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第6話 収録襲来


「「収録?」」


「う、うん……」


鷲崎から出演依頼を受けた翌日の昼休み、史郎はメイ達にTV出演の件を打ち明けていた。


「大丈夫か九ノ枝? この前の取材だって酷かったぞ? 編集で有ること無いことされちまうんじゃねーか??」


カンナはストローでジュースを啜りながら眉を吊り上げた。


「それは大丈夫らしい。むしろ無駄に憶測を飛ばさせないためっていう理由もある」

「まぁ、九ノ枝が出るって決めたなら私は反対しねーけどよ……」


言ってカンナは横で空になった弁当の包に目を落とすメイを見た。

メイは下を向き眉根を寄せていた。

いまいち思うところがあるようだ。

だがそれも当然である。

メイが追い払ったというのに、あろうことか自ら再びメディアの餌食になりに行くというのだ。

面白くはないだろう。


「ご、ごめん、雛櫛。出演することになっちゃって……。でも実際に能力社会のために必要なことなんだ……」


「いやそれは良いの。良いんだけど……」


しかし言葉と裏腹に歯切れが悪い。

どうしたのだろう。

史郎がメイの真意を測りかねていると、メイは目を伏せて「ごめん、ちょっと」と言ってトタタッと走って屋上から出て行ってしまった。


バタンッと屋上のドアが閉まる。


(えええええええええええええええええええええええ!?!?!?)


俺が何を!?

何がそんなに嫌だったの! と史郎が瞠目していると落ち込む史郎を見てカンナは溜息をついた。

そして「何で気づかないんだよ」と口を尖らせた。


「ちげーよ、メイが気にしてんのは。九ノ枝、お前が出演すると言っていた番組名は全国放送だ。日本全国に放送される。つまりお前の存在を日本中が知るんだよ。それがメイは嫌なんだよ。正確に言えば、心配? なんだろうな多分。しかも番組に出る人なんてめちゃんこ美人だぞ? だから『負けちゃう』って思ったんじゃねーのか?」


すぐ分かんだろそんなこと? などと半ギレでカンナは言うが、史郎はカンナが言っていることが俄かには信じられなかった。

だがそれも当然である。

史郎は思わず眉をひそめた。


「この世界で一番可愛いのは雛櫛メイなのにか??」


ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!


