第13話 世界とは壊すもの(2)
21世紀現在、『能力者』の存在は世界に隠匿されている。
能力者と一般人は相入れないとの判断からだ。
だがこれだけネット社会の充実した現代で『能力者』の存在を隠蔽することは極めて困難。
『この前新宿で空中を飛ぶ人物を見たぞ!』
『今、炎上するビルから火纏った人が現れたんだけど……』
ネット上にはこういった書き込みや動画が日々上げられていた。
だがそれら動画が上げられようとも、異能者の存在を信じる者は殆どいなかった。
もし異能者が本当に存在しないパラレルワールドがあるのなら、その世界に比べ、この世界の超常現象の話題は『〇〇マン』といった異能者の話題の比率が高い。
しかしこの世界でも、能力者の存在はおとぎ話のように信じられてはいなかった。
その理由は『政府』と『基幹組織』が連携し能力者の情報を抹消しているからである。
政府の『隠蔽』を職務としている者たちは日々ネット社会に目を光らせ存在が発覚しそうな事案には即座に介入する。
大手新聞社の社長などは代々口を噤めるものが選ばれてきた。
また能力社会も努力を続けており、その国の能力組織を束ねる『基幹組織』が、能力者の存在がばれるような行為には厳しい罰則を設け、危険な組織は直ちに壊滅していた。
能力者個々人にも規定があり、もし止むを得ず一般人の前で能力を使用せざるを得ない場合には専用コードへの連絡が義務付けられていた(破る者多数)。
このように能力社会の存在は『政府』と『基幹組織』双方の努力により隠蔽されていた。
だがそうなると問題になるのが『イギリア』である。
なぜなら『イギリア』の『政府』と『基幹組織』は鈴木の手に落ちてしまったのだから……。
地中海に浮かぶ小国・イギリア。
イギリアには全世界の能力社会を束ねる『国境なき騎士団』が存在し、『国境なき騎士団』はイギリアの基幹組織も兼ねていた。
この『国境なき騎士団』が鈴木が指揮する組織、『第二世界侵攻』により壊滅させられた。
そして騎士団地下には能力社会の大秘宝『戦争涙』と『殺意』が安置されていた。
能力固体『殺意』の有する能力は『声を聴いた非能力者を遠隔殺害する』というもの。
加えて『戦争涙』が有する力は『あらゆる兵器の無力化』
その二つの能力社会の能力兵器を前にしイギリアの政府は鈴木の『手に落ちた』。
こうしてイギリアの『政府』と『基幹組織』は鈴木の手中に落ちてしまったのである。
そして、――鈴木の目的を覚えているだろうか。
能力者優位の社会秩序の構築。
それが鈴木の悲願であり、そのためにはどうしても必要なものがある。
それは――
ここ最近、ネット界隈を騒がせている話題がある。
イギリアが爆心地のそれら情報はさすがの各国政府も『隠蔽』しきることが出来ず、日本社会でも多くの人の目に触れていた。
『見ろよこの記事……』
『イギリアの事、結構詳細に書かれてんな』
実際に林間学校に向かうバス内でもそれら記事を生徒は見て目を丸くしていた。
そしてそのイギリア発のスクープとは――
『イギリアのケイエス大聖堂(元・国境なき騎士団本部)の壊滅は『能力者』によるものではないか』
という記事であった。
ネットニュースではすでにイギリア政府がとある『能力者集団』の傀儡になっているとの記事も上がっていた。
情報の拡散はネットニュースだけに留まらない。
イギリア国内では大手週刊誌が『能力者』の存在について報道し始めていた。
『この世界には科学では説明できないような異能の力を有する人物がいるらしい』
『それら人物達は徒党を組み社会の裏に潜み秘密裏に『能力社会』を築いているらしい』
『従来から政府は能力社会と手を組み、能力者の存在を公にしないようにしていたらしい』
『今回とある組織が暴走し、ケイエス大聖堂を根城にしイギリアの主権を奪い取っているらしい』
そのようなゴシップ記事がイギリア国内に週刊誌・ネット等々で出回ったのだ。
それら報道を受け
『そんな馬鹿なことあるかよ?』
『信じられん』
『こんな馬鹿な話が出回ること自体恥ずかしい』
『でもイギリア政府は沈黙してるぞ?』 『デマならすぐ否定するんじゃ…』
『てゆうか私、手から雷出す人見たことあるよ?』
『マジかよ!?』
ネットを中心に能力者に関した議論は盛り上がっていた。
本来ならば政府と基幹組織が手を組み、そのようなことにはならないはず。
しかしそれらは今現在、全て、鈴木の手の中だ。
鈴木が腹積もり次第で、それらはいとも簡単に一般社会に流れ出すのである。
そして、これこそが鈴木の目論見であった。
なぜなら鈴木の悲願は『能力者優位の社会秩序の構築』
もしそれを目指すならば、まず、
