ?」


マドカが見下ろす先には黒い煙を吐き転がる丸焼けの男がいた。


日光(サンパワー)』を有する男だが、レーザーを打ち込むもしばらくすると避ける。

肉体強化に変換できるならばレーザーを浴び続けるのが得策だというのにだ。

それにより、『日光(サンパワー)』による能力変換に限界があると判断してマドカは本気のレーザーを叩き込んだのだ。


それにより男はあっさりと焼死。


「ま、私の能力見くびるからそうなんのよ」


マドカはそう言い残しその場を後にした。


このように東京各地で実力者同士の戦いが起きていた。





だがそれとは全く関係のないところで戦いを繰り広げているのが史郎だった。


血の薔薇姫ブラッドローズクイーン


金髪を編み込みアップにする赤いドレスを常着した女性である。

強力すぎる二つの能力によりこれまで何百人という能力者を屠ってきた、数多くある能力世界最強候補の頂の一つ。


ベルカイラ・ラーゼフォルン、その人が今史郎の前に立っている。


「逃げろ!!」


「なんかやってきたぞ」などと言いながらのんきに報道を続けているカメラマン達に思わず叫ぶ。

一方で相手のベルカイラは落ち着いたものだった。


「実はナコに嘘つかれてよぉ」


ベルカイラ頭を掻きながらため息をついた。


「九ノ枝史郎の相手はもともと私の予定だったんだが、ナコが嘘ついて違う場所教えたんだよ。まったく『歩む旅路の北極星』頼りの作戦なのに嘘つかれたらたまんねーよな」


そうは思わねーか史郎。


ベルカイラはやってられないとでも言うように手を上げた。


そのうえやられてんじゃザマァ無さすぎんだろ、とも続ける。


「だがまぁ私はナコをとやかく言う気はない。強い奴と戦いたいってのは能力者の本能的な欲望だ。むしろ不満があるとすればお前にだ」


言ってベルカイラは史郎を見て目を眇めた。


「未来のホープ。アジアの至宝。お前を褒める言葉など枚挙にいとまがないが、まさかこの程度じゃないだろう!?」


そう、ベルカイラは戦闘狂と揶揄されるほどの戦闘欲の持ち主で、その戦闘欲を満たすために今まで様々なものをその手にかけてきた。

だからこそ不満があるとすれば


「史郎、ナコにやられている程度じゃ私と踊れないぞ?」


史郎に対して。なぜなら彼女は史郎と戦いたくてやってきたのだから。


「うるせぇよ、まだ()()()


対する史郎が自身を鼓舞するように言い返すと、薄く笑った。


「なら良いだろう」


そしてベルカイラが襲い掛かってくる。

その圧倒的な戦闘力を伴って。


「『血の薔薇姫ブラッドローズクイーン』、ベルカイラ・ラーゼフォルン。いざ参る!」


史郎に欧州最強が襲い掛かってきた。




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