第2話 『光』の操作
『総理! 『無差別能力覚醒犯』! 今回のイギリアの国家掌握事件の首謀者『鈴木康彦』と繋がっているとの話ですが、本当ですか!?』
『すでに一人の少女が拉致されているとのことですよね! このことをどうお考えですか!?』
『しかもその少女が原因でイギリアの事件は起きたとか!?』
『そもそも生徒に戦闘訓練を施すとは如何なものでしょうか!?』
連日、報道は続いていた。
そしてどこから嗅ぎつけたのだろうか、既に覚醒した生徒たちの重要性すら報じ始めていた。
ワイドショーで出演者が図を描いたボードで彼らの価値を伝聞で説明する。
それらに対し政府も必死に対応していた。
首相も声を荒らげる。
『ですから、彼らでないと今回の問題を解決できないんです……!』
『日本だけではない、世界中が彼らの協力を必要としています……!』
『彼らには進学の自由を認めています。基本教科の学習は継続中です』
『最終的に戦地に赴くのは手を挙げた生徒だけです』
報道は連日続いてた。
能力者という未知の存在が明らかになったのだ、鳴りやむわけもない。
『だがまぁ! 私達がすることは何も変わらない!』
だがそのような現状を前にし
放課後、体育館の壇上でリツは声を張り上げた。
『そしてすることと言えば、『能力の強化』だ! というわけで行くぞお前ら!』
「「「おーーーーーーーーーー!!!!」」」
◆◆◆
突然だが、テレキネシスによる操作には、当然『難易度』がある。
お察しの通り、最も簡単なのが『固体』の操作。
その次が『液体』の操作であり、最終的に『気体』の操作となる。
それ以降、番外として存在するのは『音』の操作や『体内ホルモン操作』などである。
「一応、史郎や私が可能な『体内物質操作』は現代におけるテレキネシスの最高峰ということになっている。『テレキネシス再現格付け』で最上位だ」
「ふぅ、きちぃ……」
「でも何とか浮くようになったね……」
生徒達が必死にゴムボールを浮かばせる傍らで、リツは子守歌の様にテレキネシスの概論を説明し直していた。生徒たちのテレキネシスへの理解を深めるためである。
「『テレキネシス再現格付け』ってなんですか?」
汗を拭きながら生徒がリツを見上げた。
「テレキネシスによる物理現象の再現難度だ。重さ1キロ、体積1リットルの立方体の浮揚を難易度10と定め、その他難易度を割り出す。体積1リットルの気体の操作は難易度500とかな」
「へぇ~、じゃぁリツさんや史郎が出来るっていうホルモン操作って難易度どれくらいなんすか。最上位なんすよね」
「確かノルアドレナリン操作が68000だった気がする」
「「「ろくまッ……」」」
信じられないほどの高数値を耳にし生徒たちは絶句した。
「た、確か、史郎君、教えて数日で神経伝達物質の操作とか把握したんじゃなかったっけ……」
「マジかよ……」
「化け物すぎる……」
「同じ人間かよ……」
一人の少女が史郎の経歴を思い出したことで畏怖の視線が史郎に集まっていた。
だが一方の史郎
「どうすればいいんだろうな」
注目を集めていることにも気づかずぶつぶつ独り言を言って完全に自分の世界に入っていた。
とある女生徒にテレキネシス操舵の感覚について質問を受け偶然にも考え込んでいたのだ。
「こ、九ノ枝君……!」
周囲の視線が集まり縮こまる女生徒は史郎に声をかけるが
「待てよ、俺が普段からテレキネシスをするときの感覚はどうだ……?うん?」
などと言って女生徒の声にも気が付かない。
それが『仇』となった。
そう、『仇』となってしまったのである……ッ!
