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第6話 宣誓


注意:本話:約10000字(普段は5000字)

長いです。

宜しくお願いいたします。








「今からお前らをぶっ潰す!」


史郎が宣言すると事務所にいた男達はすぐに事情を悟った。

そして数名の男達はすぐさま史郎に襲い掛かった。


◆◆◆


一方、その頃。晴嵐高校では


「おいおい本当に始まったぞ!?」

「おい俺にも見せろ!」


とある教室で『戦闘万華鏡』を展開させていた生徒達は目を丸くしていた。

養田の言う通り本当に史郎が戦闘を始めたからである。

しかも――


「尊厳を踏みにじるってどういうこと……?」


思ってもみなかった史郎の言葉に生徒達は固唾を飲んでいた。


◆◆◆


史郎めがけて十名近い男たちが飛び掛かってくる。

だが――


ARmS(アームズ)』という組織は藤原という男をボスに据え、三人の幹部を要する、全員ウェポン型の能力を有する総勢30名程の『中堅』組織である。

つまりその下っ端構成員など


「……目じゃねーんだよぉ……!」


史郎は一気に怒りを爆発させテレキネシスを全開にした。

それにより窓ガラスが一気に爆砕され、ガラスの凶器が彼らに殺到した。


「「「あああああああああああああああああああああ!!!」」」


縦横無尽に駆け巡る透明な凶器で体を血だらけにしながら、後方へ吹っ飛ばされる彼等。


「グフッ!」


9名中4名がこの一撃で戦闘不能に陥った。

しかし残り5名はなんとか意識を保っており、


「ざけんな! 俺たちの計画を」

「邪魔してくれてんじゃねーぞ!!」


壁に身を強かに打ち付けつつも、むくりと起き上がり史郎に駆け出してくる。

二人の能力者はそれぞれ刀と槍を現出させ史郎を一閃しようとした。

だが史郎はというと彼らの攻撃を前傾し軽々躱し、

頭上を通過する武器を払うように拳を振るい、彼らの武装をあっさりと『粉砕』した。

まるでガラス細工のように意図も容易く粉々になる彼らの武器。


「うお!?」

「嘘だろ!?」


彼等は息を呑んで驚き、その隙に史郎は一気に距離を詰めた。

そして瞬撃。

瞬く間に彼らの懐に拳を叩きこむと彼らを戦闘不能に追いやる。


気付けばいつの間にか9人中6人が戦闘不能になっている。

その異常事態に残り3人の能力者は、動揺しつつも、なんとか体制を立て直そうとしていた。

だがそこに


「めんどうなことはやらせねーよ」


史郎が操った観葉植物の入った鉢が突っ込み、


「くそっ!」


さらに一人が吹っ飛ばされる。

連携を潰され苦虫を噛み潰したような顔になる男。

男はチラリと上階を見た。そこに


「早く仲間が来るように願ったか?」


冷徹な史郎の問いかけが突き刺さった。

そして図星を突かれた隊員が言葉を失っているうちに


「ならその希望を叶えてやる……!」


ズズンッ……! とアジトが大きく揺れた。

ミシミシと揺れた後、サラサラと砂が落ちてきて、残された2人の隊員はなんだと視線を上に上げた。

そしてその先にある光景に目を剥いた。


今回の任務。

『強硬派』であるところの『ARmS(アームズ)』を圧倒することで他の強硬派を威圧する目的も兼ねている。

そのため史郎は()()()()()()彼らを倒しにかかっており、史郎のテレキネシスの()()()()()とは――


天井のコンクリをテレキネシス振動で砂に変える程であった。


「嘘だろ……!!」


階下の隊員は天井が流砂と瓦礫の塊となり降って来るのを見て息を呑んだ。


「「「なんだああああああああああああああああああ!!!!」」」


階下の騒ぎに気が付き向かおうとしていた隊員含めて上階の隊員達が足場を失い丸ごと降ってくる。

そしてありとあらゆるものが落下する空間で


「入れ食いだな」


落下してきた流砂が史郎のテレキネシスによりしなやかな鞭のように収れんし、事態に対応しきれていない隊員に襲い掛かった。

蛇のようにうねる流砂は、空中で身動きが取れない敵を丸ごと弾き飛ばした。

