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第7話 地獄の始まり?

お久しぶりです。

ようやく林間学校編を書き始めます。

宜しくお願いします。





「これ、どうしたら良いと思う……?」

「うーん……」


周囲の山々に囲まれた宿泊施設の屋上で、メイと対峙し史郎は唸った。

抜けるような青空の下、史郎の前にはボンヤリとした光球が漂っていた。

メイの個別能力が目の前に展開しているのである。


「どうしたら良いんだろうな、コレ……」


林間学校が始まり数日。

『最弱能力者』と揶揄されるメイの個別能力の強化を任せられ、史郎は途方に暮れていた。

なぜこのようなことになったのか。

時間は林間学校開始当日に遡る。


◆◆◆


「ねぇ九ノ枝君、これから行く長野県には能力強化施設ってそんな沢山あるの?」


宿泊施設に向けて走るバス。

バスが高速に入り数分もすると最後部座席の史郎に女学生が振り返った。


「いやそんなに沢山はないよ。これから行く場所はもともとあったのを政府が貸し切ったんだ。中学の時行ったことあるかもしれんぞ?」

「ん~私は行ったことは無いかな? でもそうなんだ。そんなこともしてくれるのねぇ」


感心したような声を上げると女生徒は再び前に向き直る。


「他の学校の人も皆修行に行くんでしょ?どこ行くの?」


するとすぐそばに座っていたカンナが口を開いた。

奥にはメイがいる。


「確かもう一つの高校は静岡だったな確か。栃木や福島に行く中学校もある」

「で、皆そこで数週間過ごすってわけね」

「ま、そういうことになるな」


史郎達は政府が貸し切った施設で数週間に渡り能力の修行に勤しむ予定である。

その間史郎は生徒達をみっちりしごき切らないとならない。

なぜなら政府は晴嵐高校にどの学園よりも期待を寄せており、中でも


「お、上がったぜ~」

「くそ、またかよ……」


史郎の学年に最も期待を寄せているのだ。

史郎の宣誓で最もやる気を出したのが彼等であり、以降の能力成長の進捗が目覚ましいのも彼等だからだ。


「……」


こんな調子で大丈夫なのだろうか……?

史郎はこれから苛烈な特訓が待ち受けるというのに呑気にトランプを興じる生徒達に溜息をついた。

これから数週に渡りこの学園の生徒達は『あの』二子玉川が決めたトレーニングを行うのだ。


『なぜホルモン操作が出来てぇ!気体操作が出来ないんだ!!オラアアアアア!!』

『ブグフウウウウウウウウ!』


史郎が泣かされ、


『なぜ貴様はすぐに個別能力に頼ろうとするんだ!オラアアアアアアアアアア!』

『ぎゃあああああああああ!!』


ナナが散々泣かされた二子玉川リツだ。


どれくらい辛いかと言えば


『今日から君たちを育成する!』


とリツが壇上に立った際


「なになに?」

「きゃ!? どういうこと?」


体育館の前方が騒がしくなり


「先生、なぜか木嶋くんが倒れました。保健室に連れていきます」

「……………………」


とリツの個別レッスンを受けていた木嶋が失神したほどである。

その後木嶋は目に涙を溜めながら聞いてきた。


「マジなの……?」

「マジっす」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁまじかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


史郎がにべもなく答えると木嶋は悲壮な呻き声を上げていた。

オリジナル能力者の木嶋の性能を改善させる修行でここまで音を上げるのだ。

覚醒能力者の彼等をまともな状態に仕立て上げるのにどれほど苛烈な訓練が待ち受けるか、想像もしたくない。

ちなみに修行内容は史郎にも伏せられている。

林間学校のパンフレットのスケジュールには『修行!』としか書かれていない。


恐怖しかない。


『一体何するの……』


先日史郎は眉を潜めながら尋ねた。

するとリツはコーヒーを啜りながら得意げに口角を上げ


『内緒だ』


不安でしかない。

だが、救いがあるとすればリツが作成する強化計画は最善のものであることが確かな点だ。

なぜならリツが保有する能力は『(ひずみ)の視認』。

『理想』と『現実』の間にある『歪』を視認する能力であり、

長年それを利用し能力者の育成をしてきたリツはその『歪』をどうやって解消するか、方法を知っている。


『理想』である銃弾すら防ぎきるほどの『肉体強化』をどうすれば彼らに付加できるのか。

その最短ルートが彼女の視界には『視えている』はずなのである。

だが得てしてその最短ルートが脳筋気味だというのがネックであり


ひょっとすると、『強硬派』が彼らを育成した方が良かったんじゃない?


というぐらい過酷なトレーニングが課される可能性もある。


「もっかい! もっかいやろうぜ!」

「タカは負けず嫌いなのが良くないわよ?」

「うっせーよ勝つまでやんだよ勝つまで!」


だからこそ史郎は危機感無くトランプを楽しむ生徒達を心配せずにはいられなかった。

これから数週に渡り修行漬けになる彼等はというと


「ミイコ、このファッションヤバくなーい?」

「結構攻めてるよね……」


ファッション雑誌に額を寄せ合い囁き合ったり、


「お前どんくらい菓子もってきたんだよ?」

「バック一杯に買ってきたぜ……」

「ガチ勢じゃねーか」


パンパンに膨らんだバックを自慢げに叩いたり


「見ろよこの記事……」

「イギリアの事、結構詳細に書かれてんな」


などと遂に核心に迫りだした週刊誌の記事に息を潜めたりしていた。


欠片もこれから行われる修行を憂いてはいない。


「九ノ枝君? どうしたの顔色が……」

大丈夫?


