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第3話 取材




能力社会の存在が知られ、関係が悪化する一般世界と能力世界。

しかし何も能力社会も手をこまねいているわけではない。


一般世界を統治する『各国政府』は何も能力社会との敵対を望んでいないのだ。


「はい、今日はスタジオに能力者の久手川(くてがわ)さんに来てもらいました~」

「久手川です。よろしくお願いします!」

「久手川さんは『新平和組織』という組織に所属しているんですよね?」

「はい、そうですね。『新平和組織』という基幹組織に所属してます」


TVには新平和組織の息のかかった能力者が連日出演し、イメージアップを図っていた。

政府の後押しである。

そして色物の能力者に芸人たちが絡む。


「ほなやっぱりバトル漫画みたいに能力バトルすることあるん?」

「なぁ? 俺らの言うこときかん組織は壊滅や! とかありそうやん?」


そんなわけあるわけないやろ! とヤジを飛ばす雛段。

だが


「えぇまぁ多少は……。能力社会はまるでサバンナのような弱肉強食の世界ですから」


と美青年が認めると盛り上がった。


「ホンマか!?!?」

「えぇなぁ! ジャンプやジャンプ!! 次々敵が出てくるで!」

「兄さんの武勇伝も聞いてみたいなぁ……! 一個か二個くらいあるんやろ??」

「ま、まぁ……」


久手川が自身の経験談を話し、その後、実演ということで実際にテレキネシスを使うと会場は大いに沸いた。


そのようなことがあるのだ。


「もしかすると史郎に取材があるかもしれないから気を付けてくれ?」


史郎は既に取材の可能性を指摘されていた。

『赤き光』の本部にて一ノ瀬に突然言われ史郎は生徒の資料から目を上げた。


「俺に??」


史郎が自分を指さし聞き返すと一ノ瀬はコクリと頷いた。


「そうだ。何せお前は晴嵐高校の有名人。そうでなくとも各校生徒に喝を入れるために『ArmS(アームズ)』での戦闘映像を他校にも流したろ?」

「あぁ……」


今更になりその可能性を悟り史郎は肩を落とした。


「だから史郎に取材が来ることはあり得ることなんだよ。でだ再度史郎に確認しておく。取材が来たら、なんと言う?」

「最初に言われたことだよな。分かってるよ。つまり――」


◆◆◆


「能力社会に関してのことは基幹組織を通して広報します」


下校途中、一人の女性記者にマイクを向けられた史郎は淀みなく答えていた。


「なので取材には答えられません。申し訳ありません」

「そんな!」

「そこをどうにか!」


だが記者は食い下がった。

それにより騒ぎになり周囲の視線が史郎に集まり


「あ、おい! 九ノ枝だ! 『赤き光』の九ノ枝がいるぞ!!」

「世界最強組織の一角の!?」

「噂通りまだ若いじゃない!」


史郎の存在に気が付いた他の番組記者も史郎に一斉に群がり始める。


「九ノ枝君! 生徒が能力覚醒した件について一言お願いします!」

「九ノ枝君は今回のイギリアの一件をどのように考えているんですか!?」

「九ノ枝君、お話聞かせてください!」


群がる記者はまるで池の鯉のようだった。

史郎の都合など構わず囲いつくし、史郎が放つ言葉(えさ)を狙う。

ある意味、史郎にとって能力者よりも扱いづらい相手だった。


だからこそ史郎が困り果てていると、史郎の横で動きがあった。

誰もが批判を恐れて足早に立ち去るようなこの状況で、即座に動いた者がいたのだ。


「退いて下さい」


メイだ。

メイが史郎の前に一歩出て記者たちに凛と言い放ったのだ。


「九ノ枝君が困ってます。もうやめてください」

「でも!」

「良いじゃないですか一言くらい!?」


メイが言っても食い下がる記者たちをメイはキッと睨んだ。

そして刺すように鋭い口調で言い返す。


「九ノ枝君が基幹組織を通して発表するって言ったでしょう??それ以上に何か言うことがありますか??」

「クッ……」


メイの物怖じしない物言いに記者たちは思わずたじろいだ。

そしてそのわずかに開いた無音の空間でメイは史郎を振り返り


「行きましょう、九ノ枝君?」


史郎に手を差し伸べていた。


「う、うん……」


史郎は思わずその白魚のような手を取っていた。


史郎たちはメイに引き連れられるまま、記者たちの間を割ってその場を後にした。


◆◆◆


(手、繋いでる……)


しばらくしてメイの絹のように柔らかい手の感触に史郎は顔を赤らめていた。


「あ、ありがとう雛櫛」

「いいの」


史郎が礼を述べると、メイはまだ怒りが収まらないようだった。


「だって今の人たち、九ノ枝君を虐めているみたいでちょっと嫌だったから」


メイは自分のしたことが恥ずかしかったのか顔を赤らめていた。

何この大天使?