弾丸のように強烈な一撃だった。


「「「うぐあああああああああああ!!!!」」」


上階の隊員はまさか床が抜けるとは思っておらず、多くが事態に『全く』対応できていなかった。

おかげで降ってきた20名の構成員の内、半数以上。

13名が、たちまち流砂の蛇の餌食となり壁に叩きつけられた。

これで今現場にいる戦闘員の中で意識があるのは、もともと階下にいた2名を合わせて9名のみ。

そして彼等はいまだ戸惑いが隠せないようで


「イケるな……ッ」


それを見た史郎の瞳が怜悧に輝き、『狩り』が開始された。


史郎は一気にアドレナリンを全開にし、彼らの中に突入した。

そしてまず向かったのは、一番近くにいた長身の男の下だった。


「フッ!」


小さく息を吐き出し突進する史郎。

対する男は大薙刀を現出させ一振りし史郎の接近を阻もうとした。が


「なに!?」


大薙刀に流砂が絡みつき動きを封じていた。

その隙に史郎は一気に距離を詰めドテ腹に拳を叩き込み戦闘不能に追いやった。

そして


「背後がガラ空きだぜぇ!!」


と背後から棍棒を現出させた男が襲い掛かってくるのを感知すると、目の前に落ちていたPCにテレキネシスをかけ、男を限界まで引き付けたタイミングでしゃがみこみ


「グフッ!!」


PCを男の顔面に叩き込むことに成功する。

こうして早くも2人を倒した史郎に今度は無数の弾丸が襲い掛かった。


「フッ!」


だがそれら弾丸を史郎はオーラ刀を発現させ切り飛ばした。

切り飛ばされた弾丸は辺りに散らばり土煙を上げた。

そして攻撃を防ぎ切った史郎は、攻撃の出所に目を向ける。

見ると部屋の隅にマシンガン型のウェポンを現出させる二人の能力者がいた。

即座に史郎は動いた。


「面倒なことしてんじゃねーぞ」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


殺気を発しながら高速で向かってくる史郎に溜まらず銃口から無数の弾丸が吐き出された。

しかし


「読めんだよ慣れてくるとそれくらいな」

「クソ野郎がッ!!」

「止まんねぇぞコイツ!!」


それら能力によって作られた弾丸をなんなくオーラ刀で切り飛ばし、瞬く間に二人に接近し、二人をオーラ刀で一閃し戦闘不能にする。

そしてさらに横にいたトンファーを現出していた男に迫る。


「おおおおおおおおおおお!!!」


横にいた男はトンファーを史郎に向け雄叫びを上げた。

そしてその動作に違和感を覚えた史郎が空高く跳躍すると、同時にトンファーから猛火炎が吐き出された。


「なに!?」


そして攻撃を読まれたことに口をあんぐり開ける男の顔面を


「さすがにトンファー持ってその構えはおかしいだろ」


とダメ出しをしながら、踏みつけ、跳躍。

空に舞い上がると、あっと言う間に仲間を制圧する史郎に呆ける男を発見し、


「何を呆けている」


その男に持っていたオーラ刀を投げつけた。


「グハ!」


生命エネルギーで作られた切っ先は対応を許さぬ速度で男に突き刺さった。

それにより9人中6人が倒され残すは3人のみ。

その3人はというと部屋の隅にそれぞれ分かれ存在しており、


「これで終わりだな」


すぐさま内一人にターゲットを絞ると史郎は一気に距離を詰め、史郎の進行を阻もうと進行してくる刃を拳で破壊し


「なに!?」


目を剥く敵をあっさりとオーラ刀で一閃し、残す二人にはテレキネシスで地面に落下していた流砂を操り、強烈な一撃を見舞った。


「「ぐあああああああああああああああ!!!」」


ウォーターカッターのように流動する流砂の刃を喰らい、男たちが断末魔の叫びを上げる。

こうして周囲にいた敵が一掃されると同じ頃


「ナッ! 何がどうなっているんですかこれは!?」

「おいおい物音に気付いてやってくれば全員やられちゃってんじゃん~」

「アイツ、『赤き光』の九ノ枝か……!」


上階からようやく三人の幹部が降りて来た。

赤髪で眼鏡をかけた男が『赤石』で

金髪でヘッドフォンを首からぶら下げている青年が『電磁原(でんじばら)

