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第4話 嘘じゃない



リツが朝礼で宣言をしてから早二週間。

生徒たちの能力育成は進んでおり、


「あっぶねええええええええええええええええぞおおおおおおおお!!!」

「きゃああああああああああああああああああああああ!!」


放課後、校庭は阿鼻叫喚に包まれていた。

炎がチロチロ舞ったり、鎖の先にクナイのような物体が付いた武器が校庭で飛び交っている。

そのうち一つ、校庭の反対側で、生徒が浮かした瓦礫が女生徒の真上に落下しようとしていた。


「あぶねぇ!!」


それを見て史郎は矢のように駆ける。

そして瞬く間に校庭を横切り女生徒の下に到着し、女生徒を抱えて高速で退避。

数瞬遅れて女生徒がいた場所に瓦礫が落ちた。


「あ、ありがとう……」

「いいよ、これくらい……」


史郎に抱かれて顔を真っ赤にする女生徒を解放し地面で延びている男子を見た。


「そこに転がっている男子を医療能力者の下に運んであげて」

「わ、分かった……」


史郎の指示で力尽き瓦礫の操舵を失った男子生徒が医療能力者の下に運ばれていく。


「にしてこの訓練、危なっかしいにも程があるな……」


史郎は校庭やでむやみやたらに能力を使用する光景を見て苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

だがこれもまた訓練の一環なのである。


現在、晴嵐には850の生徒がいるため、都合生徒を4つのグループに分け、第一グループは校外でランニングを、第二グループは精神力を養うために座禅を、第三グループはリツの下、個別能力の的確な強化を行っている。

そして第四グループは、


「うおおおおおおおおおおお!!」

「おらああああああああああ!!」


と、このように校庭で能力を使い続けているのである。

生命エネルギーが尽きるまで能力を使い続けるという訓練である。

だからこそ能力が周囲の人間に飛んだりしているのだ。

おかげで危ないことこの上ない。


だがこの訓練も致し方ないのだ。


「はぁ」


史郎は溜め息をついた。

なぜなら彼らは根本的に『生命E』を練る感覚というものを持っていなかったからだ。


能力者は、体力と精神力を混合し生命エネルギーを作り出し能力を使用する。

だが彼らは、この生命Eを意識的に練り上げるということが出来なかったのだ。


史郎はこの訓練を始めるにあたって起きた事件を思い出す。

そうあれは、リツが来た当日のことだった。


午後、方針説明ということで体育館に再度集められた生徒たちにリツは開口一番言った。


「『まずは君たちに個別能力の強化に加え、基本的な肉体強化とテレキネシスの使用の術を学んでもらう!』」

「え、私たちも史郎君みたいに個別能力以外にテレキネシスとか肉体強化使えるんですか!?」


リツの宣言に生徒たちは目を白黒させた。

期待に胸膨らませる生徒たちにリツはニィッと笑った。


「『あぁ恐らく使える。鈴木が黒幕だと分かった以上、個別能力しか使えないというのもブラフであろうッ! 生命エネルギーを練られるのだから使えないとおかしいッ! まあ一年近く経っても使える者がいないということは、通常能力者と比べるとウンと難しいのだろうがな! まあゴタクは後だ。お前らまずは生命エネルギーを練ってみろ」


だがリツの言葉に生徒たちは一転黙りこくり、言ったのだ。


「あ、あの、生命エネルギーを練るってなんすか……」

「『なに!?』」


まさかの発言にリツは目を剥いた。

だがしばらくすると納得しリツはぶつぶつ言い始めた。


「『なるほど……能力発現に介添えがあったこいつ等は能力に関する『自覚』が得にくいのか……』」


そう一人呟くと


「『史郎、壇上に上がれ』」

「え」

「『あがれ』」

「は、はい」


観衆の中に混じっていた史郎を呼び出し


「『史郎、生命エネルギーを練れ』」

「は、はい」


史郎が言われるがままに生命エネルギーを練る。

すると、バリバリッと体育館の窓ガラスが揺れ


「…………………………ッ!?!?」

「毎度ヤバいな……」

「嘘だろ……」


生徒達は史郎から発されるあまりの圧力に思わず息を呑んだ。


「このように生命Eを練り上げると分かりやすく圧が出る。といっても窓ガラス揺らす程の生命Eを練られるコイツは規格外なわけだが……。練り過ぎだぞ?史郎。で、能力者は皆この生命エネルギーを練り上げているんだ。能力を使えている以上、お前たちもな。そしてこの生命エネルギーを個別能力以外に使用すると、史郎、スマンな」