メイが顔色が良くない史郎を心配気に顔を覗き込んでくる。


「うん、大丈夫」


史郎は言葉少なめに答えるしかなかった。


「大丈夫大丈夫! 史郎はバスで酔うほどやわじゃないよ~」


一方で菓子をボリボリ食いながら史郎の隣でナナは笑う。

コイツもコイツで生徒の育成を依頼されているはずなのだが、自覚はあるのだろうか。

史郎の心労は尽きることは無かった。


そしてそうこうしているうちに、バスは高速を降り緑豊かな山道を駆け上がり国保有の青少年自然の家に到着した。

史郎も中学時代に来たことのある宿泊施設である。

そして生徒達はと言うと


「うわ~~~きれい!」

「涼しいなマジで」


などと感嘆の声を上げ


「まあこれから数週間いるわけだしのんびりやるかぁ~」


などと伸びをしたりしていたのだが


「ハ、オマエは何ヲ言ッテイルンダ?」


同乗していたリツの瞳が怪しく輝いた。



◆◆◆



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」


史郎の前では複数の生徒達が自身の能力を展開させていた。

史郎の宣誓の後生命エネルギーを練られるようになった生徒は800名中約50名。

その50名は他の生徒が辿り着くまで体力強化や精神力強化などのために施設周囲を走らされまくっている。

そして残す生徒達はと言うと


「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


能力を使用し生命エネルギーを使い果たす修行が継続して行われているのだ。

集中強化期間ということで能力社会からも今までよりも多くの人材が投入されている。

グラウンド周囲に集められた生徒達の周囲には二・三十名の癒しを司るスタッフがいて


「君、大丈夫?」

「そ、そろそろ限界っす……」


生命力を使い果たし今にも倒れそうな生徒を見つけるとすかさずサポートに入る。

そして生徒が


「自分ももう気絶するかも……キツイっす……!」


と泣き言を言うと


「大丈夫! もし気絶してもすぐ私が癒してあげるから!出し切っちゃって生命エネルギー!」


駆け寄りはするが助けはしない。


「あ……やっぱり助けてくれはしないんすか……」


割と薄情なスタッフの対応に男子生徒は涙を流した。

しかしこれも当然である。

体力切れ間際で無理やり能力行使するからこそ『生命エネルギー』を練る感触が得られるのだ。

体力切れ寸前で癒してしまっては元も子もない。

だからこそ


「もう無理っす、ぐへぇ」


男子生徒は気絶し倒れるとスタッフが手を当てがい、体力を注入する。

が、


「……全快には、しないんかい……ッ!!」


ほんの少ししか体力・気力は充填されない。

体力を注入されむくり起き上がった割に既にヘトヘトな状態に生徒は思わずぼやいた。


「そりゃ限界付近で能力使用して欲しいんだから当然でしょー」


そして冷徹な言葉を浴びせ去って行くスタッフに


「この世の地獄かココは……!」


男子生徒は目に涙を溜めていた。

しばらくして男子生徒は再び気絶した。


「ひゃ~、これは壮観だな~」


生徒が次々倒れては起き上がる世にも奇妙な光景を目の当たりにし、生徒の強化に駆り出された周防は目を丸くしていた。


「いやマジで酷いなこれは……」


史郎もボロボロになる生徒達を見て同意せざるを得なかった。


また既に生命エネルギーを練られるようななった生徒は無事かというとそういうわけでもなく、


「施設外周を15周ランニングとか聞いてないんだけど……」

「1周何キロあんだよ……」

「1キロらしいぜ」

「嘘マジ無理~~」


生命エネルギーの元手となる体力強化を図るべく普段では考えられない距離を走らされ音を上げていた。


「ハッ部活でこれくらいは慣れているぜ!!」

「野球部舐めんなよ!!」


その中には元野球部所属で体力自慢の生徒もいたわけだが


「ん? なんだ携帯が鳴って、はいもしもし」


謎の着信に反応し電話に出ると


「『じゃぁ貴様らは30周な』」

「は?え?」

「『30周な』」


ブツッ……ツーツー。


と突然リツから電話がかかり切れる。


「「「えええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」」」


地獄耳にも程があるリツの着信に男子生徒達は悲鳴を上げた。


『こえええええええええええええ!?!? なんだあのばばぁああああ』


「……なんだ……?」


生徒達が能力を使用するのを見守っていた史郎はグラウンドからだいぶ離れた道路から生徒の叫び声が聞こえてきて眉を下げた。


そんなわけで


夕食の席に着いた時には生徒達はボロボロであった。


仮にも林間学校という宿泊学外活動で盛り上がること間違いなしのイベントだというのに、先ほどから食堂では、カシュッカシュッとスプーンがシチューを掬う音しかしない。

皆無言でただただ食料を口に運び込んでいた。


「(これはやばいだろ史郎……)」

「(あぁ、マジでヤバいな……)」

「(みんな疲れ切っているかも……)」


史郎とナナは流れで今日は教育者側の席に着いているのだが、頬がこけている生徒達に思わず声を潜めてしまった。


だがリツは生徒達の進捗に満足しておらず


「より効率よく生徒達を強化する術を思いついた」


リツはこれだけでは飽き足らず夜史郎を部屋に呼び出すと


「明日からは貴様にも存分に協力してもらう」


新たな計画を立案し始めた。


「え?何やる気なんですか……」


史郎は青ざめた。


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