怒りで今にも血管が切れそうなほど顔を真っ赤にしている大男が『頭蓋田(ずがいだ)』である。

そしてその奥にいるインテリ風の眼鏡をかけたスーツの男がボス藤原である。

冷徹な瞳をした藤原はただ一言、「ヤレ」と言うが


それよりも早く動いている者がいた。

頭蓋田(ずがいだ)である。


頭蓋田は史郎のすぐ近くに着地すると


「貴様ァァァァァァァァァァァァァ!!」


その巨木のような腕を振り上げた。

既にその腕の先には米俵ほどの頭部がある極黒のハンマーが現出しており、その高威力の一撃を史郎に見舞おうとしていた。


そしてウェポン型の特徴は保有する能力の一点特化だ。

つまりこの攻撃特化したハンマーはかなりの威力を誇っている、


のだが


あいにく史郎は()()()()()()()()


真上から打ち下ろすように降ってくるハンマーを真正面から受け止めると


「なにぃ!?!?」


目を剥く頭蓋田に、拳を握りこみ、吐き捨てた。


「切れているのが、お前だけだと思うな……!」


史郎の強烈な一撃が頭蓋田の顔面に叩き込まれる。


「グフ……!!」


それにより頭蓋田はばったりと後ろに倒れた。

そして(まず一人……)と史郎が息をついた時だ


「ハッハ~!がら空きぃ~~!!」


黄色い閃光が史郎に高速で迫ってきて


「クフッ!」


史郎の肩に掌底を加えると去っていった。

ダメージは軽い。

史郎は状況を解析する。

金髪の男、電磁原が高速で史郎に接近し一撃を加え去っていったのだ。

ダメージはさほどない。

そして周囲に視線を向けると高速で壁を走行する電磁原の姿を捉えた。

足にはローラーブレードが現出している。

あれが彼の能力なのだろう。

そして彼のローラーブレードがどのような能力に特化しているかなど、想像に難くない。

当然、高速移動であろう。


「今度は逃がさないよ!」


そして電磁原は今度こそとどめを刺そうと光の筋となり史郎に迫るが

史郎は、すでに『対応』していた。


「え?」


史郎に攻撃する寸前、電磁原は大きく目を見開いた。

自分の顔面にピタリと合わせるように目の前に史郎の『足』があったからだ。

極限状態化で時の流れが遅くなった空間で、電磁原は聞いた。


「――おっそい」


次の瞬間、電磁原の顔面に蹴りが叩き込まれた。


そして早くも二人を倒し残す幹部は赤石だけ……と史郎が上を見た時だ


「貴様! 自分がしていることが分かっているのか!!!」


眼前に血眼の赤石が迫っていた。

吹き抜けになった二階から跳躍したのだ。

そして赤石の手には日本刀が現出されており、その特化能力は切断力の強化。

能力で強化された、もはや何でも切れるといってもいい切っ先が史郎に迫るが


「なに!」

「このくらいなら、何とかなる……」


その切っ先を史郎のオーラ刀が受け止める。

そして鍔迫り合いを演じながら史郎は言い返した。


「そして、分かってるさ……! 自分が何をしているかってことくらい……! お前達よりずっとなぁ!!」


咆哮一閃。

叫ぶと同時一気に出力を上げ、


「なんだと!?」


赤石を刀ごと切り飛ばした。

そして三人の幹部を倒せば


「残すはアンタだけだ藤原さん」

「飛んだ邪魔が入ったものだ」


こうして史郎はボスである藤原と一対一で対面した。




そして眼鏡を掛け直し、俯いていた藤原はというと、一気に史郎に襲い掛かった。


「飛んだ邪魔が入ったものだ」


憎々しげに呟く藤原の手にはいつの間にか人の背丈の二倍はありそうな大鎌が握られていた。


(何をするんだ……?)