瞬間、カンナは盛大にジュースを噴出した。


「きたねぇ!」

「わ、大丈夫カンナ!?」


途端に慌て出すベテラン能力者の二人。

ナナの手渡すハンカチで顔を拭くカンナの顔は真っ赤だった。

ハンカチで口元を拭くカンナ。


「馬鹿じゃねーのか!? そんなこっぱずかしいこといきなり言うなや!!」


拭き終わると溜まらず叫ぶが、それだけでは怒りが収まらなかったらしい。


「ま、まあいい……! 仕方ねーから私がメイにお前が今言ったことを伝えておいてやる!」

「やめて恥ずかしいから!!」


とんでもない処刑方法だ。

そんなこと伝えられたら恥ずかしくて死んでしまう。


だが恥ずかしそうに怒ったカンナに慈悲はなかった。


「るせぇ! 私をこんな恥ずかしい思いさせた罪だ!テメーらの謎のすれ違い解消させてやるんだ! むしろ駄賃よこせ糞が!」


そう言って駆け出すカンナ。


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


史郎の悲鳴が屋上に響いた。


◆◆◆


そのようなことがあったから


「案の定落ち込んでんな……」


カンナはこのような場所にいるのだ。

カンナがいるのは校舎の外べりに備え付けられた屋外階段の踊り場だ。


風に髪を揺らしながら、メイはそこに立っていた。


顔は見えないがその後ろ姿だけでメイがどう思っているのか手に取るように分かった。


「だってこのままじゃ九ノ枝君、他の人に取られちゃうかもしれないし……」


振り返らずに遠くのビル群を眺めたまま答えるメイ。

その落ち込みようを見ると、全ての実情を知っているカンナは思わず笑いそうになった。


「アホか、絶対取られねぇよ」

「……なぜ??」


振り返るメイ。

対しカンナは『これが罰だ』と言わんばかりにあっさりと言い切った。


「言ってたからだよ、メイ、お前のことが世界で一番可愛いってな」


「――――――ッ!?!?!?」


カンナの言葉を瞬間、メイはかつてないほど真っ赤になった。


それはいっそ気分が悪いのかと本気で心配になるほどで有り、知らない人が見れば間違いなく高熱が出ていると信じるレベルである。

赤く熟しきったリンゴのようだ。


そして恥ずかしさの極致にいるメイは、しばらくして小声で尋ねた。


「……ホント?」

「はぁ?」

「……ホントにそう、言ってたの?」

「あぁ言ってたよ。だから心配すんな」


するとますますメイの顔は赤くなりカンナは直視するのが躊躇われるほどだった。

そして全てがバカバカしくなったカンナは投げやりに言うのだった。


「あとで九ノ枝に言っておいてやれ、収録頑張ってってな。九ノ枝、お前が勝手に出てって大層心配してたぞ」


と。


その結果、収録があるので一足先に史郎が下校しようとした時だ


「九ノ枝君、頑張ってね?」


そう、メイに言われて史郎は許されたような気がした。


「あぁ頑張ってくるよ」


ようやく元気を出した史郎にカンナは言う。


収録で変なこと言うとあっという間にネットに広がるから注意しろよ、と。


◆◆◆



そして数時間後に始まったのが、『収録』である。


昨今の発達したネット社会ではここで何かをやらかすと一瞬で拡散され人生に手痛い打撃を与えられることになる。


つまりミスは許されない。


そんな収録は早くも始まっていた。


「ではスタジオに能力者の九ノ枝史郎さんに来ていただきました。今日は九ノ枝さんに未だ私たちにとって謎の多い能力者についていろいろ教えていただこうと思っています」


史郎を紹介したのは壮年の男性の横に座る美しい女性キャスターだ。

だがメイには遠く遥かに何万光年と及ばない(史郎比)


「よ、宜しくお願いいたします」


台本通りとはいえ、緊張する。

史郎はつっかえながらペコリとお辞儀した。

するとキャスターはニコリと笑い、滑らかに原稿を読み上げる


「ではまず早速ですが巷では『無差別能力覚醒犯』によって強制覚醒された能力者が話題になっていますが、九ノ枝さんはオリジナルの能力者なんですよね!?」


「そうですね。中学生の時に能力者になりました」


対する史郎はまだ固い。生放送ではないが緊張する。


「しかも中でも相当強い能力者で組織されている能力組織『赤き光』という組織に所属しているんですよね!?」


「ま、まぁそうですね。自分が強いかどうかはアレですけど、『赤き光』には入っています」


「噂によると九ノ枝さんはこの国における能力社会の次世代エースと名高いそうじゃないですか? そう謙遜なさらず! 加えて二つ名は『未知の最強手アンノウントップオプション』だとか。能力者には誰しも二つ名があるんですか??」


二つ名が知られるのは恥ずかしいがこの際仕方がない。


「ある程度の実力があると自然と付けられますね。私のパートナーは『狂った雪女(ピュアスノウデビル)』と呼ばれていますし、仲間には『スーパーコーディネーター』などと呼ばれている者もいます。その人の特徴を示します」


「そうなんですか。それとお話によると九ノ枝さんは『天才(ジーニアス)』・『神の見えざる巨大な手(フロムヘブン)』などとも呼ばれることもあるんですよね。保有するテレキネシスの強大さから」


「は、はい」


「それを見せて貰ってもいいですか?」


「はい……」


その後スタジオに現れたのはいわゆるピッチングマシーンでそこから数多吐き出される剛速球をたちまちテレキネシスで空中で停止させてみせると


「「「すごぉぉぉぉぉい!!」」」


などと会場は沸いた。





「向いてない……」


史郎はがっくりと廊下のベンチで項垂れていた。

余りの場違い感に身を焼かれるような思いだった。


一般社会との融和を図るために、才能ある能力者がこんなにも普通の人と変わらない。

それを見せるための台本で、能力を見せた後の会話シーンでは歯が浮くようなセリフの連続だった。


今思い出しても恥ずかしい。


ペコッと空いた缶を潰す。


ちなみに周囲の人間の反応は半々だ。


半数は史郎に声をかけて通り過ぎ、残り半数は避けるように通る。

だが共通していることと言えば、皆が史郎を物珍しそうに見ていることくらいか。


「ハァ、早く帰りたい……」


だがまだ収録は途中だ。

途中の休憩時間なのである。

史郎はうっそりとした気持ちで窓からのぞく夜景を眺めていた。

その時だ。


「ッ!?」


ただならぬ気配が上空から降ってくる。


「なんだ……ッ!?」


空を見上げる。

普段ならこんなことはない。


史郎が窓から空を見上げる。

それとほぼ同時だった。


ガラスを破り、一人の少女が突入した。

大音響を鳴らし少女が局内部に侵入する。


「なんだぁ!?」

「おいテラスの方からだぞ!?」


辺りは一気に慌ただしくなった。


同時に史郎が忍ばせていたアラームが鳴る。

作戦会議で決まっていた『敵が突入してきた場合に鳴らすアラーム』だ。


つまり、この敵は……


入ってきた少女はパーカーを目深にかぶる年端も行かない背の低い少女だった。

だが少女は只者ならない気配を漂わせて、言う。



「九ノ枝史郎。お前を連れて行くニャ」



――『第二世界侵攻』の構成員。







話引っ張りまくりですね

次話で、次話で思いっきり史郎に暴れさせますので平にご容赦……!



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