能力者の存在が公にならねばならない。
能力者の存在が知られなければ、上も下も発生しないのだから。
だからこそ鈴木は能力者の情報を流し始めた。
そしてとある小国が大々的に報じ始めた新情報を、いくら権力を握っているとはいえ各国政府は隠蔽しきることは出来なかった。
世界各国でこのイギリアの報道をもとにした記事が書かれた。
『イギリアで能力者という摩訶不思議な存在が話題になっていますが本当ですか?!』
多くの政府に同じような質問が飛び、政府はイギリアの同行を見守るために沈黙を続けた。
そして時は8月30日 PM8時(イギリア時間)。
再三の報道を受け、ケイエス大聖堂の管理者が取材に応じたのだ。
『今、私たちはケイエス大聖堂の前に来ています! あと数分で管理人が出てきます!』
『ここが件の大聖堂です! 今日も荘厳な雰囲気に包まれています!』
その日、多くの報道陣がケイエス大聖堂の前に集まっていた。
夕闇の落ちた大聖堂を煌々とライトが照らし、興奮気味の記者が熱っぽくまくし立てていた。
数え切れないほどの取材カメラが大聖堂の門を映している。
『これでここ数週の話題にけりが付きますねぇ』
『能力者、それは本当なんでしょうか?』
『いやいや私は懐疑的ですよ』
イギリアの報道番組では生中継でここ数週国内を騒がせた話題を報じていた。
太った政治専門家が自信有り気に言う
『そもそも国家乗っ取りというのがナンセンスですよ』
そして定刻。PM8時。
『あ、出てきました!』
『やはり報道通り本来の管理者とはまるで違う人物です!』
『東洋系の男が現れました』
スーツを着込んだ鈴木が報道陣の前に姿を現す。
その姿はかつて鈴木が纏っていたどこかしょぼくれた印象はない。
日本刀のようなギラついた狂気を纏った人物だった。
即座に殺意に気が付けない報道陣から野次のように質問が飛んだ。
『能力者というのは本当なんですか!?』
『政府も沈黙を保っていますが、能力者の存在は本当なんですか!?』
『あなたがこの国を裏から支配しているとの情報が流れています!? 俄かには信じがたいですがそれは事実なんですか!?』
そしてそれら質問の雨を浴びた鈴木は、質問がいったん収まると、あっさりと世界の真実を口にした。
それはこんな言葉だった。
『えぇ』
『全て真実です』
と。
バシャバシャバシャッとフラッシュがたかれた
『ほ、ほんとうですか!?』
『俄かには信じられません!?』
『あ、あなた自分が何を言っているか分かっているんですか!?』
ヒステリーのように記者が口々に質問を飛ばす。
そしてそれら記者を前にし、鈴木はニヤリと笑った。
その笑みはあまりにも凶悪で……
「―――ッ!?」
この段にいたりようやく自身の危機を悟り、報道陣は一瞬で黙り込んだ。
怖気づく報道陣をフンと一笑に付すと、鈴木は実際に見せる方が早いとでもいうように、指をパチンと鳴らした。
それにより報道陣が、いやそれだけではない。
収録中のスタジオが、その番組を見ていた家庭が、息を呑む。
『え――?』
『うそでしょ――?』
映像に報道陣の驚きの声が入り込む。
『まさかこんなことが――』
収録スタジオが凍り付く。
『信じられない……』
『ママ、怖い…』
とある家庭は映像を見て愕然とした。
なぜなら
鈴木が指を弾くのと同時に、ケイエス大聖堂の『石畳』が轟音を鳴らして宙に持ち上がったのだから。
多くの土砂を振り落としながら長方形のレンガが向こう何百メートルにも渡って、腰の高さほどの高さまで持ち上がっていたのだ。
重力に反して、物体が宙に浮いているのだ
『う、うそでしょ……』
信じられない光景に一人の記者が尻もちをついた。
『嘘ではない』
そして恐怖の余り涙を流す記者に、鈴木は突きつけるように宣告した。
『能力者は実在する……』
◆◆◆
『で、その鈴木って人は国を支配して何をしたいの?』
ある日の昼休み、史郎はメイにそう聞かれていた。
『おそらく彼らは――能力者の存在を明かしたいんだ』
『それマジヤバいじゃん……』
鈴木の目論見を暴露するとカンナは事の重大さを悟り顔をしかめていた。
そのようなカンナを前にし、自分に言い聞かせるように史郎は呟いていた。
『端的に言って、人類史に残る事件が起きるわけだ』
と。
これがその言葉の真実。
西暦20XX年 8月30日。
能力者の存在が世界に知られた。
第5章 第13話 世界とは壊すもの(2) 終
これにて第5章終了です!
ありがとうございましたーーー!!orz
なんて書きにくい章だったんだ……完全に春になってしまった……(白目)
第六章は面倒な枠が外れたので中二全開で書く予定です。
今後ともよろしくお願いいたします。