突如現れた大鎌に警戒の度合いを引き上げる史郎。

そして史郎が目を瞠る中、藤原が無造作に鎌を一振りすると、人一人を両断するような真空刃が放たれた。


「ッ!?」


予想はしていた。

が、予想以上に()()()()()速かった。

とっさに史郎は跳躍し難を逃れた。

が、立て続けに真空刃は襲い掛かった。


「ホラホラどうしたどうした!? まだまだ、まだまだだぞぉ!!」


遠方にいる史郎にめちゃくちゃに鎌を振るい真空刃を放ちまくる。

それを史郎は周囲にある砂を操作し壁を作り、受け止め続ける。

砂は何度も花火のように弾けては落ちた。

そして――史郎とて、やられてばかりではない。


「フン!」


藤原の背後にあった瓦礫に『力』を送りテレキネシスにより操作。

背後から一撃を狙う。

だが


「それくらいは俺も読める」


藤原が操作した瓦礫が、史郎の瓦礫を弾き飛ばした。

しかしそれも史郎の読み通り。

意識が背後に向かった瞬間を突き、一気に藤原との距離を詰めると


「――ッ!?」


虚を突かれ息を呑む藤原に拳を叩き込もうとした。

が、しかし――


「なに!?」


今度は史郎が瞠目する。

拳を振るう寸前、目の前にいた藤原の姿が忽然と消えたのだ。

そして拳が空を切り、史郎がわずかに動揺した隙に


「――ッ!!」


無数の打撃と斬撃が史郎に叩き込まれる。


「クッソ!」


多少の血を流し後退する史郎。

そうしながら史郎は悟る。

藤原の大鎌が有する能力は自身の肉体を隠蔽する能力だ。

遠隔斬撃は鎌を発現した際に付随し現れたものだろう。

ウェポン型の能力はそういったケースが稀にある。


そして藤原は姿を消した状態で斬撃を飛ばし続け史郎を倒そうというのだろう。


(ならば……ッ)


藤原の策を理解した史郎は大きく息を吐き出し、


床に手を置いた。


◆◆◆


一方で藤原。

死神役の鎌(デスサイズ)』により姿を隠した藤原は、まさに史郎の読み通り、姿を隠した状態で斬撃を飛ばし続け史郎を倒そうとしていた。

そうして史郎の背後を突こうとゆっくりと立ち位置を切り替えようとした時だ


ザリッと足元で音がした。

不審に思い視線を下に向ける。

するとそこには、砂があった。

まるで不可視の藤原の姿を知らせるかのように、足元の砂が藤原の靴により()()()()()()()()

そしてそれが意味するところを理解するのと同時、ゴンッ! と藤原の後頭部に瓦礫が突き刺さった。


◆◆◆


「ふぅ」


藤原を倒すと史郎は息を一つ吐き出した。

ここまで来れば分かる通り、辺り一帯にあった砂をテレキネシスで再度散布したのだ。

不可視の藤原を、見つけるために。


そしてここからが本題である。


「これで、もう諦めるか」


史郎は目の前でばったりと倒れる藤原に問いかけた。

藤原への一撃は加減してある。

史郎の一撃を喰らい息も絶え絶えといった調子で伸びているが、返事くらいは出来る。

そして藤原の返答を待つ史郎に告げられたのは


「……そんなわけがないだろう……!」


そんな、怒りに満ちた言葉だった。


「俺たちは何としても子供たちを育成する……! 何があってもだ! 彼らが泣こうと喚こうと血を流そうと、たとえ訓練のさなか死のうとも彼らを徹底的に強化し、イギリアに強制的に向かわせる……! お前たちの、新平和組織などが進めている政策は間違っている! 子供たちは何としても強化する! それが正しい!」


頭部から血を流す藤原は憎々しげに顔を歪め話し続けた。

青筋が立ち、目は血眼。

史郎にやられて息が上がっていて苦しいだろうに、それでも言葉を紡ぎ続けたのだ。

それほど藤原は怒りに満ちていた。

だがそれを向けられた史郎はというと、酷く冷淡で


「正しいねぇ」


思わず顔をしかめていた。


「生徒の尊厳を踏みにじってでも育成を促すその方針が正しいのか? 俺にはよっぽど非人道的に思えるんだけどな」

「ハッ、何を言っているんだ九ノ枝。根本的にズレているな……!」


だが見下された藤原は引き下がらない。


「彼らが原因でこの世界のバランスが崩れたんだ……! 彼らのような半端者が生まれたからこそイギリアの主権は奪われ『戦争涙(バトルティアー)』も『殺意』も鈴木の手に渡ってしまった。ならば彼らに責任を取らせるのが正しいだろう……!」