「え?」


瞬間、タッーンと乾いた音が鳴り響いた。


「「「「え………」」」」


生徒の多くが声を失っていた。

なぜならリツはその手に拳銃を持っていて至近距離から史郎を発砲したからだ。

だが肝心の弾丸は史郎の肌に当たるとその場で潰れて、カランと地面に落ちた。


「このように弾丸ですら楽勝で弾く様になる」


事も無げにリツが言うと


「「「「「すげええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」」」」


生徒たちは興奮した。


「マジで銃弾弾いたぞ!?」

「強すぎんだろ!?」

「どうなってんだよマジで!」


驚きの光景を目の当たりにした生徒たちは口々に思い思いの感想を言い合った。

そして一気に騒がしくなった会場でリツは言い放つ。


「『このように練り上げた生命Eを物体に付加したり肉体に付加したものが、テレキネシスや肉体強化になる。そして、本来なら能力を使用していると自然に生命Eを練る感覚というものが得られていくのだが、そうか、半年以上たっても全く練る感覚がないか』」


そこまで言うとリツは思慮を巡らせるようにフムと考え込んだ。

そしてしばらくして答えを得た。


「『よし、ならば力技だな……。諸君らにはこれから能力を使用し続け生命エネルギーを枯らす訓練を受けてもらう。生命エネルギーがジリ貧になった状態で能力を無理やり使用しようとすると否が応でも生命エネルギーを練る感覚というものが得られるからな』」


こうして始まったのが


「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

「ハァァァァァァァァァァァァァァ!!」


生命エネルギー使い切り訓練である。

校庭のいたるところで全力で能力を使い続ける生徒達。

だがこの進捗も余り良くないのである。


「つれーわ」

「まじそれなー」


だるそうな生徒を遠くに見て、史郎は複雑な思いに駆られた。


◆◆◆


「進捗が良くないな」


そしてその問題はすぐに議題に上がった。

場所は『赤き光』本部の休憩室である。

史郎とリツがテーブルを挟んで向かい合っていた。


「進捗は仕方がないにしても、やる気がないのはマズいよな」

「そう、それだ。奴ら、私が教えてやっているのにやる気というやる気が感じられん。いや、正確に言えば一部にはあるにはあるが、多くの生徒はされるがまま。そこまで本気ではない」

「でもまぁ、それも仕方ないだろ……」


史郎としても彼らの気持ちが分かり過ぎるから何とも言えない気持ちになっているのだ。

いきなり世界の命運がかかったから能力を強化しろと言われ、はい、分かりましたとなる者はごく少数しかいない。

むしろこんなにも突然なのに、さして不満を垂れず訓練に参加している時点で上出来なのだ。

だが、だというのに能力社会が彼らに求めるハードルが『高すぎる』。

いや、どうしても高くなって『しまう』のだ。

なぜなら……


「だからと言ってこのままだとマズいぞ史郎。分かっているだろう。世界は何も我々のように生徒達を思っている奴ばかりじゃない。生徒の尊厳を徹底的に踏みにじっても順当な能力者にしようという者も多い。奴らは『いきなりではやる気が出なくても仕方がない』などとは思わない。鉄拳をもって指導すべきだというだろう。そして我々の教育方針で上手く行かないと、それは彼らに口実を与えることになる。そして現状のまま生徒がやる気を出さなければ、作戦も、正直上手く行くとは思えない。最初が肝心なんだ。最初からやる気が出なければ、いつやる気が出る。何でもそうだろう。そうなれば強硬派の主張はまっとうだ。……今はまだ我々の主張の方が優位だ。生徒の尊厳は、当然守る必要があるのだから。だがこのまま上手く行かなければ話が変わる」