なぜなら史郎の圧倒的な才能を前に市気分を落とす生徒を見てリツは慌ててフォローに入ったのだ。
「い、いや! 貴様ら!落ち込むことではない! 人には何事にも向き不向きというものがある! あの史郎だってホルモン操作が出来る癖に気体操作が出来ないという致命的な弱点がある! な、なぁ史郎!おい史郎! しろぉぉぉぉ!」
と。
だが知っての通り史郎はすでに気体の操作が出来るようになっていて
リツに呼ばれていることにようやく気が付いた史郎は
「史郎! お前はまだ気体の操作は出来ないよな!?」
珍しく焦っているリツに対し
「いや出来るけど」
といって、事も無げに気体を操作してしまったのだ。
瞬間、ビュオォォオオ!!と駆け巡る台風並みの暴風。
「ハ?」
点になるリツの目。
驚くリツに史郎は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そして
「いや実はさ」
と語りだす。
「なんか試したら出来るようになってたんだよね」と。
誇らしげに、どこか恥ずかしそうに頭を掻いて。
結果……
(((コイツ……ッ!!!)))
生徒達の史郎へのヘイトは大いに溜まった。
そしてこの段になり史郎も生徒たちの異変に気が付いた。
「え? 俺、なんか、した……??」
なんかめっちゃ周囲の目が冷たい……
事態の急変に冷や汗を流す史郎。
しかし時すでに遅し。
「九ノ枝君、さすがにそれはちょっと……」
「一体俺が何を!?」
近くにいた女子にダイレクトに否定され史郎は涙を流した。
「う、、、ちくしょう、、、。俺が何したって言うんだ……!」
「史郎、元気出してッ」
「う……ありがとう……ナナ」
肩を落とす史郎とその背中をさするナナ。
だが体育館の隅っこでいじける部下を放置しリツは生徒に再度語りだしていた。
「でもまぁ私達もテレキネシスの全容は把握しきれていないんだよ」
「どういうことですか?」
「つまり、昔はもっと高難度のテレキネシスを使用できるものがいたということさ」
「ホルモン操作よりも高難度ってなんなんすか?」
「『光』さ」
一言でリツは言い切った。
「私も史郎も『光』の操作には欠片も辿り着けていない。お前たちが現在気体の操作の仕方がイメージ出来ないように、光の操作のイメージがまるで出来ないんだ。だがかつて光操作を実現した者がいた。彼女も資料を残したが、彼女から今日まで約500年近く光学操作を達成した者はいない」
「へぇ……」
「まぁつまりお前たちは万物操作の門戸の前に今立っているわけだ。修行に励みたまえ」
リツの激励の言葉に生徒達の瞳に光が宿った。
◆◆◆
そんな事件がありつつ、下校時刻になり
「いやあれに悪意はなかったんだって」
「九ノ枝君がそんなこと言わないことくらい分かってるよ?」
「だが九ノ枝、状況を見ることは重要だぜ!?」
「史郎は向こう見ずな発言しちゃうとこがたまにキズよね」
「ナナにだけはそれは絶対に言われたくない!」
史郎、メイ、カンナ、ナナが一緒に学校を後にしていた。
多くの生徒はこのまま寮に向かうことになる。
「あ、今! 学園の生徒が出てきました! 能力の研修が終わったのでしょうか!?」
「六時をすぎ何百名という生徒が一斉に校舎から吐き出されてきます!!」
そして校舎の外には今日も何十名という報道陣が集まり、史郎をはじめ生徒達にぶしつけなカメラを向けていた。
『無差別能力覚醒犯』の件が報道されてから連日このような感じである。
「取材良いですか!?」
多くの生徒は批判を恐れマイクを向けられると足早に立ち去っていた。
そんな折
「あ、あなた! 九ノ枝史郎君ですよね!?」
史郎を見つけると、一人の記者がマイクを向けてきた。
「あなたは『赤き光』っていう凄腕の能力者集団の一人なんですよね!? 是非取材させてください!!」
「えぇ……」
早くも史郎の素性がバレ始めていた。