そう、この考えがあるからこそ、藤原は引き下がらないのだ。

そして藤原の言う通り、この考えこそが史郎と『強硬派』との根本的なズレであり――


このズレこそ、史郎が許容できないものであった。


「彼らが原因ねぇ。ハッ、笑わせんなよ」


自然と言葉が怒りを帯びた。


「原因は、()()()()。鈴木が彼らを能力者にしたのが原因だ。彼等はこの事件に巻き込まれた被害者でしかない」

「……ッ!」


史郎の言葉に藤原は瞠目した。

そしてすぐさまには言い返せない史郎のロジックに、

しばらくすると藤原は苦し紛れに言い返した。


「……フ、だったとして、ならどうするというんだ……。どうせ甘っちょろい考えで進めている君たちの教育方針では上手く行かないんだろ……」

「だから今から本気で育てるんだろ……! 今からならいくらでも間に合う……! これからも俺は彼らを全力で指導し、彼らを最高の状態に持っていく。そしてそれが――」


そこからは口に出すのさえ躊躇われたが、口にせざるを得なかった。


「最終的に彼らを戦場に、死地に連れていくことと同義だとしてもだ……!」


『史郎、この生徒の育成に史郎も一役買ってほしい』


それがあの日、リツに生徒達の育成を依頼された日、史郎が押し殺した感情である。

彼らを育成することは、即ち彼らを危険な環境に送り込む幇助をすることになってしまう。

もし彼らが大切ならば、本来、そんなことはするべきではないし、

史郎は本当ならこんなことはしたくはないのだ。

だがしかし、『世界が』そうすることを強要してくる。


だがそうは言っても、史郎自身、させられてばかりではない。


世界に強要されつつも、史郎自身もそうすることを選んだのだ

なぜなら――


「このまま鈴木が無効化能力者を盾にする限り彼らは一生自由にならない! だから俺は彼らを育てる! そして彼らを育成することが彼らを死地に送り込むことに繋がろうとも、 俺は彼らが死ぬのを許しはしない!彼らが作戦を実行するその日、俺もその作戦に同伴し彼らを絶対に守り抜く!そして――」


史郎はこめかみの血管を浮き上がらせながら言い切った。


「俺は彼らをこんな状態に追い込んだ鈴木を許しはしない! 何があっても鈴木を倒し、そして、俺の不手際で能力者になって攫われた、姫川アイをイギリアから救出する!!」


そう、それこそがあの日、生徒の育成を受諾した際、史郎が心の中に掲げた決心。

掲げた法である。

そして目の前で史郎の宣誓を宣言された藤原はと言うと、


「……口にするのは容易い」


しばらくして、そう吐き捨てた。


だが、藤原がどう思おうかなど、どうでもいいのだ。

史郎は作戦の成功を祈り、息を吐き出した。


◆◆◆


そう史郎の策は、養田(かいだ)に能力バトルの一件を話し、養田を通して浅岡が『戦闘万華鏡』を展開させることで、『偶然』彼らが史郎の戦いを目の当たりにするように仕向けることだった。


そして史郎の策通り、晴嵐高校では生徒全員の手元で『戦闘万華鏡』が展開していた。

教室で史郎の戦いを目の当たりにした生徒達が、生徒全員が見る必要があると判断したのだ。


こうして史郎の戦いを、史郎が『裏で』どういった戦いをし、どういった言葉を吐いているかを、『偶然』、知った彼等はというと


「こいつまたなんか言っちゃってるぞ」

「九ノ枝君、こういうちょっと熱いところもあるのよねー」

「でもちょっとついていけないかも……」


などと軽口を叩いていた。

だがそこには自然な笑みがあった。

当然である。

誰だって自分のために身を粉にして戦ってくれる存在が、嫌なわけがないのだから。



彼らのモチベーションの低さの一因は、能力社会の言葉が信じられないことだった。

当然である。


突然、赤の他人に『君たちの命を絶対に守る』などと言われて信じられる者など、この世にいないのだ。


突然、赤の他人に『君たちを尊重する』などと言われて信じられる者など、この世にいないのだ。


言葉は()()()()()()重要なのだから。

今まで全く言葉も交わしたことのない、顔も知りもしなかった赤の他人に、何を言われても響きはしないのだ。


だがそこに来ると史郎はどうだ。

史郎は


3月の期末能力試験大会の際は、彼らを能力者にする一因を作った木島と怒りをたたえながら戦った。

4月に起きた谷戸組による恐怖による学園支配は史郎により終結させられた。

そして5月は


『……お前ら覚悟は出来てんだろうなぁ?』


テロリストから学園を救い

6月は


『史郎なんてつい二週間前に世界最強レベルの能力者を撃破したんだぞ? な、倒したよな史郎?』


テロの裏に潜んでいた青木を倒し、青木を倒したこともリツにより周知されていた。


そう、史郎はこれまで何度も、()()()()()()()()()()