リツの言葉に史郎はうつむいた。

リツの言っていることは紛れもない事実である。


現在、『偶然』にも、もともと子供達の管理をしていた日本政府や新平和組織が生徒の尊厳を重視したため、生徒達には、ある程度の自由は与えられている。

だがこの世に確かにいる『強硬派』はそのような配慮は不要と考えている。

生徒達が泣こうと、血を流そうと関係ないと考えている。

最悪生死だって――数は多いのだ――関係ないと考えている者もいるだろう。

そしてそのどちらもが生徒の管理権限を欲しており、『偶然』、生徒の尊厳を重視する側が生徒を管理しているから、彼らの自由は保たれている。

それだけなのだ。


全ては『偶然』なのだ。

『偶然』上手く行っている。

だからこそ、この『偶然』を脅かしかねない生徒のやる気の無さは問題になって『しまっている』のだ。

彼らに落ち度は全くと言っていいほど無いのに

だから――


「最初が肝心だ史郎。このまま生徒がやる気を出さなければ、鈴木を戦う前に、能力社会で内戦が起きてしまうぞ史郎」


このように議題に上がる。


「でもならどうしろっていうんだよ……どうしようもないじゃないか」

「簡単だ、生徒達にやる気を出させればいい。作戦も軌道に乗りさえすれば、反対派の主張もハリボテになる。そして現状、史郎だけだ。学園の中に身を置き生徒のリアルな声を聴いていて、生徒達のモチベーションの改善案を思いつくのは。だから史郎、知恵を貸してほしい。史郎、彼等は何て言っている……」

「なんて言っているねぇ……」


溜め息を一つ吐くと史郎は瞑目した。

そうしながらここ数週間で不意に耳にした生徒たちのリアルな声を思いだした。


『ホントなのかよ、絶対死なないって』

『どこまで信じていいのやら……』

『二子玉川さんも信用できないよねー』

『てゆうか能力社会がそもそも信用できない感じ?』

『今まで完全放置だったのに急に教育なんて言われてもねー』


そのような言葉を、史郎は耳にしてしまっていた。


史郎はすぐに総括した。


「まぁ原因は俺たちが信用されていないからだろうな。それが全ての原因だ」

「だがそうだとしてどうすればいい?このまま彼らがやる気を出さなければ反対派を抑えきれないぞ?」


「うーん……」


それを聞いて史郎はまたも黙り込んだ。


実は史郎。


この行き詰った状態を打開する案を()()()()()()()

というより恐らくこの世界で『史郎だけが』この状況を打開出来る。


だが


(やるのか? これを……?)


この作戦。

()()覚悟を要するものだった。

しかしこのままだと、今ほどの会話で上がった内容、全てが現実のものになりかねない。

史郎達の主張がハリボテと化し、能力社会が二分されかねない。


だから――


しばらくして史郎は言葉を捻り出した。



「……分かった。やろう。俺に考えがある」


史郎は決心した。


「で、作戦なんだが、つい先日、『ARmS(アームズ)』とかいう中堅組織が動き出したとか言ってたろ?」

「あぁらしいな。鷲崎の奴も今は泳がせているらしいが」


「……あいつ等を利用する」


それから十数分、史郎は策を説明する。

それを聞き終わったリツは試すような笑みを浮かべた。


「なるほどなかなか面白い策だ。だが史郎、お前は本当に上手やれるのか?こういったものは真剣味が物を言うぞ? 生徒達だって馬鹿じゃない。お前に言葉に嘘があれば気が付くだろう。そうなればこの作戦は上手くはいかないだろう。史郎、この作戦は本当に上手く行くのか?」


史郎を試すような嗜虐的な笑みで問うリツ。

対する史郎は即答した。


「上手く行くよ。だって」


史郎の瞳に強い光が宿る。



()()()()()



こうして史郎の作戦は開始された。







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