自分を守ってくれたメイに、史郎の心に熱いものが流れ込んだ。


◆◆◆


だが今回の件、メイに守られた、だけでは済まなかったのだ。


「史郎、お前の話がネットで話題になってるぞ?」

「ハァ???」


それは夜中、『赤き光』の休憩室で寛いでいた時だ。

史郎はこのようにここ最近、『赤き光』と『寮』を行き来する二重生活を送っている。


「どういうこと??」

「いや聞くより実際に見る方が早い。見に行け史郎」


言われて史郎は暗い隊員室に行きデスクトップの電源を入れる。

しばらくして立ち上がったインターネットの検索バーに、恐る恐る自分の名前を打ち込んだ。

すると広がったのは莫大な情報だった。


今日起きたことを総括すると、つまりこういうことらしい。


とある民放が学園の生徒からスマホで録画された史郎が『ArmS(アームズ)』交戦時の映像を入手する。


それに伴い史郎を取材する。


取材はあいにくの結果になったが、史郎の戦闘シーンは図抜けてハイレベルのため


――なんせコンクリが砂に変わる上に、『戦闘万華鏡』で撮影されているのだ――

――防犯カメラに偶然映り込んだ映像とは鮮明度も段違いなので――


無理くり放送。


次々人が吹っ飛ばされる半端ではない戦闘映像に多くの視聴者は驚愕し

映像がそのままネット上に放流。

某巨大掲示板でスレッドが立ち、今に至るというわけだ。


ちなみに史郎の戦闘映像を下に書かれた感想は以下のようなものだ。


『いやいややべーだろこれwwww』

『なんでもありなのかよ……』

『え、なんかコンクリが砂になってっけど……』

『テレキネシス、この前TVに出ていた奴より格段にレベルが上なんだが』

『ゴリラかよ。こいつのテレキネシス』

『ゴ、ゴリラキネシス……』

『ハンマー素手で受け止められるんか……やはりゴリラ……』

『30対1くらいだろこれ……それで圧勝できんのかよ呆』

『能力がゴリラならそれも可能』

『てゆうか結構イケメンじゃない!? 能力ゴリラだけど』

『そうそ、かなり良い感じよね!? ゴリラだけどね』


ゴリラじゃねーよ!!


そう内心吐き捨てるがそれよりもむかつくものがあった。

実は史郎の戦闘映像に並ぶとも劣らないほどの再生数を叩き出している映像があったのだ。

そう、それは今日の取材映像であり、

なぜその映像が話題になったかと言えば、その映像で


『退いて下さい』


史郎をかばうように立ちはだかる絶世の美少女・プリティーマイエンジェルメイが映っていたからだ。


ついにTVの前に現れたこの世の奇跡たる圧倒的美少女の登場にネットは騒然としていた。


『ちょっと待てこの子可愛すぎんだろ!?!?』

『普通にそこらのアイドル公開処刑に出来るレベル』

『てゆうかめっちゃ手握られてんじゃん! そこをどけ史郎!』

『はぁ何だしこの男! 欠片も釣り合ってねーじゃん!』

『しかもそこはかとな性格も良さそうだぞおい!』


そしてこれらネット上での感想を総括すると次のようなものだった。


九ノ枝史郎の顔も多少は良いが


こんなこの超美少女を物にするレベルでは


『『『『断じて、ない!!!!!』』』』


という物であった。



「Oh……」


余りにもショックでリアクションが英語になってしまった。


こいつらひでーよ。


いや自分がメイに釣り合わないことなど史郎も薄々感じ取っていたのだ。

だがこんなにも多くの人の手で突きつけられることはないじゃないか。


「くっそがああああああああああああああああああああああああ!!!」


史郎はあらんかぎりの力で叫んだ。



「うんこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」



◆◆◆




『ウホオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


「荒れてるな」


『ウホ!ウホホホ!!!ウホオオオオオオオオオオオ!!!!』


「仕方ない、あの叩かれ方では」


休憩室で一ノ瀬と二子玉川は遠くから響く史郎の雄叫びに呆れていた。


「でもこの叩かれる環境、いつまで続くんですかね?」


テーブルに突っ伏す三宮マドカは眉根を下げてスマホの画面をスライドする。

出てくるネット記事の多くは能力者を忌避したものだった。


「一朝一夕に解決する問題ではない」

「未知の存在が突如現れたんだ。非能力者(かれら)は気持ち悪くがっても仕方がない。私だったら、ハハハ、ドン引くだろうな」

「ま、能力者とか意味不明ですもんねー」

「だがその点に立つと、今度の報道でほんの少し、状況が変わるかもしれん」

「あぁ明日鷲崎さんがTV出るんですよね?」

「そうだ、仮にも基幹組織トップが出るんだ。未知より既知、多少はマシになるだろう」



一方でナナは自分のバトルパートナーの精神的なピンチに駆け出していて


『ウホオオオオオオオオオオオオオオ!!』


しばらくしてアジトにナナの叫びが響く。


『もうやめて史郎!! このままじゃ人に戻れなくなる!!』


明日の鷲崎の放送。

能力社会の誰もが成功を祈っていた。


史郎の叫びがアジトに響く。


『うおおおおお!!ざけんなああああああああああああああ!!!』




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