だからこそ、史郎の言葉は真実味を帯び、彼らの心に刺さりえるのだ。

まして今回は史郎によって彼等は『偶然』この映像を見たと『思っているのだ』


その映像の中で史郎が、敵に向かって宣言したこの言葉は

学園の人が見ていないと思ってうっかり出てしまった『風に見える』その言葉は、彼らにどう映るのだろうか。


それは、かけ値のない『本音』に映るのではないだろうか。


それこそが史郎の策。

期末能力試験大会や谷戸組事件、テロ事件で何度も『戦闘万華鏡』で覗き見され、うっかり本音を口にしていたからこそ出来た芸当である。

史郎はついにそれを逆手に取ったのだ。


そして史郎の策を聞いたリツは言っていた。

本音じゃないと、バレるぞ、と。

それに史郎は何と言ったか。


『嘘じゃない』


先ほどの言葉は掛け値の無い本音であり、これまで生徒を何度も守ってきた史郎が言うからこそ、その言葉は生徒に刺さるのだ。


それはまさしく、この世で史郎にしか出来ない生徒達のモチベーション改善法であった。


そしてその映像を目の当たりにした生徒達はと言うと


◆◆◆


「見違えてやる気を出したな」

「ま、自分達の現状を知ったってのは大きいでしょう」

「謙遜するんじゃない、お前の功績だ」


時は数日後の深夜だった。

史郎とリツは今日もまた『赤き光』の本部で対面していた。

リツの手元には生徒の進捗状況がまとめられた資料があり、そこに記載されている内容にリツは満足そうに頷いた。


「ついに数名、生命エネルギーを練る感覚が得られた者も出始めた。この調子で行けば」


リツはカレンダーを見上げた。


「『林間学校』までには多くの生徒が生命エネルギーを練られるようになるな」



そう、実は夏休みが開始されて二日後。

能力覚醒した全学園はそれぞれ能力強化林間学校に出発する予定に以前からなっていたのだ。


そして時は流れ


「『ではこれより林間学校に出発する!!』」


夏休み開始から二日後。

晴嵐高校の校庭に全校生徒は集められ、林間学校に出発した。

リツの号令で生徒達がぞろぞろ動き出す。


一方で史郎の胃はすでに限界を迎えつつあった。

実はここ数日でいくつかの事件があったのだ。


というより、予測はしていたものの、案の定の結果になったのだ。

実は史郎の映像、他の学園にもそれとなく録画映像が流れるようにしたのだが、当然、晴嵐高校程のモチベーション増強作用はない。

だからこそ政府は晴嵐高校に最も期待しており、動画を見た政府は『史郎に』格別の期待を抱いているそうなのだ。


全ては予想通りだったのだが、


(責任がやべぇ……!!)


史郎は胃痛で死にそうになっていた。


「なんだかんだ楽しみだよな~林間学校」


そんな史郎の心労を他所に、生徒達はぞろぞろと動き出した。


そしてもう一つ、史郎を悩ます議題があった。

それは『メイ』である。

ARmS(アームズ)』を倒した翌日、史郎が昼飯を食べているとメイが頬を赤く染めながら言ったのだ。


「じゃぁ私も頑張って能力勉強しようかな」と。


「え?雛櫛も?」


それを聞いて思わず史郎は目を丸くしてしまった。

メイはあの演説が全てやらせだってことを知っているはずである。

だと言うのにメイまでやる気を出してしまい史郎は戸惑いを隠せなかった。


「え? なんで?」


思わずそう言いかける。

しかしこの段になって史郎は気が付く。

メイは何度となく史郎の本心を暴いてきていた。

だからこそ


「だって、九ノ枝君があんなに頑張っているのに私だけ見ているだけは、嫌だもの。だから私も頑張ってみようと思うわ」


メイは史郎のあの宣言が『嘘でない』ことすらも完全に把握しているのである。

だからこそ史郎の言葉はメイにすら刺さり、


「それに」


メイはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「絶対に守ってくれるんでしょ?」

「――ッ!」


史郎はその魅力的な笑みに目が離せなくなっていた。


こうして『最弱能力』と呼ばれるメイですらも史郎の宣言で触発されてしまったのだ。



「さぁ九ノ枝君、行きましょう?」

「あ、おう……!」


メイに心配そうな顔で振り返られて我に返る。

史郎はすぐに天使(メイ)と肩を並べた。


こうして林間学校は始まったのだ。







これでモチベーション問題は解決です。

林間学校編はメイの能力を強化に焦点が当たる予定です。

今までシリアス(ル)展開だったので、本章はラストまではラブコメ的な展開を書く予定です。

作者は5章前半の展開で力尽きたので← 今後の展開は少ししたらまた書き始める予定です。

もし良かったら今後とも宜しくお願いいたします。



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